フォロワー60万の写真家KAGAYAが語る、プラネタリウム制作

6月29日より「コニカミノルタプラネタリウム“天空” in 東京スカイツリータウン®」にて、『星の旅 -世界編- “天空”特別ロングバージョン』の上映がスタートした。本作は、観客動員数100万人を記録し、今もなお根強い人気を誇るプラネタリウムの名作『銀河鉄道の夜』を手がけたKAGAYAスタジオによる最新プログラム。「天空の鏡」と呼ばれるウユニ塩湖の絶景や、ニュージーランドの赤いオーロラなど、KAGAYA自身が世界中を飛び回って撮影した、美しい星空を楽しめる内容となっている。

イラスト・写真・映像と様々な手法を駆使し、「宇宙と神話の世界を描くアーティスト」として知られるKAGAYA。天文普及とアーティストとしての功績をたたえられ、小惑星11949番が「kagayayutaka」と命名されるなど、彼の描き出す星空には国を超えてたくさんのファンが存在する。フォロワー数60万人超えのTwitterなどで「空をご覧ください」と呼びかけ続けるKAGAYAが想う、「空を見つめる大切さ」を訊いた。

みんなと一緒に同じ空を見上げることで、「1人じゃない」って思える。それが「空をご覧ください」の原点なんです。

—『星の旅 -世界編-』は世界の様々な星空を体験できる作品となっていますが、KAGAYAさんご自身の原体験は、いつ、どんなふうに見た星空なのでしょうか?

KAGAYA:私の原体験は現実じゃないんですよ。小学生の頃から図鑑をよく読んでいて、そのなかの写真に憧れを募らせていたんです。天の川やオーロラ、皆既日食の写真を見ながら、「大人になったら、世界中のいろんな星空を見たい」って。なので、小さい頃から星座を覚えたり、望遠鏡で月や惑星を見たりしていました。

KAGAYA
KAGAYA

—写真を撮ることは、中学生から始めたそうですね。

KAGAYA:そうです。星空の写真を撮ってから、現像して、プリントするまで、全部自分でやっていました。

—中学生でそれはすごいですね。もちろん、今のようなデジカメではなくフィルムで、全部手作業だったでしょうし。

KAGAYA:その通りですね。『星の旅 -世界編-』のように、撮った写真を連続再生して動画にするなんて、当時はまったく考えもつかなかったですし、そもそも風景と星空を両方ともくっきり撮るなんてことはできなかったんです。

今のカメラはすごく高感度で、特別な機材がなくても、三脚とカメラさえあれば、風景と星空を両方美しく撮ることができるようになりました。当時はそれができなかったので、自分で景色と季節の星座の「絵」を描いていたんですけど、今は条件さえ揃えば実際に撮影できるので、楽しくてしょうがないです。

『星の旅 -世界編-』にて使用されている、KAGAYAが撮影した写真
『星の旅 -世界編-』にて使用されている、KAGAYAが撮影した写真

—KAGAYAさんのTwitterはフォロワーが60万人を超える人気アカウントになっていますね。写真とともに添えられる「空をご覧ください」という言葉も印象的です。

KAGAYA:最初は「自分が楽しみたい」「憧れていたものを見たい」というだけで完結していたんですけど、それを共有できるようになったのはSNSのおかげです。しかも、作品が届くのは作り始めてから1年後とかだけど、Twitterだったら瞬時に届けられて、今見えてるものをたくさんの人と一緒に見られるわけですよね。自分の根本にある想いは昔からそんなに変わってないんですけど、道具によって表現の幅が広がって、やりたいこともどんどん変わっていったんだと思います。

—Twitterに写真をアップする際、なにか意識していることなどありますか?

KAGAYA:自分が心からいいと思ったもの、誰が見てもいいと思えるものをお勧めするようにしていますね。自分のなかには「天文マニア」の部分もあるんですけど、それはなかなか理解されない部分だったりもするので、そういうのは自分の心のなかにとどめています(笑)。自己満足ではなく、人に伝えるものが目的ですから。

—KAGAYAさんが「空をご覧ください」という言葉に込めている想い、空を見つめることの大切さをどのように考えているか、話していただけますか?

