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コムアイが共鳴した野生の創造論。『アンフレームド』展を語る

コムアイが共鳴した野生の創造論。『アンフレームド』展を語る

東京都渋谷公園通りギャラリー
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:佐伯享介(CINRA.NET編集部)

現在、渋谷で開催中の『アール・ブリュット2021特別展 アンフレームド 創造は無限を羽ばたいてゆく』は、既成概念にとらわれない表現活動と、そのつくり手を紹介する展覧会だ。出展作家には障害者を含む、正規の美術教育を受けていない表現者たちが並ぶ。彼らの多くは制度化された美術界からは無視され続けてきた、ほとんど無名の存在だ。

一般的に日本では、障害のある人々の表現活動を「アール・ブリュット」や「アウトサイダー・アート」と呼称するケースが多いが、実際には正規の美術教育を受けていない人など、多様なつくり手たちによる、多面的な表現がそれらの言葉には含まれている。まだまだ偏見や思い込みで見られることの多い表現と出会い、あらためて自分たちの世界のあり方を知るものとしても、同展はあるといえるだろう。

そんな展覧会を訪ねたのは、音声ガイドとして本展に関わっている歌手・アーティストのコムアイ(水曜日のカンパネラ、YAKUSHIMA TREASURE)。音楽だけでなくさまざまな表現の場に関わり続けている彼女にとっても、この展覧会での出会いは大きなものであったという。東京都渋谷公園通りギャラリーの大内郁学芸員とともに話を聞いた。

「アール・ブリュット」ってなんだ?

―コムアイさんは今展覧会に音声ガイドとして参加しましたが、展示やアール・ブリュットにどんな印象を持ちましたか?

コムアイ(こむあい)<br>歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスをつくり上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者などさまざまなジャンルで活動している。
コムアイ(こむあい)
歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスをつくり上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者などさまざまなジャンルで活動している。

コムアイ:ずっと展覧会の音声ガイドをやってみたかったんです。展覧会の趣旨も興味のあるものだったから、二つ返事でお受けして。

収録は緊張しましたね。テレビ番組のナレーションは放送の1回きりしか流れないことが多いけれど、音声ガイドは何回も再生できる。集中した状態で聴くものだから、演出したり、エモーショナルになりすぎて作品の邪魔になったりしてもいけないし。優しく存在してるんだけど、そっけなさもある感じを目指しました。でも、じつは「アール・ブリュット」っていう言葉を知ったのは今回が初めてなんですよ。

『アール・ブリュット2021特別展 アンフレームド 創造は無限を羽ばたいてゆく』ビジュアル
『アール・ブリュット2021特別展 アンフレームド 創造は無限を羽ばたいてゆく』ビジュアル

―そうなんですね。ちょっと意外でした。

コムアイ:近い概念でアウトサイダー・アートという呼び方(正規の美術教育を受けていない作家によるアート作品を指す。イギリスの美術評論家ロジャー・カーディナルが1970年代に提唱した)は知っていたし、展覧会を見る機会もあったんですけどね。

調べてみると、ブリュット(Brut)には「生の」とか「ありのままの」という意味があって、画家のジャン・デュビュッフェ(フランスの画家。美術教育を受けずに表現する人や子ども、精神疾患患者の作品を収集。自らも独学で絵画を学んだ)が提唱した概念で……。新しく知ることが多くありました。

コムアイ

コムアイ:アウトサイダー・アートっていう言葉は意味がわかりやすいですけど、アール・ブリュットに比べると一方的な感じのする言葉ですよね。誰かが自分たちに都合のいい尺度で境界線を作って、自分たちのいる側を内側(インサイド)と呼んで、それ以外を「外側」と指して呼んでいるような気がします。勝手に外に置かれた人たちはどんな気持ちなんだろうと。

もしも私が作家だったら、「アウトサイダー」と言われてあまりいい気分はしないんじゃないかな。「本当に垣根をなくす気があるのかよ、単にボーダーをつくってるだけじゃない?」って考えると思います。

