
Hump Backが「生活」を歌う理由。人の優しさを信じるために
Hump Back『人間なのさ』- インタビュー・テキスト・編集
- 矢島大地(CINRA.NET編集部)
- 撮影:小杉歩
弱音を吐かず前を向いて生きていこうと焚きつけるライブでの姿には強さと頑固さが強烈に滲みつつ、歌の中では、自分や人の生活の中にある悲しみも抱き締めようとする。笑顔と涙、喜びと切なさ。それらを相反するものとして捉えて引き裂かれることもなく、「そりゃそうでしょ、だって生きてるんだから」と笑顔で語れるところがHump Back・林萌々子の面白さであり、彼女らの歌の核心になっている。悲しいから楽しいことを求めるし、幸せがあるから落胆と切なさもあるーーそれらすべては生きていくことにおける同線上にあると歌い鳴らすのがHump Backの歌の居心地よさだ。
今ここにある生活を想い、誰もが必死に生きているのだと感じ取って、温かなメロディにしていく。そして人の生活を見つめれば見つめるほど、そりゃ毎日が思い通りになることなんてないよなと理解し、だからこそ爆音と大きな歌でここにある日常をなんとかドラマにしたいと願う。たったそれだけだが、それだけの中にたくさんの人の生き様が確かに存在するのだと伝える「ささやかだけど揺るぎない存在証明」がHump Backの歌なのだと思う。
そして、その歌がかつてなく潔いソングライティングに結実したのが、7月17日にリリースされたフルアルバム『人間なのさ』だ。この作品を掲げて、Hump Backは47都道府県ツアーへと赴く。そんなタイミングだからこそ、その手、その足で人の日常に近づいて寄り添ってきたライブ観を切り口に、林の歌の核心にあるものを訊いた。
自分にとってのライブ……大人になったら、あんなに大きい声を出して走り回れる場所ってなかなかないじゃないですか。
―先日リリースされたアルバム『人間なのさ』には、“僕らは今日も車の中”という曲があって。その曲でも歌われている通り、ご自身の生活がバンドとライブとツアーとともにあることを心底幸せに感じられている方だと感じているんですが、林さんご自身は、改めてHump Backをどういうバンドだと捉えられていますか。
林:肯定でも否定でもない、「そこにある音楽」を鳴らしてるバンドやと思いますね。今、生活とおっしゃいましたけど、まさに自分の生活の中にあるものを歌って、それをバンドで鳴らしてるだけというか。それはポリシーというよりも、自分が好きなものを好きな音に乗せたらそうなった、っていう感じなんですけど。

Hump Back(はんぷ ばっく)
大阪府出身。2009年、林萌々子(Vo, Gt)を中心に高校の軽音楽部で結成されたロックバンド。何度かのメンバーチェンジを経て、2016年より林萌々子、ぴか(Ba, Cho)、美咲(Dr, Cho)の3人で活動。2016年12月に初の全国流通盤『夜になったら』を発表。2017年にもミニアルバム『hanamuke』をリリースし、2018年にシングル『拝啓、少年よ』でメジャーデビュー。7月17日に満を持しての1stフルアルバム『人間なのさ』を発売した。
―生活の中にある好きなものって、言葉にするとどういうものなんだと思います?
林:人……ですかね。人が好きです。人と生活ってほぼイコールやと思うんですけど、たとえば人が残していった生活の跡を見るのが好きなんですよ。洗濯物、服の溜まり場になってる部屋の一角、帰り道に見たマンションに電気が点いていくところ……人の生活の匂いがするところが好きなんですよ。
―人が好きなのは、どうしてなんだと思いますか。
林:うーん………なんでかは上手く言えないんですけど。ただのフェチみたいなもんやと思うんですけどね(笑)。
―(笑)。じゃあゆっくり訊いていきますね。“僕らは今日も車の中”と歌うくらい、Hump Backは年中バンに乗って、ライブをして、ツアーを回ってますよね。つまり生活そのものが、いろんな土地でいろんな人と出会う旅になっていると思うんですけど。ライブバンドとして日々を過ごしていくのも、そうやって人の生活に触れていくためなんですか。
林:いや、そこはもっと単純に「行けていない土地に出会ったことがない人がいるなら出会いたい」っていう気持ちが大きいと思いますね。どんなに生身のライブで人と触れ合っても、それぞれの生活を全部知ることはできないっていうこともわかってる。だけど、人と出会うことはやっぱりとても楽しいことじゃないですか。そのためにライブをやっているんやと思います。
―ご自身にとってのライブって、自分のどういう部分が表れてくるものだと感じられてます?
