ゆずが踏み出した大きな一歩。22年と310曲を携え前人未到の領域へ

日本の音楽史上初の試みであり、ゆずにとっても新たな挑戦となる弾き語りドームツアー『ゆず 弾き語りドームツアー2019 ゆずのみ~拍手喝祭~』が、いよいよ始まった。そして、その直前に配信リリースされることが決定した新曲“SEIMEI”。<もう一歩踏み出そう / 「まだ見ぬ自分」に会いに行くんだ>――力強いギターの音色に乗せて2人のハーモニーが響き渡るこの曲で、さらにはそのアートワークにも描かれた、現代美術家・名和晃平の手による今回のツアーのシンボル世界樹「YUZZDRASIL(ユズドラシル)」で、彼らが打ち放とうとしているメッセージとは、果たして何なのだろうか。

5月10日の“SEIMEI”リリースと同時に、これまでゆずが生み出してきた全310曲が一挙ストリーミング解禁するなど、自らのルーツを前面に押し出しながら、ファンと共にその「現在」をさらに実り豊かなものとしようとする北川悠仁と岩沢厚治――ツアーの初日を目前に控えたゆずの2人に話を聞いた。

今回のツアーは、ゆずの大きな野望です。(岩沢)

—5月11日から、いよいよ前人未到の弾き語りドームツアーがスタートします。まずは、このタイミングで弾き語りドームツアーをやることになった経緯から教えていただけますか?

北川:はい。20周年のときに初めてドームツアーをやらせていただいて、それがすごく嬉しかったんですよね。キャリア20周年のタイミングで、いちばん大きいキャパのツアーをやらせてもらえて、そこに多くの人が集まってくれて僕らの音楽を共有してくれたことが、すごく嬉しくて。

次にドームツアーをやるならどういうものがいいかなと思ったときに、誰もやったことがなくて、なおかつ自分たちの原点である弾き語りで回れたら、そんなにいいものはないんじゃないかっていうアイデアが湧いてきたんです。もちろん、弾き語りで全部回るのはかなり大変なことだとは思いましたけど、やってみたい。それで、旗を振ってみたんです。

岩沢:わりと長いこと活動を続けていると、「僕たちがまだやってないことって何だろう?」って探したりするときがあるんですよね。ギネスにチャレンジしたことないなとか、『紅白歌合戦』のトリはやってないなとか、冗談っぽく言ってたものが、徐々に形になっていって、少しづつ叶えることができて。「あと、何をやってないかな?」って考えたときに、弾き語りのドームツアーはやってないねっていう話になったんです。もしそんなことができたら、日本の音楽史上で初めてだよねって。

ゆず
北川悠仁、岩沢厚治により1996年3月結成。横浜・伊勢佐木町での路上ライブで話題を呼び、1997年10月、1st Mini Album『ゆずの素』でCDデビュー。

—ゆずにとっての、大きな挑戦というわけですね。

岩沢:僕らはデビュー当時から、「今後の野望は何ですか?」って聞かれて、意外と答えられないことがあったんですけど、今回は大きな野望ですよね(笑)。チーム一丸となって挑むツアーです。

—弾き語りでのドームツアーをしようと決めてから、具体的な内容については、どんなふうに決めていったのですか?

北川:今回、そこがいちばん苦労したところでした。新しいことに挑戦しようって一歩踏み出すのは楽しいんですけど、それを決めたあとに、どんなライブにしようかっていうのは、かなり考えて。特に今回のツアーは、アルバムのリリースタイミングでもないし、前回のような周年のタイミングでもないので、逆に言えば何をやってもいい、大海原に出された感じで。

—どんなセットリストを組もうと自由なわけで。

北川:そうなんですよね。弾き語りって言うと、「すごく小ぢんまりしたものなんでしょ?」っていうイメージがあるじゃないですか。そういうものは実際にこれまでやってきたけど、今回はそこからさらに進んだものにしたいと思ったんですよね。弾き語りなんだけど、すごいアートしていたり、エンターテイメントだったりするものにしたいなって。日本の音楽史上初めてなのであれば、みんなの想像を超える「初めての体験」をしてもらいたいと思って、いろいろ考えました。

北川悠仁

—そこから何を手掛かりに、ライブの内容を決めていったのですか?

