ロイ-RöE-が、人間の狂気やどうしようもなさ、女性の闇を歌うわけ

シンガーソングライターのロイ-RöE-が、ドラマ『ストロベリーナイト・サーガ』のオープニングテーマに続き、杉野遥亮と福原遥がダブル主演する映画『羊とオオカミの恋と殺人』の主題歌となる新曲“癒えないキスをして*”をリリースした。

マンガ専用アプリ「マンガボックス」で長らく1位を独走し、話題となっていた『穴殺人』が原作の『羊とオオカミの恋と殺人』は、大学受験に失敗し、何もかも自暴自棄になっていた引きこもりの男子が、アパートの隣の部屋に住む猟奇殺人犯の美女に恋をしてしまうという荒唐無稽なラブコメ。ロイ-RöE-は主人公の男子目線に立ち、「可愛らしさ」と「狂気」という女の子が持つ二面性に惹かれる心情を、ポップなメロディーに乗せて歌っている。さらに彼女はアナザープロジェクトとして、アニメ『ひみつのアッコちゃん』の同名主題歌をカバー。昭和のアニメソングから新たな魅力を引き出している。

前回のインタビュー(参考:ロイ-RöE-が歌に込めるキュートな狂気。『火の鳥』に学んだ歌い方)で、「女のアートコンテンツ」への意欲とこだわりを語っていたロイ-RöE-。音楽だけでなく衣装やアートワーク、映像などあらゆる手段を駆使し、作品ごとにスタイルを変化させている彼女は今、何に注目しどこへ向かおうとしているのだろうか。

だって、女って闇が深いじゃないですか。

―今回リリースしたシングル“癒えないキスをして*”は、新曲とはいえ実はデビュー前に作っていたそうですね。

ロイ-RöE-:そうなんです。“VIOLATION*”を作る前から、映画『羊とオオカミの恋と殺人』の主題歌を書き下ろしてほしいとのオファーをいただきました。それで企画書を読ませてもらったら、自分がこれからデビューに向けて「こう打ち出していきたい」というイメージと映画の内容が、かぶっていて。すごくマッチする内容だったんです。だから、めっちゃ嬉しかったですね。

ロイ-RöE-(ろい)
頭から離れないメロディーと個性的な歌詞を紡ぎ出すシンガーソングライター。中学卒業後から独学で作曲を開始。2018年10月、1st Digital EP「ウカ*」をリリース、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEよりデビューを果たす。さらに、2019年4月スタートのフジテレビ系ドラマ「ストロベリーナイト・サーガ」のオープニングテーマに抜擢。同年5月に1st Digital Single「VIOLATION*」としてリリース。MVが100万回再生を超えるなど今、目が離せないアーティスト。

―人生初の映画主題歌であり、デビュー曲になる可能性もあったと。

ロイ-RöE-:そうなんです。初めて尽くしで「どうしよう!」となったんですけど、監督と打ち合わせをしたり、完成前の映像を見せていただいたりしながら曲の方向性を固めていきました。

―映画の内容が、ロイ-RöE-さん自身と「かぶる」と思ったのはどんなところですか?

ロイ-RöE-:この映画は「二面性」をテーマにしているんですよ。例えば宮市さん(福原遥)は、普通にしていたらふんわりとした清楚で可愛い女の子なんですけど、実は猟奇殺人犯で人々を次々ぶっ刺していくんです(笑)。そういう「狂気」だったり、タガが外れたりしてしまう人間のどうしようもない側面を、私自身も……まあ「殺す」まではいかなくても表現したいと思っているんです。だって、女って闇が深いじゃないですか。

「明るい感じ」か……だったら歌詞で思いっきり暴れようと(笑)。

―そうなんですか?(笑)確かに、ロイ-RöE-さんの楽曲は「可愛らしさ」と「闇」みたいなものが同居しているものが多いですよね。実際の曲作りに関して、監督からはどんなリクエストがありましたか?

