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ベルトラン・ラヴィエが語る園芸とコンセプチュアルアートの関係

ベルトラン・ラヴィエが語る園芸とコンセプチュアルアートの関係

ベルトラン・ラヴィエ展『Medley』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:森山将人 編集:木村直大

「接ぎ木」は、私のすべての作品の根本的なアイデアなんです。

ーさきほどラヴィエさんがおっしゃった「接ぎ木」とは、どんなアイデアですか?

ラヴィエ:とてもシンプルなものです。『ツァンカーの上にラ・ボッカ』では、まず第一のオブジェとして冷凍庫があり、その上に第二のオブジェとしてソファを置く。そうすることで、総合的な第三のオブジェができるわけです。

つまり台座の上に置かれた彫刻的な存在が生まれる。園芸で梅と桃の木を接ぎ木して、ハイブリッドな新種を生むのと同じように。「接ぎ木」は、私のすべての作品の根本的なアイデアなんです。

ー絵画作品『ウォルト・ディズニー・プロダクションズ 1947-2013 No2』では、ディズニー作品に登場する架空のペインティングが素材になっているそうですね。

『ウォルト・ディズニー・プロダクションズ 1947-2013 No2』2013年 インクジェットプリントにアクリル絵具 Acrylic paint on inkjet print 167 x 225 cm © Adagp, Paris 2018
『ウォルト・ディズニー・プロダクションズ 1947-2013 No2』2013年 インクジェットプリントにアクリル絵具 Acrylic paint on inkjet print 167 x 225 cm © Adagp, Paris 2018

ラヴィエ:ここでは「フィクション」を「現実」に接ぎ木しました。コミック雑誌『ミッキージャーナル』に掲載された「美術館見学」というエピソードに、架空の美術館に展示されていた近代美術風の絵画が登場します。その絵を私がアプロプリエーション(流用、現代美術の表現方法のひとつ)して、現実の展覧会の絵画にしたんです。

コミック雑誌のコマのなかでは、1センチ×3センチくらいの小ささで描かれていますが、それを2メートル近くまで拡大プリントして、その表面をアクリル絵具で塗り固めています。

ーフランク・ステラ(戦後のアメリカを代表する抽象画家。直線を組み合わせた幾何学的なペインティングで知られる)の作品を蛍光灯で再構成した作品に顕著ですが、既存の美術作品を別の素材で脱構築してみせるラヴィエさんの手法は、美術史を接ぎ木しているようです。それはまるで、あなたなりの美術史の箱庭を作っているようにも思えます。

『エンプレスオブインディア Ⅱ』(2005年) ネオン管 Neon tubes 196 x 580 cm © Adagp, Paris 2018 / フランク・ステラの代表的な絵画を蛍光灯で再構成している
『エンプレスオブインディア Ⅱ』(2005年) ネオン管 Neon tubes 196 x 580 cm © Adagp, Paris 2018 / フランク・ステラの代表的な絵画を蛍光灯で再構成している

ラヴィエ:その表現は素敵ですね! 次のカタログで使わせてもらおうかな(笑)。私の庭では、芸術、家電、装飾、アフリカ世界、道路標識などのように、ハイカルチャーとローカルチャー、メジャーとマイナーが常に混ざり合っています。

『イボ』(2008年)ブロンズにクロムメッキChrome-plated bronze 86 x 25 x 16 cm © Adagp, Paris 2018  / ニジェールの呪物を型取りして作ったこのブロンズ像は、他国の宗教儀式のオブジェを一見賛美しながらも、西洋の芸術様式に回収してしまうという矛盾を孕んでいる
『イボ』(2008年)ブロンズにクロムメッキ Chrome-plated bronze 86 x 25 x 16 cm © Adagp, Paris 2018 / ニジェールの呪物を型取りして作ったこのブロンズ像は、他国の宗教儀式のオブジェを一見賛美しながらも、西洋の芸術様式に回収してしまうという矛盾を孕んでいる

昔ながらの画家のイメージが、道路標識に反映されていること自体が奇妙で面白い。

ー日本でも庭や茶室で、ラヴィエさんの作品同様、組み合わせのテクニックを見ることができます。例えば掛け軸を風景に見立てたり、特定の季節を連想させたり。そこには厳密なルールがありますが、ラヴィエさん自身も、自分の展示において特定のルールを意識していますか?

