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谷口彩子らが作曲家座談会 職人性と作家性で異なるスタンス

谷口彩子らが作曲家座談会 職人性と作家性で異なるスタンス

Ayako Taniguchi『obsess』
インタビュー・テキスト
小室敬幸
撮影:前田立 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

音楽が音楽として聴かれる――。当たり前だと思われるかもしれないが、それは音楽が主役の場合に限られる。映画やドラマのサウンドトラックであれば、まだ音楽にも注目が集まることがあるが、わずか数十秒から長くても数分ほどしかない「広告音楽」では、単独で話題になることが滅多にない。

だが、音楽としては非常に高度かつ、職人性が要求されるシビアなジャンルだということを勘違いしてはいけない。テレビや動画サイトで流れるCM(コマーシャル・メッセージ)において、その商品や企業がどんな価値を視聴者にもたらしてくれるのか? 視覚情報だけでは伝えきれない、イメージや感情を何倍にも膨らませて、直観的に伝えてくれるのが広告音楽なのである。

この分野で活躍する作曲家たちは、クライアントからの要望に的確に対応し、厳しい納期にもめげずクオリティーの高い音楽を、日夜しのぎを削りながら生み出し続けている。その名前は一般に知られていなくても、日本の音楽業界を牽引する作曲家ばかりなのだ。

Ayako Taniguchi(谷口彩子)は近年、Google、SONY、SEIKOといった世界的企業のCMから、日本の職人技や伝統をPRする動画まで、広告音楽の最前線で活躍する作曲家のひとりだ。彼女が10月1日にリリースしたアルバム『obsess』は、広告音楽などのクライアントワークをまとめ直したものではなく、全曲書き下ろしという意欲作。クライアントワークでも印象的な谷口らしいピアノのサウンドは健在だが、冒頭のトラックから信じ難いほどの音数に埋もれていく快感は、作家性が発揮されたオリジナルアルバムならではと言える。この独創的なアルバムの魅力についてはもちろん、クライアントワークにおける職人性とオリジナルアルバムにおける作家性はどうバランスがとられているのか? 彼女と仲のよい作曲家である小野雄紀、カンガルー鈴木、no.9・城隆之、原田亮の4名と谷口本人に、たっぷりと語ってもらった。

ひとつの道で食べていく、取り憑かれたようにひとつにのめり込む人生への敬意

―クライアントワークでも今回のアルバムでも、ピアノの音色を中心にしつつ、打ち込みっぽい要素と生演奏っぽい要素が混じり合っているのが、谷口さんの個性であり魅力だと感じているのですが、このスタイルはどのように生まれたのでしょうか?

谷口:もともと小さい頃からクラシックを勉強していたんです(※相愛大学 音楽学部の器楽学科 創作演奏専攻を卒業している)。10年前ぐらいからパソコンで音楽制作をはじめてみたら、楽譜を書いて生演奏してもらうのとは違う、機械ならではの面白さが意外としっくりきたんですね。でも、いわゆる電子音楽は今まで自分がやってきたこととも違うし、そこまでのめり込めなかった……。だから作曲の手法と音色は自分がつちかってきたものを使いつつも、生演奏だけではできない音楽を作るようになったんです。

左から:カンガルー鈴木、小野雄紀、Ayako Taniguchi(谷口彩子)、原田亮、城隆之(no.9)
左から:カンガルー鈴木、小野雄紀、Ayako Taniguchi(谷口彩子)、原田亮、城隆之(no.9)

―普段はクライアントからの依頼内容にもとづいて作曲されているわけですけれど、今回のような自身名義のアルバムの場合は、先にコンセプトを決められるのですか?

谷口:レーベルプロデューサーの城さん(no.9の城隆之)から「アルバムを自由に作ってください」とお話をいただいたんですけど、制作をはじめた昨年の春の時点では、作りたいものを作り、演奏して欲しい友人に参加してもらおうと思ったぐらいで、特にコンセプトは決めていませんでした。でも、それから1年のあいだ、世の中で災害とか悲しい出来事が色々あって……。今年4月にリリースを予定していたらコロナが蔓延し、発売を延期して……。決して心が休まるような音楽ばかりではないんですけれど、アルバムができあがってみると、後づけではありますが、聴いた後に浄化されるような気持ちになってもらえたらなと思うようになりましたね。

―心が休まるような音楽ばかりではないというのは、アルバムのタイトル「obsess(取り憑く、妄想する、夢中になる)」にも表れていますね。

谷口:今日集まった作曲家のみなさんもそうだと思うんですけど、なにか一本で食べていくとか、仕事じゃなくてもなにかに取り憑かれたようにのめり込む人生ってすごい素敵だなと思うんです。特に今回、演奏してくれた友人たちは、小さい頃から楽器を習い始め、それ一本で生きているという人生がめちゃくちゃ格好いいなと思っていて! そこに対する憧れと尊敬があったからこそ、このタイトルをつけました。

Ayako Taniguchi(あやこ たにぐち)<br>3歳よりピアノ、6歳より作曲を習い始める。滋賀県立石山高等学校音楽科ピアノ専攻を経て、相愛大学音楽学部器楽学科創作演奏専攻卒業。現在、クラシックの演奏家への作・編曲、WEBや映像作品、インスタレーション等の楽曲制作を中心に活動。作品では和声や対位法を基礎とするクラシカルな手法と、ミニマル的多重ピアノなどの機械的要素を併せた、独自の世界観を作り出す。
Ayako Taniguchi(あやこ たにぐち)
3歳よりピアノ、6歳より作曲を習い始める。滋賀県立石山高等学校音楽科ピアノ専攻を経て、相愛大学音楽学部器楽学科創作演奏専攻卒業。現在、クラシックの演奏家への作・編曲、WEBや映像作品、インスタレーション等の楽曲制作を中心に活動。作品では和声や対位法を基礎とするクラシカルな手法と、ミニマル的多重ピアノなどの機械的要素を併せた、独自の世界観を作り出す。
Ayako Taniguchiが音楽を手掛けたセイコープレザージュ『本物は手から生まれる』

