80KIDZが振り返る、Justiceの衝撃。その音は、「発明」だった

4月に渋谷ストリームホールで開催される国際音楽祭『SOMEWHERE,』にJusticeの出演が決定。4月26日と27日の2日間に渡って、DJセットでのライブを披露する。フランスのレーベルEd Bangerの一員として、2000年代後半に頭角を現したJusticeは、フレンチエレクトロのブームを牽引し、後のEDMの世界的なブレイクの礎を築いたと言っても過言ではない。また、“D.A.N.C.E.”のミュージックビデオをはじめ、ビジュアル面での評価も高く、その影響は音楽のみならず、1つのカルチャーとして世界中に広がっている。

そんなJusticeの歩みについて、同じく『SOMEWHERE,』への出演が決定した80KIDZに話を聞いた。「Justiceがいなかったら、ミュージシャンになっていなかった」と語る2人は、国内のエレクトロシーンの発展に大きく寄与するとともに、世界への扉を開いたアーティストでもある。スタジオライブベスト盤とも言うべきJusticeの最新作『Woman Worldwide』が年明けの『グラミー賞』で「最優秀エレクトロニック / ダンス・アルバム賞」を受賞し、絶好のタイミングで行われる両者の共演は、記念すべき夜となるはずだ。

Justiceはアーティストからリスペクトされるアーティストなんだと思いますね。(ALI&)

—『Woman Worldwide』が今年の『グラミー賞』で「最優秀エレクトロニック / ダンス・アルバム賞」を受賞しましたが、どんな感想を持ちましたか?

ALI&:生中継を見てたんですけど、正直獲るとは思ってませんでした。『Woman』(2016年)の曲と過去の曲を混ぜつつ、上手くライブ音源のアレンジがされていて、ベストみたいな内容ですし、それが受賞につながったんじゃないですかね。金色のジャケットっていうのが、気合いを感じますし(笑)。あとは「こういうアレンジの仕方でライブセットをやるんだ」って、参考にしながら、やや仕事目線でも聴いていました。やっぱり、Justiceはアーティストからリスペクトされるアーティストなんだと思います。

JUN:僕は一昨年来日したときにライブを観てるんですけど、すごくよくて、俺らも頑張んなきゃなって思ったんですよね。そのツアーの内容をより純度高い形で盤にして、「これが世界的にはどんな評価を受けるんだろう?」と思っていたら、『グラミー賞』を獲ったので驚きました。ここからまた変化が起きて、エレクトロが再評価されたりしたら面白いですね。

80KIDZ(えいてぃーきっず)
2007年1月に結成。オリジナル楽曲やリミックスが SNS を通じて瞬く間に世界中で話題となり、初期作品集の12”シングル『DISDRIVEEP』(2008年)は即完売を記録。以降、フルアルバム4作品、リミックス集やダンストラック集をリリースし、『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN』『COUNTDOWN JAPAN』『SUMMER SONIC』 をはじめとするビッグフェスに出演。ロックとダンスの垣根を越えて活躍中。

—近年のトレンドが反映された作品ではないだけに、意外な受賞ではありましたよね。

ALI&:でも、今の20歳前後の子たちからしたら、めちゃめちゃ新鮮かもしれないですよ。SkrillexとかEDMが出てきて、歪んだサウンドとか、キックとスネアがダンスミュージックに入ることが、ポップシーンにも浸透し切った今だからこそ、改めて新鮮に聴けるというか。

Justice『Woman Worldwide』を聴く(Apple Musicはこちら

—SkrillexはJusticeの影響を公言しているわけですからね。

JUN:その辺も評価されての受賞なのかもしれないですね。Daft Punkが初めて獲ったのも結構遅かったし(2009年『ALIVE 2007』で受賞)。『ノーベル賞』のように、20年前にやったことが、今正当に評価されるみたいな、そういうことかなって(笑)。

Justiceは全ジャンル的に新しい音で、すべてをぶち壊すような感じだった。(JUN)

—そもそものJusticeとの出会いを振り返っていただけますか?

ALI&:僕たちは『Waters of Nazareth』(2006年9月)と『†(クロス)』(2007年6月)の間くらいに知り合っているんですよね。この頃何してました?

