アートシーンの磁場「P3」芹沢高志が語る「たまたま」の重要性

東京・四谷の「P3 art and environment プロジェクトスペース」で少し不思議な展覧会『回向―つながる縁起』展が行なわれている。お隣にある東長寺の「文由閣」竣工を記念して行われる同展には、オノ・ヨーコ、蔡國強、インゴ・ギュンターなど、世界的に有名なアーティストたちが名前を連ねる。

仕掛人は、帯広競馬場で開かれた『とかち国際現代アート展・デメーテル』や『ヨコハマトリエンナーレ2005』『別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」』などでディレクターやキュレーターを務め、来年初開催される『さいたまトリエンナーレ2016』のディレクターとして準備をすすめている、P3 art and environment代表の芹沢高志。

日本の現代アートに多大な影響を与える芹沢は、「回向(えこう)」をテーマとした展覧会から、いったい何を生み出そうとしているのだろうか? 同展開催の意図と共に、四半世紀にわたって携わってきた現代アートの変遷、そして自らのアート観について語ってもらった。

「寺を開放するような活動をしてほしい」というリクエストに対して、同時代の文化を紹介するスペースとして使えるように提案したんです。

―芹沢さんが代表を務める、アートを中心とした展示企画やプロデュース、編集などを手掛ける組織「P3」は、オノ・ヨーコや、蔡國強など、世界的なアーティストとも密につながりながら活動を行なっています。もともとは1989年、四谷・東長寺の400周年がきっかけで始まったそうですね。

芹沢:東長寺は、安土桃山時代に作られた歴史のある古いお寺なのですが、400周年の新伽藍建設計画に、地域や都市計画を行いながらプランナーとして活動していた僕が呼ばれたんです。新伽藍の建築設計と共に、「寺を開いていく」という目的で活動を設計してほしいということでした。そこで、亡くなった人ばかりに目を向けるのではなく、今の時代に生きている人々に寺を開放するために、境内の利用を考えました。地下に講堂を設計し、同時代の文化を紹介するスペースとして使えるようにしたんです。けれども、いったい誰が運営していくのか、という話になり、結局言い出しっぺの僕が引き受けることになった(笑)。

P3 art and environment プロジェクトスペース『回向―つながる縁起』展 撮影:忽那光一郎
P3 art and environment プロジェクトスペース『回向―つながる縁起』展 撮影:忽那光一郎

―「P3」というのも変わった名前です。

芹沢:建築現場にはプレハブ小屋が建ちますよね。本堂を建設する際にもプレハブ小屋の3階にオフィスを作って、現場を見ながら構想を詰めていったんです。だから「P3」というのは「プレハブの3階」。そこは、お坊さんがやって来たり、建設作業員が来たり、アート関係者がやって来たり、グチャグチャな場所でとても面白かった。その記憶を残すために「P3」という名前を残したんです。

―「P3」という拠点をベースに、芹沢さん自身も数々のアーティストに出会っていったのでしょうか?

芹沢:一番最初は「宇宙船地球号」の概念を提案したアメリカの思想家、バックミンスター・フラーの展覧会を手掛けました。するとそれを観るために、ドイツ人のメディアアーティスト、インゴ・ギュンターがやって来ました。彼はちょうどその頃、後に代表作となる『ワールドプロセッサー』のアイデアを思いついたばかり。世界の経済や環境に関する様々な統計データを光る地球儀上に可視化するといった説明を聞きながら「すごく面白い!」と興奮し、P3で『ワールドプロセッサー展』を開催するに至ったんです。そしてさらに、今度はインゴの作品を観るために、当時日本に留学していた蔡國強がやってきて「私は、火薬でアート作品を作っています」となっていく……。

―アーティストがアーティストを呼ぶ、特殊な磁場のようなものが生まれていった。

芹沢:想像もしていなかったアーティストと芋づる式につながっていきました。でも、僕らは美術館ではないからコレクションもできないし、コマーシャルギャラリーではないから販売するということもない。「P3」という場所しかなく、その中で付き合っていこうと思ったら、一緒に展示やプロジェクトを作っていくというスタイルになっていったんです。

芹沢高志
芹沢高志

「P3」で出会ったアーティストたちに驚かされたのは、「この人たち、誰にも頼まれてもいないのにやるのか!?」ということでした。

―「P3」がきっかけだったとはいえ、もともとプランナーとして活動されていた芹沢さんが、今のようにアートの活動に踏み切ったのはどうしてなのでしょうか?

