みゆなが語る、死を考えてしまう女子高生と、愛を渇望する人へ

事故によって視力と実弟を失った元警察官が連続猟奇殺人事件の真相に迫るサスペンス映画『見えない目撃者』が、9月20日に全国公開される。弟を亡くした「事故」を引きずり、世の中に絶望しながら生きている主人公・浜中なつめを吉岡里帆が演じ、なつめと共に事件を追うスケボー少年には高杉真宙が起用されている。

その映画の主題歌“ユラレル”を担当しているのが、現在17歳のシンガーソングライター・みゆな。親からの愛情を得られず事件に巻き込まれていく女子高生たちや、闇の中でもがきながら一筋の希望の光を求める主人公なつめの気持ちにリンクしつつも、自身の心象風景を等身大の言葉で綴ったこの曲は、サウンドエフェクトを駆使したアレンジがスリリング。そして、本作を挿入した2ndミニアルバム『ユラレル』には、そんな彼女の類いまれなるボーカリゼーションを最大限に生かした楽曲が並んでいる。

中学時代に不登校となったことや、命の尊さを感じ取った経験をもとに数々の楽曲を生み出してきた、みゆな。彼女は映画『見えない目撃者』に登場する主人公や女子高生たちをどう観たのか。こちらの問いに一つひとつ真剣に答える彼女は、その見据えるような強い眼差しと、ときおり見せる天真爛漫な笑顔のギャップが魅了的だった。

私の周りにも家庭環境に悩みを抱えた子は結構いる。クラスの過半数と言ってもいいくらい。

―まずは映画『見えない目撃者』を観た、率直な感想を聞かせてもらえますか?

みゆな:サスペンスが苦手な私でも見入ってしまうほど、すごくインパクトのある映画でした。思わず目をそらしたくなるようなシーンもあったんですけど、あっという間に感じられるくらい面白くて。

みゆな
宮崎県在住、17歳。2018年の夏より音楽活動を本格的にスタート。配信1stシングル『ガムシャラ』と配信2ndシングル『天上天下』は、テレビアニメ『ブラッククローバー』第5クールのオープニングおよびエンディングテーマに抜擢された。さらにデビュー前にして『FUJI ROCK FESTIVAL’19』に異例の出演を果たす。2019年9月20日公開映画『見えない目撃者』の主題歌を担当。9月18日にミニアルバム『ユラレル』をリリースし、11月には全国ツアー『みゆな TOUR 2019 -ユラレル-』を開催する。

―「いろんな形の愛を見ることができ、私の中で忘れられない作品」というコメントを寄せていましたよね。

みゆな:はい。吉岡里帆さん演じる主人公・浜中なつめさんを思う母の愛や、事故で亡くした弟に対するなつめさんの愛、あるいは犯罪事件にまつわる異常な愛や、執着のような「怖い愛」もあったりして。その印象がかなり強烈ではあったんですけど、物語の根底には「人を思いやる気持ち」みたいなものがしっかり流れていると思いました。

あと、オープニングのあるシーンが、ラストまで観ると「あ、繋がってるんだ!」という感動もありました。そういう意味でも、最初から最後まで楽しめる作品でしたね。

―甘い誘惑に惑わされて殺人事件に巻き込まれていく女子高生たちについては、どんなふうに感じましたか?

みゆな:彼女たちはみんな、家族からの愛情を感じられなくて。そこも「愛についての物語」といえる部分ですが、そういう愛を渇望する子たちの描き方がリアルだなと思いました。実際、私の周りにも家庭環境に悩みを抱えた子って結構いるんですよ。クラスの過半数と言ってもいいくらい。

―みゆなさんの周りにいる女子高生たちが抱えている悩みって、家庭環境のことが一番多いですか?

みゆな:そうですね。学校内でのいじめとか、友情や恋愛関係よりも、家庭に問題があって悩んでいる子が多いです。親からの虐待とかもあるけど、それより「無関心」が多いんじゃないかな。

そんなふうに身近に感じている中、映画とはいえ同世代の子たちが犯罪に巻き込まれていくのを観ていたら、ちょっと身に迫るものがあって恐ろしかったですね。

―今回主題歌を書き下ろす上で、そこも大きなポイントになったと言えそうですね。

みゆな:そうですね。同世代の女の子が犯罪に巻き込まれる事件が実際にも起きている中で、表現者として自分がどう向き合うのか、ということは考えました。映画のストーリーを意識しつつ、私自身がリアルに感じている思いも込めることができたんじゃないかなと。そういう意味での達成感もありました。

まずは学校というものが嫌になり、そしたら今度は人が怖くなってしまった。

―<誰も信じない わかってくれない>や<馬鹿みたいに泣いて この広い世界に逃げ場がなくて 壊れ落ちたんだ>というラインなど、不登校だった頃のご自身と重ね合わせたところもありましたか?

