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AITの『dearMe』活動レポート。アートの領域を拡張するワークショップ

ワークショップ『Translating Cities / 街のかけらを探してみよう!:気になるかたちを見つけて、自分だけのアート作品をつくろう』
テキスト
杉原環樹
編集:宮原朋之
AITの『dearMe』活動レポート。アートの領域を拡張するワークショップ

すべての子供が夢や希望を持てる社会作りを目指して。さまざまな背景を持つ人々が参加したワークショップ

テーブルの上に並んだ、カラフルな石膏のオブジェの数々。3月4日、代官山ヒルサイドテラスで行われたワークショップ『Translating Cities / 街のかけらを探してみよう!:気になるかたちを見つけて、自分だけのアート作品をつくろう』で、参加者の子供たちが作り上げた「作品」だ。線に沿って色を丁寧に塗り分ける子、かたちなどお構いなく創作に没頭する子……想像以上に作り手の性格が完成品に現れるのが面白い。

ワークショップを通してできあがった色とりどりの作品たち Photo:Yukiko Koshima
ワークショップを通してできあがった色とりどりの作品たち Photo:Yukiko Koshima

ワークショップの主催者は、現代アートを通じた様々なプログラムを手がけるNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト](以下、AIT)。2001年の設立以来17年間に渡って開講し、これまでに2100人の受講生を輩出している現代アートの学校MAD(Making Art Different)や、世界各国からアーティストや研究者を招聘するレジデンス・プログラム、企業や財団との提携によるアートプログラムなどの取り組みによって、インディペンデントな立場からアートシーンの教育面や国際交流を盛り上げてきたNPO法人だ。

今回のイベントは、そんなAITが日本財団とともに2017年度より新たに展開する『dearMe』プロジェクトの一環として行われたもの。「すべての子供が夢や希望を持てる社会作りを目指す」というプロジェクトの目標の通り、じつは参加者には、里親のもとで暮らす子供とその里親や、近隣に住む親子、アート関係者など、さまざまな背景を持つ人々が含まれている。

現代アートの本格的な理論を学べる場としても知られるAITが、社会的課題に触れるような試みを行うのはなぜなのか。ワークショップの様子とともに、取材した。

ユニークな子供たちの関心に、ワークショップの発案者であるアーティスト自身も驚く

街なかで見つけた面白いかたちや模様を好きなように粘土で型取り、そこに石膏を流し込んで作ったオブジェに色をつける。このワークショップの内容は、イギリスのカムデン・アーツセンターを通じ、文化庁の助成によるAITのアーティスト・イン・レジデンスプログラムで日本に2か月間滞在した、エヴァ・マスターマンとジャクソン・スプラーグが考えたもの。

マスターマンは、完成品を重視する工芸の教育への疑問から、プロセスに主軸を置いた制作をしてきた。一方のスプラーグも、日本の民藝にも通じるものと人との対話に光を当てる制作を行なってきた。今回の内容には、そんな両者の関心や、素材そのものに触れて自由な発想を導きだす「CLAY/PLAY」という今年のAITと文化庁レジデンスのテーマも反映されている。

左から:ジャクソン・スプラーグ、エヴァ・マスターマン Photo:Yukiko Koshima
左から:ジャクソン・スプラーグ、エヴァ・マスターマン Photo:Yukiko Koshima

会場に集まった参加者は、アーティスト二人の簡単なレクチャーのあと、代官山の街に繰り出した。地面や壁のような平面のパターンが気になる子もいれば、街路樹や枝、雑草に隠れた自然の模様に夢中になる子、紙パックのような立体物を丸ごと型取りする子もいて、世界を見る目の個性が少しずつ浮かび上がる。

「画家タイプや彫刻家タイプなど、子供たちの関心がじつにバラバラで驚いた」とマスターマン。たくさん集まった素材の跡が残る粘土に土手を作ったあとは、恐る恐る石膏を流し込み、近くの西郷山公園でピクニックランチをしながらオブジェが固まるのを待った。

