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大宮エリーと原田郁子、共に40歳の打ち解け合う二人の聖夜に潜入

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場』
テキスト
柴那典
大宮エリーと原田郁子、共に40歳の打ち解け合う二人の聖夜に潜入

心打ち解け合う二人の人柄が表れた、肩肘張らないクリスマスのステージ

そこは、とても自由で、肩の力の抜けた場所だった。そして、あたたかな、幸せに満ちた空間だった。

これはきっと、大宮エリーと原田郁子という同い年の二人の人となりが、そのまま表れたステージだったからだろう。肩肘張らず、飾らない場所だったからだろう。クリスマスイブという特別な日のせいもあったかもしれない。企画や演出から宣伝、告知のチラシ、HP、CDパッケージなど、細部に至るまで、一つひとつ手作りで準備された公演。会場の銀河劇場はオペラハウスを思わせる豪奢な雰囲気を漂わせる場所だ。しかし、なんだか、「劇場」とか「ショー」とか、そういうフィクショナルな言葉が似つかわしくないように思えた。むしろ、生活と隣り合っている感覚。大切な日に、心から打ち解け合う二人と、その友人たちが集まる。その空気をお客さんと共有し合うような感じだ。

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』(撮影:網中健太)
『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』(撮影:網中健太)

12月24日・25日に東京・天王州の銀河劇場で行われた『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』。事前の告知では、その内容は、大宮エリーのプロデュースによる「朗読と音楽のセッションイベント」と銘打たれていた。おおはた雄一が出演した去年に続き、クラムボンの原田郁子を迎えての第2回とされていた。しかし、そこで繰り広げられたのは単なる「朗読と音楽のセッション」にとどまらない、もっと盛り沢山な内容だった。

ロマンティックな朗読にスペシャルゲスト、父の形見のレコード鑑賞。盛り沢山なプログラム

クリスマスの帽子をかぶった二人が登場し、Winkの“愛が止まらない ~Turn It Into Love~”を振り付けつきで踊るところから始まった公演。冒頭のトーク中、大宮エリーのバイオリンが転倒、駒が外れ、音が出るまでトークでつなぎ、いよいよ始められると思ったら今度は照明の電源が全て落ち、復旧まで再びトークでつなぐ……。と、1曲目が始まるまでにトラブルが続いたが、自在に脱線しながら場を作る二人の掛け合いに客席からは笑い声が上がる。

撮影:網中健太
撮影:網中健太

続いては、芳垣安洋、高良久美子、鈴木正人というバンドメンバーを迎えて『物語の生まれる場所』の朗読へ。トークのときとは一転して、ロマンティックな雰囲気だ。星を見上げる人のストーリーをしっとりと読み上げる大宮エリーの言葉に、原田郁子のソロ曲が織り重なるように紡がれ、ピアノとアコースティック編成のバンド演奏がやさしく寄り添う。歌のようにメロディーが場を支配するのではなく、インストバンドのように演奏が主張するわけでもない。静かに、淡々と、しかし引き込まれるような響きだ。「耳で聴くプラネタリウム」と大宮エリーは言っていたが、たしかに夢の中にいるような心地かも。

撮影:網中健太
撮影:網中健太

中盤は、「みんなに楽しんでもらおうと思って」と大宮エリーが語り、クリスマスソングのカバーを披露するパートへ。まずは二人で松任谷由実“恋人はサンタクロース”を歌うと、続いては、スペシャルゲストに永積タカシ、おおはた雄一を迎えて、山下達郎の“クリスマス・イブ”を披露する。普段から仲の良い面々だけあって、ステージ上も終始なごやかなムード。続いては、大宮エリーが歌詞を提供したハナレグミの“旅に出ると”、おおはた雄一“おだやかな暮らし”をバンド編成で披露。笑いたっぷりの掛け合い、ここでしか見られない編成での息の合ったセッションに、類まれなる美声を持ったシンガー二人の歌声と、豪華な時間を堪能させてくれた。

そして終盤は、二人のクリスマスの思い出を語り合うトークから、若くして亡くなった大宮エリーの実父の形見のレコードを聴くパートへ。毎年クリスマスには、家族全員で顔を合わせて一枚のレコードを聴くのがならわしだったのだとか。その一枚、アンディ・ウィリアムズの『クリスマス・アルバム』をステージ中央のプレイヤーに乗せ、二人も、バンドメンバーも、お客さんと一緒に、流れてくる“The Christmas Song”に耳を傾ける。レコードの音からバンドの生音につながり、そこから披露された“The Christmas Song”は、「聖なる夜」の親密なムードとともに、『物語の生まれる場所』とのタイトル通り、一人ひとりそれぞれに物語がある、ということを感じられる時間であった。

大宮エリー(撮影:網中健太)
大宮エリー(撮影:網中健太)