北川:ツアーに合わせて新曲を作りたいとは思っていたので、その新曲を柱として考えていくのがいいかなあと思いました。あと、ステージにキービジュアルになるものがあると面白いなと考えていたんですよね。それで、現代美術家の名和晃平さんに相談をしてみたんです。名和さんとは、これまで何度もご一緒させていただいていて、20周年のときも手伝ってもらったりしているんです。名和さんとの打ち合わせを経てキービジュアルができていくのと同時に、僕は僕で新曲のモチーフとなるものを作っていました。

キービジュアルは、漠然とした造形のイメージはあったんですけど、それに対する意味づけが定まらなかったんですよね。だけど、僕がその打ち合わせからインスパイアを受けて書いていった歌詞の中に、その意味づけみたいなものを、名和さんたちアートワークのチームも見つけることができたみたいで、そこからこの「YUZZDRASIL(ユズドラシル)」というものになっていきました。

ゆず『SEIMEI』ジャケットにもなっている、「YUZZDRASIL」

僕たちはまだまだ踏み出していきたいんです。(北川)

—今回の配信シングル“SEIMEI”のアートワークにもなっている、この世界樹ですね。これは何を表しているのでしょう?

北川:簡単に言うと、普段は土の下に隠れている生命の根源部分がむき出しになっているんです。僕らは「逆さツリー」って言っているんですけど、これ、よく見ると根っ子の部分が上にきているんですよね。そうやって、隠れている根っ子の部分を表に出すことで、自分たちのルーツや、生命のリレーみたいなものを目で見て体感することができる。

すごく抽象的ですけど、そこと“SEIMEI”の歌詞がリンクして、「ユズドラシル」というものになっていったんですよね。やっぱり、弾き語りというのは僕たちのルーツなので、それを今回のステージで表現したり、ファンのみなさんとここまで育て上げてきたゆずというものを共有したり……そういうツアーになったらいいなって。ツアーのステージに実際にあるんですけど、多分みんなビックリすると思うんです(笑)。

岩沢:度肝を抜かれるんじゃないですかね。僕もビックリしましたから(笑)。今回のビジュアルに関しての打ち合わせはリーダーたちにお任せして、僕はリハーサルのほうに専念していたんです。どうやら木がステージにあるらしいっていうのは聞いていたんですけど、いざ蓋を開けてみてビックリ(笑)。

岩沢厚治

—それはライブが楽しみです(笑)。楽曲は、どんなふうにできあがっていったんですか?

北川:今回のドームツアーは、過去を噛み締めるものでもあるけど、さっき言ったように、この先に踏み出すための一歩にしたいなと思っていて。変な話、セットリストはすでにある曲からでも十分だよって思うこともあるんです。ゆずにはこれまでの楽曲が300曲以上あるので、そこから選び放題だし。

だけど、僕たちはまだまだ踏み出していきたいんです。そのためには、このツアーに合わせて新曲は絶対に作りたいと思いました。今回は弾き語りツアーだから、そこで思いっきりバンドサウンドみたいなものを作っても、それは違うなと思って、“SEIMEI”も弾き語りの曲にしたんです。この曲はバンドサウンドでも十分やれるし、ストリングスを入れたりすることもできる、何でもできる曲だと思うんですよね。それを敢えて弾き語りにしてむき出しの形で出すことで、さらにこの曲が発展していく、そういうプロセスを感じられるものにしたいと思いました。

ゆず“SEIMEI”を聴く(Apple Musicはこちら

—アレンジはシンプルな弾き語りですけど、そこで歌われている内容は、先ほどの「世界樹」の話ではないですが、かなり大きなものになっていますよね?

北川:そうですね。だから、この曲にもっと肉づけしていって、すごく強いメッセージを放つようなものに仕上げていくことはできるんですけど、それを僕ら2人の弾き語りで、どこまでやれるのか、というのは考えました。それが今回のツアーのテーマでもあると思うし、そういうものがこの“SEIMEI”という曲に最後集約されていくようなツアーになったらいいなと思っているんですよね。

岩沢:20周年のドームツアーでの手応えが、すごく大きいのかもしれないですね。なおかつ、新しい時代になって、新しいツアーを始めて、そこでまっさらな新曲を歌うことができるのは、すごく幸せなことだと思っています。

楽曲も、力強い弾き語りの曲になっていて。原点を見つめ直すというよりも、過去の楽曲がなければ、この曲はできなかったんじゃないかっていうぐらい、今までのゆずを網羅した曲になっていると思います。

—新しい年号になったこのタイミングで、ゆずがまた新しいチャレンジに踏み出すというのは、すごくよくできた話のようにも思えて……そのへんは、ある程度意識していたのですか?

