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坂口恭平の権力への抵抗。音楽は記憶を思い出させ人を治療する

坂口恭平の権力への抵抗。音楽は記憶を思い出させ人を治療する

坂口恭平『永遠に頭上に』
インタビュー
九龍ジョー
撮影:廣田達也 編集・テキスト:山元翔一(CINRA.NET編集部) 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

『永遠に頭上に』は人員配置に命をかけた。参加者への指示と演出はゼロ

九龍:今回もまた寺尾紗穂さんのコーラスが素晴らしいですが、仕上がりに何かおっしゃってました?

坂口:もともと寺尾さんはね、この2年間会うたびに「あの音源を早く出せ」ってずーっと言ってたの。「何であれを出さないの?」って言うんだけど、俺は「なんか違うんだよね」って感じで。

九龍:2年前に録ってたけど?

坂口:そう。寺尾さんは、“飛行場”も“松ばやし”も“霧”も大好きなわけ。“TRAIN-TRAIN”も2012年にDOMMUNEで俺が初めて歌ったときに寺尾さんは聴いてたんだけど、「あの歌をどうやって作ったの?」って言ったからね。知らないわけよ、“TRAIN-TRAIN”(THE BLUE HEARTS、1988年)を。

長距離の移動時にも肌身離さない愛用のギター
長距離の移動時にも肌身離さない愛用のギター

九龍:知らないのも逆に難しいと思うけど(笑)、むしろその感覚の捉え方に寺尾さん独特の鋭さがあるね。

坂口:一人で泣いてて「どうした?」っつったら、「“TRAIN-TRAIN”ってすごいいい歌だね」って。でもさ、もう俺は彼女の耳は信用してるし、この人は売れるとか売れないとかじゃなくて、歌としてすごいときに反応するってわかってるからね。

坂口恭平“TRAIN-TRAIN”を聞く(Apple Musicはこちら

九龍:<本当の声を聞かせてくれよ>とか、“TRAIN-TRAIN”って時代性もそうだけど、今、「いのっちの電話」をやってる坂口恭平が歌うことで響き方が全然変わりますね。

坂口:そうね、また違う。今回コロナになって、「一応、昔録った音源も聴いとくか」みたいな感じで聴き直したわけよ。今までは全然出す気なかったのに、えらい音が入ってたわけ。「これどういうことだろう?」と思って、平川さん(レーベル担当)に送ったの。

九龍:アルバムを録るときには、寺尾さん、菅沼さん(ドラムの菅沼雄太)、厚海くん(ベースの厚海義朗)っていうミュージシャンたちとコミュニケーションがあるじゃないですか。坂口恭平の場合、あまり共同作業のイメージが浮かばないんだけど、どんなふうに進めるんですか。

坂口:今回、指示ゼロ!

九龍:もう好きにやってくださいって感じ?

坂口:「無駄なことはしないでくれ」って言った。それぞれの持てる力をわかってるから、もう俺は人員配置だけに命かけてる。

坂口恭平『永遠に頭上に』ジャケット
坂口恭平『永遠に頭上に』ジャケット(Amazonで見る

九龍:声をかけた時点で指示はすべて済んでるわけだ。“松ばやし”のミュージックビデオもよかったよね。

坂口: 15年前の京都精華大学の教え子が映像作家になったから録ってもらって。

九龍:ちょっと『方丈記』のような趣きもある。鴨長明も音楽を嗜んだっていうし。

坂口:これも演出ゼロ、指示ゼロだからね。

音楽は記憶を思い出させる唯一の鍵

九龍:坂口恭平って表向きは「どこか人懐っこい人」っていうふうに見てる人もいるかもしれないけど、最終的には「人間なんていなくていい」みたいなビジョンがあるじゃないですか。

坂口:執着がないからね。そもそも「人を助けたい」って概念じゃないから。みんな真面目に特待生の野球部やっちゃってんだから、俺は記憶の洪水で溺れさせたいわけよ。運動場をむちゃくちゃにすればいいっていう発想よ。

だから「いのっちの電話」にかけてくる全員に言ってるのは、「会社を今すぐ辞めろ」ってことだけだから。で、俺が代わりに会社に「あの、兄ですけど」って電話しちゃってんだから。

坂口恭平『苦しい時は電話して』講談社(2020年)
坂口恭平『苦しい時は電話して』講談社(2020年)(Amazonで見る

九龍:三文芝居(笑)。今そういう代行業、仕事でやってる人もいるんだよ。

坂口:あ、本当に? 結局、『日本昔ばなし』的には、いじわるじいさんが全部これを金にしようとするっていう。

九龍:で、バチが当たる。たしかにみんな「思いだせ」って(笑)。でもお金も貰わずにそこまで世話を焼く人もなかなかいないと思うよ。

坂口:その時に、常に立ち返るのが音楽で。なぜならば、音楽の記憶だけは消えないから。「土に戻ろう」ってのも、俺らの中で何の記憶もないわけ。しかし音楽によって、土とコミュニケーションを取ってた記憶を思い出させることができる。音楽は唯一の鍵だから、その音楽を元に俺は活動しているのかもしれない。

九龍:音楽の重要度、かなり高いね。

坂口:でもだって4歳のときに作った<♪こばやん、こばややややん>をこばやんが覚えてるわけだから。

九龍:親友の小林くんを励ますために作った歌ね。このエピソードについては、僕が編集した坂口恭平の『幻年時代』(2013年)を読んでほしいところだけど。

坂口恭平『幻年時代』幻冬舎
坂口恭平『幻年時代』幻冬舎(Amazonで見る

坂口:30年ぶり会ったやつがそんなの覚えてないでしょ、普通。そいつがメロディーを覚えちゃってるわけだから。「半端ねえな、音楽」って思ったわけよ。歌詞さえあれば、旋律思い出すってもうやばいじゃん。

九龍:でも確かに、子供のときに歌ってた童謡とか校歌とか、案外すぐ歌えたりするもんね。

坂口:俺、そういうことをやろうとしてるからね。今の勝負じゃないし、もう死後ぐらいのイメージ。死後、絶対聴かれるだろうっていう。もう膨大な数の音源をちゃんと残しちゃってんだからさ。

坂口恭平
坂口恭平『永遠に頭上に』を聴く(Apple Musicはこちら

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リリース情報

『永遠に頭上に』
坂口恭平
『永遠に頭上に』

2020年9月9日(水)発売
料金:2,200円(税込)
PECF-1181

1. 飛行場
2. 松ばやし
3. 霧
4. 露草
5. TRAIN-TRAIN
6. 海底の修羅

プロフィール

坂口恭平
坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。2011年5月10日には、福島第一原子力発電所事故後の政府の対応に疑問を抱き、自ら新政府初代内閣総理大臣を名乗り、新政府を樹立した。
躁鬱病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。2012年、路上生活者の考察に関して第2回吉阪隆正賞受賞。2014年、『幻年時代』で第35回熊日出版文化賞受賞、『徘徊タクシー』が第27回三島由紀夫賞候補となる。2016年に、『家族の哲学』が第57回熊日文学賞を受賞した。現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。近刊に『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。

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