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動員すればそれで良い?芸術の消費に対する『プラータナー』の挑戦

動員すればそれで良い?芸術の消費に対する『プラータナー』の挑戦

『プラータナー:憑依のポートレート』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

演劇の処理しきれない情報量にどう対処するのか、ということ自体が、大きな「学び」になる。(臼井)

―単なる「動員」ではなく、社会的な「経験」に価値を置いた観客の「創出」だと。

中村:観劇したということだけではなくて、「学びの体験」といったところまでを含めて「創出」といっているのかもしれない、と感じています。そもそも演劇自体が持っている特性は、消費活動ではなく、大衆に議論を呼び起こすための社会的機能だと思うんです。

その機能をどう取り戻すか、喚起させていくか、ということが当初から目標としてありました。だからこそのファシリテーターの育成であり、「あなたのポストトーク」であり、グラレコでもあったんですね。

『プラータナー』スクール、2019年6月26日。ワークショップを経てゲネプロには11名のグラフィックレコーダーが参加した。写真:加藤甫
『プラータナー』スクール、2019年6月26日。ワークショップを経てゲネプロには11名のグラフィックレコーダーが参加した。写真:加藤甫

臼井:ファシリテーションによって観客の皆さんに対話してもらう際にも、知り合いじゃない人同士でグループを作ってもらいました。知人だと、自分の意見を押し付けてしまいがちですが、知らない人相手だと、共感はできないけど共存できる状態が生まれやすかった。

グラレコについても、皆さんそれぞれに、アウトプットがまったく違いましたよね。通常、会議などだと内容を耳からインプットしてグラフィカルにアウトプットしますが、演劇というのは俳優の身振りや見えないムードまで含めて、ものすごい情報量ですよね。処理しきれないものにどう対処するのか、ということ自体が、大きな「学び」になると考えて進めていったんです。

「あなたのポストトーク」2019年6月30日、7月6日。観客は語り手・聞き手・描き手の3役を3人1組で回す手法で、感想をシェアした。写真:加藤甫
「あなたのポストトーク」2019年6月30日、7月6日。観客は語り手・聞き手・描き手の3役を3人1組で回す手法で、感想をシェアした。写真:加藤甫

清水:今回は4つのフェーズで、グラレコを面白く使っていただけました。ひとつは、描き手が自分の主観を記録していくという体験。次に、「あなたのポストトーク」の語り手が、記憶をたぐりよせるために他人が描いたものを使うツールとして。

清水淳子(グラフィックレコーダー)
清水淳子(グラフィックレコーダー)

清水:さらに、劇場のロビーに貼られたグラレコを観客の皆さんが休憩時間などに見て、ヒントを得ていくというフェーズ。加えて、これらの活動が伝わっていくことで、ちょっと観に行ってみようかな、という人が出てきた。まさに観客の「創出」につながったのかな、と。

『プラータナー』スクール。2019年6月26日、客席で演劇を体験しながらグラフィックレコーディング中。写真:加藤甫
『プラータナー』スクール。2019年6月26日、客席で演劇を体験しながらグラフィックレコーディング中。写真:加藤甫

―グラレコというと、ビジネスの会議でコミュニケーションを円滑にするツールというイメージが強いですが、清水さんが志しているグラレコは、そうしたものとは異なるのでしょうか?

清水:そうですね。誰かひとりのスキルだけで、厳密に精巧に作りあげて、大事に飾るようなものではありません。たとえば『プラータナー』の世界を綺麗に1枚にまとめたようなものだったら、それはインフォグラフィックやグラフィックデザインと呼ばれるものだと思います。

私が目指しているグラレコは、未完成だけれども、そこに参加している人といろいろと議論や対話をしながら役割が変化していくのを楽しめる、いわば出世魚のようなグラレコです(笑)。

『プラータナー』スクール2019年6月26日。絵巻物のように4時間の公演が記録された11枚のグラフィックレコーディングがロビーに広げられた。写真:加藤甫
『プラータナー』スクール2019年6月26日。絵巻物のように4時間の公演が記録された11枚のグラフィックレコーディングがロビーに広げられた。写真:加藤甫

清水:例えば「1分でわかる『プラータナー』!」というように、綺麗にまとめて世に広くシェアすることは私のゴールではないんですね。劇場の中で起こっている本当に豊かなことがそんな簡単にまとめられるわけがない。

―いきなり広くシェアするのではなく、適正規模のコミュニティーでの議論や語りを優先する。その点が、まさに「動員」ではなく「創出」なのでしょうね。逆に、反省点はありますか?

