
「器用貧乏を武器にする」。WEAVERを輝かせる仕掛けの真相
WEAVER『流星コーリング』- インタビュー・テキスト
- 黒田隆憲
- 撮影:山口こすも 編集:矢島大地(CINRA.NET編集部)
今年でメジャーデビュー10周年を迎える3人組ピアノロックバンド、WEAVERが3月6日、通算7枚目のアルバム『流星コーリング』をリリースした。
本作は、同日出版された河邉徹(Dr)による新作小説『流星コーリング』をモチーフにしたもの。広島のとある高校に通う、2組の男女の淡い恋を描いたSF仕立ての青春ストーリーを、11の楽曲に詰め込んだコンセプチュアルな内容に仕上がっている。先行リリースされた4曲にはそれぞれリリックビデオが制作され、蓄光アーティストとのコラボレーションや、ストップモーションを駆使した手作りっぽい映像、大量の書籍で歌詞を紡ぐ試み、水で歌詞を表現する映像など、どの作品にも並々ならぬこだわりを感じさせる。
それら映像に加え、アルバムの特設サイトを始め、アートワークやバンドのロゴデザインなど、今回トータルのクリエイティブディレクションを行なったのは電通の大瀧篤。指ではなく声で紙相撲力士を動かす新スポーツ「トントンボイス相撲」や、穴の空いたラケットでプレイし空振りをすると褒められる「ブラックホール卓球」など、ユニークな企画を考案してきた異色の広告マンである彼は今回、WEAVERのどんな側面を引き出そうと思ったのだろうか。
目の前の人のためにモノ作りをして、それが役に立てば、世に広まっていくんじゃないかという考えでやっている。
—大瀧さんは、もともと理系の専攻だったそうですね。
大瀧:そうなんです。大学院に在籍していたときの研究テーマは「AIで人材育成をする」というものでした。例えば「交渉能力」といった、人が実践を重ねないと磨けないスキルをAIを相手に対戦することで人材育成をするシステムの開発と研究。あとは、小型人工衛星や無人で動くローバーなどを制作し、ロケットで打ち上げる世界大会に毎年のように参加していて最後は優勝することもできました。
とにかく「モノ作り」が好きだったんですけど、そのうちに疑問が湧いてきて。単にモノを作るだけでなく、それを世界の誰かのもとに届けるというプロセスまでしっかりやらないと、作った意味もないんじゃないかと。技術のみを突き詰めるのではなく、それをどう活用して、どう伝えるかを考える仕事に興味を持ち始めたんです。「モノ作り」で優秀なメンバーは、僕の周りにもたくさんいましたし。
それで研究室を出て、外を見回してみたら、ちょうど電通がARを使ったアプリや新しいメディアの開発などを進めていて。モノ作りをしつつ、それを広めていく試みをし始めた時期だったんです。なので、広告業界に興味があったというのとは、少し違う理由で電通に入ったんですよね。
—これまでどのようなものを作ってきたのですか?
大瀧:反響が大きかったのは、指ではなく声で紙相撲力士を動かす新スポーツ「トントンボイス相撲」です。僕の母親は病院や福祉施設で働いていて、双子の弟も病院でリハビリの専門家である作業療法士をしていることもあり、僕自身も小さい頃から医療や福祉に興味があったんです。母や弟と一緒にやれることはないかと職場に見学しに行ったりもしていました。そんな中、あるプロジェクトで介護老人保健施設に訪れたのですが、その際に高齢者の方たちが「声のリハビリ」に苦労しているという話を聞いて。
—「声のリハビリ」ですか?
