インタビュー

文化が衰える前に公共でできること 佐藤直樹×岸野雄一×出口亮太

文化が衰える前に公共でできること 佐藤直樹×岸野雄一×出口亮太

インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部) 撮影協力:美学校

公共空間に必要な、文化のかたちとは何だろう? 地域コミュニティの形成や、老朽化した施設の再利用など、社会における文化の役割が広がる昨今。そんな疑問を、現場で活躍する当事者たちが話し合った。

2000年代初頭からまちを舞台にした活動を始め、「アーツ千代田 3331」や「オガール紫波」といった多くの成功事例にデザイナーとして関わってきた佐藤直樹。各地の盆踊り会場に現代的なクラブミュージックを接続し、人々の内側から新しい文化への能動性を引き出してきた音楽家の岸野雄一。そして、公共ホールの独創的な運営により、地方における文化の多様性を目指してきた「長崎市チトセピアホール」館長の出口亮太。

それぞれの経験に基づく鼎談では、失敗を受け入れてくれる地元のキーマンの存在や、新旧の文化をつなぐグラデーションのあり方、経済合理性に抵抗する「貫通する言葉」の必要性など、これからの公共と文化を考えるうえで大切な、いくつものヒントが浮かび上がった。

公共ホールでただ単に尖ったことをやるのではなく、尖ったこと「も」ある環境を維持したい。(出口)

—出口さんが館長を務める「長崎市チトセピアホール」(以下、チトセピア)は、全国に多くある公共ホールのなかでも珍しく、先鋭的で多様な企画と、自治体予算や助成金に頼らない運営で注目を集める存在です。その試みについては、過去にCINRA.NETでも何度かお話を伺っていますが(参考記事:地方都市文化の鍵を握るのは公共ホール? 岸野雄一×出口亮太)、その背景にある考えをあらためて聞かせてください。

出口:一番大きいのは、地方都市における文化の多様性を担保したいという思いです。たとえば、地方の公共ホールで行われるコンサートというと、クラシックや演歌などが定番ですが、同じ地域にある複数のホールでそうした音楽の公演しかなければ、そこに住む人たちが触れられる文化の幅は狭くなってしまう。はたしてそれでいいのかと。

岸野:公共ホールの公演は、既存の企画を買っていることが多いんですよね。「某有名歌手の公演=何十万円」みたいな企画がファックスで回ってきて、それを買う。そうした公演を年間でいくつか行えば、公共ホールの体裁は保たれるわけだけど、多様性は生まれないわけです。クラシックコンサートの公演も当然あっていいけど、そこにクラブミュージックの公演もあれば、その土地に未来のDJが育つかもしれない。多様性の担保とはそういうことだよね。

出口:そうですね。ただ単に尖ったことをやるのではなく、尖ったこと「も」ある環境を維持したいと考えています。地方のホールには、どうしても、すでに評価が定まったものを確認しに行くという傾向があるのですが、まだ未知数のものこそ取り上げたい。落語なら真打ではなく二ツ目、映画ならハリウッド映画ではなく単館系の映画というように。

左から:岸野雄一、出口亮太、佐藤直樹
左から:岸野雄一、出口亮太、佐藤直樹

出口:同じように、音楽でも新しい世代を取り上げたいという意図で、今年5月にceroのサポートメンバーでも知られる角銅真実さんのBaby TACO Mansion Orchestra Trioの公演を行いました。彼女と、同トリオの光永渉さんはともに長崎出身なんです。音楽家の里帰り公演というよくある公演の形式を援用して、自然に地方でも新しい文化を紹介する場は作れると思うんです。

長崎にあるMusic Bar ParanoiaでのBaby TACO Mansion Orchestra Trioの公演の様子
長崎にあるMusic Bar ParanoiaでのBaby TACO Mansion Orchestra Trioの公演の様子

ただシンプルに、「この場所で何かができる」という高揚感があったんです。(佐藤)

—岸野さんはそんなチトセピアの常連出演者でもありますが、いっぽう佐藤さんは、デザイナーとして公共施設の設立や、建物の再利用の動きに早くから関わってきました。2003年から東東京の空きビルなどを舞台に行われたイベント『セントラルイースト・トーキョー(CET)』や、2010年に廃校を再利用して生まれた施設「アーツ千代田 3331」はその代表例です。こうした領域に関わり始めたきっかけは何だったのでしょう?

