インタビュー

前野健太、2018年は『紅白』も出場圏内か?ひと皮むけた男が語る

前野健太、2018年は『紅白』も出場圏内か?ひと皮むけた男が語る

インタビュー・テキスト
九龍ジョー
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一 取材協力:器と珈琲 — 織部下北沢店

自分の歌声がずっと嫌いだったんですよ。高くてキンキンして弱っちいなって。

―石橋英子さんは、前野さんのバックバンドでもあるソープランダーズ(Gt.ジム・オルーク、Key.石橋英子、Ba.須藤俊明、Dr.山本達久)の活動も含めて、ここ数年、音楽活動をともにしてきた人でもあります。

前野:それもあるんですけど、石橋さんが昨年プロデュースしたTenkoあらため紺紗実のアルバム(『blossom』)を聴いて、ビビったんです。ニュー歌謡というか、まさに僕がやりたいことをやられてしまってる感じがして。参加しているミュージシャンもほぼソープランダーズだし、しかもみんなメチャクチャ気持ちよく演奏しているし。もう、勘弁してよ! って(笑)。

前野健太

紺紗実『blossom』収録曲(参加ミュージシャン:石橋英子、須藤俊明、山本達久、ジム・オルーク、カフカ)

前野:今回、石橋さんにプロデュースしてもらった“大通りのブルース”や“防波堤”は、ほとんど歌いながらオケも録ってたんですよ。そこはソープランダーズでの蓄積が活きてると思います。

―先日、ソープランダーズの発展版ともいえるビッチ・ボーイズ(Gt.ジム・オルーク、Dr.ジョー・タリア、Ba.伊賀航、Key.石橋英子)をバックに従えた前野さんのライブを観ましたが、ステージングもパワーアップしてますね。

前野:ソープランダーズで石橋さんやジムさんと最初にやってた頃は、僕にとってはほとんど闘いみたいなものでバチバチやってたんですけど、今はもっと身を任せられるようになりましたね。

レコーディング風景(左から:石橋英子、伊賀航)
レコーディング風景(左から:石橋英子、伊賀航)

前野健太『LIVE with SOAPLANDERS 2013-2014』を聴く(Spotifyを開く

―たとえば熱唱する箇所ひとつとっても、今は余裕があって、そのぶんキレも増している。

前野:そうですね。キーがだいぶ落ちたっていうのもありますが。

―歌声はかなり変わりましたよね。

前野:自分の歌声がずっと嫌いだったんですよ。高くてキンキンして弱っちいなって。もっとシンプルに言うと、歌がうまくなりたかった(笑)。荒木一郎やちあきなおみみたいに圧倒的に歌がうまい人たちにあって自分にないもの、それを探る4年半でもありましたね。出せる声の種類もすごく増えました。結果的に、歌が音楽として響くようになればいいなと。

歌謡曲でも、演歌でも、ニューミュージックでもないものを、今の人たちと、新しい音楽で、新しい歌を響かせる。

―J-POPの第一戦で活躍する武藤さんのアレンジも素晴らしいですね。武藤さんは、すでに一度、2014年に“あたらしい朝(Mark 2)”の7インチを「雷音レコード」からリリースした際、アレンジを手がけているんですよね。

前野:あのときは、原曲のボーカルトラックしか使っていないんですよ。それでジェフ・リン(イギリスのシンガーソングライター。Electric Light Orchestraの活動で知られる)みたいなサウンドに仕上げてくれて、これはすごいぞと。しかも、歌の「実」の部分はきちんと残してくれたんです。なので、武藤さんにお願いしたいなというのはずっとありました。

レコーディング風景(左から:武藤星児、前野健太)
レコーディング風景(左から:武藤星児、前野健太)

前野健太『サクラ』収録曲。プロデュースは武藤星児

―それぞれの編曲家に存分に腕を奮ってもらったわけですけど、全体の統一感は保たれていますね。

前野:そこはレコーディングエンジニアの渡辺省二郎さんの力が大きいですね。

―最終的に目指したのは?

前野:今の新しい歌を、ということに尽きます。歌謡曲でも、演歌でも、ニューミュージックでもないものを、今の人たちと、新しい音楽で、新しい歌を響かせる。それも、いい音で。

人を突き動かす力が「いい歌」にはある。

―歌詞もかなり変化したと思います。たとえば、以前なら「ノスタルジック」(“大通りのブルース”)なんて言葉は、どちらかといえば避けていたんじゃないですか?

