「究極の一瞬を表現できる」loundrawが明かすイラストの強さ

「イラストの中にあるものには、全て理由があります」——。

そう語るのは、弱冠23歳の人気イラストレーター、loundraw。手グセもヘタウマも愛される。そんなイラストの世界で、ロジックを駆使して完璧とも思える一瞬を描く彼の作品は、熱狂的な支持を得つつある。『君の膵臓をたべたい』の装画をはじめ、近年では動画表現や『月がきれい』のキャラクター原案にも挑戦。原画展も開催した。活動の拡大ぶりには目を見張るものがある。

今回、彼がイラストレーターとダンボール会社「アースダンボール」とのコラボレーション企画「UNBOX」でオリジナルのトレーを制作したのを機に、その作品作りや考え方にあらためて迫った。背景や目に見えない余白の重要性、ロジックとエモーションの共存まで。その絵の秘密と現在を紐解く。

イラストのモチベーションは、「こんな女の子がいてほしい」でした。

—loundrawさんのお仕事を拝見すると、ジャンルの幅広さに加えて、23歳とは思えないクオリティーの安定ぶりに驚かされます。「絵を描くことを仕事にしよう」と決心されたのはいつ頃だったんですか?

loundraw:商業デビューは18歳ですが、本格的に「絵で生きていこう」と思ったのは2016年からです。ちょうど大学3年生で、就職活動をするか迷っていたところ、現在の所属事務所からお声がけがあり、決心しました。

loundraw
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—商業デビューは、永田ガラさんの小説『星の眠る湖へ―愛を探しに―』(メディアワークス文庫 / 2013年)の装画ですね。人物表現が中心にあることや、奥行きを感じさせるボヤけた背景、使われる色合いなど、いまにつながる原型を感じます。こうした作風が生まれた経緯は、どのようなものだったんでしょう?

loundraw:昔から好きだった漫画やアニメの影響はあると思います。たとえば『絶対少年』(2005年)や『電脳コイル』(2007年)、あと世代的に『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)のような作品も見ていましたね。その意味で、人物が絵の中で大きな比重を占めるのはすごく自然でした。

背景に関しては、いまも現実的な風景を描くことが多いですね。理詰めで物事を考える性格もあって、SFっぽい世界観が得意ではないんです。甲冑を着たキャラクターを見ても、「カッコいいけど、これじゃ攻撃は防げないだろう」と考えてしまう。それで必然的に、現実的な風景やシチェーションに興味が湧いたのだと思います。

loundrawのイラスト『GIRLS DON'T DREAM』
loundrawのイラスト『GIRLS DON'T DREAM』

—世代的には、デフォルメされたいわゆる「萌え絵」も周囲に溢れていたかと思いますが、そこには向かわなかった?

loundraw:最初はそうした絵も真似していたんです。でも、自分の作風がほしいと考えたとき、より人間らしく描きたいなと。振り返ると、そのモチベーションは、「こんな女の子がいてほしい」という思いでした。神格化された女の子を描きたかった。その触れられない対象を、より現実的に描きくだしてみたり、より神格化したり……とやるうちに、現在の作風ができたと思います。

—「現実的に描きくだす」とは、どういうことでしょう?

loundraw:神格化した女の子に、「悲しい」や「嬉しい」といった普遍的な感情を与えて、身近なキャラクターに感じさせることで。「高嶺の花を描きたい」という感覚に近いと思います。その意味では、いまも現実にいる普通の女の子っぽく描いていますが、同時に「こんな子、本当にいるのかな」とも思っている。その気持ちは当時から変わっていないです。

すごく理詰めで「余白を残すこと」を考えます。

—その日常的な風景と感情の奥行きの同居は、住野よるさんの大ヒット小説『君の膵臓をたべたい』(双葉社 / 2015年)の装画にも共通します。このお仕事はloundrawさんにとってひとつの転換点だそうですが、あの絵が大きな反響を得たのはなぜだと思われますか?

loundraw:もちろん小説そのものが素晴らしかったことが前提ですが、普通の高校生2人の物語に、完璧すぎない絵柄がうまく合ったのかなと。あの絵はいま見ると稚拙に感じるのですが、その未熟さも偶然、魅力になったと思います。

また、あの装画に限りませんが、僕はなるべく余白があるものを描きたくて。「この人がなぜその表情をしているのか」を読者に補完してもらえるように、基本的に感情を露わにした人物を描かないようにしています。その余白があの絵にも出ていたのでしょうね。