北川:いや……もうめっちゃ、たまたまなんですよね(笑)。今回のドームツアーを決めたのって、実はもう2年前とかのことで、『BIG YELL』のツアーをやる前なんです。だから、まさかそのタイミングで、しかもちょうどツアーが始まる5月に元号が変わるなんて、本当に夢にも思わなかったですよ。

—こうして令和の時代を迎えて……何か刷新したような雰囲気が、どこか世の中的にはありますよね。

北川:清々しい感じがしますよね。こんなに世の中の雰囲気が変わるんだなんて思ってなかったです。平成の幕開けは喪から始まったから、今回とは全然違いましたよね。なので、偶然ではあるんですけど、こういう時代の始まりのタイミングで新たなことに踏み出せるのは、すごく良かったなと思っています。

サブスクは「最後の砦」っていう感じもしていたんです。やるかやらないかは、決めるのに時間がかかりました。(北川)

—新たなことと言えばもうひとつ、ゆずがこれまで生み出してきた310曲が、一斉にストリーミング解禁されます。各サブスクリプションサービスをはじめ、音楽の「聴き方」に関する昨今の変化について、ゆずの2人は、どんなふうに捉えているのでしょう?

北川:うーん……。正直なところ、賛否ありますよね。僕らは、これまで20数年やってきましたけど、この10年、20年っていうのは、のちに振り返ったときに、大変な分岐点になるんじゃないかと思うんです。端的に言うと、SNSが主流の時代になって、それに伴い、ソフトもハードも大きく変化していって。

僕らはその中で「魂変えずにツールを変える」ということに挑戦し続けてきたつもりなんです。僕らがやることは、路上でお客さんに届けてきたものと根本は変わらないけど、時代の変化には対応してきました。ただ、サブスクっていうのは、「最後の砦」っていう感じもしていたんですよね。だから、それをやるかやらないかは、決めるのに時間がかかりました。時代を考えればやるべきだけど、僕らが大事にしてきたアルバムの概念やパッケージというものを、壊しかねないものでもあるわけで。

—そこはなかなか難しいところですよね。

北川:だから、サブスクに関しては、他のツールと同じように、簡単にGOできない自分たちがいたんです。だけど、すごくフラットに考えたときに、やっぱり自分たちの曲をより多くの人に聴いてもらいたい、今まで聴いてくれていた人はもちろん、まだ僕らの音楽を聴いてない世代や、僕らの音楽とは違うジャンルの音楽を好きな人にも聴いてもらいたいわけですよね。そう考えたときに、そこに届けられる術があるなら、やっぱりそれはひとつのチャンスと捉えて、一歩踏み出してみようと。

それを決めたのは、実は結構前なんですけど、タイミングを探っていたんです。今回のツアーの中でもたくさん過去の曲をやるし、サブスクで聴いてコンサートに来てもらったり、コンサートの帰りにまた聴いたりとか、そういう楽しみ方もできるんじゃないかと思って、このタイミングにしたんですよね。

—岩沢さんは、どんなふうに捉えていますか?

岩沢:うーん、やっぱり、簡単に「やります」って軽く返事できるものではなかったです。とはいえ、今となっては「じゃあ、やってみようか」っていう前向きな気持ちにはなっていますよね。それで今後、どうなっていくんだろうって、その行く末を見守っていきたい。CDって、今後どうなっていくんだろうとか。

そう考えると、僕たちはその時代、その時代を経験できているので面白いですよ。CD、着うた、みんな忘れているかもしれないですけど、コンビニ配信でMDシングルを出したりとか(笑)。そうやって、いろいろ経験させていただいているので、その行く末を見ていきたいと思っています。

北川:僕らには、これまでの22年と310曲っていうものがあるわけですよね。それを新しいツールでまた届けられるというのはすごくありがたいことだし、その中からまた新たに大切な曲ができたり、「あ、この曲、思い出があるな」っていうものに触れてもらったりするのは、すごくいい機会じゃないかなって思っています。

その先に何が見えるのか、自分たちでも楽しみにしているんです。それくらい、大切なツアーになるんじゃないかな。(北川)

—根っ子の部分を全部見せて、現在の果実に繋げていく……それこそ、先ほど言っていた「ユズドラシル」のイメージに重なるような感じがしますよね。

北川:そうですね。そういう偶然の必然みたいなものって、ゆずの活動の中にはずっとあるような気がしていて。いつでも曲が、僕らより前にいるんですよね。で、その後から自分たちも含めて追いついていくような感じがある。だから、新曲を出すことの大切さっていうのも、そういうことなんですよね。新曲を出すということは、CDであろうが配信であろうが、そこから生まれてくるものが絶対にあると思うので。そのときはわからなくても、「なんだこの曲?」とか言われていた曲が、あとあとみんなにとってすごく大事な曲になっていったりしたこともあるし。