KAGAYA:難しくなるので「空」と言ってるんですけど、「空」というのは「宇宙」のことなんですよね。「宇宙」であり、自分が住んでる「世界」なんです。なので、「宇宙のなかの自分を確認しましょう」という意味ですね。仕事に追われていたり、なにか大変なことがあったときでも、ふと空を見上げることで、それが自分にとってどんなことなのかを考えることができる。

しかも、「みんなで同時にこの一瞬の宇宙を共有してるんだ」という感覚は、誰にとっても勇気になるんじゃないかと思うんです。みんなと一緒に同じ空を見上げることで、「1人じゃない」って思える。それがこの言葉の原点なんです。

水樹奈々さんが「東京ドームをプラネタリウムにしたい」とおっしゃって、やれるだけやってみようって。でも、前日にすごく後悔したんです(笑)。

—KAGAYAさんのこれまでの作品についても聞かせてください。初めてプラネタリウム作品を手がけられたのは、2006年に公開された『銀河鉄道の夜』ですね(池袋・サンシャインシティ屋上の「コニカミノルタプラネタリウム“満天”」にて、6月30日よりリバイバル上映中)。

KAGAYA:まだプラネタリウムに映像を映せる上映館はほとんどない時期だったんですけど、いち早く“満天”さんが始められていて、やってみたいなと思いました。『銀河鉄道の夜』は自分にとってのライフワークなので、それをドームに映せたら、自分が銀河鉄道に乗ってるような体験ができるんじゃないかなって。

KAGAYA
KAGAYA

『銀河鉄道の夜』(サイトを見る)

—ただ、実際の制作には3年ほどかかったとか?

KAGAYA:とにかく、なにからなにまで初めてだったので、最初は作り方もまったくわからず、テスト映像を何度も作り直しました。当時はまだ海外から輸入した番組を上映していた頃で、日本でもやっといくつかのプロダクションが作り始めたくらいの時期だったんですよね。

—国内ではほぼ事例のないことだったと。特にどんな部分で苦労されましたか?

KAGAYA:全工程大変でした(笑)。単純にデータ量も多くて、コンピューターを30台近く使ったと思うんですけど、計算にやたら時間がかかったりして。今の1/10……もっと遅いかも。1枚の画を作るのに1~2時間かかって、それが5万枚必要なんですよ。そのなかでやり直しもあるし……とんでもないですよね。12年前によくあんなの作ったなって、未だに思います(笑)。

なので、完成したときは、「もうこんな大変なことはできない」って思いました。結局、そのあとに『スターリーテイルズ -星座は時をこえて-』という作品をまた何年もかけて作ったんですけど、そのときも、発表会の間近に東日本大震災があったりして、もう完成できないかもしれないと思いました。でも、1年くらい経つと、結局また作り始めちゃうんですよね。

自身の作品(『星の旅 -世界編-』)を鑑賞するKAGAYA
自身の作品(『星の旅 -世界編-』)を鑑賞するKAGAYA

—苦労の分、完成したときの喜びは大きいということですよね。『スターリーテイルズ』のナレーションを水樹奈々さんが担当されたことをきっかけに、2011年には水樹奈々さんの東京ドーム公演で、天井一面に星空を映したこともありましたね。

KAGAYA:水樹さんが「東京ドームをプラネタリウムにしたい」とおっしゃって、僕もそんなのは見たことないからやってみたいと思ったんですけど、あれもすべてが挑戦でした。あれほど大きなところに映すプロジェクターが果たしてあるのかもわからないけど、とにかくやれるだけやってみようって。でも、前日にすごく後悔したんです(笑)。

—というと?

KAGAYA:正直「できない」と思ったんですよ。東京ドームなので、事前に現場で試写することができなくて、やっと本番の前々日に機材搬入をして。プロジェクターを14台つないでひとつの画を映し出そうとしたんですけど、上手くつながらなくて、「これは失敗だ」って大後悔しました。

KAGAYA

—でも、本番では大成功したんですよね?