原田郁子(撮影:網中健太)
原田郁子(撮影:網中健太)

ともに40歳を迎える二人。涙を流しながら作った曲を披露

こうして、盛り沢山のイベントだったのだが、中でも強く印象に残ったのは、最後に披露された二人の共作曲“つぼみ”と“変わる”だった。

この二曲はそもそも、この日のイベントが決まる前からあった曲だ。その音源化に向けての構想を進めていたところに、銀河劇場からの話が来たのだという。

“変わる”は、3年前の2012年にできた曲。原田郁子が合宿していた小淵沢のスタジオに大宮エリーが訪れたときに生まれたのだという。それも、帰り際のバスが来る数時間の間に、大宮エリーが歌詞を書いて、それを見た原田郁子がピアノに向かって歌い出すように作られたのだそうだ。曲ができたとき、二人とも自然に涙が出ていたのだとか。

<変わるって決めたその瞬間から変わり始めていたんだ>と歌うこの曲は、おそらく二人にとって「作ろうとして作った」というよりも「どこかから湧いてきた」感覚に近い、大切なものだったのだろう。シンプルだけれど、優しく包み込むようなメロディーを持った曲だ。

撮影:網中健太
撮影:網中健太

ちなみにこの2日間、「せっかくクリスマスにやれるのだから、プレゼントを持って帰れるようなものを作りたい」とのアイデアから、急遽、この“変わる”を収録したCDをクリスマスカラーの巾着袋に封入し、リボンをかけたものが、劇場ロビーで限定販売された。金色でプリントされた花の絵は大宮エリーが描き、袋は一枚ずつ原田郁子自ら友人たちと手作業で制作したそう。彼女が「お守りのような曲」と言っていた言葉のとおり、まるでお守りのようなパッケージになっていた。

そして“つぼみ”は、2014年末になって二人が作った曲。大宮エリーの著書『物語の生まれる場所』の中にある『つぼみ』という文章に原田郁子がメロディーをつけた楽曲だ。花をモチーフにした歌は「咲く」ことに帰結する曲がほとんどだろう。しかし、この曲は<咲かないつぼみもあるんだよ>と歌う。その一節が、心に迫る。

終盤、この二曲が披露されている中、会場の空気は凛と澄んでいた。ひっそりと泣いている人もいたようだった。

大宮エリーと原田郁子の二人は、同い年。どちらも40歳だ。楽しいこともあるし、日々の仕事に懸命に向き合っていることもあるけれど、それでも、不安もあるし、葛藤もある。

そういう日々の生活と、目に見えない思いを汲み取って描き出す想像力と、音楽とが、手を取り合っている。そういうところが、きっと二人が共有している部分なのだろう。とても親密な時間だった。

イベント情報

『物語の生まれる場所 at 銀河劇場 vol.2』

2015年12月24日(木)、12月25日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
12月24日出演:
大宮エリー
原田郁子
演奏:
芳垣安洋
高良久美子
鈴木正人
12月25日出演:
大宮エリー
原田郁子
料金:
前売 1日券4,500円 2日通し券8,000円
当日 1日券5,000円

プロフィール

大宮エリー
大宮エリー(おおみや えりー)

1975年大阪生まれ。広告代理店勤務を経て、2006年に独立。『海でのはなし。』で映画監督デビュー。主な著書に、『生きるコント』『思いを伝えるということ』、絵本『グミとさちこさん』。2008年、舞台の作演出として『GOD DOCTOR』、2009年に『SINGER 5』を発表。また、2007年よりテレビドラマの脚本、演出も手がけている。『おじいさん先生』(演出のみ)『サラリーマンNEO』(脚本参加)。2012年の『思いを伝えるということ』展を皮切りに、来場者が参加する体験型個展を数々発表。2013年秋には東京スカイツリー、池袋サンシャインシティーにてプラネタリウムの演出も行う。現在、週刊誌『サンデー毎日』、雑誌『DRESS』にて連載を担当。J−WAVEにてパーソナリティーとしても活躍中。

原田郁子
原田郁子(はらだ いくこ)

1975年 福岡生まれ。1995年「クラムボン」を結成。歌と鍵盤を担当。ソロ活動も行っており、2004年に『ピアノ』、2008年に『気配と余韻』『ケモノと魔法』『銀河』のソロアルバムを発表。2010年5月には、妹らと吉祥寺に多目的スペース「キチム」をオープンさせる。昨年で結成20周年を迎えたクラムボンは、メジャーレーベルを離れ、自身のレーベル「トロピカル」よりツアー会場でのみ販売されるミニアルバムを発表予定。新曲を生演奏し、可能な会場すべてでサイン会を行う初の完全「手売りツアー」を2月より全国27公演開催する。

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