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ボカロ文化の歴史を次世代に繋ぐ試み 『プロジェクトセカイ』鼎談

ボカロ文化の歴史を次世代に繋ぐ試み 『プロジェクトセカイ』鼎談

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:前田立 編集:久野剛士

「muzie」を利用していた2人が時代を経て出会った。ボカロの世界

―近藤さんはボカロカルチャーとどんな風にして出会ったんでしょうか?

近藤:僕はボカロ文化の初期からいました。“メルト”(2007年、ryo作詞作曲の初音ミクオリジナル曲)が出る前からですね。2007年に僕は大学1年生だったんで、そこから2015年くらいまでは毎日ボカロ曲を聴いてましたね。Craft Eggを設立した2014年からめちゃめちゃ忙しくなったのもあって、ちょっと離れてしまったんですけれど。だから7~8年は、ニコ動のランキングをあさって新曲があったらとりあえず聴くというのをリアルに毎日やっていました。

佐々木:ちなみに、クリプトンで出したコンピレーションCDに、実は近藤さんのボカロP時代の曲も1曲入っているんですよ。

近藤:僕はもともとニコニコ動画が始まる前の高校生時代にバンドをやってたので、自分のバンドのオリジナル曲を作って、muzie(エイベックス・デジタル提供の音楽配信サービス。現在はサービスを終了している)に投稿したりしていたんです。

入江:懐かしい! muzie、僕も使ってました。

近藤:たとえばOSTER projectさんとか、その頃muzieにいた方々が、ニコニコ動画が始まって、みんなそっちに移動したんですよね。僕もボカロを使って作曲すればいろんな人に聴いてもらえると思って、曲を作って投稿したのは2011年から2014年くらいです。

近藤裕一郎

―ボーカロイド文化がどう始まって、どう盛り上がったかを肌で知っているというのは、ゲームを作るにあたっても非常に大きかったんじゃないでしょうか。

近藤:自分としては、このシーンで「やっていいこと」と「やってはいけないこと」が当たり前に染み付いているというのはあるかもしれないですね。オリジナルキャラクターが前に出過ぎてもダメですし、かといって、守るだけだとこのプロジェクトは成功しない。いいバランスで機能できる部分はあると思います。

―ちなみに、近藤さんと入江さんって、世代は近いですか?

入江:僕は1987年生まれです。

近藤:僕は1988年です。

―ということは、同世代でお互い思春期にmuzieを使っていた人が、一方はボカロPを経てゲーム開発の道に入り、一方ではミュージシャンとしてユニークな形でキャリアを積み、そして『プロジェクトセカイ』で再会したということですね。話を聞いてて、これはエモいストーリーなんじゃないかと思いました。

入江:たしかに。muzieを使っていたということで伝わってくるものは、確実にありますね。僕は自分が作った変な曲を吐き出す場としてmuzieを使っていました。普段はエモいってあんまり言わないですけど、これがエモいことは否定できません(笑)。

佐々木:逆に言うと、その前までのプロジェクトでご一緒させてもらった企画プロデューサーの方で、特にボカロ曲に思い入れが強い方っていうのは、僕よりもさらに10歳から15歳上の方々だったんです。そういう方々は同人音楽とか萌えキャラの文脈の中でボカロというジャンルを捉えている方が多い。でも、今の若い子たちはそういう文脈でミクとかボカロ曲を聴いていない、もっと直感的でカジュアルなノリが強いので、近藤さんの世代の目線が必要だった。外せないポイントだったと思います。

ボーカロイドと人間の歌を融合させるゲーム『プロジェクトセカイ』

―そもそも『プロジェクトセカイ』の企画はどういうきっかけで始まったんでしょうか?

近藤:2017年にセガさんからお声がけいただいたのがもともとのきっかけです。そのときから、若い世代の人たちにボーカロイドやインターネット発の音楽をもっと聴いてもらいたいという思いがありました。というのも、その頃、自分の周りでボーカロイドの曲を聴く人が減っていたんです。そこから企画を考えて、たとえば、曲がとても多いのでカテゴリー別にしたり、キャラクターをユニット制でやっていくことを決めたり、いろんな紆余曲折があって始まりました。

佐々木:セガさんとは継続して「初音ミク」のゲーム作品を検討させて頂いていたのですが、その中でどうにも新しい層の取り込みに結びつかないということで考え方を変えるために『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下『ガルパ』)を手がけられていた近藤さんにお声がけさせていただいた。そこから『プロジェクトセカイ』の企画が動き始めたという流れです。

佐々木渉

―ゲームで用いられる楽曲には、バーチャルシンガーである初音ミクの歌声と、声優さんが歌うオリジナルキャラクターの歌声が重なるような作られ方をしたものもあります。こういう作り方はかなりチャレンジングなものだったのではないかと思うんですが、どうでしょうか。

