インタビュー

文化が衰える前に公共でできること 佐藤直樹×岸野雄一×出口亮太

文化が衰える前に公共でできること 佐藤直樹×岸野雄一×出口亮太

インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部) 撮影協力:美学校

経済を無視せずに、「僕らも経済を考えている。むしろ経済に返していきましょう」と言える覚悟を、文化側も持たないといけない。(佐藤)

出口:公共の意識をいかに作るのか。その点で言えば、佐藤さんはデザイナーとして、岩手県紫波町の「オガール紫波」にも関わられています。これは図書館やマルシェなどが一体化した施設ですが、地方創生の成功例として知られています。運営資金的にも自立性が高く、市民と文化のプロが丁寧に対話して作られた場所ですよね。

佐藤:オガール柴波では、まず「オガールデザイン会議」という場を作って、デザインのガイドラインを一緒に作ることから始めました。なかに入って強く感じたのは、図書館やマルシェ、子育てセンターなどの担当者が、それぞれの施設の必要なあり方や価値を強烈に欲している、ということでした。

佐藤直樹
佐藤直樹

佐藤:「図書館にはこんな魅力がないといけない」という地元の声を受けて、そこからリサーチをしてロゴやエプロンやサイン計画ができています。つまり、結果的にデザインになっているのであって、全員がデザインの当事者なんです。そのことで、図書館で普通ではやらないようなイベントが行われたり、地元の特徴に合った個性的な棚が生まれていきました。

岸野:当事者意識が強いのは理想的なあり方ですね。

—いわば、「ユーザーの欲」が最初にきちんとあったわけですね。

佐藤:そうですね。僕らはその「しもべ」になっている。ただ、大切にしたのは、アウトプットに関しては緊張感を持つということ。グダグタにしてはいけないし、僕らはプロとして求められたもの以上のジャンプを起こす必要がある。みんなが参加してルールや方向性を定めたら、きちんとそれを高めないといけない。

出口:外部的な視点からデザインの筋を通す場として、デザイン会議があったわけですね。またそのプロセスが、つねに市民の方との交流のなかで進められたことも重要だった。でも、経済性と文化の質が衝突することはなかったですか?

佐藤:そこで重要なのは、オガールデザイン会議のメンバーが文化から経済、ハードからソフトという風に、複数の領域を貫通する言葉を持っていることだったと思います。経済を無視せずに、「僕らも経済を考えている。むしろ経済に返していきましょう」と言える覚悟を、文化側も持たないといけない。

芸術文化の役割は広がりつつある。問題は、その重要性を語る言葉が足りていないということです。(出口)

—これからの公共空間を面白くするうえで、みなさんがより大切になってくると考えることをあらためて聞かせてください。

出口:地域で文化事業をしている立場にとっては、その活動に「公共心」があるのかどうかが一番大事なことなのかなと思います。公共心とは、そこにいない、見えない人たちのことを思える想像力。例えば自分が企画するイベントであれば、そこに来てくれる文化に理解のある人たちだけでなく、何らかの事情があって来たくても来れない人やそもそもそういうイベントに関心がない人、持てない人たちのことを思う気持ちのことです。公共ホールを運営すると言っても、代理店でも入れてただイベントをしていれば公共的と呼べるのか? そうではないだろうと思っています。

出口亮太
出口亮太

岸野:僕がやっている『DJ盆踊り』も『コンビニDJ』も、公共空間を舞台に、普段とは異なる振る舞いが許される場の創出ですが、最後にはみんなきちんと片付けていく。じゃあ、渋谷のハロウィンとは何が違うのか。あれも、ハロウィンを口実にして、自由に振舞ってもいい機会だとされますが、散らかし放題、騒ぎ放題で帰っていくわけですよね。公共の場を使うことに変わりはないのに、その差はなぜできるのかをよく考えます。

『札幌国際芸術祭2017』での『DJ盆踊り』 撮影:小牧寿里
『札幌国際芸術祭2017』での『DJ盆踊り』 撮影:小牧寿里
『コンビニDJ』
『コンビニDJ』

佐藤:最近、渋谷を歩く機会があったんですけど、とくに中心部は、完全にお金を回すためだけの街になっていますよね。転換期の接続の仕方がうまくいっていなくて、そこに持ち込まれているカルチャーが、どこか空々しいものに感じられてしまっている気がします。

