『MEC Award 2017 入選作品展』にみる、新しい映像表現の始まり

映像の既存の概念を覆す作品が集まった、アワード入選作品展

2005年のYouTube登場から12年、映像を巡る世界は激変しつつある。ポケットに収まるスマートフォンで録画し、SNSに投稿。その動画には、世界中の人々から反応があり、コメントが書き込まれる……。20年前、いったい誰が、こんなにも簡単に映像の撮影や共有ができるようになると考えていただろうか?

そんな映像の最先端で、新たな表現の可能性を追求している公募展が、埼玉県川口市・SKIPシティにある彩の国ビジュアルプラザの主催する『MEC Award(Media Explorer Challenge Award 2017)』だ。今年、アワードに入選した作品を展示する『MEC Award 2017 入選作品展』では、短編アニメーション作品から、劇映画、インタラクティブ映像まで多様な作品が並んだ。映画やアニメではなく、あえて「映像作品」として、ジャンルの分け隔てなく公募するこのアワードに入選したのは、そのどれでもあり、どれでもないような既存の概念を覆す作品ばかりだ。

『MEC Award 2017』入選作品『みなさんといっしょ』早川翔人 2016年 / インタラクティブ映像
『MEC Award 2017』入選作品『みなさんといっしょ』早川翔人 2016年 / インタラクティブ映像

『MEC Award 2017』入選作品『ラジオごっこ』寺澤佑那 2016年 / 映像
『MEC Award 2017』入選作品『ラジオごっこ』寺澤佑那 2016年 / 映像

若い世代が捉える新しい「映像」の形とは?

作品展に足を踏み入れると、映像とは何かという、本質的な問いを引き受けずにはいられないだろう。同アワードのディレクターを務める澤柳英行によれば、特に、この数年でこのような傾向が顕著になってきたという。

澤柳:アワードが始まった当初は、短編アニメーションなど従来型の映像作品の応募が多かったのですが、『MEC Award』も5回を重ね、より広がりのあるものとして映像という言葉が捉えられるようになりつつあります。映像を取り巻く環境が変化することによって、今までとは違う形で、映像を捉えている若い世代が増えつつあるのではないでしょうか。

『MEC Award 2017』入選作品『星淵のほとり』白鳥蓉子 / 大島風穂 2016年 / 映像
『MEC Award 2017』入選作品『星淵のほとり』白鳥蓉子 / 大島風穂 2016年 / 映像

『MEC Award 2017』入選作品『愚図の底』片山拓人 2016年 / アニメーション
『MEC Award 2017』入選作品『愚図の底』片山拓人 2016年 / アニメーション

若い世代が捉える「映像」の形とはどのようなものだろうか? 今年の『MEC Award』大賞を受賞した、大柿鈴子による作品『Time on canvas』は、映像や写真で記録した風景を解体し、絵画として描き直すプロセスとして構成した映像作品。もともと、東京藝術大学で油彩を専攻していた大柿は、デッサンの授業中にあることに気づいて、映像に対する興味が芽生えたという。

大柿:ヌードモデルのデッサンの授業中、よく描こうと思えば思うほど、モデルが動いてしまうという単純な事実が気になってしまったんです。そこで、この動きを表現するツールとして、映像制作に興味を抱くようになりました。

映像作品を作る中で気づいたのが、絵画には意識したものしか描かれないけれども、映像には意識していないものも映ってしまうということ。そこで、映像を自分の記憶に近づけるためにどうすればいいのか? そう考えながら作品を作っていたら、今作のような絵画と映像の中間に位置するような作品が生まれたんです。

MEC Award 大賞作品『Time on canvas』大柿鈴子 2016年 / 映像インスタレーション
MEC Award 大賞作品『Time on canvas』大柿鈴子 2016年 / 映像インスタレーション

映像が誰でも扱えるようになった今、ジャンル越境的な表現が生まれてきた

12年の初開催時から審査員を務めているキュレーターの四方幸子は、大柿の作品に顕著な近年の傾向をこのように表現する。

四方:今回はメディウム(媒体)を越える作品が多かったのが印象的です。大柿さんだけでなく、今年入選した寺澤佑那さんの『ラジオごっこ』という作品も、ラジオを通じて家族との新たな関係性を結ぶというパフォーマンス的な要素を含んだ作品でした。佳作に選ばれた作品にも、彫刻出身のアーティストによる造形作品があったり。次の映像の試みが始まりつつあるのを感じます。

授賞式に合わせて審査員による講評が行われた。左から、齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役)、塩田周三(ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役)、森弘治(アーティスト)、四方幸子(キュレーター)
授賞式に合わせて審査員による講評が行われた。左から、齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役)、塩田周三(ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役)、森弘治(アーティスト)、四方幸子(キュレーター)

四方が捉えるジャンル越境的な変化は、映像が誰でも扱えるようになった現代だからこそ生まれてきたものだ。もともと油彩を専攻してきた大柿は、映像への転身に対して、ほとんど葛藤を感じることはなかったと振り返る。

大柿:今は、それほど高価な機材を使わなくても、簡単に映像を撮影することができるようになっています。編集のために専用のソフトウェアを使っているのですが、専門的に勉強したわけではなく、わからないことがあればググりながら使い方を学んでいる。新しい絵の具を試すように、遊び感覚で映像作品を作ることができています。

MEC Award大賞作品『Time on canvas』大柿鈴子 2016年 / 映像インスタレーション
MEC Award大賞作品『Time on canvas』大柿鈴子 2016年 / 映像インスタレーション

ライゾマティクスの斎藤精一は、映像が「目的」から「道具」へと変化していると語る

若い世代にとって、映像表現は、限られた人にしかできない特別なものではない。その証拠に、アワードに応募してきた作家たちも、もともとは絵画、彫刻、デザインなど他のジャンルから映像に転身したアーティストが多くなっている。では、そんな時代において、映像は、どのように発展していく可能性を持っているのだろうか? 今回、ゲスト審査員として審査を行ったライゾマティクスの斎藤精一は、映像が「目的」から「道具」へと変化していると語る。

齋藤:映像は目的ではありません。映像を利用することで、平衡感覚を失わせたり、過去にタイムスリップさせたりと、さまざまな体験を引き出すことができる。そんな「道具」として映像をどのように使うかを考える上では、『MEC Award』で行われている「映像とは何か?」という本質的な思考が鍵になるでしょう。

映像表現のコストが劇的に下がった今、「本質」をつかみ、道具としてその可能性を引き出すチャンスは、どんな制作者にも平等に存在している。『MEC Award』の活動は、映像が身近になった現代だからこそ、より重要なものとなっていくだろう。

イベント情報
『MEC Award 2017 入選作品展』

2017年3月18日(土)~4月9日(日)
会場:埼玉県 川口 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
時間:9:30~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)
料金:大人510円 小中高生250円



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