ロイ-RöE-:「明るい感じ」「ファンクっぽい曲」というリクエストをいただきました。「明るい感じ」か……だったら歌詞で思いっきり暴れようと(笑)。でも<“よろこび”という名をつけた>という、サビの直前の歌詞まで考えたところから「この先どうしよう?」となってしまって。いつも曲名から考えることが多いのに、それもなかなか決まらなかったんですよね。

とにかく作ったデモトラックを、何度も繰り返し聴いているうちにようやく<癒えないキスをして>というフレーズが思いついて、それを曲名に持っていきました。監督からは、宮市さんではなく、主人公の黒須くん(杉野遥亮)の気持ちで書いてほしいとも言われていて。

ロイ-RöE-“癒えないキスをして*”を聴く(Apple Musicはこちら

―黒須くんは、猟奇殺人犯・宮市さんに恋してしまう男の子ですね。

ロイ-RöE-:はい。彼は大学受験に失敗して引きこもるようになり、「生きるのに疲れた」とか言ってるどうしようもないやつなんですが(笑)、映画は彼が自分の部屋で自殺しようとするところから始まり、失敗して壁に穴が開いてしまう。それで隣の部屋が丸見えになるのですが、そこに住む宮市さんを覗き見しているうちに恋に落ちてしまうという話なんです。

―はははは! 冒頭からしてシュールですね(笑)。

ロイ-RöE-:2人が恋に落ちていく前半の展開もやたらと可愛いくて。最初は普通のラブコメなんですけど、だんだん宮市さんの化けの皮が剥がれてくる。黒須くんは、彼女の「凶行」を何度も目撃してしまうのに、それでも嫌いにはなれない……という葛藤が始まるわけです。宮市さんはもちろん狂っているんですけど、そんな女の子を好きになる黒須くんもなかなかヤバくて(笑)。

ネタバレになるので詳しくは言えませんが、“癒えないキスをして*”という曲名はそんな2人の恋のクライマックスにフィーチャーしている。ただ、あんまりメンヘラっぽくなるのは嫌で(笑)、「血」とか「殺し」とかそういう直接的な表現は避けました。

「複雑なエロス」を相手に見出した瞬間、人は恋に落ちてしまうのではないかとも思ったんです。

―ヒロインが猟奇殺人犯で、人もバンバン殺されるのに「ラブコメ」で「笑える」って全然想像がつかないのですが(笑)、とにかく観るのが楽しみです。サビ前のライン<複雑に出来た好きとエロスに“よろこび”という名をつけた>はどんな時に出てきたのですか?

ロイ-RöE-:人を好きになるときに、その人にエロスを感じられるかどうかってすごく大事じゃないですか。でもエロスって「色気」になる時もあれば、一歩間違えると「下品」にもなり得るんですよね。単純なエロスは下品になりがちで、複雑なエロスには色気を感じるというか……。

宮市さんも、人を殺している瞬間はすごく色っぽい。妙に輝いて見えるのってなんだろう? って考えさせられたんですよね。で、そういう「複雑なエロス」を相手に見出した瞬間、人は恋に落ちてしまうのではないかとも思ったんです。

―なるほど。曲調は「ファンクっぽい感じ」というリクエストがあったそうですね。

ロイ-RöE-:私、音楽のジャンルとか疎くてファンクもちゃんと聴いてことなかったから、「ファンクってなんやろ……?」というところから始まったんです(笑)。「ファンク」と呼ばれる音楽もいろいろ聴いてて、それでもよう分からんくて。

とりあえず自分なりにファンクを解釈して作っているうちに、だんだん面白くなっていきましたね(笑)。それまで作ってきた曲は暗くてドロドロしたものも多かったし、意味わからん組み合わせとかも普通にやっていたんですけど、今回はとにかく明るいコード進行だし、できるだけアレンジもシンプルにすることができました。

自分もその作品にちゃんと寄せたいし、世界観を壊さないようにしたい。

―今回も、ちゃんMARIさんが編曲で参加していますね。

ロイ-RöE-:ちゃんMARIさんは、デビュー前にデモを作り貯めていた時からサウンドプロデュースをお願いしていて、それがすごく素敵だったので今回もお願いしました。

