ソニーのデザイナーが一堂に会して、秋の京都でデザイン談義

家電量販店で見るのとはまったく異なる、「デザイン」として「ソニー製品」を見る体験

2015年春、東京・銀座ソニービルで行われた『Sony Design: MAKING MODERN』展が、秋の京都に場所を移して開催された。これが単なる巡回展でないことは、過去を振り返るプロダクトだけでなく、未来につながるコンセプトモデルの展示、そして、ソニークリエイティブセンターの長谷川豊センター長をはじめ、6人ものデザイナー / アートディレクターが一堂に集まり、学生やデザイン関係者に向けて語ったことでも明らか。展覧会だけでなく、トークカンファレンスを通して、ソニーデザインに培われてきたアーカイブと未来の可能性が示される貴重な機会となった。

『Sony Design: MAKING MODERN』展示風景
『Sony Design: MAKING MODERN』展示風景

『Sony Design: MAKING MODERN』展示風景
『Sony Design: MAKING MODERN』展示風景

そもそも『Sony Design: MAKING MODERN』展は、ニューヨークの出版社、Rizzoli International Publicationsから同名の図録(装丁は村上春樹の翻訳本を手掛けるなど、世界でもっとも有名なブックデザイナーとして知られるチップ・キッド)が発売されたことを機に開催されたもの。大学で行なわれた京都展の会場で圧倒的に目立っていたのは、10代20代の学生の姿で、スケボー片手にスマホで会場を撮影したり、カッコいいと興味を持った展示製品の発売年を知って驚きの声をあげる(おそらく彼らの年齢よりも年上だった)など、その反応はとてもフレッシュだった。実際、あらためて「展示作品」として歴代のソニー製品を見ることは、家電量販店で商品を見るのとはまったく異なった体験。たとえば、防水加工を施したアウトドア仕様のウォークマン「WM-F5」が、「入社1年目のデザイナーが提案、海外に行ったことがなかったデザイナーが雑誌を見ながらイメージをふくらませた」なんてキャプションを読めば、アメリカ西海岸への思いが詰まった黄色いボディーから眼が離せなくなる。

WM-F5
WM-F5

事前登録が定員をはるかに上回ったため、急遽、巨大なギャラリー空間「ギャルリ・オーブ」へと会場が変更されたトークカンファレンス。二足歩行のエンターテインメントロボット「QRIO」をデザインした沢井邦仁、住空間に寄り添うエレクトロニクスという、これまでの家電概念を変革するような「Life Space UX」プロジェクトのデザインを進める田幸宏崇ら、ソニーのエース級デザイナー / アートディレクターが一堂に会し、ユーザーに向けて話をするのはほぼ初めての試みだったため、往年のソニーファンもふくめて、遠く他府県からこのためだけに足を運んだ観客もいたようだ。

トークカンファレンスの様子
トークカンファレンスの様子

活発に質問が投げかけられた、「ソニーデザインの共通言語とは?」「ソニーらしさとはなにか?」

デザインという観点からすると、トークカンファレンスで興味深い話を聞かせてくれたのが、チーフアートディレクターの詫摩智朗。ソニーのオーディオ製品全般のデザインに携わる詫摩が、この日は、今年発売されたハイレゾ音源対応ヘッドホン「h.ear™」について語った。

詫摩:h.earは徹底的にシンプルなデザインを目指しました。その上で、カラー / マテリアルは「single color finish」、そして、「color in between」。つまり、1色の中間色でまとめましょうと。ファッションの世界でも単色の小物使いが増えていることを受けてのコンセプトです。

h.ear on
h.ear on

実際、h.earのカラーリングは徹底していて、外装やケーブルはもちろん、店頭ビジュアルやマニュアル、パッケージからパッケージの内部にいたるまで1つの色に揃えられている。単色展開といえば簡単に聞こえるが、製品に使われたすべての部品や素材に対して色を合わせるために、千を超えるトライが積み重ねられたというから大変だ。その上で、ソニーのオーディオ製品には、南米向けに発売されている巨大スピーカーから、指先程度の大きさしかないインナーイヤーイヤホンまで、多様なプロダクトがあるため、ソニーデザインとしての共通言語をいかに保つかという命題とも向き合わなければならない。

詫摩:言葉としては「Negative Space」、つまり、余白やすき間を共通言語の1つにしています。とにかく不必要なものは圧縮して、フラットな表面におさめて、1つのかたちに凝縮していきます。たとえば、ボタンをすべてフラットな表面に収めると、「ボタン=オブジェクト」として目立っていたものが、むしろ余白のほうが際立って見えてきます。この「余白」「間」を美しくデザインできないかということですね。

詫摩智朗
詫摩智朗

全体の要素を絞り込んで、余分な装飾のないh.earも当然、そうしたソニーのデザインフィロソフィーに貫かれたプロダクト。h.ear onの表面に使われたネジはたった1本だけ、それも「R」のサインで見えなくされている。

詫摩:「Negative Space」については、まだまだ話すべきことがたくさんあります。たとえば、1つのかたちへの凝縮、圧縮を突き詰めていくと、プレーンなデザインに行き着くはずで、利便性が重視されるテレビや携帯電話では、そうなっていく方向にあると思います。だけど、ソニーのオーディオ製品では、あえて「すき間」を残しているんですね。そこが趣味性の高いプロダクトの特質で、「この部品のなかには音響ユニットが入ってますよ」ということを表現するためのエレメントを寸止めのレベルで残していたりするんです。

と、充実したトークカンファレンス終了後でも、語り足りないと述べる詫摩。トーク後の質疑応答では、詫摩の話にも出てきた「ソニーデザインの共通言語」「ソニーらしさとはなにか?」が幾度となく問いかけられ、カンファレンス終了後はカフェスペースに場所を移して、参加者たちがデザイナーを取り囲むようにして熱心に話を聞いていた。

トークカンファレンスの様子
トークカンファレンスの様子

来年70周年を迎えるというソニー。これまで公の場であまり伝える機会を持たなかったというソニーデザインの神髄が語られ、第一線で活躍するデザイナーが学生やユーザーと率直に話し合う。こうした機会が増えていくとすれば、未来のソニーらしさは、これからさらに変貌を遂げていくに違いない。

イベント情報
『Sony Design: MAKING MODERN』

2015年11月27日(金)~11月29日(日)
会場:京都府 京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス
時間:10:00~17:00
料金:無料



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