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彫刻家・中谷ミチコがドイツで得た、自分の帰る場所を作る覚悟

彫刻家・中谷ミチコがドイツで得た、自分の帰る場所を作る覚悟

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影・編集:久野剛士

絵のような、ピュアなイメージを保つ彫刻を存在させることが、大きな目標でした。

—そんな暗黒時代から抜け出したきっかけは?

中谷:当時、ドイツにアーティストの開発好明さんが住んでいて、「ドレスデンが面白いらしいよ。」と教えてくれて。その翌日にドレスデンの大学を訪問したら、そこにたまたまいらっしゃった先生が、私のドローイングを面白がってくれました。そして「来年からうちに来てもいいよ」と言ってくれたのです。

—あっさりと(笑)。

中谷:はい。そのときは目の前にいる人が誰なのかもわからず夢中で話をしたのですが、後から調べたら、マーティン・ホナートという彫刻家で、じつは多摩美時代から大好きだった作家さんでした!

中谷ミチコ

—個人的な幼少時代の記憶をベースにしながら、普遍的なノスタルジーを感じさせる立体作品を作る彫刻家の方ですね。すごい偶然。

中谷:その偶然がとても大きかったです。藁にもすがる思いでドレスデンに移って、しばらくはひたすらドローイングを描いていました。ドイツ語が不自由だから、彫刻をしようにも粘土が置いてある場所を質問できなかった、というのも理由ですけど(苦笑)。

もともと絵のような彫刻を作れないかと思っていたこともあって、この時期は集中的にドローイングに向き合いました。それで最初のクラスプレゼンで、描きためた100枚以上のドローイングを紙芝居みたいに延々と見せたのです。それがみんなの印象に残ったみたいで。ドイツに来て初めて、自分に対する周囲の目が変わったのを感じました。

—何者でもなかった中谷さんが、何者かになった。

中谷:個人的な意見ですが、ドレスデンが、また特別な街なのです。旧東ドイツ側にあって、西側の都市と比べると外国人も少なく、10歳前後でベルリンの壁崩壊を東側で経験した同級生も多いです。

冷戦後の揺れ動きをいまも尚、生で感じられる場所でもあります。新しいものを吸収する喜びや痛み、それから古いものの引力も同じくらい街に宿っている。私にとっては居心地のよい街でした。

—ドローイングを経て、現在のレリーフ状の作品に移行したのもドレスデンですか?

中谷:そうですね。ようやく「粘土はどこにありますか?」と聞けるようになりまして(笑)、いろいろ試しました。白い壁に鉛筆でひたすら模様を描いて、そこに彫刻を掛けるとか、白い紙に彫刻を置くようなイメージでドローイングするとか。いまも続けていますが、脳裏のイメージを紙の上に流す用に描き続けたり。

彫刻は、絶対的に物質で、現実的な存在なので、必ずどこかに置かないといけない。しかも、置いた環境との関係性の中で別のコンテクストが立ち上がってしまう難しさがあります。その条件下で、絵のような、ピュアなイメージを保つ彫刻を存在させることが、大きな目標でした。

水粘土で作ったカタチは、そのまま置いておくと乾いてパラパラになってしまうので石膏などで型取りをします。そこにブロンズや樹脂など別の素材を流し込んだり貼り込んだりして作品にするのが一般的です。あるとき、型取りした女の子の顔のレリーフの雌型の内側を眺めていて、「なんだか気持ち悪い」と感じました。そこでその内側に着彩をして透明の樹脂を流し込んでみたのです。すると、さらに心がざわざわしてきました。

石膏に残った凹面に樹脂を流し込んで作られる、中谷ミチコの作品
石膏に残った凹面に樹脂を流し込んで作られる、中谷ミチコの作品

—「これだ!」と。ドレスデンが、現在の作風が生まれるきっかけになったんですね。

中谷:イメージを存在させることが彫刻の目的だとすると、イメージに限りなく忠実な存在感を探す必要があります。「そこにあるのに、ない」ということにいちばん近かったのが、いまに続くレリーフと樹脂の組み合わせだったのだと思います。

それから、キャリアを通してたくさんの女の子や動物が密集している作品を多く作っているのは、子どもの頃の経験が影響している気がします。保育園で身体測定するときに、みんな裸になって体育座りして並びますよね。そのときに、感じた独特の匂い……たぶん子どもの肌の匂いだと思うのですが、「見たいけど見られたくない」っていう自意識の葛藤と組み合わさった匂いの体感を、作品を作る上で、気配として大切に思い返す事があります。

女の子をモチーフにした、中谷ミチコの初期作品
女の子をモチーフにした、中谷ミチコの初期作品

自分を客観視せざるをえない場所が、たぶん私には合ってる。

—その後、中谷さんはドレスデン美術大学を卒業して東京に戻って来ます。そして2年後、文化庁の在外派遣で再びドレスデンに行くことになります。再度ドイツに渡った理由はなんだったのでしょうか?

