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やなぎみわが後世に説く「死んだ人に聞きなさい」その真意は?

やなぎみわが後世に説く「死んだ人に聞きなさい」その真意は?

『やなぎみわ展 神話機械』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

大正アヴァンギャルドは実際に存在したのか興味があったんです。前衛活動はただの若気の至りだったのでは、と(笑)。

―あらためてお聞きしたいのですが、2010年にやなぎさんが本格的に演劇の世界に挑戦された際、現代美術に対してはどのような思いを抱いていたのでしょうか。

やなぎ:現代美術、とくにそのエリート主義には強い違和感がありましたね。日本はまだまだ芸能と工芸の国なんですよ。私は学生時代に工芸をやっていましたが、これは素材と技法の積み上げで完成度を上げる世界です。一方、芸能は消えモノというか蜃気楼のようなもの。そのなかで現代美術は、既存の伝統に対してつねにパラダイムシフトを仕掛ける世界。そのダイナミズムはいまも好きですが、どうしても自分の血肉にならない感覚があったんです。

それに対して、演劇は一種の芸能ですが、母や祖母が宝塚が好きだったこともあり、こちらは小さい頃からそれなりに親しんだ世界でもありました。一度、そちらもやらないといけないと思って始めたわけですが、ここまで長くやるとは思っていませんでした。

写真提供:神奈川県マグカル・ドット・ネット
写真提供:神奈川県マグカル・ドット・ネット

―その際、さきほどの『1924』三部作など、1920年代の前衛美術を題材にしたのはなぜですか? この時代の日本は、関東大震災の発生や治安維持法による国からの締め付けの強化という点で、現代との関連性を感じさせます。

やなぎ:『1924』でとくに多く取り上げたのは、大正の前衛美術家の村山知義ですが、大正アヴァンギャルドは実際に存在したのか興味があったんです。実際、あの時代に活躍した作家は第二次世界対戦の後、アヴァンギャルドには戻らなかった。村山もどんどん政治的な社会主義リアリズムに向かうわけで、前衛活動はただの若気の至りだったのでは、と(笑)。

―なんと(笑)。

やなぎ:もちろん、すごい人だとは思います。でも、本当の前衛美術はこの国では難しいのではないかという絶望的な気持ちがあったのです。

また、この1920年代から1930年代という時代は、作家にとってつねに振り返るべき時代だと思うんです。日本の文化がかつてこれほどインターナショナルだった時代はないのに、1930年代に入ると、瞬く間に世界との関係を断絶してしまう。本当に激しい時代で、いろんな力がせめぎ合っていた。

―実際に1930年代に向かうにつれ、芸術家はどんどんイデオロギーのための表現を行うようになりました。具体的にはプロレタリア芸術が美術の主流になっていく。

やなぎ:私たち現代の芸術家は、「芸術のための芸術」と気軽に口にしますが、当時は命をかけて「純粋芸術」を叫ばなければいけない時代だったと思うんです。ロシア・アヴァンギャルドなんかはいい例ですね。国策が変われば、あっという間に前衛美術家は抹消されていく。そのなかで、作家は本当に強くなければいけなかったと思います。実際、平気で二枚舌を使い、国を騙しつつ制作していた。

結局、アートが社会に及ぼす影響はとても少ないなということは実感します。

―日本のいまの状況を見ると、まさに、よくも悪くも芸術がイデオロギーのためのものになっていく感覚を覚えます。最近は『あいちトリエンナーレ』の問題もありました。

やなぎ:『あいち』は私も一度、渦中のなかでレクチャーに行きましたが、芸術祭としてはとてもいい雰囲気でしたね。若い作家たちが必死に問題を考えていて、そこに希望を感じました。

―やなぎさんとしては、どちらかと言うと「政治のための芸術」には向かわず、できるだけ「芸術のための芸術」に踏み留まりたいという思いをお持ちなんですか?

やなぎ:そんなことはないですよ。政治のための芸術だって、容認されなければいけません。ただ、芸術は何かの目的のための、ただの道具ではありません。私の性質として矛盾を含んだ重層的な作品が好きで、正直に言えばプロパガンダの表現には好感を持てない。たとえそれが何をテーマにしていようと、表現が一枚岩だからですね。作品の本質を議論する力が弱いと、単なるプロパガンダの応酬という不毛な状況を生むだけでしょうね。

―もう一点、今回の展覧会には、『My Grandmothers』(2000年)などジェンダーの問題を扱ったやなぎさんの過去の代表作も展示されています。女性をめぐる問題は、いまやっと美術界でも大きなイシューになっていますが、20年前からこの問題を扱ってきたやなぎさんは、この間の環境の変化をどう感じていますか?

やなぎ:それは聞かれるとけっこうつらい質問です。近年は、美術館の館長に女性が就任したというニュースもあり、美術の状況も多少はよくなったと思いますが、日本はぜんぜん変わっていません。国会議員の数も含め、一定の地位以上はすべてオジサンばかりというどうしようもない状況がある。結局、アートが社会に及ぼす影響はとても少ないなということは実感します。ジェンダーの問題に関しては、私もつらいですね。

『My Grandmothers:YUKA』(2000年 / 作家蔵)
『My Grandmothers:YUKA』(2000年 / 作家蔵)

―ただ、会場には、やなぎさんの過去作にじっと見入る女性たちの姿もありました。

やなぎ:若い人たちは、過去の作品群をあまり知らないようなので、それは、あらためて展示ができてよかったと思う部分です。これは古今東西ずっとある、長い問題ですから。前近代から比べればよくなったと思いますが、今後も長い視野で問わないといけませんね。

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イベント情報

『やなぎみわ展 神話機械』
『やなぎみわ展 神話機械』

2019年10月20日(日)~12月1日(日)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
時間:10:00~18:00
11/29(金)、30(土)はライブパフォーマンス開催のため17:00に閉場。(入場は16:30まで)
休館日:毎週木曜日
料金:一般1,000円 学生・65歳以上750円 高校生以下無料

『やなぎみわアーティスト・トーク』

2019年11月16日(土)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー 6階大会議室
時間:14:30~15:45
料金:無料

『MM』

2019年11月29日(金)、11月30日(土)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
時間:各日19:00受付開始、19:30開演
料金:ベンチ席2,000円、立見1,500円

プロフィール

やなぎみわ

1967年神戸市生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院(工芸専攻)修了。1990年代半ばより、若い女性をモチーフに、CGや特殊メークを駆使した写真作品を発表。制服を身につけた案内嬢たちが商業施設空間に佇む『エレベーター・ガール』シリーズ、2000年より女性が空想する半世紀後の自分を写真で再現した『マイ・グランドマザーズ』シリーズ、少女と老婆が登場する物語を題材にした『フェアリー・テール』シリーズ等により国内外で個展多数。2009年第53回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表。2010年には福島県立美術館で開催された『胸さわぎの夏休み』展に出品。2011年より本格的に演劇プロジェクトを始動。大正期の日本を舞台に、新興芸術運動の揺籃を描いた『1924』三部作を美術館と劇場双方で上演し話題を集めた。あいちトリエンナーレ2013にて上演した『ゼロ・アワー 東京ローズ 最後のテープ』は2015年アメリカ数か所を巡回した。横浜トリエンナーレ2014を皮切りにステージトレーラー・プロジェクトが立ち上がり、2016~19年には野外劇『日輪の翼』となって横浜・新宮・高松・大阪・京都・神戸への移動公演を行った。また2018年高雄市美術館(台湾)の国際企画展に招待され、新作写真シリーズ『女神と男神が桃の木の下で別れる』等を発表した。

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