JUN:僕はその頃、京都のレコード屋さんで働いていたんですけど、FATBOY SLIM“Don’t Let The Man Get You Down”のJusticeリミックスがいきなり出て、周りのみんな「何だこれ? かっこいい!」ってなったんです。全ジャンル的に新しい音で、すべてをぶち壊すような感じだった。

その後に『Waters of Nazareth』が出て、イケてる友達のDJはみんな買ってました。あの衝撃がすごくて、自分でも曲を作りたいっていう気持ちが高まったんですよね。

ALI&:この前くらいって、ロックのリミックスがたくさん出回って、フロアアンセム的にクラブでかけるDJが増えてきたんですよね。そういう中で、“Waters of Nazareth”とか、Justice vs. Simianの“We Are Your Friends”が出てきたんですよ。

それまでは「ロックをクラブでどうかけるか?」みたいな感じだったけど、それとは完全に切り離して、ヒップホップとかいろんな要素も入れつつ、新しいジャンルを作っていこうぜっていう、そのターニングポイントだったと思うんです。で、当時の自分の年齢的にも「わかるー!」ってなった(笑)。

Justice vs. Simian“We Are Your Friends”を聴く(Apple Musicはこちら

あの音は唯一無二というか、発明だったと思います。(JUN)

—まだその頃、お2人は20代前半ですかね。

ALI&:それまでは、レコード屋さんの言い方で「ホワイト盤」という、イリーガルなリミックスが多かったけど、この頃から業界的にもオフィシャルでがんがんリミックスが出てきて、「この流れを作っていこう」っていうのが世界的になってきましたね。

—そんなときに2人も出会い、オリジナルを作るようになったと。

ALI&:“Disdrive”とかは完全にJusticeのパクリみたいなもので(笑)、もっと歪ませて、もっとロウビートで、もっとエモくしたくてやってみた感じでした。この頃は全アーティストがJusticeに影響を受けていたと思いますよ。Soulwax、TIGA、Boys Noizeもいたけど、全部Justiceを軸に回っていたと思う。時代の中心的な存在だったんじゃないかな。

80KIDZ “Disdrive(Rework)”を聴く(Apple Musicはこちら

—JUNさんにとっては、Justiceのどんな部分が特に衝撃でしたか?

JUN:あの音は唯一無二というか、真似しようとしても作れなかったんですよね。もしかしたら、たまたまできたものなのかもしれないけど、それが音楽シーンを変えるくらいのムーブメントにまでなってしまうのは、今振り返ってもすごく面白い。発明だったと思います。

最初はそんなにマスに向けたものじゃないと思っていたんですよ。僕はもともとインディーなもの、ちょっとアングラなものが好きだったし、当時都内のちょっとしたエレクトロ系のパーティーでかけてもそんなに盛り上がらなかった。「こういうのをかける俺かっこいい」みたいな、ちょっと自己満の方が強かったりして(笑)。だから、ここまで世界的に評価されるとは正直思わなかったです。

今から10年後には、この時代の映画が世界中で撮れるくらい、いろんなことが起きていました。(ALI&)

—そして、2007年に『†(クロス)』がリリースされて、本格的にJusticeが世界的なビッグネームへと上り詰めていきました。

JUN:その前の重要なリリースとして“D.A.N.C.E.”が出て、「ポップスもできるんだ!」ってなったんです。Justiceが所属するレーベルEd Bangerの関連作品に大体関わってるデザイナー・So Meが手がけたミュージックビデオもすごかった。

2008年の年明けにWAREHOUSE(麻布十番にあったクラブ)で初めて共演したんですけど、『†(クロス)』のボックスセットにすごいかわいいサインを書いてくれて、そのサインを未だに真似してます(笑)。彼らの音楽とデザインとファッションのバランスがすごく好きでしたね。

ALI&:僕らの世代がエレクトロというものを持って大きなハコに出て行ったタイミングがその頃ですね。エレクトロ系のアーティストの来日に僕らが呼ばれることもすごく増えて、「変わったな」っていうタイミングでした。

それまでもファッションの人と一緒にイベントを企画していたけど、そこにいろんな大人が入ってきて、本当に世界的なカルチャーとして世の中に発信されていったんです。それくらい『†』の影響力は大きかった。

—Justiceは当時、音楽だけではなくカルチャーとしての盛り上がりも牽引したと。

ALI&:今から10年後には、この時代の映画が世界中で撮れるくらい、いろんなことが起きていました。クリスチャン・ディオールのコレクションの音楽でもJusticeの曲が使われていたくらい、本当にファッションやデザインも含めて、カルチャーとして盛り上がった。あの頃、僕らの世代は、キャッキャ言いまくってましたよ(笑)。