一体どんな形が現れるのだろうか。作業を行う合間には、アーティストらによる丁寧なデモンストレーションが行われ、どんな作業をするかを子供たちが実践で学んだ。

屋外に出て、思い思いのものを型取りする Photo:Yukiko Koshima
屋外に出て、思い思いのものを型取りする Photo:Yukiko Koshima

子供たちの関心は実にさまざま。Photo:Yukiko Koshima
子供たちの関心は実にさまざま。Photo:Yukiko Koshima

型に石膏を流し込み固まるのを待つ。 Photo:Yukiko Koshima
型に石膏を流し込み固まるのを待つ。 Photo:Yukiko Koshima

会場近くの公園で。 Photo:Yukiko Koshima
会場近くの公園で。 Photo:Yukiko Koshima

後半の絵の具を使った色付けでも、配色や作業の仕方に子供たちの個性は爆発。激しい色の対比を作ったり、塗らないことや、モノトーンで塗ることでむしろオブジェの形態を誇張したり。

次々と筆を振るう参加者もいる一方、時間をかけ細部にこだわる参加者もいて、見ていて飽きない。石膏やアクリル絵の具など、なかなか普段は使う機会の少ない材料に触れることも、子供たちに強い印象を与えたようだ。

固まった石膏を型から抜き出す。 Photo:Yukiko Koshima
固まった石膏を型から抜き出す。 Photo:Yukiko Koshima

ワークショップには、先日同じ『dearMe』プロジェクトの一環として、都内の児童養護施設で子供たちとのワークショップを行ったアーティストの占部史人も親子で参加していた。

色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima
色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima

ワークショップ終了後のインタビューでスプラーグは、出揃った多様な作品を前に、「子供はあらゆる瞬間に、いろんな決断を行なっているのだろう」と話す。実際、各作品を丁寧に見ると、モチーフの選択や筆の運び方に、それぞれ独自の「ルール」のようなものが透けて見える。

子供の無邪気さのなかには、枠組みに捉われがちな大人の論理より、はるかに複雑な思考も含まれるのだろう。それは今回の参加を通して、もっとも記憶に残ったことのひとつだった。

ワークショップの可能性は、交流のなかに偶発的なきっかけを自然と育むこと

さて、冒頭に触れたように、今回のワークショップには、さまざまな事情を抱えた参加者も含まれていた。しかし制作の最中は、そのような背景は前面化されず、むしろどの大人がどの子供の保護者なのか、にわかに判別できないような有機的な混濁状態が生まれていた。作品の制作はもちろんのこと、その過程でのこうした交流にも、今回のようなワークショップの目的があると語るのは、AITの堀内奈穂子と依田理花だ。

色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima
色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima

『dearMe』の実施にあたり、AITは様々な環境下にある子供や若者についての現状を知るため、児童養護施設への訪問や、研究者から当事者団体、人権団体まで、子供たちのより良い社会づくりに取り組む団体への聞き取りなど、約1年間のリサーチを行なったという。そのなかで見えてきたのは、例えば、施設においては国語や数学のような科目の学習支援は行われているものの、職員の業務の忙しさや、専門的なケアが必要な児童もいることもあり、アートが担うような情緒を育む試みや教育の実践までは、なかなか手が回らない状況もあるということだった。

堀内:アーティストという存在や、アートの思考に触れてもらうことによって、世界のひろがりを伝えたり、いろいろな考え方や生き方、職業選択の幅があるという可能性を、参加者に残しておくことが重要だと思います。

また、さまざまな理由で実親と暮らせない子供を社会が代わりに公的な責任のもとで育てる仕組み「社会的養護」の現状や、それがあまり知られていないという課題も、施設との関わりやリサーチの中で少しずつ学んできたという。とはいえ、大義名分で人を動機づけるのは難しい。偶発性の高いワークショップのような場は、それを自然と育んでくれるかもしれない。

依田:アートに触れる場づくりを通して、子供がアーティストに出会う機会や表現の場を作るだけではなく、自分の子供を連れてきた保護者が里親家庭の方々と交流を持ったり、里親さん同士が互いの状況を話したり、参加者が普段は接しない人たちと関わるきっかけをつくることが大切。社会にはいろんな環境で生きる人たちがいることや、遠いことだと思っていたことが実は身近なことだということを、みんなで考えたり感じることができたらいいなと思います。