金森:参加いただいた方々のその後のコミュニケーションは、クローズドなslack(グループチャットやダイレクトメッセージなどの機能を持つコミュニケーションツール)やクローズドのFacebookグループなどで行われているんですが、今後はオープンな議論とクローズドな議論の場を、『AWRD』上でできないかな、と思っています。そうすると、密にコミュニケーションしている方々だけではなくて、一度だけ足を運んでくださった方も、また次の別の機会に参加できるかもしれないですから。

2019年3月20日プレス説明会の様子。左から岡田利規(演劇作家 / 小説家 / チェルフィッチュ主宰)、臼井隆志(ワークショップデザイナー)中村茜(プロデューサー / precog代表)
2019年3月20日プレス説明会の様子。左から岡田利規(演劇作家 / 小説家 / チェルフィッチュ主宰)、臼井隆志(ワークショップデザイナー)中村茜(プロデューサー / precog代表)

中村:思い返すと、最初に記者発表をしたときに、会場の様子から「あれ? 演劇のボキャブラリーと全然合ってない!」という空気を強烈に感じましたね。「タッチポイント」とか、「オープンイノベーション」といっても、参加いただいた記者の方々に伝わっていない違和感がすごくあって……(笑)。

臼井:僕もファシリテーションやグラレコについて紹介したんですが、まったく響いていない感じで、恐縮してすぐに引っ込めてしまいましたからね……(笑)。

中村:「ヤバい! どうやって伝えていこう?」ということは、それから必死に考えていきました。

左から:中村茜、臼井隆志、清水淳子、金森香
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イベント情報

『プラータナー:憑依のポートレート』
響きあうアジア2019
ウティット・へーマムーン×岡田利規×塚原悠也
『プラータナー:憑依のポートレート』

2019年6月27日(木)~7月7日(日)全11公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
脚本・演出:岡田利規
セノグラフィー・振付:塚原悠也
原作:ウティット・ヘーマムーン
演出助手:ウィチャヤ・アータマート

サービス情報

Precog note

言葉にできない体験を描くと、解釈はより広く深まっていく。演劇グラフィックレコーディングの作品全公開

私たちは、ほの暗い「広場」に集まり、すれ違う――演劇『プラータナー』参加型企画「あなたのポストトーク」に寄せて

プロフィール

中村茜(なかむら あかね)

パフォーミングアーツ・プロデューサー。1979年東京生まれ。2004年〜2008年STスポット横浜プログラムディレクター。2006年、株式会社プリコグを立ち上げ、08年より同社代表取締役。チェルフィッチュ・岡田利規、ニブロール・矢内原美邦、飴屋法水などの国内外の活動をプロデュース、海外ツアーや国際共同製作の実績は30カ国70都市におよぶ。2009年10月、NPO法人ドリフターズ・インターナショナルを、金森香(AWRD)と藤原徹平(建築家)と共に設立。そのほか、『国東半島アートプロジェクト2012』『国東半島芸術祭2014』パフォーマンスプログラムディレクター、2018年よりアジアを旅するエクスチェンジ・プラットフォーム「Jejak-旅 Tabi Exchange : Wandering Asian Contemporary Performance」の共同キュレーター等を歴任。2016-17年、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の支援を受けバンコク(タイ)に18ヶ月、ニューヨーク(アメリカ)で6ヶ月研修。2011~2015年、日本大学芸術学部演劇学科 非常勤講師。2019年からは、日本財団主催「True Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭-」でプリコグが芸術祭事務局を運営。また渋谷に新しくできたSHIBUYA QWSではプログラムパートナーとしてドリフターズ・インターナショナルが「リ/クリエーション」を企画する。舞台制作者オープンネットワークON-PAM理事。

臼井隆志(うすい たかし)

1987年東京都生まれ。2011年慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社MimicryDesignディレクター。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。児童館をアーティストの「工房」として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」(2008~2015)、ワークショップを通して服を作るファッションブランド「FORM ON WORDS」(2011~2015)、伊勢丹新宿店の親子教室「ここちの森」(2016~)の企画・運営を担当。noteでは、発達心理学や認知科学をベースとした「赤ちゃんの探索」、アートワークショップの設計について考察する「アートの探索」を連載中。著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。

清水淳子(しみず じゅんこ)

1986生千葉県生まれ。2009年 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後、Web制作会社でデザイナーに。2012年WATER DESIGN入社。ビジネスデザインに携わる。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。同年、Yahoo! JAPAN入社。データサイエンティストと協業して、UXデザイナーとしてアプリ開発に携わる。2017年 東京藝術大学美術研究科 情報設計室にて議論の可視化に関しての研究を行う。著書に『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(BNN新社)がある。現在多摩美術大学情報デザイン学科 専任講師 /フリーランスで活動。IFVPメンバー - International Forum of Visual Practionars 趣味はスプラトゥーンとSUP。

金森香(かなもり かお)

Central Saint Martins Collage of Art and Design 批評芸術学科を卒業後、チンドン屋を経て出版社リトルモアに勤務。2001年にデザイナーの武内昭氏、中西妙佳と「シアタープロダクツ」を設立、広報、コミュニケーションにまつわる企画やマネジメント業務を担当。2010年、NPO法人「ドリフターズ・インターナショナル」理事に就任。2012年には、包装材料問屋シモジマの新業態「ラップル」のオープンに際し、クリエイティブディレクターを担当した。2018年よりロフトワークに参加。

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