水曜日のカンパネラと麻生潤が語る、いいフェス・出たいフェス

13年目を迎える渋谷の都市型フェス『SYNCHRONICITY』が4月7日に開催される。今年は前回より4会場増え、合計8会場という過去最大規模での開催。時代を切り取った素晴らしいアーティストのラインナップに加え、近隣の飲食店やショップも参加し、地域一体型のフェスになるという。音楽のみならず、アートやカルチャーを未来に繋げていこうとする主催・麻生潤の想いが少しずつ具現化し始めた、そんな手応えを確かに感じる。

メインステージにあたるTSUTAYA O-EASTで、今年のトップバッターを飾るのは、2015年以来の出演となる水曜日のカンパネラ。マネージャー兼ディレクターのDir.Fこと福永泰朋を迎え、コムアイという時代のアイコンを擁し、ポップとアートが見事に共存する特異なチームの現在地を訊くとともに、麻生と国内のフェス事情について語ってもらった。

もうちょっと自由でもいいんじゃないかなっていうのは、海外のフェスとかに行くと思うことはあります。(福永)

—水曜日のカンパネラ(以下、水カン)は2015年に『SYNCHRONICITY』に初出演しています。麻生さんはなぜ水カンを呼びたいと思ったのでしょうか?

麻生:最初は、あのパフォーマンスですよね。自分で音楽を流して歌うっていう、あり得ないくらいシンプルなんだけど、それでお客さんを巻き込んでいくっていう、あのスタイルと存在感。ああいうパフォーマンスって本当にできることじゃない。かといって、変に尖った方向に向かわず、ポップであり続けているところに惹かれました。

2015年の『SYNCHRONICITY』の直前にあったLIQUIDROOMでのワンマン(『鬼ヶ島の逆襲』)を見に行って、打ち上げにも参加させてもらったんですけど、そこで福永さんにお会いして……福永さんも水曜日のカンパネラのメンバーの1人なんですよね?

麻生潤
麻生潤

福永:そうなっちゃってます(笑)。

麻生:それを知って、腑に落ちたというか。福永さん、ケンモチさん、コムアイちゃん、みんなの意識が高くて、この最高のチームによって形作られてるんだって感じたのはすごく印象深いです。なので、取っ掛かりは「このパフォーマンスは何だ?」ってところですけど、チームに触れて「これは間違いないな」って、確信に変わった感じですね。

—2015年の出演ステージは、duo MUSIC EXCHANGEでした。

福永:脚立に乗ってやりましたっけ? 確か、二階席から出てきて、そこからステージに行った気がする。

2015年開催『SYNCHRONICITY』での水曜日のカンパネラのステージ

2015年開催『SYNCHRONICITY』での水曜日のカンパネラのステージ
2015年開催『SYNCHRONICITY』での水曜日のカンパネラのステージ

福永泰朋(水曜日のカンパネラ)
福永泰朋(水曜日のカンパネラ)

—duoのあの構造を利用して(笑)。

福永:スタッフさんも自由度高くやらせてくれて、やりがいがあったし、やりやすかったです。今のフェスはいろんな規制が多くて、やれないことも結構あるんですよ。人が増えると仕方ないですけど、もうちょっと自由でもいいんじゃないかなっていうのは、海外のフェスとかに行くと思うことはあります。

—水カンはそのギリギリを攻めてる感じがありますよね。

2016年の『SXSW』でのステージの模様

福永:「自由をどう表現するか」っていうのも、ひとつのテーマなんです。

音楽以外のことが得意な人が音楽をやることで、グルーヴが生まれて拡散する。(福永)

麻生:水曜日のカンパネラって、いいバランスのポップさを持ってるのもすごいなって思うんですよね。今やメインストリームに出て行ってるけど、すごくクリエイティブで、アートとして価値があるというか、ちゃんと音楽そのものに内容があるっていうのは、すごくかっこいい。

—福永さんは、ポップとアートのバランスをどうお考えですか?

