レポート

1983、Nulbarichら、今様々な志向性の音楽が1つに集まる意味

テキスト
天野史彬
撮影:小田部伶 編集:宮原朋之
1983、Nulbarichら、今様々な志向性の音楽が1つに集まる意味

圧倒的な歌力と深いアンサンブルで一気に情景を映し出すSentimental boys

今月も、CINRAと音楽アプリ「Eggs」の共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』がShibuya O-nestにて開催された。

トップバッターを飾ったのは、長野出身の4ピースバンド、Sentimental boys。形式的にはオーセンティックな日本語のギターロックだが、そのアンサンブルには聴き手の目の前に一気に情景を映し出すような深みがあるし、このバンドの強みは、何よりもその「声」だろう。シューゲイザー風のギターノイズと柔らかなメロディーに包まれた場所から響き渡る、ボーカル・上原浩樹の歌声の力がとにかく素晴らしい。

Sentimental boys
Sentimental boys

Sentimental boys

キウイロール~LOST IN TIMEの系譜を継ぐ、ハードコアやオルタナティブの枠を超えて、聴き手の心の真芯を捉えてしまう圧倒的な歌力。さらに上原の場合、どこか吉井和哉を思わせる色気があるのもいい。冒頭を飾った“グッドバイ”や最後に演奏された“metro.”など、歌のモチーフの随所に現れる別離の悲しみや旅立ちの力強さが、その歌のなかでひとつの優しさに溶けて響くようなステージだった。

自由に歌声を操り、存在感を高める向井太一の可能性

続いては、今、時代の最先端を走らんとするシンガーソングライター・向井太一。リリカルなピアノと祝祭感のあるストリングスが響く1曲目“RISE”、続くstarRoと共作した“SPEACHLESS”や、yahyelと共作した“STAY GOLD”など、才気あふれる仲間たちと作り上げたトラックの上で、ブラックミュージックの素養に裏打ちされた、しなやかな歌声を自由に羽ばたかせていく。たとえばフランク・オーシャンやTHE WEEKND、あるいはKOHHや宇多田ヒカルのように、今、世界のポップミュージックの中心点では「個人」として圧倒的な求心力を持つ存在が注目を集めている。

向井太一
向井太一

向井もまた、その地平に足を踏み入れる可能性を感じさせる才能だ。彼が今以上に殻を打ち破り、彼にしか歌えない歌や、彼にしかできないパフォーマンスが彼の内側から溢れ出したとき、きっと世界はこの才能に気づくのだろう。最後の“SLOW DOWN”を聴きながら、その未来を楽しみに思った。

向井太一

ギターとドラムだけで、サイケデリックな音像を生み出すドミコ

続いては、1stフルアルバム『soo coo?』のリリースを目前に控えたタイミングで登場した2ピースバンド、ドミコ。6月に開催された『exPoP!!!!! Vol.86』に出演したTempalayと共に、10月にイベント『BEACH TOMATO NOODLE』を主催するなど、今、この国におけるひとつのユースカルチャーを形成しているバンドだ。このドミコやTempalay、Gi Gi Giraffeのようなバンドたちが今、この国で鳴らす「サイケデリックだけどいきすぎない」サウンドは、激動の時代に振り回されず、なんとか理性を保とうとする若者の心象を表しているようだ。

ドミコ
ドミコ

ドミコ

彼らのサウンドは、どれも共通してサイケデリックなトリップ感を持ちながら、同時に、常に地に足の着いたバランス感覚を持っている。実際、この日のドミコの演奏も実に醒めたもので、「ギターとドラムのみ」というミニマルな編成で、まるで綱渡りのように見事に完成させていくそのアンサンブルは、形式的にはロックでありながら、同時に、質感はまるでテクノやハウスミュージックの持つダイレクトな快楽性にリンクしていた。どこまでも純粋に「楽しさ」を追求しながら、その切実さと尊さも知っている――1音1音にそんな意志が宿るパフォーマンスだった。

謎多きNulbarichの登場に大歓声が湧いた

続いては、耳の早い音楽リスナーの間で話題のNulbarichが登場。今年の中頃から徐々にその名が広がり始めたのだが、まだまだ謎が多い存在。しかし、その「謎」に惹かれたのか、Nulbarichの登場時には、フロアは完全な満員状態となった。

どこまでも高まる期待値のなか、ステージに登場した五人が奏でるのは、まるで空気を震わせるようなソウルミュージック。1990年代のアシッドジャズやD'Angelo以降のネオソウルを昇華したサウンドは、「ファンキーなリズムで踊らせる」とか、「グッドメロディーを聴かせる」とか、そういった次元を超え、音の全てが溶け合い、空間全体を作り上げていくようだ。

Nulbarich
Nulbarich

そんなバンドサウンドに包まれながら、フロントマン・JQの歌声が聴き手の心とフロアの隅々にまで沁み渡っていく。彼は、ソウルフルな歌声はもちろん、どこかユーモラスでゆるい佇まいも魅力的な、とても「人間力」のあるフロントマンだ。

Nulbarich

最後のMCで語った「身近な人に『大丈夫』と言われるより、遠くにいる人が言ってくれる『大丈夫』が力になることだってある」という言葉、そして後に続いて演奏された“LIFE”の強さと慈愛に満ちた歌声は、彼が、音楽が人生に与える力の大きさをどこまでも信じている男なのだと確信させられる、そんな素晴らしさだった。