KAGAYA:プロジェクションを手伝ってくださった高幣(俊之)さんが、ものすごく優秀だったんです。なにが大変だったかって、プラネタリウムだったら昼間でも星を映せますけど、東京ドームは天井が半透明だから昼間は明るくて、映せないんですよ。でも、準備の時間は昼しかない。うっすらしか星が見えない状態で、高幣さんが見事につなぎ合わせてくれました。「やれるだけやったから、映ると思いますよ」って言ってくれて、もう、そのあとすぐ本番(笑)。なので、本当に映像が映ったときは飛び上がりましたね。

—4万人のお客さんの歓声はすごかったでしょうね。

KAGAYA:すごかったです。周りのスタッフさんと握手をして喜びました。

東京ドームに星々を映している様子
東京ドームに星々を映している様子

ウユニ塩湖へ行くことは、とてもお勧めできないです(笑)。

—最新作『星の旅 -世界編-』は、KAGAYAさんが実際に行って撮影してきた世界の様々な星空を体験できるわけですが、関係者向け試写会の挨拶で「超現実的」という言葉で表現されていたことが印象的でした。

KAGAYA:デジタルカメラによって、肉眼を超えた世界が見られるんです。星々の数も肉眼で見るよりデジタルカメラを通したほうが多く見えるし、天の川の色って肉眼で見るとただ白いだけですけど、それが色づいて見える。なので、ある意味では、実際に行った以上のことがプラネタリウムのドームで体験できるんです。だから、「超現実」というよりも、「超体験」ですかね。現実の風景であることは間違いないんだけど、人間には見えないものまで映せてしまう。

『星の旅 -世界編-』より
『星の旅 -世界編-』より

『星の旅 -世界編-』より
『星の旅 -世界編-』より

—KAGAYAさんは脚本も手がけられていますが、「北半球から南半球への旅」というストーリーはどのように生まれたのでしょうか?

KAGAYA:まずは私が見たいところ、行きたいところに何年もかけて行くなかで、段々と写真がたまってきて。そのなかかからどの写真を使って、どんなプラネタリウム作品を作ろうか、というふうに考えていきました。

特にウユニ塩湖とニュージーランドの写真がすごかったので、これをクライマックスにストーリーを作ろうと。そこから、アイスランドや北米の写真もあったので「北半球から南半球へ」というストーリーにするのがいいかな、というふうに作っていきました。逆の作り方はすごく難しいです。最初にストーリーを作って、「この映像を撮りに行こう」と思っても、本当にその写真が撮れるかどうかは行ってみないとわからないですから。

—『星の旅 -世界編-』を見て、「私も実際に同じ場所に行ってみたい」と思う人は多いと思うし、僕も正直そう思ったんですけど、そんな簡単なことではないわけですよね。

KAGAYA:星を目的にウユニ塩湖へ行くことは、とても人にお勧めできないです(笑)。高山病の危険もあるし、行ったとしても、実際同じ景色を見るのはなかなか難しいと思います。覚悟を持って、「絶対見たいんです」っていう人にはアドバイスできますけど、普通の旅行と同じ感覚では絶対に無理。なので、これはプラネタリウムで経験したほうがいいですよ(笑)。最高の条件で撮れていますから。

KAGAYA

—ウユニ塩湖であの「天空の鏡」を経験するのはとても難しい。それはなぜなのでしょうか?

KAGAYA:ウユニ塩湖は1年の大半干からびていて、雨季の1~3月のあいだじゃないと、水がたまらないんです。しかも、雨季なわけだから、雲が覆いがちで、水はあっても星が出てない可能性も高い。あと、もともと風の強い場所なので、水鏡をきれいに映すには、風が止んでる時間を狙う必要がある。さらには、お月様が明るすぎても星が見えない。1年の内で何日条件が揃うかわからないので、そこに居合わせるのはかなり難しいことなんです。

—ニュージーランドの赤いオーロラも非常に印象的でした。

KAGAYA:あれも本当にラッキーで。ニュージーランドでオーロラが見られるのって、1か月で2~3日なんですよ。激しい磁気嵐のときでないと見られないので、それを狙って10日間くらいの日程で行ったんですけど、たまたま初日から磁気嵐にあたって、3日間オーロラを見ることができました。そもそも、オーロラを見にニュージーランドに行くって、おかしな話ですからね。

—アラスカとかはわかりますけど、ニュージーランドはイメージになかったです。

KAGAYA:ニュージーランドで見られるオーロラは本当に独特で、満天の星々のなかに、赤いオーロラがバーッて見える。アラスカとは全然違う光景なんですよ。

KAGAYA

—ハワイのキラウエア火山と南十字星の組み合わせもすごいですよね。

KAGAYA:火山のすぐ横に「ボルケーノハウス」という、部屋から火口が見えるホテルがあるんです。そこに泊まって、夜に出かけて行って、撮影しました。火山の火が強すぎると星が見えなくなってしまうので、火が弱いときを狙うことで、天の川がきれいに撮れましたね。

『星の旅 -世界編-』より
『星の旅 -世界編-』より

作品を見終わったあと、また別の空を見たときに、感動が増えていたらとても嬉しいですね。

—撮影した写真を使って映像を作るにあたっては、どんなことが大変でしたか?