福永:メジャーのレコード会社でやるにあたって、「売れるためにどうするか?」って、もちろんすごく大事ですけど、結局は「売れたらポップになる」ってことだと思うんですよ。今流行ってるものを作ればポップになるかって、それを出すときにはもう古くなってる可能性もありますし。

結局、アーティストがそれを面白いと思わなければ、出す必要はないわけで、サポートするサイドとしては、「アーティストが面白いと思ってることを、どうポップにするのか?」ってことを考えてるかもしれないです。制作段階ではアートな視点なのですが、広げることを意識しているので、ポップな視点も混ざっているかもしれません。

左から:福永泰朋、麻生潤

—なるほど。

福永:去年石巻で行われた『Reborn-Art Festival 2017』に参加したときに、荻浜で生ライブ配信をして、翌日すぐに動画をアップしたんですよ。東東京をフィールドワークする『BLOOMING EAST』(参考記事:コムアイの東東京開拓ルポ 多国籍な移民との出会いから始まる調査)もそうですけど、もともとコムアイは音楽以外にも、地域の文化や生活だったり、海外と日本の相違点と共通点だったり、そういう音楽以外のところにも興味がある子で。

だったら、そこをもっと掘り下げることで、音楽とかアートとか地域とかいろんなものがミックスされて、ポップなものになるんじゃないかなって。音楽だけじゃなくて、ファッションやコミュニティも含めたそこに付随する人を通じて、地域や国のいろんなエッセンスが生まれるわけで、そういうのが重要だと思ってて。

『Reborn-Art Festival 2017』で行った生配信ライブ

麻生:僕もそう思います。

福永:自分のやり方というか目線として、音楽はもちろん大事なんですが、音楽だけができるアーティストをサポートするのは、個人的に難しいと思っていて。音楽以外のことが得意な人や何かメッセージがある人が音楽をやることで、グルーヴが生まれて拡散する。自分はそういう意識で水曜日のカンパネラに参加していて、「それによってより多くの人に広がっていく」っていうことが、結果的にポップになっていけばいいなと思うんですよね。

とにかく『SYNCHRONICITY』がこれから先もずっと残っていけばいいかな。(麻生)

—『SYNCHRONICITY』の出演者を決めるにあたって、麻生さんの中で「ポップ」がひとつの感覚的な基準であると言うことはできますか?

麻生:単純なポップさは求めてないかな。「いい」と思えるもの=ポップなのかっていうと、それはまた別の話ではあるので。ポップかどうかっていうよりも、自分がいいと思うかどうかが大切です。ただ、「表現として相手に伝わる」っていう、そういう意味のポップさは意識してるし、大切だと思います。

麻生潤

福永:フェスの出演者のラインナップって、最終的に決める人が誰なのかでだいぶ変わりますよね。今、オーガナイザー個人がちゃんと選んでるフェスが増えてきてるじゃないですか? 『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』や『SWEET LOVE SHOWER』などメディアが主催のものや、イベンター主催のものももちろん多いですけど、想いのある1人のメッセンジャーが集めるフェスって、その人の世界観がすごく出るから、面白いなって。

—麻生さんは『SYNCHRONICITY』というひとつの「枠」に選ぶ権利を渡すことって考えたりしますか?

麻生:自分が主催者じゃなくなるってことですか?

福永:会社で言うと「理念」とか、そういうのあるじゃないですか? 自分じゃない誰かに渡すとしたら、そういうのが必要になるかなって。

麻生:ああ、考えたりはしますね。

—これまでは麻生さんがほぼ100%でブッキングをしているわけですよね?

麻生:基本はそうなんですけど、最近はいろいろコラボをしていて、今年も『New Action!』(DJ星原喜一郎主宰のイベント。現在、星原の海外行きに伴い活動休止中。約1年ぶりに『SYNCHRONICITY』で一夜限りの復活。)と「Less Than TV」(谷ぐち順が主宰するレーベル)に入ってもらってます。

『SYNCHRONICITY』としてのカラーは考えつつも「NOは言わない」っていうのが僕のテーマとしてあって、せっかく考えてもらったものを頭ごなしに「NO」って言っちゃうと、自由じゃなくなっちゃうじゃないですか? だから「あれ、これってどうなんだろう?」って思ったときは、その理由を聞くことにしてます。そうして、他のブッキングにフィードバックしてブレンドしていくっていうか。そういうプロデュースの仕方ですね。

今、自分はプロデューサーの立場ですけど、ジャッジする人が変わったら、それはそれで面白いと思う。会社も代表が変われば変わるし、その時代なりのあり方があっていいと思うから、根っこの部分が変わらずに『SYNCHRONICITY』が残っていけばいいね。

麻生潤

地元の人が手伝いに入ってるフェスの方が、みんな気持ちよく仕事をしてたりして、愛情を感じたりする。(福永)

—今は大小様々な規模のフェスやイベントが乱立していて、水カンは毎年数多くのオファーを受けているかと思いますが、出る / 出ないの基準はどういったところにあるのでしょうか?