出口:もともと地形的に、ヒューマンスケールで用途が築かれていたのが、企業が主導して文脈なく開発されていますよね。ただ、そうした経済合理性による選択と集中は、これから『東京オリンピック』に向けてえげつないことになると思います。それは、東京と地方のあいだでより鮮明になる。選択や集中の外にある場所は、政策的にも無視される未来が来るんじゃないか。

ただ、いっぽうで近年は「アートによる心のケア」も謳われている時代で、芸術文化の役割は広がりつつある。問題は、その重要性を語る言葉が足りていないということです。

岸野:市場を築地に残した方が、どれだけ文化的価値があるのかは数値化できないわけだよね。豊洲に移す方が数値化しやすくて、だから文化が経済合理性に負けてしまう。

岸野雄一
岸野雄一

出口:そこで、今後重要になると思うのは、アートマネジメント職の存在です。さきほどの佐藤さんがおっしゃっていたオガールデザイン会議での「貫通する言葉」ともつながりますが、つまり、自治体と文化芸術と市民を結ぶための言葉を持っている存在。文化って、みんな「好き」から入るから、説明が後になることが多いと思っています。でも、「大事だから大事」というトートロジーでは、外の人との対話の機会を閉じてしまう。そうやって説明をサボってきたところに、いまの社会における文化の立ち位置があるような気がしています。

佐藤:アートマネジメント職の必要性は、たしかに感じますね。岸野さんのように自分で何でもできるアーティストもいるけど、多くの人はそこまで意識を持つのが難しい。

佐藤直樹
佐藤直樹

岸野:いや自分一人では何もできません。SNSによってできるようになったことも多いですけどね。だからインターネットを全否定しているわけではない。メディアでは、よく「アーティスト自身がジャケットを描いた」とか書かれますよね。僕なんか自分でフライヤーも撒くけど、「アーティスト自身がフライヤーを撒いている」とは言われない(笑)。そうしたマネジメントの部分がどれだけ軽視されているのか、とよく思っています。

文化は無駄金か否かという地点を超えた言葉を、多方面から醸造していく必要がありますね。(佐藤)

出口:近所のおじさんやおばさんにも、「この文化にはこんな意味がある」と翻訳して言えるようにならないといけない。それがないと、財布が乏しくなったとき、真っ先に削られるのは文化ですよね。選択と集中のぶり返しが2020年以降に起こることはかなり現実的です。

そこから逆算して、いまから市民が自分たちの手で、平熱で続けられることをやっていくことが大切だと思う。とくに地方では、「ないこと」や「失ったこと」を嘆かず、既存の公共空間や公共施設を有効活用する知恵と行動力がシビアに求められると思います。

出口亮太
出口亮太

佐藤:最近、アートの教養はビジネスに役立つという言説が流行っていますよね。これまでの日本のアートシーンにはそうした視点があまりに欠けていたから、その言説にも一定の意味があるのはわかるのですが、やっぱりモヤモヤするわけです。というのも、アートは経済に役立つから大切というのと同じ論理で、反対のことも言えてしまうんですよね。本当はその中間に曖昧な部分があって、それこそを言葉にしていかないといけない。文化は無駄金か否かという地点を超えた言葉を、多方面から醸造していく必要がありますね。

岸野:そこで大事なのは、能動性を引き出すためのOS(オペレーティングシステム)をいかに仕込むのかということですね。自発的に人々が、こうすればうまくいくはずだ、と考え始める機会だけを作り出すというか。昨今、地域のコミュティ作りみたいなことが盛んに言われますが、コミュニティというのは結果だと思うんです。仕掛けてできるものではない。『DJ盆踊り』のときにMOODMANのDJで踊り出した人たちのように、適切なOSを仕込むことで人の振る舞い方は自然と変わると思います。

