インタビュー

入江陽×柴田聡子 配信のドラマから感じる、フィクションの功罪

入江陽×柴田聡子 配信のドラマから感じる、フィクションの功罪

インタビュー・テキスト
松井友里
撮影:上澤友香 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

動画配信サービスをこよなく愛する入江陽と柴田聡子が、お気に入りの配信作品について気ままに語りつくす連載企画「2人は配信ヘッズ」。第2回目となる今回のテーマは「ドラマ」。

配信サービスオリジナルの良質なドラマ作品が百花繚乱の様相を呈する昨今だが、優れたフィクションは、その只中をくぐり抜けた人を、ときに後戻りできないほど変えてしまう力を持つもの。映像を通して物語を見せる技術が成熟し、大量の作品を受容できる現在において、視聴者はいかにフィクションと向き合うべきか、誰にでも起こりうる人生の転機を確かな手つきで描き、穏やかな希望の予感を感じさせる2本のヒューマンドラマについて話しながら考えた。

裏を読むのが要求される時代。素直な表現が心に刺さる『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』

―今回は「ドラマ」を題材にお話できればと思います。前回紹介した『クイーンズ・ギャンビット』『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』など最近は配信サービスオリジナルのドラマ作品が非常に充実していますね。

柴田:配信サービスに加入してから、海外ドラマをごりごりと見るようになりました。昔は、『フルハウス』とか『アルフ』『24 -TWENTY FOUR-』くらいしか見ていなかったけど。

入江:自分は「『24 -TWENTY FOUR-』が超面白い!」みたいな宣伝のカモになって、まんまとレンタルビデオ屋に借りに行って一気見した記憶があります。

左から:入江陽、柴田聡子
左から:入江陽、柴田聡子

柴田:あと子どもの頃は、『X-ファイル』の全盛期だった。B'zの“LOVE PHANTOM”がなぜかテーマ曲になっていて、お遊戯会で流れる音楽も“LOVE PHANTOM”だったくらい、『X-ファイル』が流行りまくってた(笑)。

入江:そういう伝説的な名作から海外ドラマにはまっていくパターンって王道ですよね。

柴田:昔は見られる作品が限られていたから、めちゃめちゃ面白い作品しか日本に入ってこなくて、見る作品すべてが当たりでしたね。

―前回も出ていた話ですけど、最近は全体の作品数が多い分、素晴らしい作品も増えたけれど、数多ある中から探さなければいけないという贅沢な悩みがありますよね。この連載もその手助けになったらなによりですが、そんななかで、今回おすすめしたいドラマとしてあげていただいた1本目が『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』ですね。

『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』予告編
主人公のピアソン夫妻と三つ子の物語が、いくつかの時間軸で語られる人間群像劇。

入江:親子とか恋愛とか仕事とか、人生の中で多くの人がぶつかる普遍的なテーマにストレートに向き合っていて、すごく感動した作品です。

柴田:入江さんから勧めてもらって見たら、最高でした。36歳ってあまり主人公にならない年齢だと思うんですよ。「28歳の葛藤」とか「19歳の葛藤」とか「45歳の葛藤」とかは結構描かれてきた気がするんですけど、36歳ってちょうどその間の年齢な気がして。

入江:ちょっと地味な年齢なんですよね。ドラマを見るうえで年齢は関係ないけれど、自分がいま33歳で、柴田さんも同世代だから、より刺さるんじゃないかなと思ったんです。

入江陽(いりえ よう)<br>1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。
入江陽(いりえ よう)
1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。

柴田:自分たちって、本当に地味なことを日々考えて生きている年頃なんですよね。結婚したり、子どもができたり、親が年老いてきたり、保険に入ったり、貯金について考えたり……。

入江:生活リズムとか、食事とか、地味なことに向き合う感じになってきますよね。「健康診断行ったほうがいいのかな?」とか。

柴田:このドラマで描かれているのも、誰にでも起こりうる実生活の問題なんですよね。そのエキセントリックじゃない平凡さが、逆にすごく刺激的で。地味な生活こそ、謎や魅力に包まれているなと、あらためて思いました。最近、ひねくれていない、素直な言葉がめちゃくちゃ響くんですよ。裏の裏の裏などを読むことが賢いとされる世の中ですが、「大丈夫だよ」とか「生きているのは悪くないよ」みたいな、素直な励ましや、希望を持たせてくれる言葉に対して、「本当にその通りだな」と思えるようになって。

入江:いまって特に、全員が多かれ少なかれコロナによってダメージを受けているから、逆張りができなくなった気はするんですよね。逆張りするような意見を聞いても「いやあ、いまは無理だろう」みたいな気持ちになるというか。

柴田:確かにそういう面もあるかもしれない。そんな「普通」流行りの自分にすごく刺さった作品でした。

柴田聡子(しばた さとこ)<br>1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。3月24日、『がんばれ!メロディー』が2LP、45rpm、Wジャケットの豪華仕様で発売決定。
柴田聡子(しばた さとこ)
1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。3月24日、『がんばれ!メロディー』が2LP、45rpm、Wジャケットの豪華仕様で発売決定。

―企画・脚本・製作総指揮のダン・フォーゲルマンは、『ボルト』や『塔の上のラプンツェル』といったディズニー / ピクサー作品の脚本に関わっているんですよね。

柴田:すごいものを作る人は、すごいものを作り続けるんだな。前回の話を引き継ぐと、「ここを見ないと進めないのか……」的な我慢の1話じゃなく、面白い1話目でしたよね。

入江:ちょっと意外な秘密が1話でわかっちゃうから、このあとどうやって続くのかな、と思うんだけど、ちゃんとそのあとも面白くなっていくんですよね。こういう奇をてらわない人間ドラマの名作って何度でも見られていいなと思います。

話が少し飛びますけど、親しい関係の人に自分がいいと思った作品をおすすめして、一緒に見るのって楽しくないですか? 2回目だから、先の展開をわかっているがゆえのほくほくした顔で見て、「ね、いいって言っただろ?」みたいなちょっと強気な態度になっちゃって。相手からしたらちょっとうざいかなと思いつつなんですけど(笑)。

柴田:その人とコミュニケーションしたいがゆえの、好きの押し付けみたいなことはしちゃうかも。それをされる側も意外と嬉しいような気もする。だからおすすめの親密なコミュニケーションの1つとして、意外といいかもしれないですよね。

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連載情報

『2人は配信ヘッズ』

シンガーソングライターの入江陽と柴田聡子が、自身の気になる配信動画サービスの作品を語り合う。話題が逸れたり、膨らんだりするのも自由きままな、読むラジオのような放談企画。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。最新曲は“週末[202009]”。

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。また、2016年に上梓した初の詩集『さばーく』では現代詩の新人賞を受賞。雑誌『文學界』でコラムを連載しており、歌詞にとどまらない独特な言葉の力が注目を集めている。2017年にはNHKのドラマ『許さないという暴力について考えろ』に主人公の姉役として出演するなど、その表現は形態を選ばない。2020年7月3日、4曲入りEP『スロー・イン』をリリース。2021年3月24日、『がんばれ!メロディー』アナログ盤の発売が決定している。

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