みゆな:そうですね。いろんな愚痴を聞いてくれる友達……いわゆる大人でいうところの「飲み仲間」ってやつですか?(笑) そういう人が、当時の私にはいなかったんですよ。

みゆな:だって、相手は不登校を経験していないわけだから、私の愚痴を聞いても共感できないですよね。親に相談したところで、親にもわからない世界だろうし。

まずは学校というものが嫌になり、そしたら今度は人が怖くなってしまって。親に無理やり学校へ連れて行かれても、こっそり家に戻って窓から自分の部屋に入ったり、河川敷に行って5、6時間座っていたりしたんです。河川敷では生徒指導に見つかり、家に連れ戻されることもありました。

最終的には親も理解してくれて、その学校とは別のところで勉強する環境を作ってもらえたんですけどね。そこで勉強したり、ギターを触ったり、歌詞を書いたりする時間ができたので、そういう意味では不登校になったからこそ今の自分があるのかもしれないです。

―<ガラスの破片を握る勇気を この僕でも貰えたかな>というラインの、「ガラスの破片」とはなんのメタファーだったのでしょう。

みゆな:最初は「ガラスの破片を触る勇気」だったんですけど、「握る」の方が確実に手が切れるじゃないですか。その方が強い表現だなって。ガラスで手を切ると痛いですしね。私、一度ケータイの液晶画面にヒビが入ったとき、それを触って手を切ったことがあって(笑)。めっちゃ痛かったんです! 血が出続けようとも握り続ける、という表現が、辛いことも諦めずにやり続ける勇気にたとえられるかなと。

実際、なにかに足を踏み入れるときって、すごく勇気が要るじゃないですか。新しい職場に行くときや、入学式の会場へ行くとき……どんな人がそこにいるんだろうって考えただけでも怖くなる気持ちはよくわかるんですよね。なつめさんも目が見えないのに、文字通り「手探り」で闇の中を歩いていて。そういう場面にも繋がるのかなって。

―昨年より音楽活動を本格スタートさせたみゆなさんにとってはまさに新しいことの連続で、「ガラスの破片を握る」ような毎日なのでは?

みゆな:そこは「どうしよう」という不安よりも「わーい!」の方が大きいですね。たくさん出会いもありますし。

とにかく行動することが大切だと思うんですよ。たとえば好きな人ができて、告白したいけど勇気が出ないという人も、とにかく告白してみたらいいと思うんですよね。それでもしフラれても「くそ、見違えるくらいいい女になってやる」っていう気持ちになるかも知れないし、逆にとことん落ちて、そこからなにかを見つけるかも知れないじゃないですか。

―そうですね。行動できずに手をこまねいていたらなにも変わらないけど、行動すれば世界は変わりますからね。

みゆな:そうなんです。失敗するのが怖くて止まっているよりは、たくさん失敗した方がより説得力のある言葉も得られるし、誰かを助けることもアドバイスすることもできると思うんです。だから私はこの曲を通じて、「行動するってすごく大切だよ」って言いたい。

基本的に明るい人間ではないです。でも人間って、裏も表も全部本当だと思うから。

―ミニアルバム『ユラレル』では、実験的なサウンドにも挑戦していますよね。

みゆな:ていうか、まだ自分でも音楽性が定まっていなくて……。今、YouTubeに上がっている曲も全部バラッバラじゃないですか(笑)。自分が「かっこいい」と思っている音楽自体もバラバラなので、とりあえず今、やりたい音楽は全部トライしてみて、最終的に方向性を絞り込めたらいいかなと。

だってまだ17歳だからね(笑)。決まってなくて当たり前かなって。それに私の音楽を聴いてくださっている方は、私の歌詞と声をまず好きでいてくれているのかなと思うし。

みゆな“ユラレル”を聴く(Apple Musicはこちら

―僕は特に“ユラレル”と“生きなきゃ”が好きなんですよ。この2曲は歌詞の世界観も近いですよね。

みゆな:うわー、嬉しいです! “生きなきゃ”を好きだと言ってくださる方はすごく多くて。サウンドが壮大だし、いろんな音や声が入っています。歌詞は「夕日」「アパート」「女子高校生」というキーワードをもとに作っていきました。

