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ヨルシカインタビュー 自分を滅却し、芸術に人生を捧げた2人の決断

ヨルシカインタビュー 自分を滅却し、芸術に人生を捧げた2人の決断

ヨルシカ『エルマ』
インタビュー・テキスト
天野史彬
編集:中田光貴、矢島大地(CINRA.NET編集部)

もし大切な人が亡くなった知らせを受けても、その3秒後には「死は必然だから」って笑っているんじゃないかと思う。(suis)

―「不在」や「喪失」という点において、suisさんはいかがですか?

suis:作品の物語のなかで、エルマがエイミーを失くしたような、そういう経験は私にはないですけど。でも、さっきも言ったように私はヨルシカを始めるときに、それまでの人生を生きてきた自分を殺して、新しい自分になるっていう手段をとったので。それは、人ひとり殺した感覚にも近いというか……もうひとりの自分に「じゃあね」って言って、自分で自分を殺した感覚があって。

「ヨルシカのsuis」になることでそれまでの自分を失った感覚、そこにある喪失感っていうのは、人生で初めてくらいの大きななにかを失くした体験だと思います。でも、それはヨルシカのために失くしたものなので、今はその喪失感を使って、上手いこと生きているなっていう感じですね。

―なんだろう……suisさんは非常に穏やかに、冷静に、すごいことを言いますよね(笑)。

suis:本当になんなんでしょうね?(笑)……でも、私は悲しみに弱すぎるような気もしていて。n-bunaくんが人の「死」を敏感に感じ取るのとは真逆で、もし大切な人が亡くなった知らせを受けても、その3秒後には「死は必然だから」って笑っているんじゃないかと思うんです。自分でも気持ち悪いなって思いますけどね(苦笑)。

でも、悲しみに弱すぎて、「仕方がない」と思わなきゃ生きていけないような……そんな性格だなって自分では思います。

視聴者の皆さんは僕のバックグラウンドなんか気にせず、作品だけを楽しんでくれたらなって、いつも思う。(n-buna)

―n-bunaさんが「自分のことは話したくない」と思う、そこにはワイルドの「人生は芸術を模倣する」という言葉にも通じる意志があるように思うのですが、どうでしょう。

n-buna:「作品のために作品を作らなきゃいけないんだ」って、あるとき思ったんですよ。

―その「あるとき」というのは?

n-buna:それもご想像にお任せします。視聴者の皆さんは僕のバックグラウンドなんか気にせず、作品だけを楽しんでくれたらなって、いつも思うんですよね。

―でも、往々にして受け手は作品の向こう側にある作者の表情を覗こうとするものですよね。それに、今回の2枚のアルバムで描かれた物語の、フィクションの濃度を色濃くしているのは、その前提にあるn-bunaさんの実感や実体験だと思います。

n-buna:そうですね。それこそ、僕は種田山頭火という俳人が大好きなんですけど、彼の俳句には彼自身の生活がそのまま芸術に昇華されている。あるいは太宰治が『走れメロス』を書いたのも、彼自身の経験がもとになっていたわけですよね。そうやって作家自身の人生から名作が生まれるわけだし、それも含めてみんなその作家たちを評価しているんだと思います。

でも、僕は小説でもなるべく作者情報を見ないようにするんですよ。できるだけ「作品だけ」に感動したいし、自分が作る作品にも、そういうものを一貫して求め続けているんです。

だから、僕の作品にどれだけ自分の人生が反映されていたとしても、僕は「僕」という存在が介在するのではない形で作品を見てほしいし、作品だけを見たうえで評価を受けたい。作者の背景を知って、それに受け手が自己を投影して感動するというよりは……例えば、ライブでふと流れてきた音楽に心を奪われたり、美術館で偶然見た、名前も知らない人の絵に感動したりする瞬間ってあるじゃないですか。

―ありますね。

n-buna:それになりたいんですよ。だから、今のヨルシカはこういう形になっているんですよね。作品以上に僕たちが前に出ないように、僕たち自身の顔や情報もほとんど出さないんです。

どのビジュアルも、顔が消されている
どのビジュアルも、顔が消されている

―なるほど。最後に、今のヨルシカはどんどんと認知を広げているし、特に、ヨルシカの作品のなかに、自分の気持ちの置きどころを見つけている若者たちも多いんじゃないかと思うんです。そういった状況に対して、ご自分たちでは思いますか?

n-buna:suisさんはどう思いますか? 僕は、自分の作品を作っているだけで、そういうことはまったくわかないから。

suis:若いって、それだけで辛いじゃないですか。私がn-bunaくんの作る歌を歌っているときと同じように、そこにある強い言葉によって気持ちが解放されたり、自分が抱いている感情が許されたり……そういう体験が、その人にとっての救いになることもあるのかなって思います。

それに、リスナーさんがどれだけ作者に興味があるかわからないんですけど、私のように中身が空っぽのボーカルと、自分を表に出さないn-bunaくんっていう音楽家によってヨルシカはできているから。だからこそ、聴いている人は「これは自分の歌だ」と思いやすいのかもしれないですよね。

n-buna:なるほどなぁ……。今、suisさんの話を聞きながら「そうだったんだ」って思いました(笑)。

そこに僕がひとつ加えるなら、僕らの音楽を聴いてなにかを感じてくれた人が、そこから音楽を作り始めてくれたら嬉しいですね。音楽だけじゃなくても、なにかを表現し始めてくれたら嬉しい。僕がオスカー・ワイルドを模倣したように、ヨルシカを模倣して作品を作り始めてくれたら、それは僕の信念にも叶っている。嬉しいことだなって思います。

ヨルシカ『エルマ』ジャケット
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リリース情報

ヨルシカ
『エルマ』初回限定盤「エルマが書いた日記帳仕様」(CD+写真+日記帳)

2019年8月28日(水)発売
価格:4,860円(税込)
UPCH-7511

1. 車窓
2. 憂一乗
3. 夕凪、某、花惑い
4. 雨とカプチーノ
5. 湖の街
6. 神様のダンス
7. 雨晴るる
8. 歩く
9. 心に穴が空いた
10. 森の教会
11. 声
12. エイミー
13. 海底、月明かり
14. ノーチラス

ヨルシカ『エルマ』通常盤
ヨルシカ
『エルマ』通常盤(CD)

2019年8月28日(水)発売
価格:3,240円(税込)
UPCH-2191

1. 車窓
2. 憂一乗
3. 夕凪、某、花惑い
4. 雨とカプチーノ
5. 湖の街
6. 神様のダンス
7. 雨晴るる
8. 歩く
9. 心に穴が空いた
10. 森の教会
11. 声
12. エイミー
13. 海底、月明かり
14. ノーチラス

サイト情報

ヨルシカ 2ndフルアルバム『エルマ』特設サイト

イベント情報

ヨルシカ Live Tour 2019『月光』

2019年10月17日(木)
会場:東京都 TSUTAYA O-EAST

2019年10月21日(月)
会場:大阪府 BIG CAT

2019年10月22日(火・祝)
会場:愛知県 ボトムライン

プロフィール

ヨルシカ
ヨルシカ(よるしか)

ボカロPであり、コンポーザーとしても活動中のn-buna(ナブナ)が、女性シンガーsuis(スイ)を迎えて結成したバンド。2017年より活動を開始。2019年4月に発売した1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』はオリコン初登場5位を記録し、各方面から注目を浴びる。文学的な歌詞とギターを主軸としたサウンド、suisの透明感ある歌声が若い世代を中心に支持されている。

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