ロイ-RöE-『ウカ*』を聴く(Apple Musicはこちら

ロイ-RöE-:まずはちゃんMARIさんに送るためのデモを作ったんですよ。ギターとベースだけのシンプルな形にしておいて、そこにキーボードを乗せてもらいました。スタジオでは、「分かりやすいリフとかあったらいいですよね」なんて話をしていて、それでスタジオに入った時にいろいろ試行錯誤していたら、あのイントロのフレーズが出てきて。あれが出た瞬間に「おー!」って思わず声が出ましたね。今までにない感じで、しかも可愛くて。

バンドも『ウカ*』の時のメンバーにお願いしました。みんな才能があるから提案してくれるし、ちょっとした変化で曲の印象もどんどん変わっていくのが面白かったです。ちゃんMARIさんも、「こっちの方がいいよ」とか「その歌い方、可愛い」とかノセてくれる方なので(笑)。とても楽しくレコーディングできました。

撮影:藤川正典

―映画やドラマの主題歌は、お題に沿って作る作業だと思いますが、ロイ-RöE-さんは得意ですか?

ロイ-RöE-:好きですね。縛りやお題があったほうがイメージが浮かびやすい。例えば『ドラゴンボール』の“CHA-LA HEAD-CHA-LA”や、“摩訶不思議アドベンチャー”のような、その作品のため「だけ」に書かれた曲は「いいな」と思うんです。自分もその作品にちゃんと寄せたいし、世界観を壊さないようにしたい。私はどれだけ相手に寄せたとしても、結果的にちゃんと自分が出ていて「全然、寄せられてないよ?」って言われることもあるんですよね……(笑)。

―(笑)。ちゃんとロイ-RöE-さんらしさが滲み出ているわけですよね。歌い方もこれまでとは少し違う気がしました。

ロイ-RöE-:最初はちょっと投げやりな感じで歌ってみたのですけど、スタッフの方から「ちょっと囁き系で可愛く歌ってみるのもいいんじゃない?」と提案してもらって。それで試してみたらいい感じになりました。ここまで1曲通して可愛く歌ったことはなかったから、新鮮でしたね。「こういうのもいいな」って。

「可愛いけど危うい感じ」をMVでも出していこうってなって。

―ミラーレイチェル智恵さんが監督を務めたMVも、赤いドレスと和室のミスマッチ感がとても印象的でした。

ロイ-RöE-:衣装はいつも、スタイリストの渡邊由貴さんにお願いしているんですけど、「ロイ-RöE-は情熱的だしやっぱり赤が似合うよ!」と言ってくださって。それで今回はこの色にしました。めちゃめちゃ好みの赤で嬉しかったです。普段着として欲しいくらい。

レイチェルさんは岡崎京子さんが好きだったり、ヴェラ・ヒティロヴァ監督の『ひなぎく』(1966年)という映画が好きだったり、最初の打ち合わせで好みが似ていると知って盛り上がりました。で、そういう作品に共通している「可愛いけど危うい感じ」をMVでも出していこうってなって。

レイチェルさんに提案していただいたのは、「花の収集癖がある女の子」をテーマにすることでした。その女の子は美しい花が好きで、何かあれば家に持ち帰っているんだけど、いざいっぱい集まったら「怖い!」と思ってしまう、みたいな(笑)。最初は洋室での撮影が予定されていたのですが、和室の方がドレスも映えると思いつき、それで急きょ和室で撮ることになったんです。

―すごく趣のある空間ですよね。

ロイ-RöE-:建物の2階にある、文豪が住んでいるような雰囲気の部屋で、窓を開けたら屋根に猫が2匹寝そべっていたり、金八先生が走っているような河川敷もあったりするんです。

(昭和のアニソンは)今聴いても色あせない名曲ばかりだし、これを埋もれたままにしておくのはもったいない。

―今回、ロイ-RöE-さんのサイドプロジェクトとして10月26日に公開した『ひみつのアッコちゃん』のカバーと、そのMVも拝見したのですが、どちらもロイ-RöE-さんワールド全開ですね。

ロイ-RöE-:ありがとうございます(笑)。以前から昭和のアニメ歌謡が好きだったんですよ。当時のアニメに出てくる女の子たちって、すごく可愛くてわがままなんです。アッコちゃんもそうやし、『うる星やつら』のラムちゃんも『リボンの騎士』のサファイアもそう。そういうキャラが大好きで、カラオケだけでなくも鼻歌でもよく昔のアニメ主題歌を歌っていたんです。それを聴いたスタッフの方からも好評だったし、「これは今やるべきかも」と思い立ちましたね。

おそらく私と同世代の子たちは、“ひみつのアッコちゃん”も“ラムのラブソング”も知らないと思います。でも、今聴いても色あせない名曲ばかりだし、知らないままにしておくのはもったいないと思って、リアレンジして出すことにしました。

―世代的には全く通っていないアニメ歌謡に、なぜロイ-RöE-さんはそれほど惹かれるのでしょう?