このファンク感、グルーヴィーな感じって、もともとDaft Punk以上にJusticeが持っていたものだと思うんです。(ALI&)

—Justiceが世界的にブレイクして、80KIDZも国内外で大きな注目を集めるようになった中、2011年にJusticeの2ndアルバム『Audio,Video,Disco』がリリースされました。端的に言えば、バンド感が強まって、プログレ的な側面もあるアルバムでしたが、あの作品はどう受け止められましたか?

JUN:クラブ用の曲があんまりなかったから、かけたくてもかけられなかったんですよね。好きな曲を何曲かチェックはしていたけど。

ALI&:『†』からはかなり間が空いて、どうなるんだろうと思ったら、ライブの時間帯、DAYの人の作品になっていたんですよね。最初に“Civilization”が出て、よりゴシックなコンセプトを出しつつ、そこまで変わってないなって思ったら、その後に“Audio,Video,Disco”が出てポップさを出してきたから、それはすごくいいなって思った。意外と器用じゃないんだなとも思ったけど(笑)。

JUN:『Audio,Video,Disco』はあえて振れ幅をつけなかったのかもしれない。一回確立したものを大きく変えない方がいいんじゃないかっていう……いろいろ葛藤はあったと思う。

—2012年に80KIDZが出した『Turbo Town』も、「バンド寄り」という意味では通じる部分もあるのかなって思いました。

ALI&:真似はしてないですよ(笑)。80KIDZもかなり確立されてきて、次をどうするかっていう中で、もっと楽器を弾きたいし、もっとライブ演出をして、毎回現場に来てくれる人たちが盛り上がれる部分が欲しいなって思って。もしかしたら、そういう考え方自体は似ていたのかもしれないですね。僕らもいろんな試行錯誤があったので。

JUN:ステージに立つ機会が増えると、オケが流れる中で弾いているだけだと、演者としての葛藤も出てきて。もともとギターキッズだったし、thee michelle gun elephantとかも好きだったから、アン直(エフェクターを使わずにギターからアンプに直接繋ぐこと)でバーンと鳴らしたいみたいな、そういう衝動で作ったのが『Turbo Town』ですね。

80KIDZ『Turbo Town』を聴く(Apple Musicはこちら

—駆け足になりますが、Justiceの現時点での最新オリジナルアルバムである『Woman』に関しては、どんな印象ですか?

ALI&:やっぱりDaft Punkの『Random Access Memories』が『グラミー賞』を獲って(2014年)、「やりたいことやればいいんだ」って思ったんだと思うんですよね。このファンク感、グル―ヴィーな感じって、もともとDaft Punk以上にJusticeが持っていたものだと思うんです。グザヴィエはちゃんとピアノも弾けるから、ピアノのコード感とかも上手だし。だから結構素直に、彼らの音楽性が入った盤かなって思います。

JUN:セカンドを頑張って作って、サードは「好きなことやろうぜ」っていう感じですよね(笑)。Ed Bangerの中でもBreakbotが売れたりして、世界の流れを若干意識してサウンドを変えたりした部分もあるかもしれないですが。

—『Woman Worldwide』も含め、毎回オリジナルアルバムごとに趣向の違うライブ盤を出しているのもJusticeの特徴ですよね。

JUN:基本、音源をリスニング向けに作るわけですけど、ライブ用のアレンジも作るから、ライブ盤もリリースしたいっていう純粋な気持ちなんじゃないかな。Daft Punkも出してますよね。僕らの『REMODEL』も、10年前の曲を今やったらどうなるんだろうっていう単純な興味がありつつ、結果としてライブでも使えたらいいなっていう意図があります。

ALI&:『Woman Worldwide』みたいな作品を作りたいねって話をしたこともあるんですよ。Justiceが先にやっちゃったんで、もうやれないですけど(笑)。しかも、それで『グラミー賞』を獲っちゃうのは、羨ましい話ですね。

Justiceって「0を1にした」ということが大きくて、作り手の側に影響を与えていることがすごいと思うんです。(ALI&)

—Justiceと自分たちが共有する感覚について、改めて話していただけますか?