―<天才なフリして毎日はしゃいで 本当は孤独だって夜に溺れて>や、<被ってた猫も脱げないまま 本当の自分を受け入れられずに>というラインを読むと、みゆなさん自身が天真爛漫に振舞っている一方で、実は「自分らしくいられていない」と感じるときもあるのかなと思ったのですが。

みゆな:基本的に明るい人間ではないです。かと言って、今の自分が本当じゃないとも思わないんですよ。人間って、裏も表も全部本当だと思うし。だってライターさんも、今こうやって私と話しているときの感じと、ご両親と話すときの感じ、恋人と一緒のときはきっと違うと思うんですよ。でもどれが「嘘」で、どれが「本当」とかもないじゃないですか。

―確かにそうですね。

みゆな:全部自分の中にあって、そのひとつが表に出てきているだけで。だから、明るく振舞っている自分が辛いとかではないんです。逆に私と話して「元気になった」と誰かに言ってもらえたら私も嬉しいし、このキャラをこれからも通していくつもりだし。もちろん、家に帰れば考え込む時間もありますよ。そこで歌詞を書くからこそ、普段から悩みを抱えている同世代の子たちに響くのかも知れないですね。

―“進め”では、みゆなさんの低い声の魅力が生かされているなと思いました。

みゆな:本当ですか? やった!(笑) 低い声の方が私は出しやすいんですけど……「焼酎でも飲んだ?」「酒焼けしてんじゃね?」って言われますよ、宮崎出身なんで(笑)。そうだ「木挽BLUE」飲んでみてください、未成年ですから美味しいかどうかわからないですけど。あははは!

―(笑)。

みゆな:ちなみに“進め”は中学校3年生のときに作った曲で、それを引っ張り出してきたんです。あの頃のリアルな気持ちをそのまま書いているので、シンプルでストレートな表現になったかなと思っています。生まれて初めて書いた「応援歌」ですね。

生きることに苦しんでいる子たちに対して、支えになるような楽曲を作れたらなって思います。

―ジャケットのアートワークも、今回もとても印象的ですよね。

みゆな:前回のワンマンライブで、グッズもデザインしてくださった人(zen iizuka)で。絵を描くのが好きで趣味でSNSに投稿している方に、私からオファーしたんです。もしかしたら万人に受けるような絵ではないかも知れないですけど、繊細で美しくて。私、儚いものが好きなんですよね。すぐ死んでしまいそうな人に惹かれる癖があって。助けたいとか守りたいって思うし、放っとけなくなるんです。深く知りたくなってしまうというか……。

人の相談を受けるのも好きなので、心理カウンセラーの資格も取りたいくらいなんです。誰かの話を聞いて、その人の力になるのが夢。人って「悩み」と一生寄り添って生きなければならないじゃないですか。だからせめて、私の音楽を聴いて元気出してもらえたらいいなと思っています。

―今日のお話を聞いても、歌詞を読んでいても、みゆなさんは「命の尊さ」と常に向き合っている方だなと思います。

みゆな:そうですね。家庭問題とかで悩んですごく頑張ってる友達がいて、その子から時々連絡くるんです。「もう疲れた」って。それを見て、できれば死んでほしくないけど、そんなに辛いんだったら……私は引き止めない。その人にとっての幸せがそれならそれで、っていう。

中には未遂している子もいて。まったく連絡がとれなくなっちゃってどうしたんだろうって思ったら、未遂してたんですよ。そういうことで衝撃を受けて、そのときに命のことについて深く考えるようになったからこそ、こういう歌詞が生まれるのかもしれないですね。その子にとっての応援メッセージというか、生きることに苦しんでいる子たちに対して、「死なないで」とは言わないけど、「ちょっと一回これ聴こうよ」という感じで、支えになるような楽曲を作れたらなって思います。

みゆな:だから「いつか大きな場所でライブをやりたい」というよりは、「一人でも多くの人を助けたい」という夢の方が大きいです。ただ、多くの人を助けたいなら多くの人に聴いてもらわなければならないし、そのためには人気者にならなければならないんですよね(笑)。それでも、できる限りリスナーさんの近くにいる存在になりたい。そして、曲を作るより歌詞を書く方が好きなので、「みゆなって歌詞がすごいよね」と思ってもらえるように頑張りたいです。

「音楽離れ」とか「CD売り上げ低迷」とか散々言われてきた日本の音楽シーンを、私たち同年代が盛り上げたいです。

―アートワークで無名の作家をフックアップしたように、音楽だけに限らずいろんなジャンルの人と一緒に物作りをしながら、無名の人ともなにか大きなことをやりたいという気持ちがありますか?