KAGAYA:写真で撮った四角いものを、ドームに映す丸い画像にするにあたって、歪みを取る作業があるんです。あとは動画としてスムーズに流れるようにつないでいく作業があって、それに半年くらいかかりますね。

目に見えるアニメーションになるまでは、どのシーンを使うか決められないので、多めに処理をして、できたなかからどこを使うか決めるんです。なので、動画にしたものの、使ってないシーンも結構あります。

KAGAYA

—あとはCGによる解説のパートもありますよね。プラネタリウム“天空”が、プラネタリウムの概念を広げていこうとするなか、世界の星空を旅するというエンターテイメント的な部分と、学習の要素が絶妙なバランスで混ざっているのがいいなと思いました。

KAGAYA:ありがとうございます。ただ私としては、最後のウユニ塩湖やニュージーランドのシーンで、僕が現場で感じた感動と同じものを感じてもらうために、説明があるという考え方なんです。

たとえば、最後のニュージーランドのオーロラの場面で、大マゼランと小マゼランが見えている。あれがなにかを知ってると知ってないとで、見たときのイメージがまるで違うと思うんです。「南半球じゃないと見えない」っていうのがわかったうえで、あの最後のシーンを見ると、より「オー!」ってなると思うんですよ。

—小さい頃から図鑑が好きだったというお話もありましたし、知識に体験が紐づくことで、より感動が大きくなることを知っていらっしゃる。

KAGAYA:その通りです。知識が多ければ多いほど、テンションの上がり方も変わってくる。なので、できるだけわかりやすく説明したうえで、「では、最後にこれを見てください」というストーリーの作り方なんです。

この作品を見終わったあと、また別の空を見たときに、知識が増えている分、感動が増えていたらとても嬉しいですね。ハワイとかニュージーランドとか、実際に南半球へ行く人もいるでしょうし、作品のなかで得た知識がよりその景色を楽しむための材料になってくれていたら、最高だなと思います。

—プラネタリウム“天空”で上映されているのは「特別ロングバージョン」とのことですが、この先他の会場で上映される作品とはなにが違うのでしょうか?

KAGAYA:映像のなかで使っているカット数が多く、作品の上映時間が長くなっています。プラネタリウム“天空”でしか見ることのできないシーンもあるので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。

『星の旅 -世界編-』

『星の旅 -世界編-』

『星の旅 -世界編-』

『星の旅 -世界編-』

『星の旅 -世界編-』
『星の旅 -世界編-』(サイトを見る)

KAGAYA

サービス情報
コニカミノルタプラネタリウム“天空”

場所:東京都墨田区押上1丁目1番2号 東京スカイツリータウン・イーストヤード7階
営業時間:10:00~21:00
※時節に応じて変動あり

作品情報
『星の旅 -世界編- “天空”特別ロングバージョン』

2018年6月29日(金)より上映
会場:東京都 押上 コニカミノルタプラネタリウム“天空”in 東京スカイツリータウン®
撮影・脚本・CG:KAGAYA
ナレーション:安元洋貴
音楽:manamik / 清田愛未
スキャット:川島和子

『銀河鉄道の夜』

2018年6月30日(土)より上映
会場:東京都 池袋 コニカミノルタプラネタリウム“満天” in Sunshine City
原作:宮沢賢治
撮影・脚本・CG:KAGAYA
音楽:加賀谷玲
朗読:桑島法子
ナレーション:大場真人

プロフィール
KAGAYA
KAGAYA (かがや)

宇宙と神話の世界を描くアーティスト。プラネタリウム番組『銀河鉄道の夜』が全国で上映され観覧者数100万人を超える大ヒット。一方で星景写真家としても人気を博し、写真集『星月夜への招待』等を刊行。写真を投稿発表するTwitterのフォロワーは約60万人。天文普及とアーティストとしての功績をたたえられ、小惑星11949番はkagayayutaka(カガヤユタカ)と命名されている。



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