前野:そうなんですよ。以前だったら同じ「ノスタルジック」という感覚でも、自分ならではの言葉で言おうとしていたと思います。あるいはフレーズのつながりを工夫して、意味をあぶりだしたり。でも、最近は、多くの人に歌を届けるには、思い切ってこういうわかりやすい言葉を投げてみてもいいのかなと思うようになって。

―前野さんの好きな西條八十(詩人、作詞家)のことをちょっと思い出しました。西條は仏文学者であり、詩集も出してますが、童謡や流行歌の作詞をするときは使う言葉がぜんぜん違う。

前野:あるいは野口雨情(詩人、童謡・民謡作詞家)とかもそうですね。この4年半、ああいう詩人でも作詞家でもある人たちの影響はすごく受けました。つまり、詩と歌詞はちょっと違うものなんだと。「ノスタルジック」という単語はまず、音楽的に気持ちいいんです。しかも、歌の幅も出る。歌の主人公が僕の目線じゃなくなるんですよね。

前野が取材に持参した制作メモ
前野が取材に持参した制作メモ

前野:あと、“命のきらめき”という曲の、<どうして何十年も前に別れた人の笑い声を覚えてるの>っていうフレーズも、自分的には成功した気がします。すごく普通の言葉だけど、それを聴いた人が誰かの笑い声を思い出してくれるかもしれない。そうやって人を突き動かす力が「いい歌」にはあると思うので。

―より歌として機能する言葉を選ぶようになった。

前野:そこに詩情を込めるという作業に関しては変わっていないですけどね。ただ、以前は「てにをは」レベルで伝わる意味が変わってしまうような、細かいフレーズの操作を考えていたんです。そこがもうちょっと音寄りになった。言葉自体の持つ響きとか、リズムに対しての置きどころ、今までも無意識にやってたんでしょうけど、そこを考えるようになって、あきらかに歌詞が変わりました。その成果がいちばん出た曲が、最後の“防波堤”ですね。

―具体的にはどのあたりでしょうか。

前野:そこはまだ企業秘密です(笑)。ただ、ほら、今って防波堤とか防潮堤をどんどんつくっているじゃないですか。そのことについて、自然を壊すので反対の立場をとる人もいますよね。でも、おそらくその防潮堤で遊ぶような子どもたちも出てくるだろうし。そうやって、何かが変わっていくことに対する肯定を歌いたかったんです。僕、どちらかというと自分は左翼的な人間だと思ってたんですけど、案外そうでもないんだなって。

前野健太

―むしろ前野健太はコンサバだと認識してる人のほうが多そうですけど(笑)。

前野:ええっ、そうですか!?……いや、自分としては、政治的な怒りみたいなものは歌にはそこまで結びつかないんだな、ということに最近気づいたんですよ。たとえば“コーヒーブルース”の歌詞に<一杯120円のコーヒーブルース>っていうフレーズが出てきますけど、あれも何かに対する直接的な怒りというわけではないんですよね。

―現代的な貧困問題にもの申す歌ではないと。

前野:もちろん政治的なことに対する個人的な苛立ちとかはありますよ。でも、そのエネルギーが歌や演奏には変換されないというか。それが“防波堤”という曲ではもろに出たと思います。

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リリース情報

前野健太『サクラ』
前野健太
『サクラ』(CD)

2018年4月25日(水)発売
価格:2,700円(税込)
PECF-1150

1. 山に囲まれても
2. 今の時代がいちばんいいよ
3. アマクサマンボ・ブギ
4. 嵐~星での暮らし~
5. 夏が洗い流したらまた
6. マイ・スウィート・リトル・ダンサー
7. 大通りのブルース
8. SHINJUKU AVENUE
9. 虫のようなオッサン
10. 人生って
11. いのちのきらめき
12. ロマンティックにいかせて
13. 防波堤

イベント情報

『前野健太 ニューアルバム 「サクラ」 発売記念ツアー ~開花宣言~』

2018年5月20日(日)
会場:東京都 渋谷 WWW X
出演:前野健太バンド
料金:前売4,000円(ドリンク別)

2018年5月31日(木)
会場:福岡県 福岡 BEAT STATION
出演:
前野健太バンド
ゲスト:ハンバートハンバート
料金:前売3,800円(ドリンク別)

