インタビュー

österreich高橋國光 世界の登場人物になれない自分の、再生の音楽

österreich高橋國光 世界の登場人物になれない自分の、再生の音楽

インタビュー・テキスト・編集
矢島大地
撮影:ヤオタケシ 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

元the cabsのコンポーザー・ギタリストであった高橋國光が、the cabsの活動終了後に、高橋國光がSoundcloudにソロ楽曲をアップし始めたのがösterreich(オストライヒ)の創始である。たったひとりで、しかし確かに人の目と耳と心に触れることを求めて、音楽を作り続けることで彼はバンド喪失の悲しみや、本来的に抱えている内省の痛みを浄化しようとしていた。そしてTVアニメ『東京喰種』への楽曲提供を契機にして、ゆっくりと「人と音楽を作る喜び」を取り戻していったという。もちろんバンドマンとしての生理もそこにはあったと思うが、かつて彼がthe cabsの『再生の風景』に込めていた想いと同じく、家族と呼べる人との邂逅を求める気持ちが何よりも強かったのだろう。cinema staffの飯田瑞樹(Vo)、三島想平(Ba)のような古くからの盟友をはじめ、鎌野愛(Vo)をゲストに迎えるなどして、österreichはソロプロジェクトからバンドへと変貌し、音楽と活動を拡張していった。

そして2019年の秋、TK from 凛として時雨のゲストアクトとして初のライブを行なった。これが、österreichがバンドとしての実態と未来を提示したターニングポイントだったのは間違いないだろう。事実、先日リリースされたEP『四肢』は、この日のバンドメンバーを軸にして制作された作品だ。曲ごとにゲストボーカルを迎える柔軟な音楽広場でありながら、高橋と彼の音楽を囲む人々の強固な絆も、ここには刻まれている。三島想平(cinema staff / peelingwards)、飯田瑞規(cinema staff)、鎌野愛、佐藤航(Gecko&Tokage Parade)、GOTO(DALLJUB STEP CLUB)、須原杏に加えて、小林祐介(THE NOVEMBERS)、紺野メイ(あみのず)も参加。高橋の「これはバンドです」という言葉は、「バンド」を型ではなく、連鎖して繋がっていく人と人の関係、あるいは場所そのものだと捉える彼の価値観を表していると言ってもいい。なおかつ、音楽的にも概念的にもバンドの在り方が刷新されている今において、この在り方はむしろジャストだと言えるだろう。高橋が音楽を通して築きたい桃源郷とはなんなのか。österreichが存分に躍動し始めた理由とはどこにあるのか。全部語り尽くした。

本当にパーソナルなものだったらアップする必要なんてないのに、外に向けて発表して……ひとりで音楽を作れば作るほど、人を求めてるっていうことを強烈に自覚していくことになったんです。

―当初はSoundcloudや『東京喰種』への楽曲提供という形で楽曲を発表されていたösterreichですが、昨年の秋にTKさん(TK from 凛として時雨)のゲストアクトとして初めてライブをされて。あのライブでösterreichがバンドとして実態を持って、本格的に始動したと言って間違いないですか。

高橋:うん、俺もそういう感覚を持ってますね。

昨年秋の初ライブに引き続き、今年3月に行われたライブ

―では、ライブに出演された方々と新たなゲストとともに『四肢』という作品を作り上げた今、österreichの音楽とはどういうものだと思えてます?

高橋:それこそ最初はSoundcloudに曲を上げるだけのパーソナルなものだったので、österreichという名前にも意味を持たせてなかったんですよ。でも言われた通り、ライブをしたことでösterreichが具現化された実感があったんですね。であれば、その肉体をちゃんと動かしてみようと。その気持ちが『四肢』というタイトルになりました。俺のソロプロジェクトとは謳っていても、好きな人と一緒にライブをしたことでバンド的なメンタリティになったし、そのメンタリティを形にして残すことに意味があるのかなと思って。

高橋國光<br>österreich(おすとらいひ)<br>高橋國光(ex. the cabs)のソロプロジェクトとして始動。2015年、ゲストボーカルに鎌野愛(ex. ハイスイノナサ)を迎えてTVアニメ『東京喰種トーキョーグール√A』のオープニングテーマ“無能”を発表し、ゲーム『東京喰種 JAIL』にも主題歌“贅沢な骨”を楽曲提供。『東京喰種トーキョーグール:re』では第2期エンディングテーマとして“楽園の君”を書き下ろす。2019年10月には、TK from 凛として時雨のゲストアクトとして初のライブを行う。2020年6月には、飯田瑞規(cinema staff)、小林祐介(THE NOVEMBERS)、鎌野愛、紺野メイ(あみのず)、佐藤航(Gecko & Tokage Parade)、三島想平(cinema staff / peelingwards)、GOTO(DALLJUB STEP CLUB)、須原杏を迎えて制作された『四肢』をリリースした。
高橋國光
österreich(おすとらいひ)
高橋國光(ex. the cabs)のソロプロジェクトとして始動。2015年、ゲストボーカルに鎌野愛(ex. ハイスイノナサ)を迎えてTVアニメ『東京喰種トーキョーグール√A』のオープニングテーマ“無能”を発表し、ゲーム『東京喰種 JAIL』にも主題歌“贅沢な骨”を楽曲提供。『東京喰種トーキョーグール:re』では第2期エンディングテーマとして“楽園の君”を書き下ろす。2019年10月には、TK from 凛として時雨のゲストアクトとして初のライブを行う。2020年6月には、飯田瑞規(cinema staff)、小林祐介(THE NOVEMBERS)、鎌野愛、紺野メイ(あみのず)、佐藤航(Gecko & Tokage Parade)、三島想平(cinema staff / peelingwards)、GOTO(DALLJUB STEP CLUB)、須原杏を迎えて制作された『四肢』をリリースした。