林:言い方は難しいんですけど、「ライブが生きがいで、ライブにこれだけのものを懸けていて」っていう感じでもないんですよ。ただ間違いなく、自分を解放できる場所ではあって。
単純に、大人になったらあんなに大きい声出して、大きい音出して、走り回れる場所ってなかなかないじゃないですか。そういう意味での解放感を感じられるのが、私にとってのライブやと思ってて。……とはいえ、別に普段から抑え込んでるものがあるかと言ったら、私の場合まったくないんですけど(笑)。
―ははははは。はい。自分をどういう人間だと思います?
林:私、日常にストレスとかしんどさを自覚することが全然なくて。それに、昔から結構根性論タイプやったんです。何に関しても「簡単にしんどくなってたらあかん」って思うし、しんどさを乗り越えようっていうのとも違う、ただ「自分はこんなことでは潰れない」っていつも思うんですよね。しんどさに鈍感なだけなんかな(笑)。
たとえばね、私は自分の肩こりとかにも気づかないんですよ。痛みに強いし、痛みがあっても大丈夫って思ってる。逆に言えば、しんどいこととかダメなことよりも先に楽しいことを見つけるほうが大事やっていう気持ちがあるんですよね。ちょっとしたしんどさも根性論でやり過ごそうとする気がするというか。
2019年5月12日に行われた日比谷野外大音楽堂公演
―だからか――失礼を承知の上で敢えてこういう言い方をしますけど、昔のライブでは「あなたも前を向いて強く生きていけ」っていう、結構説教臭いところがありましたよね。
林:はははははは。それは私も実感してる部分ですね(笑)。とにかくやるしかないんやっていう。
―ただ、その歌とライブ両面において変化も多く見られるのが、『人間なのさ』という作品だと思ったんです。人にも自分にも、生活の中で上手くいかないこともたくさんある。そういう前提も理解した上で、日々を愛して人に優しくしたい、というふうに歌の器が大きくなったなあと感じていて。その辺りは、自分でどういう感覚があります?
林:ああー、確かにそうかもしれないですね。自分でも、「生活」を見つめれば見つめるほど、そこには根性論だけではないものがたくさんあるっていう感覚が生まれてきたと思うんですよ。大きいと思うのは――月に数日くらい、私は障がいを持っている子供たちに運動を教える仕事を続けてるんですね。
そこでいつも思うのは、その子たちにはサポートが必要やから人のサポートがついているだけで、目が悪いからメガネをかけたり、足が折れたから松葉杖をついたり、っていうのと一緒のことなんですよね。その中で、他人の「しんどい」と自分の「しんどい」の物差しが合うことは一生ないんやなって実感することが多くて。仕事と子供たちを通じて、人を許せたり人を受け入れたりできることが増えてきたと思います。
リリース情報

- Hump Back
『人間なのさ』初回限定盤(CD+DVD) -
2019年7月17日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VPCC-807011. LILLY
2. 拝啓、少年よ
3. サンデーモーニング
4. コジレタ
5. 生きて行く
6. オレンジ
7. Adm
8. クジラ
9. 恋をしよう
10. ナイトシアター
11. 僕らは今日も車の中初回限定盤付属DVD内容:
「“髪はしばらく切らないツアー”2019.5.12 日比谷野外音楽堂公演」
- Hump Back
『人間なのさ』通常盤(CD) -
2019年7月17日(水)発売
価格:2,376円(税込)
VPCC-862811. LILLY
2. 拝啓、少年よ
3. サンデーモーニング
4. コジレタ
5. 生きて行く
6. オレンジ
7. Adm
8. クジラ
9. 恋をしよう
10. ナイトシアター
11. 僕らは今日も車の中
ライブ情報
- 『僕らの夢や足は止まらないツアー』
-
2019年9月2日(月)
会場:東京都 Zepp Tokyo2019年9月4日(水)
会場:千葉県 千葉LOOK2019年9月13日(金)
会場:愛知県 Zepp Nagoya2019年9月16日(月・祝)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside2019年9月21日(土)
会場:山形県 酒田MUSIC FACTORY2019年9月22日(日)
会場:秋田県 Club SWINDLE2019年10月4日(金)
会場:新潟県 新潟LOTS2019年10月5日(土)
会場:福井県 福井CHOP2019年10月11日(金)
会場:高知県 X-pt.2019年10月12日(土)