『君の膵臓を食べたい』(住野よる / 双葉社 / 2015年)装画
『君の膵臓を食べたい』(住野よる / 双葉社 / 2015年)装画

—たしかに、どちらにも針が振れていない雰囲気がありますね。その余白感が、物語に触発された読者の想像力を受け止めるクッションになると。

loundraw:絵を描くときには、時間的な前後関係から、描かれていない部分も含めた360度の空間まで、自分の中でイメージができているのですが、それを描き切らないことはつねに意識しています。たとえば、寿命が短い子の横顔を切り取るとしますよね。そのとき、視線の先に何があるかはわかりません。

光や建物の細部を入れて、なんとなくその場所が図書館であることは提示するのですが、その子が何を見て、どんな気持ちかはあえて描かない。おじいさんを見て自分の死を重ね合わせているのかもしれないし、小さい子を羨ましく思っているのかもしれない。そんな風に、人物のキャラクター設定は変えずに、読者が補完できるような余地を意図的に残す。だから、僕はすごく理詰めで、「余白を残すこと」を考えているんです。

感情が揺さぶられる瞬間はつねにあります。

—loundrawさんの絵のエモーショナルなシーンのあり方に関心があります。誰もがどこかで感じたことがあるような日常の1コマの美しさが、最大化されて描かれていますよね。シーンはどう浮かぶものなのでしょうか?

loundraw:僕自身は、高校も大学生活も華やかだったわけではなくて、友達とときどき遊んで過ごす普通の人間なんです。もし僕のイラストが多くの人に受け入れてもらえているとするなら、普遍的な感性でふと「いいな」と思う光景を、アンテナを立てながら描いているからなのかなと。

感情が揺さぶられる瞬間はつねにありますよ。今日も電車で来るとき、日差しの感じや色合いがとてもよかったんです(取材は2017年12月下旬に行われた)。「そろそろ2017年も終わるな」という師走の感じも込みで見る景色はいつもとちょっと違う。そうした特別な気持ちで見たものが自分の中にストックされていって、そこからイラストが生まれている気がします。

loundraw

—「師走感」とはとても面白いですね。制作ではあまり写真をベースにしないそうですが、人物と舞台となる背景は一緒に浮かぶのでしょうか?

loundraw:人物と背景のイメージは、一緒に出てきます。仕草も、周囲のものも、色合いも。しかしそれを描く段階になると、どうしてもキャラクターと背景の間に矛盾が出てくるので、そのぶつかりを修正して整合性を取っています。

「背景」は「背後の景色」と書きますが、やはりキャラクターが立っている場所は人物にも影響を与えると思っていて。なので、光や風のような不可視の要素も含めて、なるべくその環境の描写を正確にしたいと思っています。

loundrawによる『福井でかなえるDream』(福井新聞発行)キービジュアル
loundrawによる『福井でかなえるDream』(福井新聞発行)キービジュアル

—広がりのあるスケールの背景が多いですが、そうした風景がお好きなんですか?

loundraw:広がりは出したいと思っていますね。ただ、閉塞感のある部屋の絵ならば重い空気を描くし、どんな風景でも舞台装置として極めたい。それでも広がりのある絵を描くことが多いのは、イラストとして1枚で絵にしようすると、気持ちよく感じてほしいという思いがあるからだと思います。

—被写界深度によるボケを多用するのも、その気持ちよさの探求から?

loundraw:その理由もありますし、視線誘導にも使います。また商業的な意味でいうと、ボケは一眼レフのような高級なカメラでしか現れないので、「高級感」の象徴でもあると思うんです。あと、描き込まなくても背景をつぶせる、作業効率的な意味も大きい(笑)。商業はコスパの世界なので、そこでベストを尽くすためのツールとして使っています。

—よい「見え」への近道というか。

loundraw:そうですね。一方で、2017年に開催した個展のキービジュアルや、書籍『ILLUSTRATION 2018』(平泉康児編/翔泳社/2017年)の表紙では、これまでの作風に固執せず心機一転したいという思いから、実はいままでと異なる背景や光の表現に挑戦しました。

『ILLUSTRATION 2018』表紙に描かれたイラスト
『ILLUSTRATION 2018』表紙に描かれたイラスト

—というのは?