佐藤:公共の面白さを本当に感じたのは、『CET』の準備で馬喰町周辺を回ったときでした。最近はあの辺りも洗練されてきていますが、当時は非常に寂れていて文化的廃墟状態だった。とはいえ、この場所の価値を上げようなどと考えたわけではなく、ただシンプルに、「この場所で何かができる」という高揚感があったんです。

佐藤直樹
佐藤直樹
『セントラルイースト・トーキョー(CET)』記録:シミズヨシユキ
『セントラルイースト・トーキョー(CET)』記録:シミズヨシユキ

出口:僕のような博物館学出身で演劇や音楽を実際にやっていたわけでもない人間が、公共ホールで文化事業をコーディネートすることは、一種のスクワッティング(本来は放置空き家の不法占拠の意味だったが、近年ヨーロッパを中心とした空き家をアートプロジェクトに有効活用する活動にも使われる)だと思っています。その点、『CET』はまさに「合法的スクワッティング」と名乗っていましたよね。

出口亮太
出口亮太
『セントラルイースト・トーキョー(CET)』記録:シミズヨシユキ
『セントラルイースト・トーキョー(CET)』記録:シミズヨシユキ

出口:非プロパーが既存の施設や空間を転用する例は最近では増えていて、僕の周囲だと、岡山市の廃校を会場にした音楽イベント『マチノブンカサイ』や佐賀のリノベーションビル「ON THE ROOF」、また佐世保のDJチーム「桃源郷」の活動は面白いです。これらに共通するのは、廃校や空きビルやスナックなどを本来とは異なる使い方をしている点ですが、佐藤さんの関われてきた活動はその走りでしたね。

岡山市の廃校となった旧内山下小学校の校舎を会場に開催された音楽イベント『マチノブンカサイ』
岡山市の廃校となった旧内山下小学校の校舎を会場に開催された音楽イベント『マチノブンカサイ』
「ON THE ROOF」ではリノベーション工事期間中からトークイベントやDIYワークショップなどが開催された
「ON THE ROOF」ではリノベーション工事期間中からトークイベントやDIYワークショップなどが開催された
佐世保のスナックで開催された桃源郷主催の都築響一トークショー
佐世保のスナックで開催された桃源郷主催の都築響一トークショー

佐藤:当時は「リノベーション」という言葉もまったく理解されていなかったんですよ。そんな状況で『CET』がある程度うまくいったのは、結局、そのエリアの人が文化の力を活用しようとしたからだと思います。地元のキーマンがいるんです。CETの場合はタオル屋のご主人なのですが、理屈ぬきで行動する人がいたのが大きかった。

出口:走りながら考えるということですよね。

佐藤:そうですね。エリアへの愛があり、「このままだとヤバイ」と思っている人の存在が一番の原動力なんです。振り返るとけっこう無茶なこともやっていたのですが(笑)、つねに尻拭いをしてくれる誰かがいた。失敗を勘定に入れてくれていた人がいたからできたことで、全員の理解を得ようと思ってやっていたら何も起こらなかったと思います。

岸野:いわゆる「お祭り男」ですよね。「なんかあったら俺がなんとかするよ」みたいな人がいる土地は強い。その結果、馬喰町はいまでは自力で回っていますよね。あと大事なのは海外からの視点。東京駅にも成田にも羽田にも行きやすい馬喰町は、外国人旅行者にはかなり利便性の高い場所で、問屋街という特化された街の魅力もある。海外だと、韓国の乙支路3街の問屋街とか、立地をうまく利用した例が多いけど、日本にはあまりなかったよね。

