インタビュー

GEZANマヒト談話・後編。希望を歌う覚悟と、己に潜む怪物を語る

GEZANマヒト談話・後編。希望を歌う覚悟と、己に潜む怪物を語る

インタビュー・テキスト・編集
矢島大地(CINRA.NET編集部)
撮影:山谷佑介 

カリスマ的なものを背負わされるほど「そうじゃないんだよ」って気持ちも出てきて。ただ、何かを象徴してしまっている自覚は生まれた。

―敢えてこう聞きますけど、ただ頑張って生きていることを肯定するだけじゃ意味がないと思うのは、生きている意味や生きている実感はどこに宿るものだと思うからなんですか。

マヒト:ただ生き残るためじゃなくて、互いの存在を尊重し合って、心から笑いたいから生きてる。それが生きる意味だと思う。国籍でもなければ他のカテゴリーでもなくて、ひとつ血の色だけで繋がって笑い合う感覚を取り戻そうとしたところはあったと思うんだよ。人間をひと塊にして自分をなきものにしようとする大きな流れから自分を守って、ちゃんと勇気を持って孤立する……そのためにも、自分が何に加担して、何を足場にしてここに立っているのかも問いかけ続けないといけない。そういう意味で、一人ひとりがさらに試される時代が始まるなあって意識はあるかな。

マヒトゥ・ザ・ピーポー

―“DNA”も、自分が可哀想だと思ってる暇はないという歌だったし、<幸せになってもいいんだよ>というラインは本当に素晴らしかったんですけど、この“I”ではさらに一歩進んで、マヒトさん自身が心から笑いたいっていう歌だと感じて。自分が笑いたい、自分がこう生きたいんだっていう。マヒトさん自身の奥がストレートに響いてくるから、心を掴まれるんですよ。

マヒト:まあ、ある意味では“I”が一番ストレートじゃないんだけどね(笑)。言い回しの話だけど、この曲が自分にとっては一番挑戦的だし、今までの自然さではないというか……心から笑える自分に会いたいっていう感覚に近いのかな。

GEZAN“I”を聴く(Spotifyを開く

―現実を突きつけるんじゃなく一番純粋な願いと希望を掲げているこの歌が挑戦だったのは、今までは自分個人の理想をメッセージにすることを避けてきた自覚があるっていうことですか。

マヒト:ああ、そうかもね。なんかこう……これまでの活動や『全感覚祭』を経て、カリスマ的なものを背負わされそうになってきた実感もあるんだよ。だけど、そうなるほど「いや……そうじゃないんだよ」みたいな気持ちが出てきて。だってさ、何かの役割を背負わされそうな状況で、希望や理想をメッセージにして歌うのは危険なことじゃない?

―宗教性や扇動に結びついてしまうから?

マヒト:そう。だからこれまでは俺自身の思う理想を歌うことを避けてきたんだけど……でも矛盾する話だけど、何かを背負う覚悟はないが、何かを象徴してしまっているという自覚は生まれた。その上で、自分たちが見てきた景色の中で歌えることがあるなら、挑戦しようと思ったんだよね。

―ただ、<毒をもって毒を制す>という言葉も歌われているように、まず自分たちの音楽をある種の毒だと位置づけるのはどうしてなんですか。

マヒト:今の世界に生きながら“I”で歌っているような綺麗なものだけを放つのは、嘘になるから。一人ひとりの混乱を前提に音楽を作ると、ただ綺麗で整えられた音は不釣り合いなんだよ。俺たちは白黒黄色で分類できるものじゃない、もっと曖昧な色やノイズの中に生きてるわけで。それをまず表現しないと希望を歌えないと思ったし、カテゴライズ不可な音楽で踊ることで、今のシステマチックな世界や人間のカテゴライズを破壊することが必要だった。綺麗に整えたように見せている世界にとっては、それはある種の毒だよね。

マヒト:たとえば“狂”の詞を順番に聴いていくとさ、俺自身もすごくドキッとするのね。きっと聴いた人も、自分を言い当てられた不快感みたいなものをどこかで感じるはずなんだよ。俺もお前も間違ってないって肯定してくれるだけの歌は居心地がいいだろうけど、それは間違っているからね。新しい価値観を推進するうちに生まれている新しい差別にも、環境問題にも、俺たちはすでに参加しているんだから。

―そうですね。

マヒト:だけど、自分は不完全で、無意識のうちにいろんなものに参加していると実感することから、人への寛容さも生まれるわけでしょう。俺たちは不完全さを自覚しながら、間違えたり、謝ったりしながら変わっていくんだよ。そういう認識からしか優しさは始まらない気がしていて。そう考えると、人の不完全さを言い当てる毒のような言葉が、優しさの役目を背負うっていうことはあり得ると思うんだよね。

―カリスマを背負わされることを避けてきたという話にも繋がるけど、マヒトさんは、無意識のうちにも世界のいろんなものに関与している自覚が強烈だし、だからこそ、自分が圧倒的な存在になったらなったで、今度は集団心理を作って新たな暴力を生んでしまう側になることを恐れますよね。その癖って、一体なんなんですか。

マヒト:なんなんだろうね……? でも実際、いろんな人を傷つけながら生きている自覚が昔から強烈にあるから。だって、自分がやろうとしていることなんて本当にメチャクチャだしさ(笑)。それも、とにかく生きるしかないっていうひとつの覚悟だとは思うけど……ただ、自分も何かを傷つけているっていう自覚があるからこそ、自分が圧倒的と言われる力を持つ可能性を恐れてるんだろうね。コントロールできなくなるのを抑えているというか。

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リリース情報

『狂(KLUE)』(CD)
GEZAN
『狂(KLUE)』(CD)

2019年1月29日(水)発売
価格:3,080円(税込)
JSGM-34

1. 狂
2. EXTACY
3. replicant
4. Human Rebellion
5. AGEHA
6. Soul Material
7. 訓告
8. Tired Of Love
9. 赤曜日
10. Free Refugees
11. 東京
12. Playground
13. I

ツアー情報

『十三月presents GEZAN 5th ALBUM「狂(KLUE)」release tour 2020』

2020年2月13日(木)
会場:北海道 札幌 BESSIE HALL

2020年2月17日(月)
会場:青森県 弘前 Mag-Net w / 踊ってばかりの国

2020年2月19日(水)
会場:山形県 酒田 hope

2020年2月20日(木)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd

2020年3月18日(水)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2020年3月19日(木)
会場:愛知県 名古屋 APOLLO BASE

2020年4月1日(水)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

プロフィール

GEZAN
GEZAN(げざん)

2009年、大阪にて結成。自主レーベル「十三月」を主宰する。2018年に『Silence Will Speak』をリリースし、2019年6月には、同作のレコーディングのために訪れたアメリカでのツアーを追ったドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』が公開された。2019年10月に開催予定だった主催フェス『全感覚祭』東京編は台風直撃の影響で中止となったが、中止発表から3日というスピードで渋谷での開催に振り替えられた。そして、1月29日に『狂(KLUE)』をリリース。

関連チケット情報

2020年3月18日(水)
GEZAN
会場:梅田クラブクアトロ(大阪府)
2020年3月19日(木)
GEZAN
会場:アポロベイス(愛知県)
2020年4月1日(水)
GEZAN
会場:LIQUIDROOM(東京都)

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