芹沢:プランナーとしては個別の建築ではなく、ランドスケープや環境といった都市計画を中心に行っていました。その当時考えていた「エコロジカルプランニング」(環境負荷を少なくした土地利用計画)という考え方はいまだに重要だと思っていますが、同時にある種の悶々とした気持ちがあったんです。というのも、大規模なプロジェクトは1つのゴールが決まっていて、そこに向けて何をしなければいけないかがピラミッド的に作りあげられる。でも、それは、未来に対して現在が完全にがんじがらめにされること、ある一点に向けて直線的に驀進していくことを意味しています。当時は「未来はコンクリートのように固められるものなのか?」「本当にそれでいいのか?」と悩んでいた。そんなときに「P3」で出会ったアーティストたちに驚かされたのは、「この人たち、誰にも頼まれてもいないのにやるのか!?」ということでした。

―つまり、アーティストには「計画」がない。

芹沢:そうなんです。デザインとアートの違いを乱暴に表現すると、クライアントがいるかいないか。デザイナーは問題を抱えているクライアントがいて、その問題を解決に導く人。だけどアーティストは問題を解決するのではなく、問題を発見する人だから計画がいらないんです。数学の世界にも、問題を解決するのに長けた人と、問題を発見するのに長けた人がいるのですが、それによく似ていますね。ただ、アーティストを「問題発見者」というと褒めすぎなので、「あえて問題を起こす人」だと思いますが(笑)。

オノ・ヨーコや蔡國強は、社会や時代に対する「態度」を示してきたアーティストであり、その態度を、さまざまな形で作品にしている。

―そんなP3で現在開催されている『回向―つながる縁起』展は、不思議で独特な雰囲気の展覧会ですね。「回向(えこう)」という仏教用語を使ったタイトルもそうですが、こちらも東長寺との関わりがきっかけになっているのでしょうか?

芹沢:東長寺は、先代の住職のころからお墓の問題をはじめ、人が死ぬことはどういうことか? 人と環境はどのように共生するか? などの問題意識を持ちながら、新しい取り組みを数多く行ってきました。その中心となっているのが「回向」という言葉なんです。これは自ら修めた功徳を他者のために巡らせるという大乗仏教の考え方です。自分の修めた善行が他者に回っていき、それがまた別の他者に回っていくというもの。今展覧会では、この概念をアートによって示しています。東洋、西洋の違いで単純にまとめたくないけれど、個人を主とした「因果関係」という西洋の直線的な世界観に対して、「回向」は東洋の螺旋的、循環的な世界観を見直していこうという発想でもありますね。


―今展覧会は、東長寺の新しい試みを紹介するパネル展示と共に、インゴ・ギュンターによる光る仏像も展示されています。

芹沢:インゴ・ギュンターの『Seeing Beyond the Buddha』は、数千本の光ファイバーで自然の光を集めて、ブッダの姿を映し出す作品。自然光だけでブッダを表現しているので、朝の光によって現れて、夜の闇に消えていってしまう。バラバラだった自然のエネルギーが、アーティストの力によって集められ、形になってまた消えていく作品です。それは、彼独自の「回向」の解釈であり、ブッダというものに対する考え方でもある。この作品は、展示終了後に、今回建立した文由閣に設置される予定です。

インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景

インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景

インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景
インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景

―「継ぐ」「結う」「紡ぐ」「響く」「繋ぐ」「続く」という6つの展覧会テーマは、展示作品だけで完結せず、蔡國強や石川直樹のトーク、音楽家・evalaのコンサートなど、イベントが重要になっているというのも、独特だと思いました。

芹沢:アート、展覧会っていうと、普通「作品」とか「物」に視点が行きますよね。だけど、僕はアートとは「姿勢」や「態度」だと考えているんです。これまで一緒にやってきたオノ・ヨーコや蔡國強、インゴ・ギュンターも、みんな社会や時代に対する態度を示してきたアーティストであり、その態度を、さまざまな形で作品にしている。僕らはアートを展示するだけでなく、そういった「態度」を観せたいんです。だから、今展覧会も東長寺の「姿勢」を表現していて、ワークショップやトークといった「作品」「物」ではない企画が並ぶのは自然なことでした。

オノ・ヨーコ『念願の木』『回向―つながる縁起』展示風景
オノ・ヨーコ『念願の木』『回向―つながる縁起』展示風景

―「回向」という仏教用語は、日本人でも理解が難しいですが、例えばドイツ人のインゴでも理解できたのでしょうか?