ロイ-RöE-:昔の曲は、言葉をしっかり聞かせるのに適したメロディーだなと思っています。例えば“木綿のハンカチーフ”が大好きですが、あの曲も歌詞がすごく入ってくるんですよね。まるで短編小説を読んでいるような気分になる。

―主役の座を取り合って女の子がバトルする、というMVの設定は、ロイ-RöE-さんが最初におっしゃっていた「女の子の闇」を表現しているようでもありますね。

ロイ-RöE-:そうなんです。MVは、コゴエ(koeのネクストクリエーターズ)の松永光明さんにお手伝いをお願いして、“VIOLATION*”にも出演してくれた女の子たちにも再び出てもらっています。

私も昔ダンスをやっていたので、センターの取り合いはいつもあって。「あいつがセンターかよ!」みたいな嫉妬や妬みが渦巻いていたんですよね。もちろん、それがモチベーションになることもあるんですけど、このMVでは「誰よりも私が一番!」みたいな女の子の気持ちを表現したかったんですよね。それで、脚本からオープニングのナレーションや、途中のセリフなんかも全て自分で考えてレコーディングしました。

ちなみに、セットを敢えてチープな書き割りにしたり、黒子さんがスモークを炊いてたり、全体的に手作りっぽい映像にしているのは、私が大好きな『シュレック3』のオマージュです。あの映画の中では、ディズニープリンセスたちが裏表ありまくりで描かれていて(笑)。それも「女の子の闇」を表現していると思うし、この「ひみつのアッコちゃん」ともリンクしているなと思ったんですよね。

―昭和のアニメに登場する女の子の魅力はどんなところですか?

ロイ-RöE-:“ひみつのアッコちゃん”の歌い出しが、<そいつの前では女の子>なんですけど、鏡を「そいつ」呼ばわりしているのがまず最高だし(笑)、その魔法の鏡でシンデレラ姫に変身したアッコちゃんを、<ツンツンツン>っていうフレーズで表現しているのがいいなあと思って。ブリッコじゃなくてツンツンしてる方が女の子っていう、そういう歌詞の世界が大好きなんです(笑)。

―以前のインタビューでも『ドラゴンボール』に出てくる人造人間18号が好きだとおっしゃっていましたし、「可愛いけれど、クールで勝気な女の子」というのが、ロイ-RöE-さんの理想像なのでしょうね。この「アニメ歌謡」カバーは、今後もシリーズ化していく予定ですか?

ロイ-RöE-:歌いたい曲はたくさんあるし、ぜひやっていきたいです。また、今回映画のタイアップをやらせていただいて思ったのが、今度は広告の音楽を作ってみたいということ。

私が好きなアートやファッションも、CMでは音楽と共に活かせると思うんです。とにかくもの作りが昔から好きで、勉強は嫌いだったけど図画工作は得意みたいな。だから、広告の音楽にはとっても興味があります。

リリース情報
ロイ-RöE-
『癒えないキスをして*』

2019年11月1日(金)配信

プロフィール
ロイ-RöE-
ロイ-RöE- (ろい)

頭から離れないメロディーと個性的な歌詞を紡ぎ出すシンガーソングライター。中学卒業後から独学で作曲を開始。2018年10月、1st Digital EP「ウカ*」をリリース、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEよりデビューを果たす。さらに、2019年4月スタートのフジテレビ系ドラマ「ストロベリーナイト・サーガ」のオープニングテーマに抜擢。同年5月に1st Digital Single「VIOLATION*」としてリリース。MVが100万回再生を超えるなど今、目が離せないアーティスト。



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