その意味では、渋谷のハロウィンも僕はそこまで否定的ではなくて、あそこに集まった若者が新しい文化を生み出す可能性もあるとは思っています。最近は初めから問題を避けがちだけど、そのせいであまりに人同士の関係がなくなっている。対面して話し合って解決できる問題や失敗はむしろ随所に起こしていくべきで、そこから生まれる文化や公共もあるのではないかと思います。すり合わせの技術を学ぶ、つまり民主主義の演習です。

左から:岸野雄一、出口亮太、佐藤直樹
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イベント情報

『平成30年度 全国劇場・音楽堂等職員 アートマネジメント・舞台技術研修会2019』

日本国内の劇場・音楽堂等の活性化と地域の文化芸術の振興を目的とした、アートマネジメントに関する専門的研修会。2月6日(水)に出口亮太が講師として登壇。

2019年2月6日(水)、7日(木)、8日(金)
会場:東京都 代々木 国立オリンピック記念青少年総合センター

プロフィール

佐藤直樹(さとう なおき)

1961年東京都生まれ。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学・言語社会学を学ぶ。美学校菊畑茂久馬絵画教場修了。1994年、『WIRED』日本版創刊にあたりアートディレクターに就任。 1998年、アジール・デザイン(現アジール)設立。2003~10年、アート・デザイン・建築の複合イベント『セントラルイースト東京(CET)』をプロデュース。2010年、アートセンター「アーツ千代田 3331」の立ち上げに参画。サンフランシスコ近代美術館パーマネントコレクションほか国内外で受賞多数。アートプロジェクト「トランスアーツ東京(TAT)」(2012~17年)を機に絵画制作へと重心を移す。3331デザインディレクター。美学校講師。多摩美術大学教授。

岸野雄一(きしの ゆういち)

1963年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科、美学校等で教鞭をとる。「ヒゲの未亡人」「ワッツタワーズ」などの音楽ユニットをはじめとした多岐に渡る活動を包括する名称としてスタディスト(勉強家)を名乗る。銭湯やコンビニ、盆踊り会場でDJイベントを行うなど常に革新的な場を創出している。2015年、『正しい数の数え方』で第19回文化庁メディア芸術際エンターテインメント部門の大賞を受賞。2017年、さっぽろ雪まつり×札幌国際芸術祭2017「トット商店街」に芸術監督として参加。

出口亮太(いでぐち りょうた)

1979年長崎市生まれ。東京学芸大学で博物館学を学ぶ。表参道・桃林堂画廊の運営、長崎歴史文化博物館の教育普及研究員を経て公共ホール管理会社・ステージサービス入社。2015年に若干35歳で長崎市チトセピアホール館長に就任、60本あまりの自主事業を実施。先鋭的な企画を外部資金に頼らず独立採算で実施する事業計画が、指定管理者制度下の地方中小規模館の先進的な運営スタイルとして注目を集める。近年では大学や医療福祉機関、NPOなど他ジャンルとの協働事業を展開しつつ、現場の知見をもとにホール運営についての講演を各地の大学、文化施設協議会等で行う。また、近隣の施設・団体と連携した事業巡回のネットワークづくりも行っている。

長崎市チトセピアホール

長崎市千歳町に1991年に開館した500席を擁する多目的ホール。平成27年度より自主事業を本格的にスタートさせ、先鋭的な企画と助成金に頼らない運営スタイルで注目を集める。これまでの出演者は伊藤ゴロー、神田松之丞、岸野雄一、スガダイロー、高浪慶太郎、瀧川鯉八、立川吉笑、玉川太福、内藤廣、中島ノブユキ、中村達也、二階堂和美、柳亭小痴楽、渡辺航など。また、既存の「舞台 / 客席」の関係性にとらわれず、「公共ホールでブロックパーティ」をテーマに、客席内に舞台を仮設したり、ロビースペースを寄席やダンスフロアに転用するなど、オルタナティブスペース的発想に基づいた公共空間の新たな活用法と利用価値を模索している。事業内容は舞台芸術の分野だけでなく、まちづくり、建築、福祉、医療、食育分野とのコラボレーション企画も多く、公共ホールの可能性を拡張する活動を続けている。

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