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ボカロ文化の歴史を次世代に繋ぐ試み 『プロジェクトセカイ』鼎談

ボカロ文化の歴史を次世代に繋ぐ試み 『プロジェクトセカイ』鼎談

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:前田立 編集:久野剛士

ボカロは、まるでカニカマ。そのユニークさを追求したかった

―入江さんには佐々木さんから声をかけたんでしょうか?

佐々木:そうですね。いろんな人に説明をして、全てが決まった後じゃないと、曲をテストすることすらできなかったんですよ。最初にボカロPさんに説明をして曲をお借りして、声優さんに歌を録音させてもらって、最後にそれとボカロを合わせるという段階が必要ですので。

―入江さんが『プロジェクトセカイ』に関わるようになったのはどういうきっかけだったんでしょうか?

入江:前日譚からお話ししたほうがわかりやすいと思うんですけど、2018年にさとうもかさんの“最低な日曜日 feat.鶴岡龍(LUVRAW)”という曲の制作に、プロデューサーとして参加したんです。この曲はLUVRAWさんがトークボックスでさとうもかさんと一緒に歌う曲で。ボカロやトークボックスが登場する曲は、ビートがガンガン鳴っているものが多いので、この曲はあえて、アコースティックの弾き語りに、トークボックスの音を混ぜてみたんです。その頃に佐々木さんと初めて会ったんですよね。

入江陽
さとうもか“最低な日曜日 feat.鶴岡龍(LUVRAW)”

佐々木:その頃、初音ミクはラッパーのpinokoさんとかジャズピアニストの佐藤允彦さん、シンガーのさとうもかさんなど、異ジャンルの方とのセッションが多かったんですが、その中で入江さんと出会いました。音楽ジャンルにとらわれない感じとか、様々なミュージシャンの方々とかと交流が有り、異種格闘技戦みたいなことも楽しんでくれそうだなと思って、お声がけしました。

―さとうもかさんと初音ミクのデュエットの試みも、きっかけのひとつになったんですね。

入江:そうなんです。その後もご縁があって、さとうもかさんとミクさんが一緒に歌う“スキップ”という曲も制作させていただいた。そうしたら、頭で考えていたのとは違ういろんな問題が生じてくるんですよね。

初音ミク with さとうもか“スキップ”

―どういう問題でしょう?

入江:ボカロとかトークボックスって、人間の声に対するカウンターとして存在している部分があるんです。まったく失礼な意味じゃないんですけど、カニに対するカニカマのようなものというか、人じゃないけれど人間らしいというところがユニークだし、ポイントになっている。だから、「人とボカロと伴奏」となると、「人と伴奏」とか、「ボカロと伴奏」とは、全然聴こえ方が変わってくるんです。相対的な見え方が変わってしまって、そこが難しい。でも逆に、もしそこが自然に聴こえるようになったら、かなり面白いのではないかという興奮もありました。

異なる世代やポジションの混ざり合いが、シーンを豊かにする

―この先の『プロジェクトセカイ』についてもお伺いしたいと思います。ゲームはどんどん更新していくものではあると思いますが、その先にどんなことを考えてらっしゃいますか?

近藤:まずはシンプルにゲームとして面白くなきゃダメだというのはあります。新しい楽曲で遊べることと、ストーリーが追加されていくこと。この2つはずっとやり続けなければいけないというのが大前提ですね。その上で、どういった付加価値を付けていけるかということも、今は言えないですけれど、いろいろと考えています。やっぱり、クリエイターさんと持ちつ持たれつみたいな関係でいたいですね。『プロジェクトセカイ』と一緒にやることがクリエイターさんにとってもプラスになる関係をうまく築いて、中長期的に音楽に還元していきたい。

僕はボカロ黎明期からいたし、ボカロ曲を作っていた人間でもあるので、当時いろいろな大人と接してきたんです。その中には僕らの活動をシンプルにサポートしてくれたり、将来性を考えたりしてくれる人だけでなく、短期的な利益だけを見てる人もいた。そういうのは嫌だったんですね。だから30代になって大人の側に立った自分は、そうではありたくない。若い世代のクリエイターにとっても「『プロセカ』があっていいことがあったな」と思えることが生まれていかないと嫌だなっていう気持ちはあります。

―佐々木さんはどうでしょうか。

佐々木:『プロセカ』という新しいフレームの中で、ボカロ曲の再発見や再解釈が進んでいけばいいなと思います。今まではどうしてもネットで発表された順に盛り上がるようなところもあったし、時間軸上で、どんどん作品が増えていて、ニコ動にもYouTubeにも曲があふれかえっている。そこには見知らぬよい楽曲と出会う喜びもあるけれど探すのは孤独で大変で。他方、新規参入の若い世代には、探すコストを取っ払って、カジュアルな楽しみ方を提示できないと、いかに作品が優れていても耳に届かないというもどかしさがあったんです。そういう中で、『プロジェクトセカイ』では、声優さんと初音ミクによるバージョンを紹介していくことが、今の若い世代の方の価値基準や感覚に合うような、ボカロ曲の新たな入り口として機能していると思います。あくまでひとつのではありますが。あと、同じような理由で『プロジェクトセカイ』をCINRAさんのようにゲームの専門媒体以外のメディアに取り上げていただくということにも価値があって。

―というと?