ローカリズムと歴史性に裏付けされた現代日本のポップミュージックを体現する1983

そして、この日のトリを飾ったのは、森は生きているやトクマルシューゴ、王舟、シャムキャッツなどのレコーディングに参加してきた、東京インディシーンの屋台骨を支える敏腕ミュージシャンたちが集結した五人組、1983。彼らのサウンドは、はっぴいえんど~細野晴臣のソロ活動が体現してきた、「海外」を通して「日本」を表現する、この国独自のローカリズムと歴史性に裏付けされたものだ。

1983
1983

1983

ファンクやアフロ、フォークにカントリーまでも昇華しながら、しかしどこまでも「日本的」であるとしか言いようがないそのサウンドは、日本のポップミュージック文化が歩んできた歴史の豊潤さと奇妙さを改めて感じさせる。美しいハーモニー、フルートやトランペットが鳴り響くポップなメロディー、そして肉体的で陽気なダンスビート――いろんな時代の、いろんな国々を通って日本に届いた音が、この2016年の東京に鳴り響く。

1983

この音からは「他者を通してこそ自分を発見することができるのだ」というメッセージも受け取ることだってできるし、それは今の時代において、とても重要なメッセージでもあると言えるだろう。1983が演奏する頃には、既に22時を回っていたのだが、それでも多くの人がフロアに残り、踊っていた。

この日は『exPoP!!!!!』史上最高の動員を記録したそうだが、きっと、ここまで志向性がバラバラな出演者が揃う日も珍しかっただろう。みんなバラバラで、共通点と言えば「音楽である」ことぐらい。しかし、バラバラな音楽が集まったからこそ、この日のO-nestには大勢の人が集ったのだ。世界はいろいろ大変だけど、やっぱり音楽は偉大だ――そう思わせる一夜だった。

イベント情報

Eggs×CINRA presents 『exPoP!!!!! Volume90』

2016年10月27日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
ドミコ
Nulbarich
向井太一
1983
Sentimental boys(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume91』

2016年11月24日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
ELEKIBASS
Papooz
THE BREAKAWAYS
WONK
AUSTINES
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール

Sentimental boys
Sentimental boys(せんちめんたる ぼーいず)

長野県上田市出身の4人組ロックバンド。メンバーチェンジを経て、2012年より本格的な活動を開始。枠にとらわれない独自の音楽性を展開し、2作の会場限定ミニアルバムを経て、2015年9月に満を持して1st Full Album『Parade』を全国リリース。下北沢SHELTERにて行われたツアーファイナルはSOLD OUT!2016年は、6月に会場限定EP『グッドバイ e.p.』をリリース。地元長野で行われるOTOSATA ROCK FESTIVALやりんご音楽祭への出演、長野・東京・大阪にて自主企画を行うなど精力的に活動をしている。

向井太一
向井太一(むかい たいち)

1992年3月13日福岡生まれのシンガーソングライター。2016年6月3月初のEP『POOL』をリリースし、発売日に即完売。2016年4月アクティブで自由な制作活動を行うべくSoundCloudを中心としたインターネットに表現したい音楽を継続的にアップ。そのオントレンドで自己発信型な音楽活動が目に止まり、TOY'S FACTORY / MIYA TERRACEとマネジメント契約。ハイブリッドなアーティストとして、更なるステータスを目指す為、アグレッシブに活動している。

ドミコ
ドミコ

2011年結成。埼玉を拠点に活動。メンバーは坂下光(Vo,Gt)と長谷川啓太(Dr)の2人。これまでに、自主制作盤『わお、だいびんぐ』(入手不可)、全国流通盤のミニアルバム2作『深層快感ですか?』('14)と『Delivery Songs』('15)'をリリース。'16年に入ってからは3月リリースの会場限定シングル『ooo mai gaaa!!!』収録曲の「おーまいがー」が「ニンジャスレイヤー」EDに抜擢。4月にはHiNDS来日公演のオープニング・アクトを務めた。11月9日初めてのフル・アルバム『soo coo?』をリリース予定。

Nulbarich
Nulbarich(なるばりっち)

シンガーソングライターJQをリーダーとして結成されたバンドNulbarich(ナルバリッチ)。基本ギター、キーボード、ドラム、ベースの5ピースバンド。メンバーを固定しないが、同じ志をもつメンバーで、時代、四季、背景など状況に応じた、ベストなサウンドを創り出す。ソウル、ファンク、アシッド・ジャズなどのブラックミュージックをベースに、ポップス、ロックなどにもインスパイアされたサウンドは、国内外のフィールドで唯一無二のグルーヴを奏でる。

1983
1983(いちきゅうはちさん)

1983年生まれのベーシスト新間功人を中心に結成された、80年代生まれの5人組。各個人の音楽史観をルーツミュージックと解釈し、日本ポップスの可能性を追求。ベーシックな4リズムに、トランペットとフルートが華を添える。5人はそれぞれ、バンドメンバー/サポートとしてoono yuuki、森は生きている、Peno、トクマルシューゴ、王舟、シャムキャッツ、寺尾紗穂などの録音に参加している。

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