loundraw:たとえば光を表現するときに、従来はデジタル特有の手法として、「スクリーン」というツールを使っていたんです。これは、使用部分に等しいエフェクトをかけることができるものなのですが、いま述べた絵では自分で見て感じた色をひとつずつ置いていきました。

というのも、エフェクトによるフィルターはパソコン上の計算によるものなので、どうしても出せない色があるんです。だけど、現実の反射物にはそれぞれ違う特性がある。機械で捉えられないものを、ちゃんと自分で感じた色として置こうとしたんです。

—機械の自動的な処理に委ねないようにした。

loundraw:そう、なるべく自分の感性を残そうとしました。数値で変化させると、同じ方程式にもとづいたものなので、気軽に統一感が出るんです。でも、それを使わなかったので、色彩のバランスを取るのが難しくて大変でした。

—たしかに個展のキービジュアルは、とくに絵画的な要素が強いですね。普段からイラスト以外の絵画も見られるんですか?

loundraw 初の原画展『夜明けより前の君へ』キービジュアル
loundraw 初の原画展『夜明けより前の君へ』キービジュアル

loundraw:見ますよ。先日も仕事で訪れたニューヨークで、メトロポリタン美術館に行きました。レンブラントのようなバロック絵画や、フェルメールの作品が好きなのですが、もちろんデジタルもないアナログの世界で、これだけ整合性が取れて、熱量がある絵が描けるのはどうしてか。そのアナログな平面の、どんなディテールが自分に熱量を感じさせているのか……と、いろいろ考えるきっかけになりましたね。

イラストに描かれたものは全て理由があり、説明可能です。

—お話を聞いていると、「ロジックとエモーションをいかに共存させるか」にとても意識的ですよね。普通、その2つは相反するもののようにも考えられますが。

loundraw:もちろん、その2つは衝突するんですけどね。いつも、まずはロジカルに描くんです。でもそうすると、見栄えが悪い場所が出てくる。たとえば手を上げてものを持つ姿勢では、影が目にかかってしまうとか。それなら、ありえなくても違う影を描いたりする。理詰めで人が矛盾を感じないベースを作った上で、そこに感性で調整する感じです。

loundraw

—理詰めだけでは到達できない瞬間が、作り込む中で訪れる。

loundraw:そもそも、シーンがパッと思い浮かぶというのは感覚の部分なので、それを理屈に落とし込む段階で、最初の誤差が生じています。だから、ロジックで正しいと思って描くけれど、うまくいかない。

そのとき、最初に思い描いたものとロジックで考えたものがどう違うのか、ふたたび頭で考えるんです。基本的に、イラストは画面上にある光や影、物や人物の姿勢まで全てに理由があり、説明可能だと考えています。

—たとえば『ILLUSTRATION 2018』には、表紙の最初の案も掲載されていましたが、完成版は見違えるほど良いですよね。どんなことを考えて修正されたのですか?

『ILLUSTRATION 2018』表紙の初期案
『ILLUSTRATION 2018』表紙の初期案

loundraw:抑えた絵柄にしたいというのが最初にあり、そこは変えていないんです。その上で、広がりやダイナミックさを与えるため、場所をより開けたビルの屋上に設定し、背景の建物群をシルエットにして大きな雲も描きました。ただ、そうすると人、ビル、雲の要素はハッキリするんですが、背景とキャラクターとの間の距離が遠すぎたんです。前景の人物と後ろの風景が、二分された感じになってしまう。

—書き割りみたいになっちゃったと。

loundraw:そこで前後の距離感を伝える要素として、写真を宙に舞わせることにしました。そうすることで、単純なレイヤー構造に陥らず、人物の周囲の空間を意識させることができる。そして風の向きなどを決め、それに合わせて人物の髪の動きや姿勢も決定してきました。

『ILLUSTRATION 2018』表紙の変更案
『ILLUSTRATION 2018』表紙の変更案

—それぞれの細部に理由があるんですね。制作中、手が止まることはない?

loundraw:構想を決める段階ではけっこうあります。でも、1回決まれば、基本的にすぐ描けますね。僕の場合、なんとなく描き始めることはあまりなくて。ある程度構想が固まったらまずはノートに描き、それをスキャンして使います。その意味でノートは一番パーソナルな道具ですが、今回のダンボールのトレーもその中のスケッチを使いました。

loundrawのノート
loundrawのノート

—そもそも、なぜトレーを選ばれたのでしょうか?