2018年6月1日(金)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
出演:
前野健太バンド
ゲスト:ハンバートハンバート
料金:前売3,800円(ドリンク別)

2018年6月2日(土)
会場:大阪府 梅田 Shangri-La
出演:
前野健太バンド
ゲスト:シャムキャッツ
料金:前売3,800円(ドリンク別)

2018年6月3日(日)
会場:愛知県 名古屋 JAMMIN'
出演:
前野健太バンド
ゲスト:シャムキャッツ
料金:前売3,800円(ドリンク別)

『前野健太 ニューアルバム 「サクラ」 発売記念ツアー ~開花宣言2~ <ソロ対バン篇>』

2018年6月7日(木)
会場:宮城県 仙台 Rensa
出演:
前野健太
ゲスト:竹原ピストル
料金:前売3,800円(ドリンク別)

2018年6月22日(金)
会場:北海道 札幌 BFHホール
出演:
前野健太
ゲスト:スカート
料金:前売3,500円(ドリンク別)

2018年7月7日(土)
会場:沖縄県 桜坂劇場ホールA
出演:
前野健太
ゲスト:大森靖子
料金:前売3,500円(ドリンク別)

2018年7月12日(木)
会場:京都府 磔磔
出演:
前野健太
ゲスト:吉澤嘉代子
料金:前売3,800円(ドリンク別)

『CROSSING CARNIVAL'18』
『CROSSING CARNIVAL'18』

2018年4月22日(日)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE
出演:
KOHH
Chara×韻シストBAND
GRAPEVINE(ゲスト:康本雅子)
大森靖子(world's end girlfriendとコラボライブも)
藤井隆
おとぎ話(新作の完全再現ライブ)
前野健太
Awesome City Club feat. Jiro Endo
world's end girlfriend × Have a Nice Day!
THE NOVEMBERS(ゲスト:志磨遼平(ドレスコーズ))
GAGLE(ゲスト:鎮座DOPENESS、KGE THE SHADOWMEN)
DADARAY(ゲスト:藤井隆)
WONK
Tempalay feat. JABBA DA FOOTBALL CLUB
King Gnu × Ryohu
LILI LIMIT(牧野正幸による映像とコラボ)
Emerald(ゲスト:環ROY)
料金:前売6,000円 当日6,500円(共にドリンク別)

「今月の顔」とは?

日々数多くの情報を発信しているCINRA.NET編集部が毎月1組だけ選出する、「今月のカルチャーの顔」。ジャンルや知名度を問わず、まさに今、読者の皆さんに注目していただきたいアーティストや作家を取り上げます。

プロフィール

前野健太(まえの けんた)

1979年埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル「romance records」より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。2011年には第14回みうらじゅん賞を受賞。2013年1月、ジム・オルークをプロデューサーに迎え制作された4枚目のアルバム『オレらは肉の歩く朝』を発売。同年7月『FUJI ROCK FESTIVAL'13』へ出演。12月、5枚目のアルバム『ハッピーランチ』を発売。2014年、月刊「すばる」にてエッセイの連載を開始。2015年7月、KAATキッズ・プログラム2015 おいしいおかしいおしばい『わかったさんのクッキー』(台本・演出:岡田利規)の劇中歌を作曲。12月NHK番組『ジドリ』の音楽を担当。雑誌『Number Do』に初小説を寄稿。CDブック『今の時代がいちばんいいよ』を「エランド・プレス」より発売。2016年10月、初のラジオレギュラー番組「前野健太のラジオ100年後」が1422ラジオ日本で放送開始。同年12月、主演映画『変態だ』(みうらじゅん原作、安斎肇監督)が新宿ピカデリーを皮切りに全国公開。2017年2月、初舞台となる『なむはむだはむ』(つくってでる人:岩井秀人、森山未來、前野健太)に参加。東京芸術劇場にて2月18日~3月12日まで上演。同作の滞在制作の模様を密着したドキュメント映像「コドモのひらめき オトナの冒険~“なむはむだはむ”の世界~」がNHKEテレで放映された。同年3月3日初のエッセイ集『百年後』を「STAND!BOOKS」より刊行。2018年4月からNHK Eテレ『オドモTV』にレギュラー出演。

関連チケット情報

2018年12月22日(土)
前野健太
会場:日本橋三井ホール(東京都)
2019年2月24日(日)〜3月17日(日)
「世界は一人」
会場:東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

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