それに、いまや大学で美術教育を受けてないアーティストって全然珍しくないじゃないですか。独学だったり、ストリートから表現を始めた人だっていっぱいいるし。

東京都渋谷公園通りギャラリーの大内郁学芸員
東京都渋谷公園通りギャラリーの大内郁学芸員

大内:一般的には美術館に収蔵される作品は、まだまだ専門的な美術教育を受けた作家によるものが主流ではあると思います。でもコムアイさんのおっしゃるとおり、社会や世代の変化は加速していて、かつてのようなボーダーは薄れつつあるのだと思います。

コムアイ:美術史や社会の変化というアカデミックな文脈で考察ができるのもアートの楽しみ方の一つだと思いますけど、アール・ブリュットではそういう見方は逆に混乱しそうですね。つくり手それぞれの中での文脈、ストーリーは濃密にあると思いますが。

大内:作家自身が美術史に自分をどう位置付けるかを意識するのがインサイド的な視点だと思いますが、アール・ブリュットの作家たちは、そこに強いこだわりはないんですよね。

コムアイ:アール・ブリュットの作品の前に立つと、閉塞的な美術史のなかでは通用していたルールがまったく機能しなくなるのが痛快です。

脳内の守護霊たちと時事問題が交錯。「脳ノート」を描き続ける与那覇俊

与那覇俊『フライング ART OLYMPIA』2017年
与那覇俊『フライング ART OLYMPIA』2017年

コムアイ:例えば、出展作家の与那覇俊さんも美術史や美術のルールのことはたぶん考えていない。ご本人はただ「描かないといけない」という意識に追われているそうですね。

大内:もともと作家本人にとっては療法的な意味合いもあって、自分の考えをノートに記録する「脳ノート」っていうのを大学4年生のときから約10年書かれています。最初はノートに文字だけ書いていたのが、絵も描くようになり、それが発展して今回展示されている作品のようなカラフルな絵になっていったということなんです。

コムアイ:展示作品も作者の脳内を描いたものなんですね。与那覇さんの脳内に守護霊がいたり、大学時代に出会った「三島教授」という人も頻繁に登場したり。大学を出て10年も経っているのに脳内で続いている教授への葛藤が作品のなかに表れています。

与那覇俊の作品には、脳内の存在と時事問題が混在して描かれている
与那覇俊の作品には、脳内の存在と時事問題が混在して描かれている

コムアイ:絵によく描かれている「フォローポンポン」という存在は彼の守護霊で、近くには「チャップシュンくん」という帽子をかぶった男性も描かれているんだけど、「チャップシュン」というのは、フォローポンポンが与那覇さんを呼ぶときの名前なんですって。

そういった自分の脳内にだけ現れる存在と「北朝鮮」や「ミサイル」などといった時事問題が重なりあって描かれていて、まるで夢と現実を行ったり来たりするような、すごく不思議な気分になります。

大内:遠くから見るとステンドグラスのようでもあるカラフルでファンタジックな絵のような印象なんですけど、近くで見ると細かい字でけっこう現実的なことが描かれていたり。

コムアイ:これは与那覇さんに限らず、アール・ブリュットの作家の特徴だと思うのですが、誰一人、こんなふうに美術館で展示されることをまったく考えずに作品をつくってると思うんです。

自分の衝動や欲求を紙や立体の上に残すというプロセスが一番大事で、必ずしも作品として完成させることが目的ではなかったりする。作品や展示を通して観客とコミュニケーションを取る意識もたぶんないので、こちらが何かメッセージを受け取ろうと思っても、つっかえる感じがある。そういう作品と向き合うことって稀だから、本当に新鮮な鑑賞経験でした。

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イベント情報

『アール・ブリュット2021特別展 アンフレームド 創造は無限を羽ばたいてゆく』
『アール・ブリュット2021特別展 アンフレームド 創造は無限を羽ばたいてゆく』第4会場

2021年7月17日(土)~9月26日(日)
会場:東京都 渋谷 東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室1、2
時間:11:00~19:00
閉館日:8月23日、9月6日、13日、21日
出展作家:
阿山隆之
香川定之
門山幸順
マッジ・ギル
齋藤勝利
佐藤朱美
フランソワ・ジョービオン
清野ミナ
レオンハルト・フィンク
藤田雄
与那覇俊
カワル角度案内人:
伊藤詩織
土井善晴
音声ガイド:コムアイ
料金:無料

プロフィール

コムアイ(こむあい)

歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスを創り上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活動している。

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