インタビュー

細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像

細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:豊島望 編集:久野剛士

いまは、決まった「家族」という型がない時代なんです。

実際の父親もそれを演じる人間も、誰もが型通りの父親を演じていた、とはどういうことだろうか。

左から、くんちゃん、ミライちゃん/ ©2018 スタジオ地図
左から、くんちゃん、ミライちゃん/ ©2018 スタジオ地図

細田:つまり、そもそも家族というものが一種のロールプレイというか、演じているようなものだった。どの家庭でも同じ役割や機能がある……父親は外に働きに出て、母親は家の中にいて、子どもは2人以上いて、というのが決められた家族像で、みんながそれに合わせていた。

でもこの家族像は太古の昔からあるのではなくて、近代が生み出した像であり、ひとつの型であるわけですよね。役として演じる側も、型に沿って父親を演じればいいから、楽だった。現実の父親たちも演じていたぐらいですから。

いま、なぜそうじゃないかというと、決まった「家族」という型がない時代なんです。それはこの映画のテーマのひとつでもあります。決まった型の家族を描いているのではない。もう、家族のあり方を、それぞれ自分たちで探して、自分たちで決めるような時代ですよね。

働き方も変化して、常識が変わっていく中で、たとえばオーディションで「おとうさんを演じてください」と言っても、型にはまった父親を演じてしまっては、全然リアリティーがない時代になったんです。

細田守

「星野さんは、そうじゃなかった」と細田は続けた。「すでにこうした問題意識があって、いまの家族というものを見極めた上で、演じてらっしゃった。何も特別な話もせず、すり合わせもなく、そうした意識が一致したんです。そんな星野さんと麻生さんがおとうさん、おかあさんですから、もう最高なんですね(笑)」。人懐っこい笑みが、またその顔に浮かんだ。

夫婦も模索しながら家族をやっているし、親をやっていることを、子どもに見せたほうがいいと思います。

では、そうした両親の造形と共に、4歳の子どもを描くとは、どういう意味があるのだろうか。映画の序盤、降り出した雪を掴んだのに、手の中でとけていってしまう様子を見たくんちゃんは「ふしぎ……」とひと言つぶやく。

子どもにとっては世界のすべてが不思議であり、昨日まで自分のことしか見ていなかった両親が妹のことしか見なくなるのも不思議だ。妹が生まれた瞬間「おにいちゃん」になることさえ解せないだろう。いや、未来から「ミライちゃん」が現れ、驚くくんちゃんと共に時空を飛びこえていく本作では、家族自体が不思議なものとして、相対化されている印象さえある。

左から、妹のミライちゃんとくんちゃん/ ©2018 スタジオ地図
左から、妹のミライちゃんとくんちゃん/ ©2018 スタジオ地図

意外なことに、「家族映画」の担い手と思われがちな細田は、まず何よりも「子どもを主人公に、子どもを中心に映画を作ってきた」という。「家族を描く以前に、子どもを描く。その上での家族というスタンスで、自分はやってきました。それが文脈的に、いまでは『家族を描く監督』、という話になっているんですけど」と前置きした上で、彼は言葉を紡いだ。

細田:自分自身、子どもに見せる顔と、裏で夫婦で話している顔を使い分けない親でありたいな、とすごく思うんですよ。親にも本音と建前が、つまり子どもの知らない親の顔があって……というのは、それはそれでひとつ、含蓄があるかもしれませんね。

でも僕はやっぱり、子どもに信用される親になりたい。子どもに対して「大人には大人の事情がある」という態度をとるのは、二枚舌のようで不誠実だと思うんです。夫婦も悩みながら、模索しながら、家族をやっているし、親をやっているということを子どもに見せたほうがいいんじゃないか、と感じているんですね。

細田守

細田:一般的なアニメーションでは、子どもが出てくるときの親って、役割としての親しか出てこないとか、子どもの成長を肯定するために、あえてアンチテーゼとして描く、ということがよくありますよね。そうではなく、子どものリアリティーの世界の中で、ちゃんと親のリアリティーも描きたい。それがつまり、子どもに対して誠実な態度なんじゃないかと思うんです。

そうした思いは、父親が建てたと思しき自宅の造形にまで行き渡っている。壁で区切られるのではなく、窓によってまさにガラス張りの家となっているくんちゃんの家は、プロダクションデザインに人気建築家・谷尻誠らを招いて作りあげたものだ。

「過去を美化して描きたくない」ということはものすごく強く思っています。

その家の中庭から、くんちゃんは、未来へ、そして過去へと、時空を自在に飛びこえて冒険を繰り広げていく。そこで彼が気づくのは、親と自分の前後へと遥かに伸びていく、家族の営みと、大きな生命のサイクルだ。

どんな親も最初から親だったのではなく、子どもだった時代がある。その子どもが、やがて親と似たような戸惑いを抱えながら、自身も親となっていく――。しかし、そうした過去を描く上で「ノスタルジックに過去を美化したくない、ということは、ものすごく強く思っている」と、細田は語気を強めた。

おかあさんの幼年時代 / ©2018 スタジオ地図
おかあさんの幼年時代 / ©2018 スタジオ地図

細田:タイトルも未来のほうを向いていると宣言しています。現代を批判するとき、「いまの社会はよくない、昔はよかった」と、よく言われますよね。でも、僕たち自身が、いかにいまの問題を解決して、未来に向かえるのか、と考えたいし、描きたいんです。

過去を美化する態度には強い反発心さえあります。もっとちゃんと、しっかりと「現代」を描写したい。そして、そこから見える未来に目を向けたいんです。

そこでふと疑問を抱く。現代を、現実を描きたいのならば、なぜアニメーションなのだろうか? 率直な問いをぶつけてみた。「そうですよね。現代をちゃんと描写したいんだったら、どうして実写を撮らないんですか、なぜドキュメンタリー的なアプローチをしないんですか、という疑問はあるかもしれないですね」。そういって細田は、アニメーションへの思いを語り始めた。

細田守監督『未来のミライ』予告編
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作品情報

『未来のミライ』
『未来のミライ』

2018年7月20日(金)から全国東宝系で公開
監督・脚本・原作:細田守
音楽:高木正勝
オープニングテーマ:山下達郎“ミライのテーマ”
エンディングテーマ:山下達郎“うたのきしゃ”
声の出演:
上白石萌歌
黒木華
星野源
麻生久美子
吉原光夫
宮崎美子
役所広司
福山雅治
配給:東宝
プロデューサー:齋藤優一郎
企画・制作:スタジオ地図

プロフィール

細田守(ほそだ まもる)

1967年生まれ、富山県出身。金沢美術工芸大学卒業後、1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社。アニメーターを経て、1997年にTVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎(第4期)」で演出家に。1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督デビュー。2000年の監督2作目、『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の先進性が話題となる。その後、フリーとなり、2006年に公開した『時をかける少女』(原作:筒井康隆)が記録的なロングランとなり、国内外で注目を集める。2009年に監督自身初となるオリジナル作品『サマーウォーズ』を発表。2011年に自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)と3年おきに話題作を送り出し、国内外で高い評価を得ている。最新作『未来のミライ』は『第71回カンヌ国際映画祭』「監督週間」に選出された。

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