おとぎ話、フレンズらが気づかせる、僕らが音楽や芸術に託すもの

音楽業界激動の2016年を迎え撃つニューカマー、キュートでクールな4人組・CHAI

宇多田ヒカルの新作が海外チャートを駆け上がったり、Spotifyが遂に日本に上陸したり……「今年の音楽業界は本当に激動だなぁ」と思っていた9月の終わり。TSUTAYA O-nestで開催された音楽アプリ「Eggs」とCINRAによる無料音楽イベント『exPoP!!!!! Volume89』は、そんな激動の時代のなかでも、「いつだって、僕たちは生きる喜びと想像力をアートに託し続けているんだ!」という事実を証明する素敵な一夜だった。

トップバッターは、Spotifyのイギリスチャートで上位にランクインしていることでにわかに話題を集めている名古屋出身の女性4人組・CHAI。まだ認知度は低いが、このバンドはすごかった。ファンクやR&B、ヒップホップを昇華した強靭な人力グルーヴと、双子のツインボーカル、マナとカナの意味と無意味を往復する歌(とラップ、時々、お喋り)。いきなり「何これ?」と頭と心と腰をグワングワンと揺さぶられるような衝撃が襲いかかる。

CHAI
CHAI

正直よくわからない言葉を連呼しながら無邪気に歌い鳴らす姿はかなり奇天烈だが、マイケル・ジャクソンやDAFT PUNKをさらっと引用する「ど真ん中」を突くポップセンスと知性もあり、なおかつ、四人が同じ衣装を着ながらも、佇まいにはそれぞれに明確な個性がある。

かつて女性バンドと言えば「ヘタウマ」なんて形容されることが多かったが、そんな言葉を跳ね除ける演奏力の高さも含めて、今の時代における女性が生み出す表現としての強度も申し分ない。フロアを見れば、キョトンとしながらも腰を揺らさずにはいられない人々が続出している様子で、きっと世界中が恋に落ちるのも時間の問題だろうと思わせる最高にクールな女の子たちだった。

CHAI

泣いて笑ってきらめくボーイズバンド・THE BOSSS

最高にクールな女の子たちに続いて登場したのは、最高にチャーミングな大阪出身の野郎4人組、THE BOSSS。見た瞬間に「こいつら絶対モテる」と確信させる佇まいの四人が発するのは、清涼感溢れるメロディーと叙情的な日本語詞が心地いいロマンティックなギターロック。THE STROKESやKINGS OF LEONといった2000年代海外インディーの王道を踏襲しつつ、それを最初に日本に持ち込んだandymoriやThe Mirrazなどの遺伝子も確実に受け継ぐバンドだ。

THE BOSSS
THE BOSSS

1曲目の“RAIN”から、楽天的に跳ねるビートと湿り気のある切ないメロディーが組み合わさって「泣き笑い」の表情を浮かべながら、聴き手に寄り添うように響く。疾走感のあるロックチューンだけでなく、“Dance With Isolation”のように落ち着いたBPMの曲もしっかりと聴かせるところに豊かな音楽的含蓄を感じさせるし、個々の楽曲というよりもバンド全体の放つフィーリングがファンキーなところもいい。こういう、傷だらけになりながらも青春を全力疾走で駆け抜けるようなキラキラしたボーイズバンドは、今、とても貴重な存在かもしれない。

THE BOSSS

日本や欧米の音とどこが違う? タイで生まれたインディーポップ、Gym And Swim

3番手は、タイはバンコクからやってきた男女混成5ピースバンド、Gym And Swim。この日が、アルバム『SEASICK』の日本盤リリースを記念した来日ツアーの最終日となったのだが、日本以外のアジア圏のミュージシャンがどんどんと世界に飛び出している昨今、こうした若きアジア勢を『exPoP!!!!!』で見ることができるのは観客として嬉しい。そして実際のところ、Gym And Swimの鳴らす音楽は、日本で鳴らされるインディーポップと不思議な共振と差異を感じさせるものだった。

Gym And Swim
Gym And Swim

サウンドの基調はチルウェイブ以降のシンセポップだが、プロダクションが欧米や日本の同系統のアクトと比べて非常にミニマル。その点においては、一番近いと感じたのは日本のミツメだが、ミツメがギリギリで抑え込んでいるファンクネスやエモーションを、Gym And Swimは決して抑え込んではいない。

シニカルさは一切感じさせず、ハッキリと踊れるし、曲中によっては、感情の沸点が表出する瞬間が明確に用意されている。この音楽がどのようにして生まれたのか、タイや東南アジア全体の風土を含めて考えてみると非常に面白そうだし、とことん楽しそうに演奏するステージ上の彼ら自身の姿を見ていると、今のアジア圏の音楽に対する興味は俄然湧いてくる。

Gym And Swim

「神泉系」を自称するフレンズの人懐っこいポップス

そして4番手は話題の新バンド、フレンズ。「渋谷系」ならぬ「神泉系」を自ら名乗るこのバンドを一目見ようとフロアもギッシリ満員だったが、何より語るべきは、彼らがAwesome City ClubやShiggy Jr.といった新世代たちとしっかりと共振したサウンドを展開していることだ。

フレンズ
フレンズ

ファンキーなビートにメロウなウワモノ、さらに、可憐に歌を聴かせるおかもとえみと、ラップも繰り出しフロアを盛り上げるひろせひろせの二人のボーカリストの存在という鉄壁の布陣で生み出すポップスの完成度はやはり高い。

しかしそれだけではなく、飲み屋が多い「神泉」という街の名を自ら掲げるに相応しい、くだけたファニーさがあるのも魅力で、このあたりの「引き」のスタンスは、キャリアを積んできたものたちならではだと思う。この日は11月にリリースされる新曲“ビビビ”も披露。まるで、飲み屋で隣の席の人たちと意気投合して一緒に飲みはじめてしまった瞬間のような幸福さでもって、満員のフロアが大いに踊り、大いに笑った。

