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永原真夏が歌い切る。多様性への目配せより、目の前の君を愛す

永原真夏が歌い切る。多様性への目配せより、目の前の君を愛す

永原真夏『ラヴレター』
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:山口こすも 編集:矢島大地(CINRA.NET編集部)
2020/04/02

これから大事なんじゃないかと思うのは、不特定多数の多様性に脅かされずに、目の前の人とルールを作っていくこと。

―“さよならJAZZ”というタイトルも、今お話いただいたジャンルの話と関連しますか?

永原:タイトル自体はただの語呂ではあるんですけど、前だったらこの単語自体出てこなかったかもしれないですね。ジャンルにせよ何にせよ「その筋の人たち」っていて、その形をトレースしたとしても、絶対同じ表現はできないじゃないですか。その人自身の芯を食うような表現に染み込んでいくのが「ジャンル」だから。でも、むしろ自分の芯を突き詰めていくことこそが、どこにでも行ける切符になるんだと思ったんです。私はパンクを頑なに手放さなかったことによって、ヒップホップにもジャズにも「行こうぜ!」ってなれた。それは長くやってきて掴んだ感覚っていうか。

―自分の芯が確固たるものになったからこそ自由になれたっていうことですよね。今日の話で言うと、「パンク」も刺青として既に刻まれてるのかもしれないですね。

永原:ただ、私は精神性としては持ちつつもわかりやすくパンクだったわけではないので、自分のスタンスを伝えるときにどう表現しようかっていうのはずっと試行錯誤してたんです。で、昔は「あんなやつ全然パンクじゃない」って言われたら、「えーん」って泣いてた(笑)。でも、SEBASTIAN XとSUPER GOOD BANDを経てきた中で、どんなに批判されても動かない芯みたいなものができていって、それは2、3年じゃきっと見つからなかったと思う。だから、今回自分の変わらない部分をより認識できたし、いろんな経験をして、いろんな人と関わって、その中で掴んだものが今回の作品には一番入ってる気がします。

永原真夏

―今日の話もそうだし、SEBASTIAN X時代から真夏さんと話してきたことって、言ってみれば「多様性」の話だったと思うんですよね。世の中には黒と白だけじゃなくて、もっと多様な価値観があって、いかにそれを認め合っていくかっていう話をずっとしてきた。で、2010年代を通じてその価値観はある程度浸透して、「じゃあ、これからその先で何を歌っていくのか?」を考えるタームが今だと思う。ここまで話してきたことの中には、そのヒントが散りばめられてた気がして。

永原:うん、うん。私がこれから大事なんじゃないかと思うのは、不特定多数の多様性に脅かされずに、目の前の人とルールを作っていくことなんです。

―めちゃめちゃいい答えですね。

永原:途中の話と通じてくるけど、みんなの意見を全部聞いてたら、みんなつぶれちゃうってわかるじゃないですか。それぞれにナイーブなところがあって、年齢、仕事、ジェンダー……今は地雷があり過ぎる気がして。たとえばこの間『ロングバケーション』(1996年)を見てたんですけど、「今だったらこの台詞はナシだろ」っていうのばっかりで、すごく前時代的だなって思ったけど……でも、だからこそ響く側面もあったっていうか。

―というと?

永原:「31歳で結婚してないとかマジ終わってる」とか「アンタ女なのによくそういうこと言えるよね」みたいなセリフ、今ならナシだなって思うんだけど。だけどそう言われて傷ついて、それでも強くオシャレに可愛く生きてる南ちゃん(山口智子の役名)は色褪せてなくて。こういう台詞があるからこそ表現できる部分っていうのもあるなっていうのは思って。

―なるほど、確かに。

永原:私は多様性の許容を追い求めて表現をしてきたけど、「多様性」という言葉が不特定多数の概念の中に入ったときに、こんなに力を持たないのかって思ったんですよ。むしろ混乱が増えたかもしれないですよね。

―先ほどおっしゃった「地雷が多すぎる」っていうことですよね。一つひとつ学んでいる最中ではあるけど。

永原:そう。地雷を踏みそうで混乱しても別に過ちではないし、今まで知らなかったことを知れただけでも、超いいこと。だけど、みんなが不特定多数の人にピントを合わせ過ぎるのはよくない。誰か特定の人と向き合うときって、100個くらい地雷を踏んでいかないと無理なんですよ。自分がホントに感情を吐露したときに、「人それぞれの考えがあるからね」って言われたら、「ホントにちゃんと聞いてくれてる?」って思うだろうし。だから、自分の音楽は一緒に地雷を踏む相手になりたい。「他力本願」もそういうことだし。

―不特定多数の「他力本願なんてダメだ」に合わせるんじゃなくて、目の前の人に「他力本願でもいい」って言ってあげたい。たとえ、それが地雷だったとしても。

永原:地雷をよけることが多様性じゃないなって思ったんですよね。「いろんな価値観を認め合おう」って、それができたらいいけど、でも絶対受け入れられないこともあるはずで。そのときにひとりぼっちだと倒れちゃう。そこで戦ってる人に、「今日一日くらいは人に任せよう」とか「朝のテレビの占いに任せとけ」とか、そういう隙間を作りたい。私の音楽を聴いて、「隣にいる友達が今日は楽しそうだな」とか思えるような余白を持ってもらえたら嬉しい。そうやって哲学を小っちゃいライフに戻すっていうか、そういう感覚なんですよね。

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永原真夏
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リリース情報

永原真夏『ラヴレター』
永原真夏
『ラヴレター』(12インチアナログ盤)

2020年3月25日(水)発売
価格:2,800円(税込)
MNCP-0002

【SIDE A】
1. さよならJAZZ
2. みなぎるよ
3. BLUES DRAGON

【SIDE B】
4. おはよう世界(2020 ver.)
5. 海と桜

【BONUS TRACK】
1. おはよう世界(朗読)
2. 海と桜(朗読)

プロフィール

永原真夏(ながはら まなつ)

2008年、SEBASTIAN Xを結成(2015年活動休止、のち2017年に再始動を果たしている)。2015年からソロプロジェクト「永原真夏+SUPER GOOD BAND」での活動をスタートし、『BEΔUTIFUL』のツアーを経て2019年11月にSUPER GOOD BANDが解散。SEBASTIAN X結成からの盟友・工藤歩里とのユニット「音沙汰」でも活動する中、2020年3月25日に永原真夏名義でのEP『ラヴレター』をリリース。

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