福永:アーティストを「売っていく」っていう意味合いで言うと、いろんなお客さんに触れてもらうために、アーティストに合ったいろんなフェスに出るっていうのがベーシックで、「行ったことない地域には行ってみたい」とかはありつつ、その次の段階としては、主催者の想いで決めることが多いですね。規模とかはあんまり気にしてなくて、どういう意味合いでやってるのか、どんな人たちで成り立ってるのかとか、そういうことは結構気にするかもしれないです。

福永泰朋

—なるほど。

福永:例えば、地元の人がボランティアで手伝いに入ってるフェスの方が、みんな気持ちよく仕事をしてたりして、顔が見える分愛情を感じたりする。何をいいと思うかはアーティスト次第だし、それぞれのよさとか理由があると思うんですけど、水曜日のカンパネラに関しては、その愛情に助けられる事が多いなって。最近は海外にも行くようになって、そこで勉強したことをこっちにフィードバックしたり、逆に日本の良さを向こうに伝えられたらとも思ってますね。

イベント情報
『SYNCHRONICITY’18』

2018年4月7日(土)
開場 / 開演 13:00
開場:TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、VUENOS、Glad、LOFT9

出演:
SPECIAL OTHERS
bonobos
Ovall
韻シスト
toconoma
Tempalay
betcover!!
渋さ知らズオーケストラ
SOIL&"PIMP"SESSIONS
WONK
JABBERLOOP
MONO NO AWARE
DALLJUB STEP CLUB
踊Foot Works
DJ New Action!
toe
the band apart
fox capture plan
Ryu Matsuyama
King Gnu
MISTAKES
サニーデイ・サービス
LUCKY TAPES
CHAI
向井太一
TENDRE
SUPER SHANGHAI BAND
水曜日のカンパネラ
ReN
Have a Nice Day!
ニーハオ!!!!
ドラびでお
DMBQ
milkcow
FUCKER
柴田聡子
DEATHRO
チーターズマニア
Limited Express (has gone?)×ロベルト吉野
MANON
Maika Loubté
pavilion xool
パブリック娘。
Lucky Kilimanjaro
UDD
Elephant Gym
GDJYB
Moving and Cut
フレンズ
Yasei Collective
Emerald
大比良瑞希
SARO(-kikyu-)×Latyr Sy
弱虫倶楽部
Newspeak
all about paradise
Opus Inn
ディープファン君
DJ:Ko Umehara(-kikyu-)
ライブペインティング:Gravityfree
料金:前売5,800円 通し券8,000円

『SYNCHRONICITY'18 After Party!!』

2018年4月7日(土)
会場:東京都 渋谷 clubasia

出演:
KONCOS
FREE THROW
club snoozer
shakke-n-wardaa
DÉ DÉ MOUSE & Akinori Yamamoto(LITE)
Shima
Judgeman
マイケル
SHiN
New Action!
料金:前売2,800円 通し券8,000円

プロフィール
麻生潤 (あそう じゅん)

2002年、クリエイターチーム-kikyu-設立。2005年、クラブ・ライブカルチャーをミックスしたイベント『SYNCHRONICITY』を開催。2007年以降は「都市」と「クロスオーバー」をテーマに都市型フェスティバル『SYNCHRONICITY』を手がける。2008年、株式会社アーストーン設立。2015年、ウェブマガジン『SYNCHRONICITY』をスタート。音楽フェスからアパレル、行政まで、音楽・アート・カルチャーに関わる様々な企画・プランニングを行っている。

福永泰朋 (ふくなが やすとも)

2011年の震災以降、水曜日のカンパネラをケンモチヒデフミと構想し2013年5月15日にコムアイを主演歌唱とした現在のチームで1stミニアルバム『クロールと逆上がり』リリース。以降マネージャー兼、Dir.Fとして水曜日のカンパネラに参加。



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