フレンズ

「蒼さ」の一歩先を歩み出すおとぎ話が背負うもの

そしてトリを飾ったのは、おとぎ話。「3バンド以上出演するイベントには出ない」というバンドのモットーから、これまで『exPoP!!!!!』の出演依頼も断り続けてきたらしいのだが、今回は待望の出演となった。

演奏は新作『ISLAY』からの新曲“JEALOUS LOVE”のファットなディスコビートに乗せて始まった。この日は最後の“COSMOS”以外、本編は全て新作からの楽曲で構成されたセットリストだったのだが、前述した“JEALOUS LOVE”や、クラウトロック的な展開を見せた“太陽の讃歌”など、「循環」や「反復」を取り入れた音楽性のおとぎ話を聴くことができたのが印象的だった。

おとぎ話
おとぎ話

フレーズが繰り返されていくことで徐々に肥大する身体性とエモーション。前作『CLUTURE CLUB』、そして新作でおとぎ話は、エバーグリーンでロマンティックなギターロックから一歩踏み出し、身を切るような実存の痛みや、青春を終らせることのできない悲しみすら表現し始めたのだろう。だからこそ、本編最後の「今」と「記憶」が交錯する名曲“COSMOS”の絶唱は鳥肌が立つほど感動的だったし、もうひとつ、アンコールで演奏された、この前日にギタリスト林宏敏が脱退を発表した踊ってばかりの国のカバー“唄の命”は凄まじかった。

おとぎ話

去りゆく者と残された者への祝福。そして、バンドという「業」を背負いながら音楽を鳴らし続ける自分たちへの鼓舞……この“唄の命”はそんなふうに響いていた。「蒼さ」を表現し続けてきたバンドの背負うものの大きさを感じさせる圧倒的なパフォーマンスだった。

イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume89』

2016年9月29日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
おとぎ話
Gym And Swim
フレンズ
THE BOSSS
CHAI(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! Volume90』

2016年10月27日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
ドミコ
Nulbarich
向井太一
1983
センチメンタルボーイズ(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
CHAI
CHAI (ちゃい)

レペゼン名古屋、双子のマナ・カナに、ユウキとユナの最強リズム隊で編成された4人組、『NEO - ニュー・エキサイト・オンナバンド』、それがCHAIです。誰もがやりたかった音楽を全く無自覚にやってしまった感満載という非常にタチの悪いバンドで、しかも昨年自信作『ほったらかシリーズ』EPを会場限定発売&音楽配信サイト『OTOTOY』から苦労してハイレゾ音源をリリースしたのに誰にも気付いてもらえなかったという奇跡のバンドだよ! 今年の春以降突然いろんな人が『CHAIヤバい』と韻を踏みながら口にし始め、その常軌を逸したライブを観てしまった全バンドマンがアホらしくなってバンド解散ブームすら起こりかねないほど、彼女たちに触れた君の2016年度衝撃値ナンバーワンは間違いなくこの『NEOバンド』、CHAIだよ!

THE BOSSS (ざ ぼす)

パーティにおける狂騒と、大切な人を想う儚げな心情描写。そのどちらにも振り切っていく、高低差ありすぎて耳キーン的な、どこの誰からインスパイアされたのか、全く想像できないほどに節操のないサウンドプロダクション。メンバーが手当り次第に吸収し続けてきた音楽的素養を、ギュギュギュっと凝縮させたトラックに、聴いてすぐにそれとわかる個性が宿っている。J-POPという言葉の再定義と次世代のスタンダードの提示。チャラい&シブい! バリくそハッピーボーイズ! THE BOSSS! インダハウス!

Gym And Swim (じむ あんど すうぃむ)

“Gym And Swim”は多種多様な音楽に影響を受け全員がそれぞれ自身のバンドを持つメンバーによって構成された5人編成バンド。シンセポップのニュアンスを取り入れたバンコクの独自進化のシティ・ポップ、近年タイにおいて最も魅力的なバンドの一つである。インドネシアのIkkubaruのブレイクをきっかけに、近年新たなインディロック鉱脈として注目を集める東南アジアシーンから最高に素敵な5ピースが登場!ミニマル・シンセのソフトなニュアンスにトロピカルなタッチがキラリと映えて終始ほどよくゆる~く気持ちいいサウンド。近代都市と美しいビーチが隣り合う、タイという国ならではの独自進化型シティ・ポップ。

フレンズ

おかもとえみ(Vo)、ひろせひろせ(Key.Vo)、長島涼平(Ba)、三浦太郎(G,Vo)、SEKIGUCHI LOUIE(Dr)が運命的に出会い結成。渋谷系ならぬ、"神泉系"をテーマに活動中のスーパーポップバンド。

おとぎ話 (おとぎばなし)

2000年に同じ大学で出会った有馬と風間により結成。その後、同大学の牛尾と前越が加入し現在の編成になる。2007年にUKプロジェクトより1stアルバム「SALE!」を発表、以後2013年までにROSE RECORDSからの2枚を含め6枚のアルバムを残す。2015年、おとぎ話にとって代表曲となる「COSMOS」が収録された7thアルバム「CULTURE CLUB」をfelicityよりリリース。従来のイメージを最大限に表現しながら、それを壊し新しい扉を開いたこのアルバムにより、おとぎ話はまさに唯一無二の存在となった。また、ライヴバンドとしての評価の高さに加えて、映画や演劇など多ジャンルに渡るアーティストやクリエイターからの共演を熱望する声があとをたたない。日本人による不思議でポップなロックンロールをコンセプトに活動中。



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