会場:愛媛県 WStudioRED2019年10月14日(月・祝)
会場:岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM2019年10月18日(金)
会場:北海道 小樽GOLDSTONE2019年10月19日(土)
会場:北海道 CASINO DRIVE2019年10月21日(月)
会場:北海道 BESSIE HALL2019年10月22日(火・祝)
会場:北海道 札幌PENNY LANE242019年11月1日(金)
会場:山梨県 KAZOO HALL2019年11月3日(日・祝)
会場:富山県 Soul Power2019年11月4日(月・振休)
会場:石川県 vanvanV42019年11月21日(木)
会場:鹿児島県 SR HALL2019年11月23日(土・祝)
会場:宮崎県 SR BOX2019年11月24日(日)
会場:大分県 T.O.P.S Bitts HALL2019年11月30日(土)
会場:岩手県 Club Change WAVE2019年12月1日(日)
会場:青森県 LIVE HOUSE FOR ME2019年12月6日(金)
会場:奈良県 生駒RHEBGATE2019年12月8日(日)
会場:和歌山県 和歌山CLUB GATE2019年12月12日(木)
会場:熊本県 Django2019年12月14日(土)
会場:佐賀県 SAGA GEILS2020年1月7日(火)
会場:京都府 KYOTO MUSE2020年1月8日(水)
会場:兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎2020年1月18日(土)
会場:茨城県 mito LIGHT HOUSE2020年1月19日(日)
会場:栃木県 宇都宮HELLO DOLLY2020年1月21日(火)
会場:神奈川県 F.A.D YOKOHAMA2020年1月31日(金)
会場:福岡県 Zepp Fukuoka2020年2月1日(土)
会場:長崎県 ホンダ楽器 アストロスペース2020年2月10日(月)
会場:群馬県 高崎clubFLEEZ2020年2月11日(火・祝)
会場:埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-12020年2月13日(木)
会場:静岡県 Shizuoka UMBER2020年2月14日(金)
会場:滋賀県 滋賀U★STONE2020年2月21日(金)
会場:香川県 高松オリーブホール2020年2月22日(土)
会場:徳島県 club GRINDHOUSE2020年2月24日(月・振休)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO2020年2月29日(土)
会場:宮城県 Rensa2020年3月1日(日)
会場:福島県 郡山HIP SHOT JAPAN2020年3月13日(金)
会場:鳥取県 米子 AZTiC laughs2020年3月14日(土)
会場:島根県 松江 AZTiC canova2020年3月15日(日)
会場:山口県 周南RISING HALL2020年3月19日(木)
会場:三重県 M'AXA2020年3月21日(土)
会場:岐阜県 yanagase ants2020年3月22日(日)
会場:長野県 ALECX2020年3月25日(水)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA2020年4月17日(金)
会場:愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール2020年4月19日(日)
会場:大阪府 大阪城野外音楽堂2020年5月23日(土)
会場:沖縄県 桜坂セントラル
プロフィール

- Hump Back(はんぷ ばっく)
-
大阪府出身。2009年、林萌々子(Vo, Gt)を中心に高校の軽音楽部で結成されたロックバンド。何度かのメンバーチェンジを経て、2016年より林萌々子、ぴか(Ba, Cho)、美咲(Dr, Cho)の3人で活動。2016年12月に初の全国流通盤『夜になったら』を発表。2017年にもミニアルバム『hanamuke』をリリースし、2018年にシングル『拝啓、少年よ』でメジャーデビュー。7月17日に満を持しての1stフルアルバム『人間なのさ』を発売した。
関連チケット情報
- 2021年3月13日(土)
- 音×髭 THE FIRST NIIGATA LIMITED
- 会場:新潟テルサ(新潟県)