
吉開菜央×ホナガヨウコ対談 ポップスをヒットさせるダンスの力
ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1「霞はじめてたなびく」- インタビュー・テキスト
- 黒田隆憲
- 撮影:永峰拓也 編集:久野剛士(CINRA .NET編集部)
たとえば星野源“恋”や米津玄師“Lemon”、ゆず“恋、弾けました。”など、最近はヒット曲のミュージックビデオの中で、ダンサーをフィーチャーしたり、アーティスト本人がダンスしたりするシーンを見かけることが多い。
もちろん、昭和のアイドル時代から「振付」は存在していたし、アクターズスクール出身のアーティストが次々と登場した1990年代以降は「ダンス」がより身近なものになったが、とりわけPerfume以降は楽曲と身体表現が密接に結びついた、さらに高度でアーティスティックな「コレオグラフィー」が増えている。
中学でダンスが必修になったり、SNSで「踊ってみた」動画を気軽にアップしたり、受け手側の「ダンス」に対する意識も変化してきているが、そもそも私たちは、なぜこれほど「ダンス」に心を奪われるのだろうか。
今回は、トーキョーアーツアンドスペース本郷にて2月23日から開催される『ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1「霞はじめてたなびく」』展に、映画『静坐社』を出展する映像作家でダンサーの吉開菜央と、実験的でありながらもポップかつキャッチーな振付や、自由で荒々しいソロダンスに定評がある振付家でダンサーのホナガヨウコによる対談を敢行。ヒット曲のミュージックビデオで存在感を放つふたりに、ダンスが持つ可能性について語り合ってもらった。
音楽が「聴くもの」だけじゃなくて「見るもの」にもなりつつある。(ホナガ)
—おふたりは、ポップミュージックの世界でも積極的に活動されていますが、そもそものキッカケはどういうものだったのでしょうか。
ホナガ:私は、大学時代から生バンドの演奏に合わせて踊ったり喋ったり、いわゆる「音楽と身体表現の融合」に興味があって、作品作りもしていたんですね。モデル時代にオーディション現場でその話をしたら、そのオーディション自体は落ちたんですけど(笑)、そのときの監督だった山口保幸さんに興味を持っていただいて。それでサカナクションの“僕と花”に振付と出演で呼んでもらったのがはじまりでした。だから、なにがキッカケになるかわからないですよね。
—どんなバンドの演奏で踊っていたのですか?
ホナガ:にせんねんもんだいと大学が一緒で、彼女たちの演奏を初めて聴いたときに「この音で踊りたい!」って思ったんです。彼女たちと踊ってみたら「ライブってすごい」「ナマってすごい」ってなって。CDを流して踊るのとは全然違うんですよ。
まず、演奏している人の体の動きに魅了されました。にせんねんもんだいの姫ちゃん(姫野さやか)のドラミングとか、本当に美しくて。私はそこで、ダンサーとして「主役」になるのではなく、音楽の一部になるようなダンスが踊りたいと思ったんです。ミュージシャンたちにリスペクトを持って、「共存」したいなと。
吉開:実は私、ホナガさんとは正反対のアプローチで作品を作っていて。大学院時代に一度、ダンスから音楽を取り払おうとしていた時期もありました。なぜなら、ホナガさんのように「音楽と共存する」スタンスであればいいんですけど、自分も含め、どうしても音楽の力に頼らないと踊れないダンサーが多い気がしたから。
でも、にせんねんもんだいは私もすごく好きで、実は振付をしたことがあるんですよ。ちょうどその頃は東京藝術大学大学院に通っていたのですが、学校にある撮影用の大きなスタジオにプロレスのリングを設置して、そこにレオタードを着たダンサーを17人ぐらい上げて“それで想像する ねじ”という楽曲に合わせて踊るというイベントをやったことがあるんです(笑)。
吉開菜央が振付を担当した米津玄師“Lemon”
ホナガ:まさか、同じバンドの曲でお互い踊っていたとは(笑)。そうだ私、ゲスの極み乙女。(以下、「ゲス」)のライブを去年観に行ったんですけど、“オンナは変わる”のセットがものすごかったんですよ。ダンサーもたくさん登場していて、「振付は誰がやったんだろう?」と気になっていたら吉開さんだった。あれは、どんなイメージで振付を考えたんですか?