みゆな:ありますね。みんなで切磋琢磨し合うのっていいなと思うから、バンドをやりたいっていう気持ちもあるんですよ。それに「この人を育てたい」みたいなプロデューサー気質が、自分の中にはあるのかも。大人になったら楽曲提供とかプロデュースとか、そういうこともしてみたいです。

世の中にはまだ知られていない天才ってたくさんいて。私、そういう人を探すのが好きなんですよね。「この人、もっと知られてほしい!」と思うことがたくさんある。その人と一緒にやることで、すごくいいものができたりするし。……気質が「世話焼きオバサン」なんでしょうね、「酒焼け声」とか言われるし(笑)。

―はははは(笑)。

みゆな:そのうち、ミュージシャンだけでなく、いろんなアーティストを集めたイベントを企画したいんですよ。音楽、アート、映像、ファッションを全部融合したアートセンターみたいなことがやってみたい。

今、10代のミュージシャンの勢いを感じていて、すごい時代に生まれてきちゃったなって思います(笑)。これまで「音楽離れ」とか「CD売り上げ低迷」とか散々言われてきた日本の音楽シーンを、私たち同年代が二十歳くらいになったときにはもっともっと盛り上げられるように、そんな存在の一人になれるよう頑張りたいです。

リリース情報
みゆな
『ユラレル』(CD+DVD)

2019年9月18日(水)
価格:2,500円(税抜)
RZCB-87004/B

[CD]
1. ユラレル
2. グルグル
3. 僕と君のララバイ
4. 缶ビール
5. くちなしの言葉
6. 進め
7. 生きなきゃ

[DVD]
「Studio Live Movie」
・ 願い
・ユラレル
・たんぽぽ
・僕と君のララバイ
・0月0日
・グルグル
・天上天下

みゆな
『ユラレル』(CD Only)

2019年9月18日(水)
価格:1,800円(税抜)
RZCB-87005

1. ユラレル
2. グルグル
3. 僕と君のララバイ
4. 缶ビール
5. くちなしの言葉
6. 進め
7. 生きなきゃ

イベント情報
『みゆな TOUR 2019 -ユラレル-』

2019年11月8日(金)
会場:大阪府 Shangri-La

2019年11月10日(日)
会場:福岡県 ROOMS

2019年11月16日(土)
会場:東京都 下北沢 GARDEN

2019年11月22日(金)
会場:愛知県 BLcafe

2019年11月24日(日)
会場:宮崎県 SR BOX

プロフィール
みゆな
みゆな

宮崎県在住、17歳女性シンガー「みゆな」。2018年の夏より地元のストリートや福岡・下北沢へのライブ遠征など音楽活動を本格的にスタートさせ、耳の早い音楽関係者の目にとまり2018年夏、急遽a-nation長崎公演に出演を果たす。その歌声がSNSで大きな話題となった。また、インディーズ系音楽配信サイトEggsで2018年10月にウィークリーチャートで1位を獲得して以来、楽曲ランキング、アーティストランキングともに何週にも渡り1位の記録を伸ばした。そして配信1stシングル『ガムシャラ』と配信2ndシングル『天上天下』は、デビュー前のアーティストとしては異例の、テレビアニメ『ブラッククローバー』の第5クールのオープニングおよびエンディングテーマに大抜擢されている。2019年2月にリリースした1stミニアルバム『眼』はタワーレコードがプッシュするタワレコメン2月度に決定し、2月18日付オリコン週間インディーズアルバムランキング10位を獲得。YouTubeによる2019年にブレイクが期待されるアーティスト紹介する「Artists to Watch 2019 ~注目の新人~」にも選出されている。そして2019年4月よりTVアニメ『FAIRY TAIL』ファイナルシリーズ第3クールEDテーマに抜擢され、さらには『FUJI ROCK FESTIVAL’19』にデビュー前にして異例の出演を果たすなど、今後の動向が期待される新人として注目を集める。



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