大瀧:高齢になって、人とあまり話さなくなると、喉の筋肉が弱ってお餅が詰まりやすくなったり、話がしにくくなって余計に人と話さなくなりがちなんだそうです。そうすると、ますます声を出すのが嫌になって、1日中テレビばかり見るような状態になってしまう。とはいえ、本を読んだり歌ったりするリハビリって、そういうことが苦手な人には苦痛でしかないんですよね。なので、別の方法で楽しく声を出してもらう方法はないかを考えて提案することにしまして。それで一緒に動いていたチームメンバーと見つけた光明が2つありました。
ひとつはお年寄りの方々に相撲好きな人が多かったこと。ふたつ目はその施設には要介護度が1から4まで様々な方がいましたが、「言葉を発する」だけなら誰でもできるということ。だったら紙相撲を声で動かすようにしたらどうだろうと。それで完成したのが「トントンボイス相撲」だったんですよね。私が所属する「世界ゆるスポーツ協会」という団体があるのですが、今ではそこの人気スポーツになっています。老若男女障害のありなし関係なく楽しめるスポーツをゼロから作っているチームです。
トントンボイス相撲PV
—反響はいかがでしたか?
大瀧:上々でした。海外からも問い合わせが結構あり、国内でもイベント開催の依頼を沢山受けて日本中の百貨店を行脚したこともありました。今ではアミューズメント施設「VSパーク」では常設コンテンツとして毎日稼働していますし、バンダイナムコグループの「メガハウス」さんからは商品化の話も頂いて「さけべ!トントンボイス相撲」が誕生しています。安価に全国で手に入れることができますよ。最近では、ちょうど『刃牙』(板垣恵介)という漫画の新シリーズ「バキ道」にお相撲さんが登場することもあり「さけべ!トントンボイス相撲」の「バキ道」ver.というコラボ商品を作るまでに至ったんです。
—それはすごいですね。
大瀧:もともと「トントンボイス相撲」は、福祉施設で出会ったおばあちゃんのために作ったものだったんです。それが日本中に広がって、僕自身も大好きな漫画家さんとコラボするまでに至った。このプロジェクトに限らず、僕の場合は目の前の「この人」のためにモノ作りをして、それがちゃんと役に立つことができれば、世に広まっていくんじゃないかという考えでやっていて。
例えば、「ライター」は腕をなくした負傷兵が片手でタバコを吸えるようにと作られたもの。「曲がるストロー」は寝たきりの友人に好きなものを飲めるようにと発明されたもの。それが、今では世界中に普及しています。エクストリームで作っていたものが、メインストリームで役に立つという現象が起きていて、僕もそこに強く共感するんです。広告というと基本的には期間が決まっているキャンペーンが多いので「一過性のプロジェクト」となるケースが多いんですけど。この「さけべ!トントンボイス相撲」のように、次の展開へ繋がって成長していくモノ作りは特に大事にしていきたいと考えています。入社前に描いていた「作って→世に届けて→成長して」のループを回し続けている感じも嬉しい。
—そういった視座を持つ大瀧さんにとって、今回クリエイティブディレクターを務められたWEAVERの『流星コーリング』はどんなプロジェクトになったと思いますか。
大瀧:『流星コーリング』は、今年でメジャーデビュー10周年を迎えるWEAVERが、1年間をかけて取り組んできたプロジェクトです。ドラマーの河邉(徹)さんが書いた同名小説が起点になって、それを元に制作された同名アルバムとティザームービー、先行配信された4曲のリリックビデオ制作、それに伴うライブ演出、そしてその特設サイトのデザインなどを、まるっとディレクションすることになりました。
アートワークももちろんディレクションしていて、例えば特設サイトでは、先行曲が小説の章のように並んでいて、それぞれにパズルのピースのようなアイコンを用いています。全曲揃ったときに、パズルが完成するという仕掛けになっていますね。
リリース情報

- WEAVER
『流星コーリング』(CD) -
2019年3月6日(水)発売
価格:3,024円(税込)
AZCS-10761. Overture ~I'm Calling You~
2. 流れ星の声
3. 最後の夜と流星
4. Interlude Ⅰ
5. 栞 feat.仲宗根泉(HY)
6. Interlude Ⅱ
7. Loop the night
8. Nighty Night
9. 透明少女
10. I would die for you
11. 流星コーリング ~Prologue~ feat.花澤香菜
- WEAVER
『[ID 2]』初回盤(CD+DVD) -
2019年3月6日(水)発売
価格:3,996円(税込)
AZZS-82[CD]