―タイトルと言えば、1曲目の“0094 - f moll”から最後まで、すべてのトラックが数字4桁とドイツ語による調性(Key)だけのタイトルというのも新鮮でした。

谷口:クラシック音楽系の方はわかると思うんですけれど、タイトルに意味づけする標題をつけなかったりしますよね。作品番号と調性が重要。

―ベートーベンが活躍した古典派ぐらいまでの時代(~1820年代)は「ピアノ・ソナタ第1番 ヘ短調 Op. 2」……みたいなタイトルのつけ方が主流でしたし、20世紀以降でもミニマルのスティーヴ・ライヒとかが即物的なタイトルを好んでいますよね。

谷口:ピアノの練習をするときも先生に「情景は自分で想像しなさい!」と言われながら育ったんです。情景をこちらから提示するより、聴いた人が自由に想像してほしいという思いがあるから、標題的なタイトルをつけたくなくて。じゃあ、記号的なものってなんだろうと考えてみると、いつも作曲するときにファイル名をつけているんですね。今まではOp.(オーパス / 作品番号)の代わりにイニシャルのATと、数字4桁をつけていたんですけど、今回はATも取ってしまいました。でも調性は、すごく大事なものだと思っているので載せたいし、載せないと自分も区別がつかなくなる(笑)。アルバムの曲順を決めるときも、曲調だけでなく、何調のあとに何調が来るのか、調性をみながら決めました。

Ayako Taniguchi『Obsess』を聴く(Apple Musicはこちら

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リリース情報

Ayako Taniguchi
『obsess』(CD)

2020年10月1日(木)発売
価格:2,750円(税込)
SAM002

1. 0094 - f moll
2. 0100 - c moll
3. 0103 - e moll
4. 0098 - G dur
5. 0090 - cis moll
6. 0086 - Des dur
7. 0092 - es moll
8. 0095 - As dur
9. 0107 - b moll
10. 0088 - F dur
11. 0109 - g moll

サービス情報

Steve* Music by Steve* inc.
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Steve* Music by steveinc.jpは、シンプルに、ミニマルに、ポジティブに。をテーマに、音楽の本質と向き合っていくことを目指した音楽レーベルです。

Steve* inc.

ブランディングや商品開発を、その瞬間だけではなく「未来にどのような影響を与えるか」を考えてお客様と共に併走することを目指すクリエイティブカンパニー。時代の潮流を研究し続けながら、長期的な企業成長を共に考えるクリエイティブパートナーとして、多くのお客様からすでに信頼を得始めています。音楽レーベル「Steve* Music」空間デザインレーベル「Steve* House」も展開。

プロフィール

Ayako Taniguchi(あやこ たにぐち)

3歳よりピアノ、6歳より作曲を習い始める。滋賀県立石山高等学校音楽科ピアノ専攻を経て、相愛大学音楽学部器楽学科創作演奏専攻卒業。現在、クラシックの演奏家への作・編曲、WEBや映像作品、インスタレーション等の楽曲制作を中心に活動。作品では和声や対位法を基礎とするクラシカルな手法と、ミニマル的多重ピアノなどの機械的要素を併せた、独自の世界観を作り出す。

カンガルー鈴木(かんがるーすずき)

1977年生まれ。2005年フリーの作曲家としてデビュー、CM・TVなどの番組・広告音楽に携わって早15年。日テレ「ストレイトニュース」NHK「プレシャスブルーシリーズ」等。自由に音楽で遊ぶレーベル「ガルラボ!」を主催。

小野雄紀(おの ゆうき)

作編曲家/音楽プロデューサー。岩手県出身。5歳よりクラシックピアノを学び、大星美子、藤井一興、有森博の各氏に師事。2001年よりNutopia Productionsとして活動、2枚のアルバムをリリース。2003年に渡米し、現地の様々なクライアントへ楽曲を提供。帰国後はCMを中心に、映画・舞台・テレビ番組・ゲーム・インスタレーションなど、制作する音楽はメディアを問わない。CANNE LIONS、D&AD、CLIO、THE ONE SHOWなど、受賞歴多数。株式会社ワンダラス主宰。

原田亮(はらだ りょう)

音楽を中心としたクリエイティブ・プロダクション、ラダ・プロダクション代表取締役。タワーレコードにてbounce.com、ナップスタージャパンなどの編集、企画制作職を経て独立。SONY、YAMAHA、日清フーズなどのCM音楽、インタラクティブ展示といった広告音楽を手がけたほか、近年は自社レーベル部門を立ち上げ、アナログレコードから配信音源までの制作、プロデュースも行う。

no.9 / 城隆之(なんばーないん / じょう たかゆき)

音楽レーベルSteve* Music エグゼクティブ・プロデューサー。「音と共に暮らす」をテーマに、日々の暮らしに寄り添う豊かでメロディアスな楽曲を生み出すソロプロジェクト「no.9」として活動。広告や映画音楽を生業にしながらもアーティスト活動も並行して継続。2007年より始動したバンドセット「no.9 orchestra」では、no.9の音楽にギターやドラム、ヴァイオリンやピアノといったフィジカルな音楽性が加味され、フルオーケストラを想起させる壮大なライブパフォーマンスを披露している。

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