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大原大次郎×田中義久 互いのデザインを解剖するデザイナー2人展

大原大次郎×田中義久 互いのデザインを解剖するデザイナー2人展

クリエイションギャラリーG8『大原の身体 田中の生態』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

論理的に物事を考えていくだけでは、限界を感じることがあるんです。(田中)

—ハッシュタグ「#大原の身体田中の生態」を使ってTwitter上でやり取りを公開しているのもユニークです。本日はそれぞれの現時点の成果物を持ち寄っていただいているので、そのミーティングの続きをしてもらえればと思います。

田中:今回の和紙は漁師の網など、砂浜で拾ったものを使っています。昔は、自然由来の素材で作った網を細かく繊維状にして紙にしていたそうです。だから意外と相性がよい。あとは、プラスチックの漂流物が色彩のポイントになっています。

左から:田中義久、大原大次郎
できあがった和紙(部分)
できあがった和紙(部分)

大原:ドロドロの液体のなかにひたすら文字を書いていたときの作業の苦しみが立ち上がっていないのがいいなと思います。

田中:そうだね。

大原:文字でモビール(複数の立体を紐でつないで吊らす可動式のオブジェ)を作るというプロジェクトをやっているんですが、気持ちよさそうに揺らいでいるモビールほど、作る側はエネルギーと緊張感が必要です。1本の糸で均衡がとられる状態を、重心を見極めて組んでいくのって3文字組むだけでも数日かかったりするんです。

『Typogravity』, Work in progress, Photograph: Kazuharu Igarashi, 2012
『Typogravity』, Work in progress, Photograph: Kazuharu Igarashi, 2012(Vimeoで見る)(サイトを見る

大原:清らかな水中を漂流してるものを使って文字を書くのって、その行為自体は気持ちよいし楽しいんですけど、そこに「定着させよう」という自我が入った瞬間に逃げていくのですごくエネルギーがかかる。だから終わるとめちゃくちゃ疲れている。

田中:良いですね(笑)。論理的に物事を考えていくだけでは、限界を感じることがあるんです。

問題を的確に見つけ出し、解決していくことがデザインだという考え方があります。それは、たしかにいま起こっていることに関しては効き目があるかもしれないけれど、その「処方」を続けていると、数十年という長い時間のなかでは、視覚的コントロールの体系化や枠組みの呪縛という問題が生まれる。そして、その後には体制化されたデザインに対する反体制のデザインが誕生する。デザインの歴史はそれを繰り返してきたけれど、その往復運動に回収されないようなデザインがありえないか、と考えています。

—すでに体系化された創造と破壊からも逃れるために。

田中:例えば人対人の枠組みだけで考えるのではなく、それ以外のモノや自然を相手にした枠組みを意識していく。そのプロセスのなかでは、今回やっているような文字にしても、グラフィックや工芸、あるいは自然物としても認識できるような曖昧な世界が成立していて、最終的な着地点も曖昧です。でも、それはグラフィックデザイン的な行為を通過しながら生まれたもので、このプロセスをありのままに見せ、共有することはとても重要だと思っています。

大原:レコードっぽいですね。曖昧さも記録されて、修正がきかない。僕は普段、声と文字の間を探っているんですが、空気を振動させて耳がキャッチする声の非定着性に対して、文字は痕跡を残すものという意味で強い表現ですよね。今回の手漉き和紙の文字が、声と文字の中間くらいの状態でレコーディングされているものとしてとらえるならば、行為をそのまま記録していくってメディアとしてすごく面白い。

田中:今回の和紙で使っているのは人が捨てたゴミだけれど、こうやって少しかたちを変えるだけで存在の概念が変わっていく。

大原:例えば同じ浜辺でも、葉山と山形県の庄内では、漂流物の見えが全然違う。葉山はある程度掃除もされているし、漁に出た人たちの網などが多いんですけど、庄内はもっと有象無象というか。量がたまってきたら紙の見え方も違ってくるでしょうね。

田中:そもそも浮遊している物自体の価値観を変えることによって、もっと単純な、表象的なエコではないところでデザインと結びつける手段があるような気がしています。

大原:そのリサーチのための手段としても有効だと思いました。いまリサーチと言うと、Google検索が主でおおむねスマホで完結される時代ですよね。この紙はリサーチやレコーディングのための新しいデバイスになる予感があります。

全ページを写経することで、田中義久という骨格、書体を作ろうとしている。(大原)

—大原さんが進められているものについても、もう少し詳しく伺えればと思います。

大原:今日はNerhol(田中と飯田竜太が結成するアーティストデュオ)の作品集『Phrase of Everything』をスケッチしたものを持ってきました。ここから背骨を探っていく感じです。

左から:田中義久、大原大次郎

田中:Nerholで作品を彫るときに作るラフに似てるね。どこを山場にするかっていうポイントを抽出してるわけでしょう?

大原:最初は、主観的に本のスケッチをしたりドローイングをしてたんですけど、義久さんの意思をとらえようと思うと、本文組みの構成や色の配分なども図示しないとダメかなと思い始めました。複写の方法として、自分なりのレントゲンカメラのようなものを作らないと義久さんの生態には迫れなさそうで。

背表紙から全ページに渡り、詳細にスケッチされている
背表紙から全ページに渡り、詳細にスケッチされている
Nerhol『Phrase of Everything』 / スケッチの対象となったNerholの作品集
Nerhol『Phrase of Everything』(Amazonで見る) / スケッチの対象となったNerholの作品集

大原:今のところ義久さんの手がけた課題図書が25冊くらいあって、その全本文をこういうふうに描いていくのもいいなと思っています。全ページを写経することで、田中義久という骨格、書体を作ろうとしている。そんな気持ちでしょうか。

田中:生態を意識して一通りスキャンしていくなかで、身体化していくってことか。僕がやってるのは、全体のかたちと序章だけを用意して大次郎さんに返すんだけど、そこから生じた身体性を起点として新たに物語を紡いでいく。

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イベント情報

『大原の身体 田中の生態』

2019年1月11日(金)~2月14日(木)
会場:東京都 銀座 クリエイションギャラリーG8
時間:11:00~19:00
休館日:日曜、祝日
料金:無料

プロフィール

大原大次郎(おおはら だいじろう)

1978年神奈川県生まれ。グラフィックデザイン、展覧会、ワークショップなどを通して、言葉や文字の知覚を探るプロジェクトを多数展開する。近年のプロジェクトには、重力を主題としたモビールのタイポグラフィ『もじゅうりょく』、ホンマタカシによる山岳写真と登山図を再構築したグラフィック連作『稜線』、蓮沼執太、イルリメと共に構成する音声記述パフォーマンス『TypogRAPy』、YOUR SONG IS GOODの吉澤成友と展開する、ライブプリントとドローイングによる入稿セッション『New co.』などがある。受賞にJAGDA新人賞、東京TDC賞。

田中義久(たなか よしひさ)

1980年静岡県浜松市生まれ。近年の仕事に東京都写真美術館を始めとした文化施設のVI計画、ブックショップ「POST」、出版社「CASE」の共同経営、『The Tokyo Art Book Fair』、『アニッシュ・カプーア IN 別府』、『Takeo Paper Show』などのアートディレクションがある。また、飯田竜太(彫刻家)とのアーティストデュオ「Nerhol」としても活動し、主な個展に『Index』Foam Photography Museum(オランダ)、『Promenade』金沢21世紀美術館、『Interview,Portrait,House and Room』Youngeun Museum Contemporary Art(韓国)などある。

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