1. くちづけDiamond
2. Beloved
3. Boys & Girls
4. KOKO
5. S.O.S.
6. Shake! Shake!
7. 海のある街
8. Another World
9. だから僕は僕を手放す
10. Photographs
11. 僕のすべて
12. Hello Future
13. Tonight
14. カーテンコール[DVD]
MUSIC VIDEO集
1. くちづけDiamond
2. KOKO
3. Beloved
4. Boys & Girls
5. S.O.S.
6. Shake! Shake!
7. Another World
8. カーテンコール
※メンバー自身によるオーディオコメンタリー収録(副音声)
- WEAVER
『[ID 2]』通常盤 -
2019年3月6日(水)発売
価格:3,024円(税込)
AZCS-10751. くちづけDiamond
2. Beloved
3. Boys & Girls
4. KOKO
5. S.O.S.
6. Shake! Shake!
7. 海のある街
8. Another World
9. だから僕は僕を手放す
10. Photographs
11. 僕のすべて
12. Hello Future
13. Tonight
14. カーテンコール
書籍発売情報

- 『流星コーリング』(KADOKAWA)
-
2019年3月6日(水)発売
著者:河邊徹
価格:1,700円(税込)
発行:KADOKAWA
ツアー情報
- WEAVER 14th TOUR 2019「I'm Calling You~流星前夜~」
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2019年3月23日(土)
会場:愛知県 DIAMOND HALL2019年3月24日(日)
会場:大阪府 BIGCAT2019年3月31日(日)
会場:東京都 マイナビBLITZ赤坂
- 『WEAVER "ID 2" TOUR 2019「I'm Calling You~流星ループ~」』
-
2019年7月7日(日)
会場:千葉県 KASHIWA PALOOZA2019年7月13日(土)
会場:三重県 CLUB ROOTS2019年7月14日(日)
会場:奈良県 奈良NEVER LAND2019年7月27日(土)
会場:神奈川県 F.A.D YOKOHAMA2019年8月3日(土)
会場:静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠2019年8月10日(土)
会場:香川県 DIME2019年8月12日(月・振休)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO2019年8月17日(土)
会場:長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX2019年8月18日(日)
会場:新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE2019年9月1日(日)
会場:京都府 KYOTO MUSE2019年9月7日(土)
会場:北海道 札幌KRAPS HALL2019年9月14日(土)
会場:福岡県 DRUM Be-12019年9月15日(日)
会場:熊本県 熊本B.9 V22019年9月21日(土)
会場:宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX2019年9月22日(日)
会場:福島県 郡山CLUB #9
プロフィール
- 大瀧篤(おおたき あつし)
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大学院にてAIを専門に研究し、2011年、電通に入社。チーフ・コミュニケーション・デザイナー/クリエーティブ・テクノロジスト。プロモーション領域のプランニング・プロデュースを経験の後、クリエーティブ試験合格を経てクリエーティブ部門へ。世界ゆるスポーツ協会ヘルスケア部門代表/スポーツクリエイターとして活動しつつ、電通Bチーム AI特任リサーチャーも兼任。世界三大広告賞のカンヌライオンズ、ワンショー、クリオ賞を始め、多数の受賞経験がある。2018年クリオ賞ヘルスケア部門の審査委員を務める。
- WEAVER(うぃーばー)
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2004年、神戸高校の同級生で結成。2007年に現在の編成となり、3ピースピアノバンドとして活動をスタートする。2009年にダウンロードシングル『白朝夢』でデビューし、これまでに5枚のミニアルバムと2枚のフルアルバムをリリース。2018年3月には河邊徹が小説家としてもデビューを果たした。