
小出祐介が問題提起、日本語ポップスにおける「歌詞の曖昧さ」
マテリアルクラブ『マテリアルクラブ』- インタビュー・テキスト
- 宇野維正
- 撮影:小田部伶 編集:矢島由佳子
Base Ball Bearの小出祐介が、新レーベル「DGP RECORDS」の立ち上げを発表した一方で、制作パートナーに福岡晃子(元チャットモンチー)を迎えて別プロジェクト「マテリアルクラブ」をスタートさせた。「ソロでもなくバンドでもなくユニットでもなくグループでもない」とのことだが、「だとしたら、これは何なのか?」を探るインタビューを敢行。
ラップやスポークンワードが飛び交う実験的(でもポップ)な1stアルバム『マテリアルクラブ』に込められた、日本語ラップへの長年の片思いや、現在の日本の音楽シーンに対する問題提起について、小出祐介に語ってもらった。
日本だと、母体のバンドや活動がまず尊重されるし、リスナーもそこに主体性を見出して応援する。この構図を柔軟にしたいと思う。
—他のアーティストの作品への客演は別として、Base Ball Bearから離れたところで小出さんが作品を出すのって、このマテリアルクラブが初めてですよね?
小出:初めてです。僕自身は「バンドマンである」という意識がすごく強いんですよ。だから、ソロでやりたいこと、ソロで歌いたいことっていうのは、もともとないんですね。
—あ、そうなんですね。でも、小出さん自身の関心というのは、それこそホラー映画からアイドルポップまで広範囲かつ、それぞれメチャクチャ詳しいじゃないですか。
小出:今回の発端は、去年の夏に、小出祐介個人として「小出祐介本みたいのを出さないか?」って話があったんですよ。いわば、小出祐介解体新書的な。でも、その話にはあまりピンとこなくて。
その時にライターの三宅(正一)さんにちょっと相談したんですけど、三宅さんに「だったら音楽でソロ作品を作ったら? 全部自分で演奏して歌うとかじゃなくて、そこにいろんな人を呼んでも面白いんじゃない?」って言われて、「ああ、そういう方向なら考えられるかもな」と思いはじめて。
—でも、その段階でもそこまで乗り気ではない(笑)。
小出:ところが、去年の9月の末に日比谷野音でBase Ball Bearのライブがあったんですけど、その時にツアーも一緒に回っていた弓木英梨乃さんに加えて、SANABAGUN.からトランペットの高橋紘一さん、サックスの谷本大河さん。あと、キーボーディストにRyu Matsuyamaに入ってもらって。ゲストとしてRyohuとあっこ(福岡晃子)にも出てもらったんですけど。
—福岡晃子さんは今回のマテリアルクラブの制作上のパートナーで、高橋紘一さん、谷本大河さん、Ryohuさんも今回のアルバム『マテリアルクラブ』に参加していますね。
小出:そうです。ただ、その日のライブで感じた「バンドとしての全能感」みたいなものが本当にすごくて。そこで「もう、このバンドで何でもできるぞ!」と思ったので、やっぱりソロみたいな作品は作る必要ないなと。
—あ、断ろうと思ったんだ。
小出:はい。で、事務所のチーフマネージャーに「このあいだのライブの手応えがすごくて、『これから何でもやれるぞ!』という気持ちなので、やっぱりソロはやめます」って言ったら、「じゃあ、もうBase Ball Bearは何でもやるバンドになるのね」って返されて、その時に「はっ」と気づいて。ちょっと、あまりにもライブの充実感がありすぎて舞い上がっていたんですよね。
Base Ball Bearでやりたいことっていうのは、自分の中にはっきりあるんです。ソリッドで、ポップな音楽。でも、そこでソリッドで、ポップなものをやるためには、いろんなアイデアを吟味して、音楽的な可能性を削ぎ落としていくことも必要なんですよ。ただ、その元になるアイデアには、面白いものもいっぱいあって。それをバンドじゃないところで膨らましていくことに意味があるんじゃないかなってようやく気づいて。
—なるほど。Base Ball Bearがバンドとして絶好調だからこそ、そこに持ち込まないものを膨らましていきたいと思ったということですね。なんか、もっと前のめりなところから生まれた企画だと思ってました(笑)。
小出:海外のポップミュージックだと、今はもうこういう感じで発展していってますよね。トラックメイカーやラッパーの相互関係で、そこでワチャワチャやってる中からヤバいものが生まれてくるっていう。
日本だと、母体になってるバンドや活動がまず尊重されるし、リスナーもそこに主体性を見出して応援する。それに対して、別ユニットでの行動や、コラボレーションって、副次的だと捉えられがちじゃないですか。この構図を柔軟にしたいという思いはありますね。
きっと、バンドをやってる人だって、今はロックばかり聴いてるわけではないじゃないですか。なのに、いろんな音楽をやろうっていう人が全然出てこないですよね。活動のフレームが発想を狭めてるのかなと思ったりもするんですけど。
—単純に、日本だと未だにレコード会社や事務所の力がアーティストよりも強いからっていうのもあるんじゃないですか?
小出:そうなのかなあ。少なくとも、自分はそんなことなかった(笑)。
—(笑)。いや、こういう風通しのいい作品を本当に待ってましたよ。
小出:風通しはいいですね(笑)。
リリース情報

- マテリアルクラブ
『マテリアルクラブ』(CD) -
2018年11月7日(水)発売
価格:3,000円(税込)
VICL-650741. Nicogoly
2. 00文法(ver.2.0)
3. 閉めた男
4. Amber Lies
5. 告白の夜
6. Kawaii
7. Material World
8. Curtain
9. WATER
10. New Blues
プロフィール

- マテリアルクラブ
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Base Ball Bear 小出祐介主宰の、ソロでもなくバンドでもなくユニットでもなくグループでもなく、新音楽プロジェクト=「マテリアルクラブ」。盟友・福岡晃子(チャットモンチー済)を制作パートナーに迎え、閃きのままに繰り広げられる(ほぼ)はじめてのDTM。作りたいものを、作りたいときに、作りたいだけ作ります。2018年11月7日に、1stアルバム『マテリアルクラブ』をリリース。