loundraw:「ダンボールという素材で何を作ろうか」と考えて、それなら机周りの道具入れがほしいなと思ったんです。というのも、普通のトレーの場合、ペンを置いていると底が汚れてしまうのが嫌で。使い終わったあと、簡単に捨てられるのがダンボールの良さかなと。

アースダンボール社とloundrawがコラボしたプロダクト作品

アースダンボール社とloundrawがコラボしたプロダクト作品
アースダンボール社とloundrawがコラボしたプロダクト作品

—1枚のダンボールが複雑に折られてできた形態もユニークですが、とくにこだわった点はどこですか?

loundraw:ビジュアル面で言うと、いくつか線の太さや箱の色の案を出させていただいて、一番線画が映えるものを選ぶようにしました。線画が合う色というと、明度は高い方がいいんですけど、そういう意味で選んだ黄色は垢抜けていて、良い色だなと思います。

やる中では、難しさや発見も多かったです。立体的なプロダクトに印刷されると、その絵は柄として認識されるので、写実的ならいいというわけではない。線で語らないといけないという点で、このトレーはloundraw×ダンボールとして良い着地点に至ったと思います。

一方で、もしもまたプロダクトを作る機会があれば、より記号的な表現も試してみたい。そうしたことは形にして初めて気づくので、勉強になりましたね。

コラボレーション作品について、制作の裏側などがまとまった「UNBOX」パンフレットの表紙
コラボレーション作品について、制作の裏側などがまとまった「UNBOX」パンフレットの表紙(サイトを見る

イラストの魅力は、完璧な一瞬を表現できること。

—プロダクトに限らず、さまざまな可能性が開けていると思います。今後、力を入れていきたいことは何でしょうか?

loundraw:ほかの人と何かを作ることに、腰を据えて取り組みたいと思っています。昨年、大学の卒業制作として、「架空のアニメの予告編」という体裁の『「夢が覚めるまで」予告編』を制作したんです。初めてアニメ制作に挑戦して、いろんな発見があったのですが、そもそもなぜこれを作ろうと思ったかというと、ディレクション業に興味があって。

でも、アニメ制作の経験がなければ、誰にも信用してもらえない。そこで、不安もありましたが、いちから自分ひとりで制作しました。これから自分の世界をもっと遠くまで届けようと思うと、感性の齟齬を乗り越えて、大勢の人と良いものを作ることを考えないといけない。もし賛同してくださる方がいれば、チームも作りたいと思っています。

loundrawの卒業制作作品『「夢が覚めるまで」予告編』場面写真
loundrawの卒業制作作品『「夢が覚めるまで」予告編』場面写真

—その意味では、イラストにこだわらず自分の世界観を形にしたい?

loundraw:そうですね。でも、それができる理由は、イラストレーターとしてのloundrawにあることは間違いありません。そこは裏切らずにやっていきたいと思います。

—あくまでもコアにあるのはイラストだと。多くの可能性がある中で、loundrawさんにとってイラストという表現の一番の面白さとは何ですか?

loundraw:完璧な一瞬を捉えることができることですね。アニメの1コマは一瞬で流れてしまいますし、カメラはイラストほど融通が効かない。描かれる要素を自分の感性に基づいて変えられるのは、イラストならではのことだと思います。短時間で、自分の思う完璧さを相手に伝えられる。それは、今後の仕事でも意識したいところですね。

箱職人集団であるアースダンボールが、クリエイターとコラボする取り組み「UNBOX」
箱職人集団であるアースダンボールが、クリエイターとコラボする取り組み「UNBOX」(サイトを見る

プロジェクト情報
What is「UNBOX」?

「箱から出す」という意味を持つこの言葉。「UNBOX(アンボックス)」は、箱職人集団であるアースダンボールが新たにスタートした取り組みです。「UNBOX」では、アースダンボールが箱職人として大事にしているこだわりや思いを、クリエイターとのコラボレートを通して発信していきます。

プロフィール
loundraw (らうんどろー)

イラストレーターとして10代のうちに商業デビュー。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、様々な作品の装画を担当する。声優・下野紘、雨宮天らが参加した卒業制作オリジナルアニメーション『夢が覚めるまで』では、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画と制作のすべてを手がけたほか、小説『イミテーションと極彩色のグレー』、漫画『あおぞらとくもりぞら』の執筆、アーティスト集団・CHRONICLEでの音楽活動など、多岐にわたる。2017年9月に自身初の個展『夜明けより前の君へ』を開催。



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