佐々木:たとえば、本作に関わってくださるミュージシャンは増えていて、日本のアンダーグラウンドの文脈を持ってる方や、もともとジャズシーンで活躍されているバンドの方もいる。さきほどと重複しますが、そういう方がお隣さんとして演奏などにも関わっていらっしゃるので、かなりイレギュラーな奥行きも生まれていると思うんですね。旧来のネット発のカルチャーは、文脈ではなくネット周辺で閉じやすい部分もあると思っていて。今はYOASOBIさんたちのおかげでブームの勢いがあるから、オーバーグラウンドになってきていると思うんですけど、そのうちボカロの影響を受けた「ポスト・ボカロ」の動きが活発化してボーダレスになることで、ボカロという先入観が、ネットによる作品発表の効果性や、風通しのよさ、独特のデフォルメ感、型にはまらないアイディアの多様さという優位点に移っていく。『プロセカ』のようなメディアミックスのアドバンテージもあるし、次世代のアートや音楽の文脈へのフィードバックも増えると思います。

今のネット世代のクリエイターの方は、いろんな音楽をザッピングして聴くことができる人たちだと思うんですよね。僕は1990年代に思春期を過ごしてきたんですけれど、その頃はロックを聴く人はロックばかり、ヒップホップを聴く人はヒップホップばかり、みたいな壁が今よりあったような印象があります。それが今は減ってきて、スマホでなんでも聴けるし、感覚的にいいものはいいと思える人たちが増えているように思います。その人たちに新しい日本の音楽カルチャーの一大手法としてボカロからポスト・ボカロまでを担ってもらえるのは、すごくいいんじゃないかと思うところがあります。

佐々木渉

―入江さんとして今後の『プロジェクトセカイ』に期待することや、関わっていて印象深いことについては、どうでしょうか。

入江:自分としては、書き下ろし曲ももちろんですが、実は既存曲こそ関わっていて楽しいんですね。各時代の多くの人が感動したボカロ曲を今聴くと、自分の美意識が試されるようなところがある。自分の中で面白いと思える狭い範囲の美意識ではなくて、曲に触れるたびに「この味はあんまり知らないけど、みんなが美味しいって当時言っていたってことは、美味しいはずだ」と思って1曲1曲を味わいながら聴くと、徐々に自分の味覚が広がっていくような楽しさがあるんです。

ゲームって、未来の音楽家も含めてたくさんの人たちにとっての音楽との出会いのきっかけになると思うんですね。聴こうと思って音楽を聴くというよりも、ゲームをしていてたまたま入ってきた音だと思うんですけれど、そこに自分なりの手紙や希望のようなものをちょっと乗せたい。日本の未来を背負う人たちの耳に届くものだという使命感は勝手に持っています。あとはさっき言ったような、アンダーグラウンドとメジャーといったカテゴリーをわざわざ強調する必要があるかはさておき、あまり繋がるイメージがない人同士が思い切りひしめき合いながら動いてる状態を、今まさにすごく体感しているので、集中して1秒1秒関わりたい思いはあります。なにが起きるか分からない面白さがありますね。

左から:近藤裕一郎、佐々木渉、入江陽
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リリース情報

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』

セガ×Colorful Paletteが贈る、iOS / Android向けリズム&アドベンチャーゲーム。物語の舞台は「現代のシブヤ」と、想いから生まれた不思議な場所「セカイ」。さまざまな想いを抱えた20人の少年少女たちが、ある日セカイに迷い込み、 初音ミクたちと一緒に物語と音楽を紡ぐ。リズムゲームは、おなじみの定番曲から最新の人気曲、さらに書き下ろし楽曲まで多数の楽曲で楽しめる。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』瀬々敬久監督『明日の食卓』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。

佐々木渉(ささき わたる)

1979年、札幌市生まれ。クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、音声チームマネージャー。「初音ミク」歌声合成関連プロジェクトチーフプロデューサー。2005年、クリプトン・フューチャー・メディアに入社し,2007年、歌声合成ソフトウェア「初音ミク」の企画・開発を担当し大ヒット。その後,同社のVOCALOID製品や関連企画のプロデュースディレクションを手がける。

近藤裕一郎(こんどう ゆういちろう)

ゲーム会社にてスマートフォンゲームのプロデューサー等を担当後、Craft Eggに入社し、取締役に。『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』のプロデューサーとして携わる。Colorful Palette設立とともに、代表取締役社長に。

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