そこからまた新しい出会いを得ながら、僕らの想像を超えた場所に辿り着くことが多くて。それこそ、前回取材していただいた『マボロシ展』も(参考記事:ゆずが語る、ゆずへの期待を背負ったことで解放できた新たな側面)、あの曲を作ったときは、まさかあんな展開になるとは思わなかったですし。生まれた曲がどこかに連れて行ってくれることが、僕らは本当に多いんですよね。

—そういう巡り合わせは、やっぱりゆずの力なんでしょうね。 ドームツアーがかなり楽しみになってきました。

北川:今回、2人でリハーサルをやって思ったのは、弾き語りにもグルーヴっていうものがちゃんとあるということで。それを僕は初めて客観的に感じることができたんです。音色的にはできないこともたくさんあるんだけど、2人だけのグルーヴの醍醐味を今回のツアーでは感じてもらえるんじゃないかと思っています。ひょっとすると、このグルーヴを、みんなはいいって言ってくれているのかなって思います。

—20年以上も2人でやってきているだけに、2人だけのグルーヴというのが、きっとあるんでしょうね。

北川:いろんな人が、「ゆずの弾き語り、いいよね」って言ってくれるんですけど、僕らとしては、「本当ですか? 大したことはできないですけど」みたいなところもあって。だけど、今回のリハーサルで、そのグルーヴを自分でも感じることができたんです。それは本当に独特な間合いであって、なかなか言葉で表現できないんですけど、確かにそういうものがあるんですよね。

だから、これまで散々コンセプトとか演出の話とかをしといて何なんですけど(笑)、その場でしか出ない、その日にしか出せないグルーヴを、観にきてくれた人たちと共有できたらなと思っています。そういう音楽の歓びを、みなさんと噛み締めて、そこで味わえたらいいなって。

—岩沢さんは、どうですか?

岩沢:ドームツアーということで、会場は広いですけど、本数は全部で8本しかないんですよね。どのツアーも始まったら必ず終わるけど、そのスピード感は今回速いんじゃないかなと思っています。気がつけば、夏がきているんでしょうし。

—こうして令和の始まりと共に、また新しい試みにチャレンジするゆずですが、その後はどんな感じになっていくんでしょうね?

北川:うーん……その質問に答えるのは、ツアーをやってみてからでもいいですか?(笑) というのも、このドームツアーをやることで、わかってくることが多いんじゃないかと思っているんです。実は、今回のツアーに辿り着くまでには、いろんな紆余曲折があったんですよ。見直すこととか考え直すこと、自分たちの課題とかもたくさん見つかって、すごく葛藤していた部分があったんです。

で、やっとツアーが始まるところまで辿り着けて……だから、その先に何が見えるのかは、自分たちでも楽しみにしているところなんですよね。それくらい、僕たちにとって大切なツアーになるんじゃないかなと思っています。だからその質問は、ドームツアーを終えたあとに、また聞いてもらってもいいですか?(笑)

リリース情報
ゆず
『SEIMEI』

2019年5月10日(金)配信

イベント情報
『ゆず弾き語りドームツアー 2019 ゆずのみ~拍手喝祭~』

2019年5月11日(土)
会場:愛知県 ナゴヤドーム

2019年5月12日(日)
会場:愛知県 ナゴヤドーム

2019年5月29日(水)
会場:東京都 東京ドーム

2019年5月30日(木)
会場:東京都 東京ドーム

2019年6月8日(土)
会場:大阪府 京セラドーム大阪

2019年6月9日(日)
会場:大阪府 京セラドーム大阪

2019年7月6日(土)
会場:福岡県 福岡ヤフオク!ドーム

2019年7月7日(日)
会場:福岡県 福岡ヤフオク!ドーム

プロフィール
ゆず
ゆず

北川悠仁、岩沢厚治により1996年3月結成。横浜・伊勢佐木町での路上ライブで話題を呼び、1997年10月、1st Mini Album『ゆずの素』でCDデビュー。翌98年6月にリリースした1st Single『夏色』で脚光を浴びると、その後『栄光の架橋』『虹』『雨のち晴レルヤ』などヒット曲を多数世に送り出す。現在、弾き語りドームツアー『ゆず弾き語りドームツアー 2019 ゆずのみ~拍手喝祭~』を敢行中。



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