インタビュー

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/04/26

音楽家・君島大空が、3rd EP『袖の汀』をリリースした。全6曲30分弱。その時間を言葉にすれば淡泊なものだが、この『袖の汀』を聴いている30分弱の間には、「この世界に、こんなふうに流れる時間があったのか」と静かな感動を覚える、そんな時間が広がっている。この時間の流れは静謐で、同時に混濁していて、とても個人的である。しかし、個人的であるということは、閉じているということではない。それは海のように開かれている。この作品を聴いた人は、自分自身の大切なことを、自分自身の生きることの秘密を、改めて見つめるかもしれない。この世界に、こんな時間が流れていることがとても尊いと、私は思う。

君島大空が去年、2nd EP『縫層』(2020年11月)のリリース後から演奏しはじめた新曲“光暈(halo)”を聴いたとき、見えた景色がある。それは、ゆらゆら揺れる波の動きに、ぷかぷか身を任せているような景色。波の動きと共に過ぎてゆく時間の残酷さがチクチクと胸を刺すが、それでも波は動き、季節は移ろい、人もモノも変わっていく。流動。過ぎゆく時間のなかでどうしようもなく失われていくものがあり、それでも、あるがままの形で残しておきたいものがあり、その狭間で、どこかに向けて動いていること、運ばれていることを感じている。記憶は未来のビジョンに変わり、胸に小さな決意が宿る。それを抱いて、いま、揺れる……ゆらゆら、ぷかぷか。“光暈(halo)”は、本作『袖の汀』の1曲目に収録されている。

今回、『袖の汀』のリリースに際して、CINRA.NETではインタビュー記事を2つに分けてお送りする。まずこのインタビューでは、『縫層』以降の季節における君島の心境の変化、そしてそれを象徴する楽曲“光暈(halo)”にフォーカスを当てて話を聞いた。ゆらゆら、ぷかぷか……帰り道を見つけるように、揺れ動く波を捉えた君島の眼差しは、とても柔らかかった。

君島大空(きみしま おおぞら)<br>1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。
君島大空(きみしま おおぞら)
1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

3作目で提示するのは変化ではなく、君島大空の音楽活動の原点といえる音の姿

―前作『縫層』から約半年が経ち、3作目のEP『袖の汀』がリリースされます。『午後の反射光』から『縫層』までのスパンを考えるととても早いペースだと思うのですが、今作の構想はいつ頃から考えていましたか?

君島:去年末くらいには、ぼんやりと頭にありました。というのも、『縫層』を出した前後の時期はこれまでの人生で一番、バンドでライブをやった期間だったんですけど、12月にLIQUIDROOMで配信ライブをやったあたりでひと区切りがついた感覚があったんです。

「いまの自分が合奏でライブをするとこうなるんだな」って、客観的に見ることができるくらい向き合えた感覚があった。で、そのくらいの頃から、「もとからずっと自分のなかにあったものを出しておきたいな」と思いはじめて。

―今作は『縫層』に比べてもすごく穏やかな作品という印象を受けましたけど、「いままでやっていなかったことをやろう」ということではなかったわけですよね。

君島:そうですね、「いろんな変遷を経て作風が変わりました」という感じではなくて、むしろ自分の内から自然に出てくるものだからこそ、前作から間を開けずに出せたのはあると思います。

『午後の反射光』よりも前に、初めてつくった4曲入りのデモCDがあるんですけど、今回の作品はそういうものに近い気がするんです。「弾き語り」という言葉はあまり好きではないんですけど、声とギターとドローン(編註:楽曲のなかで音高の変化と関係なく持続的に鳴っている音のこと)だけで成り立っているような作品というか。

今作のようなガットギターと声だけのものって、ずっと根底にあったもので、『午後の反射光』より前の自分はそういうものをつくっていたんです。なので、「これこそ自分だ」と思う部分がある。もちろん、『縫層』も自分らしいなと思うんですけどね。でも、こういう作品も、すごく自分だなと思う。

君島大空“向こう髪”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

「ずっと、状況によってかたちが変わる音楽をしてきた」――ギタリストとして即興演奏の場数を踏んできているからこその特異な歌の感覚

―「弾き語り」という言葉を好きでないというのは、どういったところに起因する感情なのだと思いますか?

君島:偏見とコンプレックスにまみれた部分だと思うんですけど……(笑)、なんなんでしょうね、この感覚は。結構、いろんな人を見ていても思うんです。

「弾き語り」というのは手段の呼称でしかないと思っていて、でも逆に、その様式ととても親和性の高い人もいると思っていて。この違いを説明するのは難しいんですけど、少なくとも自分は、弾き語りをやっているつもりはなくて。ただ昔からずっと、状況によってかたちが変わる音楽をしてきたという感覚があります。場所性が強い音楽というか、そのときの自分のコンディションに抗わない音楽というか。

―なるほど。流動的なものということですよね。

君島:調子が悪い日は、「その日調子が悪い人間がいいと思うもの」をやるし、そこで「いつも通りの変わらない自分」みたいなものを出そうとは思わない。その都度、時間や場所にすごく左右されるので。自分がやってきた音楽はそういうものだと思うし、それは微妙にいわゆる「弾き語り」という言葉にはそぐわない気がする。「即興演奏」という言い方のほうが自分の感覚的には近いです。

君島大空

君島:そもそも僕はギターを弾きはじめた頃から、インプロビゼーション(編註:即興演奏のこと)や、すごくフリーなセッションをやる機会が身近にあったし、そういう場所で実際に声を出して歌わずとも、歌うように「自分はこうである」とギターで示すことをやってきたし。そういうところから繋がっているものなので、自分のやっていることは「弾き語り」とは言い切れないなと思います。

Page 1
次へ

リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

君島大空
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 星野源、ドラマ『着飾る恋には理由があって』主題歌“不思議”ジャケ公開 1

    星野源、ドラマ『着飾る恋には理由があって』主題歌“不思議”ジャケ公開

  2. くるり・岸田繁と君島大空の共鳴するところ 歌と言葉とギターの話 2

    くるり・岸田繁と君島大空の共鳴するところ 歌と言葉とギターの話

  3. Honda新型VEZELのCMに井浦新、玉城ティナ、Licaxxxら 楽曲は藤井 風が担当 3

    Honda新型VEZELのCMに井浦新、玉城ティナ、Licaxxxら 楽曲は藤井 風が担当

  4. Puzzle Projectとは?YOASOBIの仕掛け人と3人の10代が語る 4

    Puzzle Projectとは?YOASOBIの仕掛け人と3人の10代が語る

  5. 君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける 5

    君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

  6. 今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる 6

    今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

  7. パソコン音楽クラブが語る「生活」の音 非日常下で見つめた自然 7

    パソコン音楽クラブが語る「生活」の音 非日常下で見つめた自然

  8. サブスク以降のバンド活動 97年生まれ、Subway Daydreamの場合 8

    サブスク以降のバンド活動 97年生まれ、Subway Daydreamの場合

  9. Huluの映像クリエイター発掘&育成企画『HU35』発足の理由とは? Pが語る 9

    Huluの映像クリエイター発掘&育成企画『HU35』発足の理由とは? Pが語る

  10. 「日本が滅びても残る芸術を作りたい」平田オリザ×金森穣対談 10

    「日本が滅びても残る芸術を作りたい」平田オリザ×金森穣対談