岸野雄一
岸野雄一
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イベント情報

『平成30年度 全国劇場・音楽堂等職員 アートマネジメント・舞台技術研修会2019』

日本国内の劇場・音楽堂等の活性化と地域の文化芸術の振興を目的とした、アートマネジメントに関する専門的研修会。2月6日(水)に出口亮太が講師として登壇。

2019年2月6日(水)、7日(木)、8日(金)
会場:東京都 代々木 国立オリンピック記念青少年総合センター

プロフィール

佐藤直樹(さとう なおき)

1961年東京都生まれ。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学・言語社会学を学ぶ。美学校菊畑茂久馬絵画教場修了。1994年、『WIRED』日本版創刊にあたりアートディレクターに就任。 1998年、アジール・デザイン(現アジール)設立。2003~10年、アート・デザイン・建築の複合イベント『セントラルイースト東京(CET)』をプロデュース。2010年、アートセンター「アーツ千代田 3331」の立ち上げに参画。サンフランシスコ近代美術館パーマネントコレクションほか国内外で受賞多数。アートプロジェクト「トランスアーツ東京(TAT)」(2012~17年)を機に絵画制作へと重心を移す。3331デザインディレクター。美学校講師。多摩美術大学教授。

岸野雄一(きしの ゆういち)

1963年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科、美学校等で教鞭をとる。「ヒゲの未亡人」「ワッツタワーズ」などの音楽ユニットをはじめとした多岐に渡る活動を包括する名称としてスタディスト(勉強家)を名乗る。銭湯やコンビニ、盆踊り会場でDJイベントを行うなど常に革新的な場を創出している。2015年、『正しい数の数え方』で第19回文化庁メディア芸術際エンターテインメント部門の大賞を受賞。2017年、さっぽろ雪まつり×札幌国際芸術祭2017「トット商店街」に芸術監督として参加。

出口亮太(いでぐち りょうた)

1979年長崎市生まれ。東京学芸大学で博物館学を学ぶ。表参道・桃林堂画廊の運営、長崎歴史文化博物館の教育普及研究員を経て公共ホール管理会社・ステージサービス入社。2015年に若干35歳で長崎市チトセピアホール館長に就任、60本あまりの自主事業を実施。先鋭的な企画を外部資金に頼らず独立採算で実施する事業計画が、指定管理者制度下の地方中小規模館の先進的な運営スタイルとして注目を集める。近年では大学や医療福祉機関、NPOなど他ジャンルとの協働事業を展開しつつ、現場の知見をもとにホール運営についての講演を各地の大学、文化施設協議会等で行う。また、近隣の施設・団体と連携した事業巡回のネットワークづくりも行っている。

長崎市チトセピアホール

長崎市千歳町に1991年に開館した500席を擁する多目的ホール。平成27年度より自主事業を本格的にスタートさせ、先鋭的な企画と助成金に頼らない運営スタイルで注目を集める。これまでの出演者は伊藤ゴロー、神田松之丞、岸野雄一、スガダイロー、高浪慶太郎、瀧川鯉八、立川吉笑、玉川太福、内藤廣、中島ノブユキ、中村達也、二階堂和美、柳亭小痴楽、渡辺航など。また、既存の「舞台 / 客席」の関係性にとらわれず、「公共ホールでブロックパーティ」をテーマに、客席内に舞台を仮設したり、ロビースペースを寄席やダンスフロアに転用するなど、オルタナティブスペース的発想に基づいた公共空間の新たな活用法と利用価値を模索している。事業内容は舞台芸術の分野だけでなく、まちづくり、建築、福祉、医療、食育分野とのコラボレーション企画も多く、公共ホールの可能性を拡張する活動を続けている。

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