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折坂悠太という異能の歌い人、終わりゆく平成へのたむけを歌う

折坂悠太という異能の歌い人、終わりゆく平成へのたむけを歌う

折坂悠太『平成』
インタビュー・テキスト
大石始
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一
2018/10/02

音楽家の立ち位置や活動のあり方そのものが少しずつ変わってきていることを実感する。

—何か視点が変わるきっかけがあったんでしょうか?

折坂:弾き語りのツアーで地方を回る機会があって、そのときに各地の人たちと出会ったことが一番大きいと思います。それまでは、日本はお先真っ暗だと思っていたんですよ。経済もどんどん低迷してるし、社会に希望を持てなくなっているし。でも、ツアーに出てみたら、各地でちゃんとがんばってる人たちがいて、東京にいるときにはわからない視点があることに気づいたんです。

それが自分にとっての希望だったし、それからいまの時代が立体的に見えるようになった。いまを嘆くだけでもなければ、楽観的になるのでもなく、もっと大きく現在を捉えられるようになったんでしょうね。“坂道”の歌詞にはそういう部分が如実に出ていると思います。細く暗い道を歩いているんだけど、想像ができないことが起きる予兆もあって、そういう感覚を表せないかなと思いながら歌詞を書きました。

折坂悠太
折坂悠太“坂道”を聴く(Apple Musicはこちら

—そういえば、宇多田ヒカルさんがとあるインタビューで折坂さんの“あさま”(2016年発表の1stアルバム『たむけ』収録曲)に衝撃を受けたと話されていましたよね。そのことについてはどう思われましたか?

折坂:めちゃくちゃ嬉しかったですね。宇多田さんが『Fantôme』(2016年)をリリースしたときのインタビューは全部読んだんじゃないかな。音楽の世界のトップにいる方とは思えないぐらい共感できる話をされていて、すごく感じるものがあったんです。

—どのような部分に共感を覚えたのでしょうか。

折坂:子育てのことも話されていたんですけど、僕もちょうど子どもが生まれて間もなかったんで、すごくわかることばかりで。

折坂悠太

折坂:僕、音楽によって大きな成功を収めた人は何かを手放さなきゃいけないんじゃないかと思っていたんですけど、宇多田さんのインタビューを読んでいたら、いままでの感覚を手放すことなくやっていけるんじゃないかと勇気づけられたんです。

もちろん宇多田さんは音楽家として特別な存在だと思います。でも、彼女の活動を見ていると、音楽家の立ち位置や活動のあり方そのものが少しずつ変わってきていることを実感しますし、そこに希望を持てるんです。

—宇多田さんは、“あさま”のどのような部分に反応されたんですかね。

折坂:『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で小袋(成彬)さん(2018年4月リリースに宇多田ヒカルをプロデューサーに迎えてデビューした作・編曲家、サウンドプロデューサー。宇多田ヒカルの『Fantôme』および、『初恋』にも参加)と初めてお会いしたんですけど、「どこに衝撃を受けてくれたんでしょうかね?」と聞いてみたんですよ。小袋さんは「あの曲、めっちゃよくないですか? すごくピュアだし」と言ってました(笑)。

たしかに、僕の曲のなかでも“あさま”は際立ってピュアだと思うんですよ。あの曲は僕が通っていたフリースクールの行事で北軽井沢に行ったときのスケッチなんですけど、裏の意味もないし、「この曲で売れてやろう」という思惑もない。できたことで完全に満足したという曲なんですよ。他の曲は「聴いてくれた人にこう感じてほしい」という欲が多少なりともあると思うんですけど、“あさま”にはそれが一切なくて。そういう音楽って案外ないと思うし、そこに宇多田さんは反応してくれたのかもしれない。

作詞するときの感覚は宇多田さんとは違うかもしれないけれど、最終的な理想はすごく近い気がしてる

—“あさま”の言葉の選択やメロディーの組み立て方は、唱歌(明治から昭和にかけて文部省が教科用に編纂した歌曲)に近いものがありますよね。宇多田さんはそうした歌詞の組み立て方にも衝撃を受けたんじゃないかと想像します。

