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no.9×森岡書店店主が鼎談 「ものの届け方」に向き合う

no.9×森岡書店店主が鼎談 「ものの届け方」に向き合う

no.9『Switch of LIFE』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:八田政玄 編集:久野剛士

自分の店が、作る側と受け取る側の出会いや発見にもつながっていたら嬉しいです。(森岡)

—いま、お話いただいたアルバム『Switch of LIFE』は、いわば「CDのないCD」です。なぜこうした形を取られたのでしょう?

:まずお伝えしたいのは、僕にとってCDを出すことはいつでも「夢」だったんですね。 ファーストアルバムは2000年ですが、さらに前、最初に作ったのは、借金してCD-Rを50枚焼いた自主制作作品でした。その頃から時代が大きく変わっても、CDを出すということをすごく大切に考えてきました。これは僕がアルバムというものを、自分の中で完成した作品としてコンパイルして出したい、と強く思ってきたことも関係があると思います。

でもあるとき、自分の家にはもうCDプレイヤーがないことに気づいて、それが衝撃だったんですね。仕事でCD音源を取り込む機器はあるけど、聴くためのプレイヤーは数年前に壊れてから買いかえていない自分がいる。なのにリスナーに向けてはCDを出し続けるのって失礼じゃないか? と思った。そこがいちばん大きかったかもしれません。

左から:森岡督行、no.9 城隆之

—たしかに、いまはダウンロード販売や、さらにサブスクリプションも全盛。デジタルネイティブ世代にとっては、むしろそちらが「当たり前」かもしれません。

:そうした変化はもしかしたら、僕の音楽そのものにとってはどうってことのない要素かもしれない。音楽そのものは今回もとことんやりきったので、誰になにを言われても、「もっとこうすればよかった」みたいなことは自分の中で起こらない、そういうレベルまで作り込んだつもりです。

でも一方で、どんな形でユーザーの手に渡せるのかは、音楽家もちゃんと考えないといけないと思っていて。特に僕は、CDをいちばん大切に思ってきたつもりだからこそ、それを出さないと決めたとき、「ただデジタル配信に完全移行するだけでいいのかな?」という疑問がありました。

—フィジカルがなくなってもいいのか、ということですね。

:作り手としても聴き手としてもすごくお世話になってきたCDショップさんとは共存し続けたいし、新しい形を一緒に模索できたらと思っていて。だから今回も配信だけでなく、CDショップの棚に置けるものを作りたい気持ちがありました。

いまの時代、レーベルにとっては決していちばん得をする形ではない。でもそのつながりは単に利益分配というものを超えて、音楽の未来につながると思っているし、自分が音楽をどう届けたいかというメッセージにもなると考えたんですね。

no.9 城隆之

—「デジタルvsアナログ」「ネットvs実店舗」といった二元論ではなく、これからの作品の届け方を考える試みということですね。

森岡:単に従来の利益分配にこだわる話じゃない、というのはすごくよくわかります。CDも本も、ひとつのものを作るために関わる人がすごく多い。本ならば、作者のほかに編集者、写真家、デザイナー、印刷業者、そして届けることも含めれば流通業者や運送業者もそうですね。

森岡書店では1冊の本を売りながら、関連展示も行う中で、そうした人々全員と関わることができると感じています。小さなお店ですが、そういう意味での接地面積はすごく広くて、「東京の名産品」とも言える「メディア作り」の地場産業センターというか(笑)。

—地元の新鮮野菜の作り手さんと、直に話せて買える店、みたいな?

森岡:ええ(笑)。そうなるとなにが起きるかというと、お客さんがいらしたときに化学変化が起きやすい。具体的には、いろいろな人の次の取り組みにつながっていく。ですから、本だけでないなにかを求めて来てくださるお客さまも、最近は特に多いと感じます。それが、作る側と受け取る側の出会いや発見にもつながっていたら嬉しいです。

森岡督行

僕が森岡さんに共感しているのは、人々と深く関わって届けることで、ひとつの作品を違うものに昇華させていくお仕事をしているから。(城)

—森岡さんは実店舗だけでなく、オンラインでも「森岡書店 総合研究所」というコミュニティーを立ち上げていますよね。これもデジタルかアナログかを超えた動きと言える。

:僕が森岡さんに勝手に共感しているのは、そうした人々と深く関わって作り、届けることで、ひとつの作品をまたさらに違うものに昇華させていくようなお仕事をしているのかな、と思ったんです。人の想いが上乗せされていくというか。特に森岡書店では1冊の本にじっくり向き合うから、作家や編集者をお店に招いて、ファンと、書店と、またはほかの作家とのコミュニケーションを生み出せる。コミュニティーと言ってもいいですかね。