ALI&:単純に言うと、Justiceがいなかったら僕らはミュージシャンになってないですからね。なので、客観的に見たら、規模感は違えども同じ「アーティスト」かもしれないけど、僕らからしたら人生を変えられた人なので、別格の存在なんです。

—Justiceと80KIDZの共通点として、時代性やトレンドにもちゃんと目配せをした上で、ぶれないオリジナリティや信念がある、そのバランス感覚は通じるものがあるかなって思います。

JUN:自分たちとしては、それぞれの興味が広がる中で、ダブステップだったり、いろいろなことをやってきたから、「ぶれてるかな?」って思ったりもするんですけど、そう評価していただけるのは嬉しいです。ただ、やっぱり僕らはJusticeほどの何かを確立したわけではないし、実際もうちょっと振れ幅があるかなって。国内のシーンで見たときに、一貫した色があると思っていただけたら嬉しいですけどね。

ALI&:Justiceみたいに存在自体がリスペクトされているアーティストは羨ましいですね。自分たちもそうなりたい。

JUN:まだ自分たちではそうなれてないと思うけど、長谷川白紙くんとか、才能豊かな子が「好きです」みたいに言ってくれるのはやっぱり嬉しい。そういう人たちが出てきたのかって思うと、10年やってきてよかったなって思ったりもします。

ALI&:それを世界規模でやっているのがJusticeですよね。Justiceってただセールスとかっていうより、「0を1にした」ということが大きくて、作り手側に影響を与えていることがすごいと思うんです。だから、今でも影響力を持ち続けているのかなって。

—それが今年の『グラミー賞』でようやくハンコを押されたというか。

ALI&:押されちゃいましたね。でも、せっかくなら『Random Access Memories』みたいな、「誰が見ても納得」な作品で獲ってほしかったとも思ってしまうんです。僕らからしたら、「エレクトロニック / ダンス」じゃなくて、主要部門で獲ってほしい欲しいくらいのアーティストですから。

イベント情報
『SOMEWHERE,』

2019年4月19日(金)、4月20日(土)、4月22日(月)~4月24日(水)
会場:東京都 渋谷ストリームホール

出演:
PHOENIX
CHAI(4月24日のみ出演)
料金:12,900円(5Fパーティーエリアでのウェルカムシャンパン付)

2019年4月21日(日)
会場:東京都 渋谷 セルリアンタワー東急ホテル バー
出演:
アラン・マッギー、アレックス・メトリック、80KIDZ
and more
料金:9,800円(フリードリンク付)

2019年4月26日(金)、4月27日(土)
会場:東京都 渋谷ストリームホール
出演:
カール・バラー
80KIDZ
料金:12,900円(5Fパーティーエリアでのウェルカムシャンパン付)

2019年4月26日(金)、4月27日(土)
会場:東京都 渋谷ストリームホール
出演:
Justice(DJ SET)
秋赤音
水原佑果(4月26日のみ出演)
料金:10,000円(5Fパーティーエリアでのウェルカムスパークリングサケ付)

2019年4月28日(日)、4月29日(月・祝)
会場:東京都 渋谷ストリームホール
出演:Friendly Fires
料金:9,900円(5Fパーティーエリアでのウェルカムスパークリングサケ付)

2019年6月5日(水)~6月7日(木)
会場:東京都 渋谷ストリームホール
出演:
Basement Jaxx(DJ SET)
CHAI(6月6日のみ出演)
料金:9,900円(5Fパーティーエリアでのウェルカムスパークリングサケ付)

プロフィール
80KIDZ
80KIDZ (えいてぃーきっず)

2007年1月に結成、エレクトロ・ユニット。自主制作で2枚のMIX CDをリリース後、様々な国内外アーティストとの共演を経て楽曲制作を開始。オリジナル楽曲やリミックスがSNSを通じて瞬く間に世界中で話題となり、初期作品集の12”シングル『DISDRIVE EP』(2008年4月)は即完売を記録。以後、フル・アルバム5作品、リミックス集やダンス・トラック集をリリースし、『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN』『』COUNTDOWN JAPAN』『』SUMMER SONIC』をはじめとするビッグフェスに出演。ロックとダンスの垣根を越えて活躍中。2018年春にデビュー10周年を迎え、初のベストアルバム『BEST KIDZ – The Best of 80KIDZ 2008-2017』をリリースした。



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