芹沢:言葉の解釈に正解があるわけではないので、アーティストたちと「回向とは?」なんて、厳密な定義を議論したわけではありませんが、インゴの場合、「自然光を集めて何かをしたい」というコンセプトは自然に出てきました。アーティストたちにとって「回向」という言葉が持つ、「直線的な因果関係ではなく、響きあいながら広がっていく関係」という世界観は、いつも感じていることであり、理解しやすかったのでしょうね。

―たしかに、アートが及ぼしたり及ぼされたりする影響は、因果関係のような直線的なものではなく、波紋のように響き渡ってじわじわ広がっていくというイメージです。そう考えると、仏教とアートには親和性があるのでしょうか?

芹沢:アートを「姿勢」や「態度」と捉えれば、ある1つの「世界の見方」を表現するのにとても適切な方法だと思います。中でも、仏教は唯一の絶対神も存在せず、生き方や考え方など、哲学的な広がりを持っているものです。だから、アーティストでも共感しやすかったのでしょうね。

山城大督『回向 / ECHO』『回向―つながる縁起』展示風景
山城大督『回向 / ECHO』『回向―つながる縁起』展示風景

今みたいに世界が複雑で、何が問題かよくわからないという時代では、問題を見つけること、問題を起こすことが必要だと感じます。

―先ほどおっしゃられていた、アートが「問いを発見する」という考え方は、ここ最近、特に高まっている気がします。

芹沢:今のように世界が複雑で、何が問題かよくわからないという時代では、問題を見つけること、問題を起こすことが必要だと感じます。多くの人は、日常の中で目の前の問題を忘れてしまったり、見えていないことがある。そんな状況に対して、アーティストたちはあたかもラジオのように微弱な電波を拾いながら、アンプで増幅して叫んでいるんです。その行為に意味があるかないかは関係ない。彼らは問題の解決者である必要はないんです。

―それはアートを作品だけでなく、プロジェクト性を重視する芹沢さんの方法論ともリンクするのでしょうか?

芹沢:そうですね。ただし、「アートプロジェクト」という言葉にはパラドックスがあって、「プロジェクト」という言葉も、計画の元にある一点に収束させることを意味している。アートの可能性を広げていこうとする力と、プロジェクトを一点に収束させなきゃいけないという力がぶつかり合ってしまい、お互いをつまらなくすることも起こりえます。アートプロジェクトが全国各地で開催されるようになった現在、そうした事例もあるのではないでしょうか。

大橋重臣+池将也『文由閣(模型)』『回向―つながる縁起』展示風景
大橋重臣+池将也『文由閣(模型)』『回向―つながる縁起』展示風景

―地方や都市部に関わらず、今日本ではたくさんのアートプロジェクトや芸術祭が行政や企業中心に行なわれていますが、どのような場合にそういった衝突が起こりやすいのでしょうか?

芹沢:当然のことながら行政は計画の権化ですから、どんなものができるかわからないと進められないんです。でも本来、アートはやってみるまで、何ができあがるか、どういう反応が起こるかわからない。ディレクターはその矛盾を折衝しつつ、うまく立ち回らなければならないんです(笑)。行政の論理に従ってディレクションをしていくと、アートとしてあまり深いところまで踏み込めず、みんなで1、2時間汗を流して何かをやって「良かったね」と帰っていくだけのイベントになりがち。そういった作品がどんどん多くなってきているように感じています。だから、今開催中の『別府現代芸術フェスティバル2015「混浴温泉世界」』では、そんな計画性の反対を目指しました。大勢を集客するのではなく、各回15人定員のツアー方式で、ふだんは立ち入ることができない場所を巡り、作品やパフォーマンスを体験する『アートゲートクルーズ』などは、まさにその典型でしょう。

僕は状況によって作品の意味なんて変わって構わないと思っています。むしろ、アートを隔離することで、生活との距離を作ってしまうほうが面白くありません。

―芹沢さんがP3の活動を通して考えてきた「アート」は、この26年間で変わった部分もありますか?