僕はそこに、作品を作ることと、それを売ることのピントがきれいに重なるような感覚を持ったんです。そして、人の想いが重なるということで言うと、今回のアルバムは音楽面で多くのミュージシャンが参加してくれたことに加えて、一緒に新しいレーベル「Steve* Music」を立ち上げたクリエイティブディレクターの太田伸志さんたちがいます。彼らが僕の思いを聞いた上で、この届け方に落とし込んでくれたのも大きかったです。

太田:僕からいちばんお伝えしたいことは、単にトリッキーな試みで売り出したいわけではないということです。僕は以前もno.9のCDや歌詞冊子のデザインに関わって、そこに城さんの思いが音楽同様に反映されているのを実感してきました。『Switch of LIFE』のパッケージは一見シンプルだけど、職人技を駆使した紙の加工など、これまで以上にこだわって作り込まれています。さらにそこを起点にしつつ、「アナログかデジタルか」ではない届け方を試みるものです。

太田伸志(Steve* Music)
太田伸志(Steve* Music)

—具体的にはどういうことでしょう?

太田:『Switch of LIFE』のプロダクト版はレコード屋さんでもネットでも買えますが、リスナーはまずそれを手にとって、開けてみる……というアナログな体験から作品と出会います。パッケージを開くという最初の体験を、どのように演出するか。Apple製品を開封するときのような高揚感と、作品と出会う最初の驚きを作品の一部として込めたかったんです。かつ音楽を聴くためには、ダウンロードコードを使うのでWebに必ずアクセスしてもらえる。そこを接点として活かしたくて、ダウンロードサイトにはno.9からのメッセージを共有できるコンテンツを加えました。そういったストーリーを経てダウンロードされた音楽の感じ方は、単なるデータとしての音とは異なると思うのです。つまり、新旧の届け方のよさが連携する形だからこそ生まれる体験を大切に考えたかったんです。

no.9『Switch of LIFE』ジャケット
no.9『Switch of LIFE』ジャケット(購入はこちら

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リリース情報

no.9『Switch of LIFE』
no.9
『Switch of LIFE』

2018年10月19日(金)発売
価格:2,481円(税込)
SAM001

1. Restart
2. Paper song
3. Switch of LIFE
4. Euphemistic - feat. kafuka -
5. Rotating pointer
6. Chrysanthemum
7. Puddle dance - feat. zmi -
8. make a difference
9. Circle of Water
10. Asterisk*
11. To walk alone - feat. soejima takuma -
12. 1826 D.F. Thank you.
13. Time and Days
14. For me - feat. Tomoya Ito -
15. mimosa
Bonus Track
16. I'm on my way
original track : I'm on my way by Auto&mst
17. pink snow

プロフィール

no.9 / 城隆之(なんばーないん / じょう たかゆき)

「音と共に暮らす」をテーマに、日々の暮らしに寄り添う豊かでメロディアスな楽曲を生み出す作曲家・城隆之のソロプロジェクト。2007年より始動したバンドセット[no.9 orchestra]では、no.9の音楽にギターやドラム、ヴァイオリンやピアノといった フィジカルな音楽性が加味され、フルオーケストラを想起させる壮大なライブパフォーマンスを披露。ライブ会場を包む 圧倒的な存在感で、多くのファンを魅了し続けている。

森岡督行(もりおか よしゆき)

1974年、山形県生まれ。1998年に神田神保町の一誠堂書店に入社。2006年に茅場町の古いビルにて「森岡書店」として独立し、2015年5月5日に銀座に「森岡書店 銀座店」をオープンさせた。そして2017年、6月13日に「森岡書店総合研究所」を開設。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)など。

太田伸志(おおた しんじ)

Steve* inc. 代表取締役社長兼CEO。1977年宮城県生まれ。クリエイティブディレクターとして、SONY、資生堂、Honda、Canon、サントリーなど、大手企業のブランディング企画を多数手がける。唎酒師の資格も持ちPen Onlineにて「日本酒男子のルール」を連載中。2018年、さらなるクリエイティブの可能性を追求するため、東京と東北を拠点に活動するクリエイティブプランニングエージェンシー、株式会社スティーブアスタリスク「Steve* inc.」を設立。同年、音楽レーベル「Steve* Musicを設立。

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