インタビュー

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/05/17

誰にも知られることない、でも確かに存在する感情や時間に手を伸ばす。生の暗がりを照らす歌の感覚

―お話を聞いていてあらためて思うのですが、『袖の汀』もやはり『縫層』と同じように、このコロナ禍という時代感覚が克明に刻まれた作品でもありますね。

君島:そうですね。人によって影響の受け方は違うと思うんですけど、ぼくはコロナがあってもとの状態に戻ったんだと思います。結果として、自分を見つめ直す時間になった。人に会う約束がなくなって楽だなと思うこともあったし、でも、慢性的な疲れはずっとあった。

そういうなかで、「言っていることが変になっちゃっているやつがいるな」とか、「自分もそうなってしまっているかもしれない」とか……自分自身のバイオリズムにすごく敏感になっていった感覚があるし、それはいまも続いていますね。1日のなかで、自分の波ってこんなに起伏が激しいんだと気づかされることが多かった。

―「波」というのは海の波だけじゃなくて、自分自身の体や生活のなかにあって揺れているものでもあるのだと、この作品を聴くと強く感じさせられます。この状況だからこそ、この音楽がすっぽりと心身にハマる人は多いんじゃないかと思いますね。

君島:実際、そういうことを願いながらつくっていました。自分の曲が「場所」になってほしいと思うんですけど、同時に最近は、聴いてくれた人の空洞にハマるような音楽であればいいなとも思います。ぼくにとって“光暈(halo)”がハマったように、誰かの空洞にハマることを願いながら曲を書くようになっているような気がします。

君島大空『袖の汀』ジャケット
君島大空『袖の汀』ジャケット(サイトで見る

―『袖の汀』というタイトルは、2曲目“向こう髪”の<涙を隠した両手のぼろぼろの袖を / 飛び越えてゆくつもりのステップ>というラインからのイメージが大きかったですか?

君島:そうかもしれないです。「汀」って、「渚」と一緒の意味なんですけど、全然受ける印象が違うなって。「汀」のほうが、土が湿っていそうというか(笑)、境界っぽいなと思うんですよね。波打ち際で濡れている砂と乾いている砂が混ざり合っていて、そこにたまに波が打ち寄せてくるようなイメージ。

あと古語なんですけど、「袖の湊(そでのみなと)」という、すごく泣いている様子を表している言葉があって、最初は「袖の湊」をタイトルにしようかと思ったんですけど、でも、あまりにも暗すぎるなと思って「袖の汀」にしました。

今回のEPは、やっぱり「海」とか「水」のイメージが強かったです。水際、境目にいる感じがすごくある。それを「袖」っていう、嘘臭くない、小さいところに落とし込みたかったんですよね。大きな景色にはしたくなかった。

―この作品の根底には、泣いている自分がいると思いますか?

君島:どうだろう……。“向こう髪”は、泣いている人をどうにかして笑わせたいって曲なんですけどね。収録されている曲の半分くらいは自分が泣いている感じもするけど、でも、絶望はしていないんですよね。『午後の反射光』は絶望していたと思うけど、今回はあそこまで悲哀に満ちているわけではないなと思う。

君島大空『午後の反射光』を聴く(Apple Musicはこちら

―その感覚は、たしかにわかります。

君島:ぼくは、生活のなかでどうしようもなく涙が止まらなくなる瞬間があって。でも、だからといって誰かが手を差し伸べてくれるわけではないし、ひとりで頑張らなきゃいけないなと思って……そういう、ひとりで泣いている時間に向けて書いている曲たちのような気がします、どの曲も。

誰も見ていないけど本当にある時間、本当にある悲しい時間、誰にも言えない心で生きている時間。きっと、コロナでそういう時間が浮き彫りになったこともあると思うんですけど、それと自分の回帰の周期が重なって、この作品はできたんだろうと思います。

君島大空
君島大空
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君島大空『袖の汀』を聴く(Apple Musicはこちら

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リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

XXX
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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