近藤:チャレンジングだと思います。ただ、それが最初から決まっていたというよりは、まずは新しいキャラクターをユニットとして登場させるという土台の話があったんですね。若い人たちに共感してもらうためには、まず舞台を現代にして、オリジナルキャラクターも近い年代である必要がある。ただ、そうすると、どうしても新しいキャラクターだけがピックアップされているように見えてしまうリスクがあります。

ストーリー上では「セカイ」と呼ばれる異世界が「バンド(Leo/need)」「アイドル(MORE MORE JUMP!)」「ストリート(Vivid BAD SQUAD)」「ミュージカル(ワンダーランズ×ショウタイム)」「アンダーグラウンド(25時、ナイトコードで。)」と5つある世界観にして、各セカイにその世界観にあった初音ミクを据えることで解決できたんです。でも、ミクさんを取り巻くものの中で最も大切な音楽の部分がそれぞれの世界観にしっかり融合していないと、ミクさんと新しいキャラクターが別々のものになってしまう。

荒い言い方をすると「ミクさんを客寄せに使う」みたいな見え方もしちゃうかもしれない。今でこそ一緒に歌うという形になっていますが、ボーカロイドバージョンと人間バージョンで別々に収録するというプランもありました。でも、そういうことを考えていく中で、やっぱり、音楽のところも一緒に歌うしかない。そうしないと、本当の意味で初音ミクと新しいキャラクターが融和できない。入江さんやいろんな方々のとんでもない苦労があるからこそ自然に聴こえているんですけど、最初はそんな確信はない中で決まった感じです。

佐々木:これまでも、BUMP OF CHICKENさんや安室奈美恵さんとSOPHIEとのコラボのように、初音ミクがアーティストさんと一緒に歌う事例自体はあったんですね。ただ、そのときは何か月もかけて1曲を作るみたいなやり方だったので、恒常的に量産体制が組めるのかについては、なかなか不安な状況でした。最終的には入江さんやスタッフの方々と連携して、ギリギリ間に合いました。

安室奈美恵“B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU”

近藤:奇跡に奇跡が重なったみたいな感じですけどね。

―具体的には、入江さんは『プロジェクトセカイ』でどういうお仕事をしているんでしょうか?

入江:大きくわけると、「(楽曲の)ミックス」と「(一部楽曲の)演奏やプログラミング、編曲」、あと「ボカロ楽曲を人間シンガーが歌う上での諸調整いろいろ」という感じですね。私自身もミュージシャンなわけですが、楽曲が大量で、さらに音楽性が多彩なこともあり、『プロジェクトセカイ』では手は動かさず、プロデューサーに徹する形で、曲ごとにチーム編成を変えて制作しています。もう、全員紹介したいくらいの最高なメンバーですが、特に中核となってくれているのは、サウンドエンジニアのたいやきさん、ギタリストでアレンジャーの小金丸慧さん、シンガーの佐々木詩織さんや、ドラマーの伊吹文裕さんです。

20代後半から30代前半の方が多いですが、今後日本の音楽の歴史に深く関わってゆくようなメンバーだと断言できます。これまで50~60曲くらい関わらせていただいたんですけど、どの曲にしても、まずは人間の歌とボカロと伴奏のバランスを上手くとる作業が必要になる。それから、シンガーの性別や音域によって、キーを変える必要があったり、あとは古い曲でそもそもデータがなかったりする場合には、オケを作り直すことになる。そこで演奏が必要になります。そのときにも、僕の周りにいる面白いミュージシャンをボカロ文化と出会わせてみるというようなことも考えています。

入江陽
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リリース情報

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』

セガ×Colorful Paletteが贈る、iOS / Android向けリズム&アドベンチャーゲーム。物語の舞台は「現代のシブヤ」と、想いから生まれた不思議な場所「セカイ」。さまざまな想いを抱えた20人の少年少女たちが、ある日セカイに迷い込み、 初音ミクたちと一緒に物語と音楽を紡ぐ。リズムゲームは、おなじみの定番曲から最新の人気曲、さらに書き下ろし楽曲まで多数の楽曲で楽しめる。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』瀬々敬久監督『明日の食卓』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。

佐々木渉(ささき わたる)

1979年、札幌市生まれ。クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、音声チームマネージャー。「初音ミク」歌声合成関連プロジェクトチーフプロデューサー。2005年、クリプトン・フューチャー・メディアに入社し,2007年、歌声合成ソフトウェア「初音ミク」の企画・開発を担当し大ヒット。その後,同社のVOCALOID製品や関連企画のプロデュースディレクションを手がける。

近藤裕一郎(こんどう ゆういちろう)

ゲーム会社にてスマートフォンゲームのプロデューサー等を担当後、Craft Eggに入社し、取締役に。『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』のプロデューサーとして携わる。Colorful Palette設立とともに、代表取締役社長に。

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