―そもそも、パーソナルなものだった自分の音楽を人とともに鳴らそうと思えたのはどうしてだったんですか。

高橋:これはいろんなところでも話してるんですけどーー今のメンバーに集まってもらう前の頃、石田くん(石田スイ / 『東京喰種』の作者)と話している時に「今の(高橋の)状態を表す言葉って何?」って訊かれて。僕は「幻肢」って答えたんですね。その言葉に自分でも納得したというか……まさに自分を表す言葉だなあと思って。

―「After Sensation」とか「Phantom Pain」と言われるものですよね。たとえば、切断した体の一部分なのに触覚が残っていたり痛みを感じたりするっていう。

高橋:そう、本当はないものなのに、あるように感じて痛いっていう現象。だから『四肢』っていうのは、バンドメンバーが来てくれたことによって、本当はないのに「痛い」と思っていた部分を動かせるようになったっていうことなんです。

österreich『四肢』を聴く(Spotifyを開く

―つまり、高橋さんが「本当はないのにあると感じていた部分」とは、ひとりではなく人と一緒に音楽を鳴らす実感だったということ?

高橋:そうだと思います。やっぱり俺は元々バンドから始まった人間なので、どうしても誰かと一緒にやることを前提にして音楽が出てきちゃうんですよ(笑)。振り返ると、the cabsが終わってösterreichという名前がない頃も、ひとりで音楽を作り続けてたんです。で、本当にパーソナルなものだったらSoundcloudにアップする必要なんてないのに、結局は外に向けて発表して……ひとりで音楽を作れば作るほど、俺は人を求めてるっていうことを強烈に自覚していくことになったんです。

その矛盾と向き合うことが痛みになってたんだと思うし、それを「幻肢」と表現してたんでしょうね。で、自分の中の矛盾をスッキリさせられたのが、去年の初ライブだったのかもしれない。やっぱり人と一緒にやりたいんだっていうことを受け入れられたといいますか……もちろん、自分の中の痛みと言ってもたくさんあって複合的なものだと思うんですけど。

―実際の音楽と歌を聴いても、生きる上でのいろんな痛みを浄化させるように表現されてきた方だと感じるし、それはthe cabs時代から変わらない部分なんだろうなと思っていて。ただ、この『四肢』を聴いてみると、痛みを痛みのまま表現するだけじゃなく、もっと美しく彩ってもいいんじゃないかっていう発想が強くなっているように感じるんです。

高橋:ああー、はい。

―具体的に言えば、ギターの爆音じゃなく鍵盤とストリングスが主役になっている楽曲が多い点。それに伴ってメロディがしなやかになっている点に感じることなんですけど。自分で何か自覚的なものってあります?

高橋:まさに、俺は自分の中の痛みを音楽にしてきたところが間違いなくあって。でも今は……ちょっと疲れちゃったんだと思うんですよ。たとえばthe cabsは、3人とも脊髄反射で衝動的にやってたバンドで。だけど反射だけで鳴らすと、「痛い」っていう表現をした時に「痛い」が100%自分たちにも飛んできちゃって、衝動を捌き切れない感覚が大きくなっていって。だけど今は、「生きていく上で痛みがあったとして、それを騒ぎ立てる必要があるのか?」って思うようになった気がします。

―それはどうして生まれてきた感覚なんだと思います?

高橋:やっぱり、他者と関わることが増えたからだと思います。周りの人に助けてもらう経験が増えたのは圧倒的に大きいことで。まあ昔も助けてもらってたはずなんだけど、それを見たり実感したりする余裕すらなかったんですよね。で、結局the cabsはなくなって、底なしに落ち込んで……音楽なしで生きていくしかないってところまで一度は行ったんです。

それでも『東京喰種』をはじめとして俺の音楽を必要としてくれる人がいて。一度底まで行ったからこそ、人とともに音楽をやれる喜びを素直に感じられたんですよ。だとしたら、自分の痛みから始まる音楽なのは変わらなくても、ただ痛みを騒ぎ立てるだけじゃない音楽を作りたいと思ったんでしょうね。

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リリース情報

österreich『四肢』
österreich
『四肢』(CD)

2020年8月中旬より公式通販および一部CDショップにて販売予定
価格:2,200円(税込)
PMFL-0021

1. swandivemori
2. 映画
3. きみを連れてゆく
4. ずっととおくえ(CD盤先行収録曲)
5. 動物寓意譚

österreich『四肢』
österreich
『四肢』

2020年6月26日(金)配信

1. swandivemori
2. 映画
3. きみを連れてゆく
4. 動物寓意譚

プロフィール

österreich(おすとらいひ)

高橋國光(ex. the cabs)のソロプロジェクトとして始動。2015年、ゲストボーカルに鎌野愛(ex. ハイスイノナサ)を迎えてTVアニメ『東京喰種トーキョーグール√A』のオープニングテーマ“無能”を発表し、ゲーム『東京喰種 JAIL』にも主題歌“贅沢な骨”を楽曲提供。『東京喰種トーキョーグール:re』では第2期エンディングテーマとして“楽園の君”を書き下ろす。2019年10月には、TK from 凛として時雨のゲストアクトとして初のライブを行う。2020年6月には、飯田瑞規(cinema staff)、小林祐介(THE NOVEMBERS)、鎌野愛、紺野メイ(あみのず)、佐藤航(Gecko & Tokage Parade)、三島想平(cinema staff / peelingwards)、GOTO(DALLJUB STEP CLUB)、須原杏を迎えて制作された『四肢』をリリース。

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