折坂:僕が宇多田さんのことを尊敬している理由の1つに、語呂の個性があるんです。聴いていてちょっと聴き流せないぐらいの字余りとか、話言葉をそのままメロディーにあてはめているところがある。それが僕の耳には言葉と歌がぶつかり合って聴こえるんです。そのきわどさを、圧倒的な譜割りのセンスと歌唱によって、違和感なくあそこまでのポップミュージックに昇華してしまう。

宇多田さんの最近の歌って、ものすごく拍が複雑なんですけど、それがさらに自分の語呂感を活かす要素になっている。そこが宇多田さんの曲を聴いていて熱くなるポイントでもあるんです。

折坂悠太

—折坂さんは自分の語呂感についてどう意識していますか?

折坂:僕にもそういう語呂の個性はあると思います。でも、自分は言葉と音がぶつかり合うことへの恐れがあって、メロディーに沿って言葉を綺麗に並べるという作業をやりすぎるぐらいやってしまう。字余りに対して潔癖性的な感覚があるんでしょうね。そのために、今は使われていない古語を持ってきたりするんです。

—『ざわめき』(今年1月リリースのミニアルバム)に収められた“芍薬”には唱歌“夏は来ぬ”からインスパイアされた中古日本語(平安時代中期に用いられた、日本語の文語体の基礎となる言葉遣い)が使われていましたが、言葉と音を並べるときに必然性があればそういう古語も使うと。

折坂:そうですね。あと、作詞するときの感覚は宇多田さんとは違うかもしれないけれど、最終的な理想はすごく近い気がしてるんです。宇多田さんと自分を比較するのはすごくおこがましいんですけど。

折坂:僕の場合、言葉をメロディーにあてはめていくときにどうしようもなく出ちゃう潔癖性なところが自分の語呂感だと思う。宇多田さんには宇多田さんの語呂感があって、それぞれの個性だと思うんですよね。自分の言葉と音楽の調和を考えてやっているという意味では、理想は近い気がしてるんです。こんなことを言うと、宇多田さんのファンから怒られるかもしれないけど(笑)。

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リリース情報

折坂悠太『平成』
折坂悠太
『平成』(CD)

2018年10月3日(水)発売
価格:2,700円(税込)
ORSK-005

1. 坂道
2. 逢引
3. 平成
4. 揺れる
5. 旋毛からつま先
6. みーちゃん
7. 丑の刻ごうごう
8. 夜学
9. take 13
10. さびしさ
11. 光

イベント情報

『平成 Release Tour』

2018年11月22日(木)
会場:愛知県 名古屋 Live & Lounge Vio
料金:3,000円(ドリンク別)

2018年11月24日(土)
会場:大阪府 心斎橋 CONPASS
料金:3,000円(ドリンク別)

2018年12月2月(日)
会場:東京都 渋谷 WWW
料金:3,300円(ドリンク別)

プロフィール

折坂悠太
折坂悠太(おりさか ゆうた)

平成元年、鳥取生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。2014年、自主製作ミニアルバム『あけぼの』を発表。2015年、レーベル『のろしレコード』の立ち上げに参加。2016年には自主1stアルバム『たむけ』をリリース。その後は合奏(バンド)編成でのライヴも行う。2017年8月18日には、合奏編成にて初のワンマンライヴとなる「合奏わんまん」を代官山 晴れたら空に豆まいてにて行い、チケットは完売。同日より合奏編成で録音した会場限定盤「なつのべ live recording H29.07.02」を販売開始する。2018年1月17日、合奏編成による初のスタジオ作EP「ざわめき」をリリースする。2018年2月より半年かけて、全国23箇所で弾き語り投げ銭ツアーを敢行。10月3日に最新作『平成』をリリース。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。その音楽性とライヴパフォーマンスから、宇多田ヒカル、ゴンチチ、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、伊集院光、小山田壮平(ex: andymori)、坂口恭平、寺尾紗穂らより賛辞を受ける。

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