芹沢:世の中の状況に反応して、自分たちも変わっていきました。その意味で、この26年は激動でしたね。P3の活動を開始した1989年は、ベルリンの壁が崩壊した年。変に象徴っぽく言うつもりはありませんが、現在の世界の混乱に通じる最初期から活動を続けてきたんです。蔡國強の屏風ドローイング『原始火球』のプロジェクトを行ったときには、イラクで湾岸戦争が始まっていましたが、「あちらでは、人殺しのために火薬を使っていて、こちらではアートのために火薬を使っているんだね」と話し合っていました。同じ時代の中でアーティストと共に過ごし、影響を与え合いながら作品を生み出していったんです。

『東長寺(模型)』『回向―つながる縁起』展示風景
『東長寺(模型)』『回向―つながる縁起』展示風景

―社会、アーティスト、P3がそれぞれ影響を与え合って、その循環の中で作品が生まれてくる。ちなみにP3で行なうプロジェクトと大規模な芸術祭をディレクションする際には、どのような違いがあるのでしょうか?

芹沢:P3では、拠点をあえて「プロジェクトスペース」と呼んでいます。ここでは、美術館のように大規模な展示をすることは考えていなくて、社会にアートやプロジェクトをプレゼンテーションするようなキャンプであればいいと思っているんです。一方、他の芸術祭で取り組んでいるのは「場所の問題」。美術館やギャラリーの白く塗られた「展示室=ホワイトキューブ」から出て、アーティストがそれぞれの場所の力を引き出すようなアートを展開していくことが自分にとって重要なんです。

―ホワイトキューブに対する違和感を感じる?

芹沢:近代建築では、台所は調理のため、寝室は寝るため、オフィスは仕事のためと、機能と空間を結びつけていきました。アート作品を観るときに、ニューヨークの美術館で観るのと、台北のギャラリーで観るのと、自分の家で観るのと、意味が変わってしまうのはおかしいから、純粋にアート作品を観るためのホワイトキューブが生まれてきたんです。けれども、僕は置かれる状況によって作品の意味なんて変わって構わないと思っています。むしろ、アート作品を隔離することで、生活との距離を作ってしまうほうが面白くありません。

芹沢高志

―つまり「場所の問題」を突き詰めていくと、「近代」に対する挑戦を考えることになる。そんな挑戦を積み重ねてきたこの26年間の活動を振り返って、芹沢さん自身どのように感じているのでしょうか?

芹沢:一言で言えば「たまたま」(笑)。その積み重ねです。ただ、この「たまたま」は自分にとって、とても重要な概念です。東長寺との関係も、たまたま400周年のプロジェクトに関わって、いくつもの提案や挑戦をしていったことから始まりました。そういった挑戦を行うことによって、他者が応答し、反応しながら世界が動いていったんです。これも回向ですね(笑)。だから、どの仕事を選択的に取ってきたという意識はないんです。『とかち国際現代アート展・デメーテル』も、競馬場でアートがやりたい! と帯広に乗り込んでいったわけでなく、たまたまそういう状況になって、結果的に競馬場で国際美術展をすることになったし、『別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」』も似たようなもの。強固な計画を持って行動するのではなく、流れに身を任せながら、一番面白いと思うものを実現してきた26年間だったと思います。

イベント情報
『回向―つながる縁起』

2015年7月11日(土)~10月12日(月・祝)
会場:東京都 新宿御苑前 P3 art and environment
時間:11:00~17:00(金曜および夜のイベント開催時は19:00まで)
休館日:火、水、木曜(9月22日~9月24日は開館)
料金:無料
主催:東長寺
企画制作:P3 art and environment

プロフィール
芹沢高志 (せりざわ たかし)

951年東京生まれ。神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後、(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。その後、東長寺の新伽藍建設計画に参加したことから、1989年にP3 art andenvironmentを開設。1999年までは東長寺境内地下の講堂をベースに、その後は場所を特定せずに、さまざまなアート、環境関係のプロジェクトを展開している。2014年より東長寺対面のビルにプロジェクトスペースを新設。帯広競馬場で開かれた『とかち国際現代アート展デメーテル』の総合ディレクター(2002年)、『アサヒ・アート・フェスティバル』事務局長(2003年~)。『横浜トリエンナーレ2005』キュレーター。『別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」』総合ディレクター(2009年、2012年、2015年)などを務める。2014年『さいたまトリエンナーレ2016』のディレクターに就任。



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