インタビュー

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/04/26

いま、取り繕わない裸の音の姿を聴かせる胸の内

―君島さんの音楽の根底にあるのがとても即興的、流動的なものであることはライブを観てもすごく理解できるんですけど、それを今回のようにレコーディング作品としてパッケージングするのって、すごくアンビバレントな行為でもあると思うんです。

君島:はい、はい。

―そこは君島さんのなかで、どういうふうに落としどころを見つけていくものなんですか?

君島:そうですね……録るときに、あまり気を張らないようにしました(笑)。

―なるほど(笑)。

君島:たとえば1曲目の“光暈(halo)”はギターを録ったあとから声を重ねているんですけど、「いいギター録れたな」と思って、そのままのテンションで歌った仮歌をほぼ採用しているんです。

「いつか本チャンを録ろう」と思っているうちに、その仮歌が一番いいような気がしてきて、「これをよしとしよう」みたいな(笑)。聴こえる音が少ないからか、つくっている間は、ずっと自分の裸を見ているような感じがしました。いままでの作品は、裸を隠して隠して、いろんな装備を重ねていくけど、どこかの点でそれが裏返ってめちゃくちゃ裸が見える、みたいな感じだったと思ってて。

君島大空“光暈(halo)”を聴く(Apple Musicはこちら

君島大空“笑止”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

君島:それはそれですごく自然な行為ではあったんですよね。裸を隠すのは自然なことだし、そのうえで、底のほうに隠したはずの裸の自分がいつの間にか浮き出てくるって状態をいままではつくっていたような気がする、でも今回は「まあ、いいじゃん」って(笑)。

好きなときに録って、好きなときに聴いて、聴きたくないときは聴かなくてもいいしって感じで、いろんなことをOKにしていった感じがありました。時間も切迫していなかったし、ゆるっとつくった感じはありますね。それこそ初めてのデモCDは2日間くらいでパッとつくったんですけど、いまあらためて、そういうことをしたかったんだろうなと思います。

―『袖の汀』を初めて聴かせてもらったとき、いまの君島さんからこういう穏やかな音楽が生まれてきたことにすごく驚いたと同時に、嬉しかったんです。いま、君島さんがこの作品を出していいと思えているのなら、それはなんというか、すごくいいなあって(笑)。

君島:(笑)……でも、そうなんですよね、「出していい」と思えている。いま、音楽に対する感情や感覚が、すごくいいなと思えているんです。去年の年末辺りから、風通しがすごくよくなっている感じがしていて。

君島大空

―具体的に、どんな変化を感じていますか?

君島:……ぼくは性格的に、大切にしている感覚や景色を抱きしめ過ぎてしまうところがあると思うんですけど。でも、そんなに抱きしめていなくても、誰もそれを奪いにはこないという当たり前のことに気づいたんですよね。パッと手を放しても、自分の大切なものはずっとそこにあるから、そして力を入れ過ぎると、形を歪めてしまうこともあるから、いたずらに力む必要はないんじゃないかなって、最近思います。

実際に誰かにそう言われたわけではないんですけど、耳元で誰かにそんなことを言われたような気がしたんですよね。で、「あ、本当にそうかも」って。去年の終わりくらいからずっと、自分の内側でそういう話をしていたような気がします。

君島大空“星の降るひと”を聴く(Apple Musicはこちら

「ここからもう一度はじめられるのかな、自分は」――ずっと大事にしてきたガットギターの響きに改めて立ち返った理由

―そもそもの話なんですけど、君島さんはなぜガットギターを使うんですか?

君島:小さい頃に家にあったガットをずっと使っているんですけど、それがすごくよくて。フォークギターも同じくらい弾いていたはずなんですけど、でも、(ガットギターは)すごく体に近い感じがしたんです。力を必要としない感じというか、ガットの音って独り言っぽいんですよね。

人に伝えようとしているような、していないような、どちらともつかない感じがあるし、部屋で弾いてると、自分の代わりになにか言ってくれるような感じがある。弾いていると、寂しくなかったんです。「温かい」というより、「寂しくない」。音が体から出てきてくれている感じがすごくする。ガットギターの音が、楽器のなかで一番好きかもしれないです。

―昔から同じガットギターを使っているんですね。

君島:そうですね。録音も全部それです。気づいたら、いま使っているガットギターは代わりが見つからないものになっていました。ずっと弾いているから、自分の体にすごく合ってきているんですよ。「こうだよね?」「そうだよ」って、こっちが思った音でそのまま鳴ってくれるので、一度壊れたことがあるんですけど、同じものを直しながらずっと使っているんです。

―『午後の反射光』以前にデモ音源をつくっていた頃に近いという話でしたけど、制作中の感覚みたいなものも近かったですか?

君島:もちろん、違う感じもありました。デモCDをつくっていた当時は、とにかく曲を録ることができればよかったから、バッと録ってバッと混ぜてOK、みたいな感じだったけど、その頃に比べたら、いまの自分は聴こえるものが増えている。

だから、音が少ないぶん、疲れましたね。ずっと自分の声がすぐそこで鳴っている感じで、それに対して自分で「はい、ちゃんと聴きます」って応え続けるみたいな。疲れたけど、全く悪い疲れではない感じがしました。

……でも、やっぱり「変わった」というより、「戻ってきた」という感覚のほうが強いかもしれないです。『午後の反射光』をつくって、『縫層』をつくって、人の作品に参加したりバンドをやったり、ひとりでライブをしたりしてきて、また最初に戻ってきた感覚がある。「ここからもう一度はじめられるのかな、自分は」って思えているというか。

君島大空

―循環しているものが、一周して戻ってきた感じですか。

君島:そう、大きな循環。そのゼロのところに戻ってきた感じがします。

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リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

君島大空
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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