しかし、こうした社会的課題へのアートを通じた取り組みは「児童福祉への関心や、数ある問題意識から生まれたもののひとつ」と彼女たちは語る。AITの中心にあるものは、 様々な層の人々にアートの可能性や奥深さを知ってもらったり、世の中をみる視点や幅を広げてもらいたいということ。

こうした取り組みが社会的課題を解決できるとは言い切れないが、アートという枠組みで集まった参加者が、偶然にも社会的な状況に関心を持つかもしれない。ワークショップという場は、そんなささやかな出会いや繋がりが起こるプラットフォームのひとつなのだと話す。

色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima
色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima

ゆるやかで長期的な視点から捉える、このワークショップの成果

アートの実践が、社会の問題に自然とつながっていく。むしろ、その視野を広げるためのツールとしてアートを捉え直す。この考え方は、AITが運営する学校MADが掲げる2017年度のテーマである「ホリスティック(Holistic)」とも通じる。

直訳では「全体に関わる」といった意味の「ホリスティック(Holistic)」という言葉を、MADでは、食べることや住むこと、あるいは宗教や環境問題など、「生きること」そのものにまでアートの領域を拡張する指標として提示している。今回のワークショップは、まさにそのひとつの試みとしても、位置付けられるだろう。

本格的なアートの教育と、その外部にあると言われがちな社会性との自然な接続。それはMADやレジデンス、企業との共同の取り組みなど、AITがさまざまなプログラムで蓄積してきたリソースゆえに可能になっている面もある。

 色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima
色彩豊かに着色された作品。 Photo:Yukiko Koshima

実際、今回のワークショップのスタッフには、MADの過去の受講生も参加していた。「受講生のなかにはアートを深く掘り下げる過程で、社会的な課題にまで意識が広がり、今日のようなイベントを手伝ってくれる人も多い。アーティストから企業まで、多様な人が関わるAITならではの経験や知識、人材、ネットワークなどのリソースをうまく横展開しつつ、今後もアートの幅を広げたいです」と堀内は言う。

短期的な課題解決の努力はもちろん重要だが、同じ時間の共有によって、それを長期的に目指すこともまた、大切な視点だろう。制作において並々ならぬ「思考」を感じさせた子供たちは、この日のワークショップの交流からどんなことを感じ、将来に生かしていくのだろうか。そんなことに楽しく思いを馳せたくなる取材となった。

イベント情報

ワークショップ『Translating Cities / 街のかけらを探してみよう!:気になるかたちを見つけて、自分だけのアート作品をつくろう』

イギリスからのアーティスト、エヴァ・マスターマンとジャクソン・スプ ラーグによる大人と子供向けワークショップ

2017年3月4日(土)
会場:東京都 代官山 ヒルサイドテラスE棟ロビー
主催:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[エイト/AIT]
共催:日本財団
平成28年度文化庁アーティスト・イン・レジデンス事業、平成28年度アーツカウンシル東京芸術文化による社会支援助成事業
素材協力:リキテックス

MAD無料体験レクチャー『London Night ― 現在のロンドンアート事情』

2017年3月28日(火)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:00~20:30
※要予約

プロフィール

エヴァ・マスターマン

領域横断的なワークショップやセミナー、執筆を通して、素材とプロセスを深く調査し、作品に投影している。制作と視覚芸術の境界、および先入観に焦点を当てたアプローチは、多くの学問領域をまたぐ「拡張領域」の中心にありながら、素材の特性を捉えた芸術彫刻でもある自身の彫刻的領域にまつわる批評的な言語を生みだしている。

ジャクソン・スプラーグ

スプラーグの作品は、美学と機能性、彫刻と絵画、あるいは永続的なものと短命的なものの緊張関係を扱っている。それは時として、家の間仕切りが絵画になり、壁に掛けられた絵画が同時に石膏で象られた彫刻となり、色が塗られたボール紙が陶芸作品であるといった方法で表現される。物理的かつ心理的な関係性のこうした曖昧性が、スプラーグの表現の特徴である。

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