吉開:あの曲の内容は、川谷絵音さんをめぐる騒動に対するゲス側の「返答」というか。MVを手がけた監督の山田健人さんも、完全にそれをモチーフにしているんですよね。たとえば踊るレオタードダンサーたちは、「世間の目」を象徴していて。彼らが見ている中、1組の男女が抱き合ったり喧嘩したりしている。その手前でゲスの4人が、砂で作った城を囲んで演奏するという構造にしたいと監督から言われました。
吉開菜央が振付を担当したゲスの極み乙女。“オンナは変わる”
—半透明のスクリーンの後ろで踊っているのは「匿名性」みたいなものの比喩かと。
吉開:それはあるでしょうね。
—途中、レオタードダンサーたちが、バンドと入り乱れて砂の城を壊していくシーンがありますよね。
吉開:あれはもう、「2人の城を世間とマスコミが壊した」という見てそのままの意味だと私は捉えています。砂の城を壊したあとダンサーたちは自分たちの顔がはっきりと見えないスクリーンの向こう側に回り込み、安全な場所から川谷さんたちを眺めているという。川谷さんもあのシーンをすごく気に入ってくださって、「ライブで先にやろう」という話になったんです。
ホナガ:衝撃でした(笑)。
—凝った画面構成ということでは、ホナガさんが手がけたゆずの一連の作品もすごいですよね。特に“恋、弾けました。”の2人の踊りが可愛らしくて。
ホナガ:振付に関しては、「ライブでみんなが踊れるものにして欲しい」というリクエストがありました。ただライブハウスって、満員のフロアだと横への移動もそんなにできないし、手もあまり大きく振ると隣の人とぶつかっちゃうじゃないですか。それでも限られたスペースを使い、簡単だけどみんなが楽しく踊れるキャッチーさを求めましたね。
それと、私のほうから「双子ダンスはどうだろう?」という提案をしたんですよ。そうしたら、いわゆるMix ChannelやTikTokとかで流行っているような、対になって踊ったファンによる映像が次々とアップされて。みんなライブの前に、会場の外で友人と踊って動画撮影しているんです。きっと、「参加できる楽しさ」みたいなものを味わってくれたのでしょうね。
ホナガヨウコが振付を担当したゆず“恋、弾けました。”
—いま、MVでダンスをフィーチャーするのって珍しくなくなってきていますよね。星野源やPerfume、それこそ米津さんもそうですが、ダンスがここまでシーンに浸透したのはなぜだと思いますか?
ホナガ:いま話したように、映像をただ見るだけだと受動的な行為じゃないですか。でもダンスがあると一緒に参加できるし、一体感も得やすいですよね。それに、これまで音楽というものは耳で覚えていましたが、MVが普及して目でも覚えられるようになったと思うんです。
動画サイトやSNSの普及により、音楽が「聴くもの」だけじゃなくて「見るもの」にもなりつつあるというか。以前はテレビじゃないとアーティストが動く姿が見られなかったのに、ネットで映像と音を一緒に見る機会が増えたからだと思います。
イベント情報

- 『ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1「霞はじめてたなびく」』
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2019年2月23日(土)~3月24日(日)
会場:トーキョーアーツアンドスペース本郷
料金:無料
参加アーティスト:
佐藤雅晴
西村有
吉開菜央
プロフィール
- 吉開菜央(よしがい なお)
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映像作家・ダンサー。生き物ならではの身体的な感覚・現象を素材に、「見て、聴く」ことに集中する時間を映画にしている。2015年に監督した映画『ほったまるびより』が文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞を受賞。近年の主な作品は『風にのるはなし』『静坐社』『みずのきれいな湖に』。いずれも国内外の映画祭や展覧会で上映されている。MVの監督・振付・出演も行い、至福の健康動画を配信する[White Leotards]のリーダーでもある。
- ホナガヨウコ
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ダンスパフォーマー/振付家/モデル。『ホナガヨウコ企画』主宰。早稲田大学第一文学部卒業。実験的でありつつキャッチーでポップな振付と、荒々しく激しい自由なソロダンスに定評がある。舞台、MV、CM、雑誌、ライブ等、子供向けからファッション系まで幅広い媒体において出演・振付・演出をする。地域支援センターでの親子のための身体遊び教室や、企業の社員研修の身体コミュニケーション講座の講師なども務める。2019年5月GWに演劇・ダンスの野外フェス、『ストレンジシード静岡』にホナガヨウコ企画で出演予定。