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能町みね子が『ヨコトリ』で考えた、わからない物事との対峙

能町みね子が『ヨコトリ』で考えた、わからない物事との対峙

『ヨコハマトリエンナーレ2020 「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」』
インタビュー・テキスト
松井友里
撮影:前田立 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

簡単にタイトルをつけたり、パッケージングしたくないと、なにを書いていても思います。

個人の生を他者が規定したり、出来合いの言葉で語ることの暴力性について思いを巡らせたのは、コロンビアに出自を持ち、フィリピンとも縁の深いインティ・ゲレロがキュレーションした「熱帯と銀河のための研究所」。石内都、ポール・ジャクレーら横浜美術館の所蔵作品と、招待作家による作品で構成されたこちらの展示では、アメリカの軍事的影響下にある日本を含む太平洋地域やミクロネシア地域における、支配者と被支配者の関係性が浮かび上がるような作品群が展示されている。

能町:支配 / 被支配の関係がある中で、被支配者はもちろん、誰からも支配されないことが絶対に望ましいのですが、例えば米軍の人と結婚したことによって産まれた子どもがいたり、すべてが解きほぐしづらいぐらいに有機的に絡み合っている状況があると感じました。「支配 / 被支配の関係を絶対に是正すべきだ」とか「米軍があることによって世界はうまくいっている」というのは、どちらも高所から見た意見で。

一方で今回展示されていた作品は、起こっていることとの目線がすごく近いなと思ったんです。だから部外者が高いところから見て、意見を言うことについて、すごく突きつけられるものがありました。私もこんなに冷房の効いた部屋で、あの作品たちが提示していることについて考えようとしているけれど、私は「現場」を見たことがないし、今後も多分見ることはない。なにか偉そうにものを言うときには、現場のことを考えなきゃいけないというのは常に思っていることで。個人の事情に分け入った先にあるものを、無視しちゃいけないと思うんです。

インゲラ・イルマン『ジャイアント・ホグウィード』2016年(2020年再制作)©Ingela Ihrman。同室に、インティ・ゲレロがキュレーションした「熱帯と銀河のための研究所」も展示されている。
インゲラ・イルマン『ジャイアント・ホグウィード』2016年(2020年再制作)©Ingela Ihrman。同室に、インティ・ゲレロがキュレーションした「熱帯と銀河のための研究所」も展示されている(参考:Licaxxxとなみちえが『ヨコトリ』を通して向き合う「毒的」なもの)。

―「現場」の側にしかわからない事情や思いの複雑さを、単純化せず複雑なまま提示するようなあり方は能町さんが書かれているものにも共通しているように感じます。

能町:簡単にタイトルをつけたり、パッケージングしたくないと、なにを書いていても思います。大きなメディアや、なにも知らない部外者は「このタイトルの人はこういう人」とか「この人はこの箱にとりあえず入れておきましょう」とレッテルを貼るようなことをやらないと落ち着かないからやってしまうんですよね。

私自身もそういうことをしている場面があると思いますし、理解するために補助線を引かざるを得ないことはあると思いますけど、当事者はその安易なジャンル分けに、抵抗しなきゃいけないと思うんです。「そんなに簡単なことじゃないんだ」って、たくさんの要素を見せながら話していかなければいけない。最近、遠くから意見を言いたがるカルチャーがすごくある気がしていて。

ラス・リグタス『プラネット・ブルー』2020年
ラス・リグタス『プラネット・ブルー』2020年
ラス・リグタス『プラネット・ブルー』2020年

―最近のSNSはまさにそういう状況にありますね。

能町:常に遠くから見ているばかりじゃなくて、自分もなんらかの当事者であるということをきちんと感じてみてほしいなと思います。自分自身が当事者であることを忘れてしまうと、物事を単純化してしまいがちだし、自分はモニターの向こう側から意見を言うだけの存在だと勘違いしてしまうと思うんです。

それと同時に、簡単に誰かに賛同しないようにしないといけないなと、いつも考えています。ずっと支持してきた人であっても、ときには疑ってみたほうがいいし、誰かを神様のように絶対的に信頼しないほうがいいと思っています。

ファーミング・アーキテクツ 『空間の連立』 2020年
ファーミング・アーキテクツ 『空間の連立』 2020年

―自分の当事者性を引き受けながら思考を続けていく感覚は、まさにラクスが言うところの「独学」だと思いますし、今回の展示全体に通底していたと思います。

能町:私は、展示を観ながら作品そのものから離れて、会場に来ている人たちのことも気になっていて。みんな、トリエンナーレや美術展になにを求めて来ているんだろう? と思ったんです。横浜美術館に入ってすぐ、今回のトリエンナーレのタイトルが書かれたボードがあって、そこで写真を撮っている人たちが結構いましたが、一方で私は普段から美術展に行ってもそうした写真を撮らないし、Instagramにもアップしない。

じゃあいつもなにをしに行っているのかと考えてみると、見たことがないものを見て、新たな経験や発見をしたいという気持ちが第一にあるんじゃないかと思うんです。でも、経験や発見をしたと感じるためには、ある程度腹落ちしなきゃいけないので、今回はすっきりと「わかった」と思えない分、いったん立ち止まってしまう。そうした感覚そのものが、今回の『ヨコハマトリエンナーレ2020』を通じた新しい経験であるように感じました。

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イベント情報

『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」』

2020年7月17日(金)~10月11日(日)
会場:神奈川県 みなとみらい 横浜美術館、プロット48
時間:10:00~18:00(10月11日は20:00まで、10月2日、10月3日、10月8日~10月10日は21:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休場日:木曜(10月8日は開場)
チケット:チケットは、日時指定の予約制です。
料金など詳細は下記をご覧ください。

プロフィール

能町みね子(のうまち みねこ)

北海道出身。近著『雑誌の人格(全3巻)』(共に文化出版局)、『結婚の奴』(平凡社)、『逃北』『言葉尻とらえ隊』(文春文庫)、『ときめかない日記』(幻冬舎文庫)など。ほか雑誌連載多数、テレビ・ラジオにも出演。

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