ラヴィエ:例えば今回の個展で、出品作の7点を選んだのは私ではありません。主催したフォンダシオン ルイ・ヴィトンの購入作品から選ばれていますからね。私自身は、これらの作品を制作する際に、こうして隣り合って並ぶ風景をまったく考えていませんでした。

しかし実際に並んだ風景を見て面白いのは、これらが似た波長を放っていて、ある調和を生み出していることです。作品同士の対話が成り立っていて、同じ人物が制作したというアイデンティティーも感じさせる。これは自分でも驚くべき発見でした。

ベルトラン・ラヴィエ

ーそのアイデンティティーが面白いところです。どの作品も、既製品や他者の作品として、既にどこかにあったものを素材にしていますよね。そこにラヴィエさんの手が加わり、作品化することでアイデンティティーが獲得されるわけですから。

ラヴィエ:例えば『エクスの風景』はその好例でしょう。フランスの高速道路を走っていると、ドライバーに「この先にこういう景色が見えてきますよ」ということを知らせるために、こういった道路標識が掲示されているんです。ちなみにこれはセザンヌ(近代絵画の父とも言われるフランスの画家。当初、印象派に属したが19世紀後半からは独自の絵画を追求し、20世紀の美術に大きな影響を与えた)がモチーフにしたことで有名なサント・ヴィクトワール山ですね。

『エクスの風景』(2014年) 道路標識にアクリル絵具 Acrylic paint on road sign 140 x 240 cm © Adagp, Paris 2018 / 高速道路の標識を素材にした作品で、奥の山がサントヴィクトワール山
『エクスの風景』(2014年) 道路標識にアクリル絵具 Acrylic paint on road sign 140 x 240 cm © Adagp, Paris 2018 / 高速道路の標識を素材にした作品で、奥の山がサントヴィクトワール山

ラヴィエ:この作品の素材になっているのはキャンバスではなく、標識そのもの。その上をアクリル絵具で塗り固めているのです。元の標識のデザインは抽象化されたポップなグラフィックですが、アクリル絵具のマチエール(質感)は、それを再び「絵画」的に変化させます。すると、まるでセザンヌ自身が描いているかのようなイメージを錯覚させるかもしれません。

ー本物の標識を使っているのに驚かされますね。

ラヴィエ:普通の道路の標識はサイズがもっと小さいのですが、運転速度が上がる高速道路用は見えやすいように、こんなに大きくなるんです。だから、余計に絵画っぽくなります(笑)。

昔ながらの画家のイメージに「田舎に出かけていって風光明媚な景色を前にしてキャンバスを広げて写生している」というものがありますよね。そのイメージが道路標識に反映されていること自体が奇妙で面白いでしょう?

ーちなみにこの道路標識はどこから入手したんですか?

ラヴィエ:標識を作っている会社から直接買えちゃうんですよ。この他にも抽象的な道路標識も買って、同じ手法で作品化しているんです。たしか携帯にあったはず……(おもむろにスマホを操作しはじめるラヴィエ)。

スマホで自身の作品を画像検索するラヴィエ
スマホで自身の作品を画像検索するラヴィエ

検索してでてきた道路標識の作品を見せてくれた
検索してでてきた道路標識の作品を見せてくれた

ースマホのなかにすべてのイメージが収まる時代になっているのも現代の奇妙なところですね(笑)。

ラヴィエ:たしかに!

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イベント情報

ベルトラン・ラヴィエ

『Medley』

2018年4月19日(木)~9月24日(月・振休)
会場:東京都 表参道 エスパス ルイ・ヴィトン東京
時間:12:00~20:00
休館日:ルイ・ヴィトン表参道店に準ずる
料金:無料

プロフィール

ベルトラン・ラヴィエ

1949年、シャティヨン=シュール=セーヌ(フランス)生まれ。1980年代および1990年代のアプロプリエーション(流用)アート運動に強い影響力を与えたアーティストであり、冷蔵庫やテーブルといった日常的な大量生産製品にペイントを何層も厚塗した、もしくは、ありふれた「物」を台座に置いたレディメイド作品でよく知られている。多種多彩な媒体を駆使するラヴィエの作品はこれまで世界各地で展示され、2012年にはポンピドゥーセンター(パリ、フランス)で大々的な回顧展が開催。

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