中谷:大きかったのは2011年の東日本大震災です。29歳という年齢のこともあったのですが。

—将来のことを色々考える時期に、ちょうど震災が起こった。

中谷:心も揺れて、迷って、作品を作れなくなって。でも、「これは自分から大きく動かないとダメだ!」と一大決心をして、文化庁に応募しました。当時の状況から離れて、安心して作品に取り組みたかったのだと思います。

実際、ドレスデンに戻って、通常の制作ペースを取り戻しました。ただ、「もう後には退けないぞ。作り続けるんだ」という気持ちは強くなり、制作と同時に、これからの活動のための環境をどう整えるかということにも頭を巡らせる2年間でした。

中谷ミチコ

—大切な時間ですね。

中谷:そうですね。その他に、もう一つ大きかったのが渡独して間もない時期にドイツで参加した写真家のハンス=クリスティアン・シンクさんとの二人展でした。かなり急な出展依頼を受けたのですが、フライヤーが刷りあがるまでそのタイトルが『Tohoku(東北)』だということを知らなかったのです。

—つまり、震災に対しての展覧会。

中谷:ある意味、震災から逃げてきたという負い目のようなものがあったので、シンクさんがすぐに現地へ足を運びリアクションしているのに対して、私は立ち尽くしてしまうほかありませんでした。写真と彫刻というメディアの違いもあるかもしれませんが……。シンクさんの写真は静かで厳しくて美しかったです。

当時、ドイツの人に言われたことがあります。「なぜ、(日本は)こんなに危険な状況と言われているのに逃げる人が少ないの?」って。でも、そう簡単に割り切れるものではないですよね。

ドイツ語に「Heimat(ハイマット)」という言葉があります。「故郷」とか「帰る場所」という意味が近いと思いますが、「Heimatが持つ引力って、とても強いんだよ。」そう答えたら、友人は黙ってしまいました。ドレスデンは常に「自分は外国人である」ことを意識させられる場所でもありました。

—アメリカ南部のような、ナショナリズムの強い土地なんですね。

中谷:ある意味ではそう言った側面もありますが一概には比べられません。ただ、自分を客観視せざるをえない場所でした。たぶん私には合っていたと思います。だからこそ2年の滞在期間を終えたときに、今度は自分の帰る場所を作ろうと思えたわけですから。

それから大きい声で言っておきたいのはドレスデンで沢山の暖かい人に出会いました。こんな何者かもわからない人間を受け入れて育ててくれたのですから、あの街には心から感謝しています。

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リリース情報

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』

2018年1月13日(土)~3月4日(日)
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
料金:1,000円

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』アーティスト・トーク『具象彫刻/在り方の可能性―現れる私』

2018年1月17日(土)
会場:国立新美術館企画展示室2E入口特設会場
出演:
中谷ミチコ
棚田康司
料金:無料

『日比谷図書文化館特別展 DOMANI・明日展 PLUS × 日比谷図書文化館 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果 Artists meet Books 本という樹、図書館という森』

2017年12月14日(木)~2018年2月18日(日)
会場:東京都 千代田区立日比谷図書文化館1F 特別展示室
料金:300円

プロフィール

中谷ミチコ(なかたに みちこ)

1981年東京都生まれ。ドレスデン造形芸術大学 Meisterschülerstudium修了。近年の主な個展に『私は1日歌をうたう』(さいたま市プラザノース、埼玉県、2017)『暗い場所から、明るい場所まで』(Maki Fine Arts、東京、2015年)、『souzou no kage』(森岡書店、多摩美術大学彫刻棟ギャラリー、ともに東京、2014年)、『Souzou no Yoroi』(Galerie Rothamel、フランクフルト、2014年)、『Schatten der Vorstellung』(Galerie Grafikladen、ドレスデン、2014年)など。

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