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アートシーンの磁場「P3」芹沢高志が語る「たまたま」の重要性

アートシーンの磁場「P3」芹沢高志が語る「たまたま」の重要性

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:高見知香

オノ・ヨーコや蔡國強は、社会や時代に対する「態度」を示してきたアーティストであり、その態度を、さまざまな形で作品にしている。

―そんなP3で現在開催されている『回向―つながる縁起』展は、不思議で独特な雰囲気の展覧会ですね。「回向(えこう)」という仏教用語を使ったタイトルもそうですが、こちらも東長寺との関わりがきっかけになっているのでしょうか?

芹沢:東長寺は、先代の住職のころからお墓の問題をはじめ、人が死ぬことはどういうことか? 人と環境はどのように共生するか? などの問題意識を持ちながら、新しい取り組みを数多く行ってきました。その中心となっているのが「回向」という言葉なんです。これは自ら修めた功徳を他者のために巡らせるという大乗仏教の考え方です。自分の修めた善行が他者に回っていき、それがまた別の他者に回っていくというもの。今展覧会では、この概念をアートによって示しています。東洋、西洋の違いで単純にまとめたくないけれど、個人を主とした「因果関係」という西洋の直線的な世界観に対して、「回向」は東洋の螺旋的、循環的な世界観を見直していこうという発想でもありますね。


―今展覧会は、東長寺の新しい試みを紹介するパネル展示と共に、インゴ・ギュンターによる光る仏像も展示されています。

芹沢:インゴ・ギュンターの『Seeing Beyond the Buddha』は、数千本の光ファイバーで自然の光を集めて、ブッダの姿を映し出す作品。自然光だけでブッダを表現しているので、朝の光によって現れて、夜の闇に消えていってしまう。バラバラだった自然のエネルギーが、アーティストの力によって集められ、形になってまた消えていく作品です。それは、彼独自の「回向」の解釈であり、ブッダというものに対する考え方でもある。この作品は、展示終了後に、今回建立した文由閣に設置される予定です。

インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景

インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景

インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景
インゴ・ギュンター『Seeing Beyond the Buddha』『回向―つながる縁起』展示風景

―「継ぐ」「結う」「紡ぐ」「響く」「繋ぐ」「続く」という6つの展覧会テーマは、展示作品だけで完結せず、蔡國強や石川直樹のトーク、音楽家・evalaのコンサートなど、イベントが重要になっているというのも、独特だと思いました。

芹沢:アート、展覧会っていうと、普通「作品」とか「物」に視点が行きますよね。だけど、僕はアートとは「姿勢」や「態度」だと考えているんです。これまで一緒にやってきたオノ・ヨーコや蔡國強、インゴ・ギュンターも、みんな社会や時代に対する態度を示してきたアーティストであり、その態度を、さまざまな形で作品にしている。僕らはアートを展示するだけでなく、そういった「態度」を観せたいんです。だから、今展覧会も東長寺の「姿勢」を表現していて、ワークショップやトークといった「作品」「物」ではない企画が並ぶのは自然なことでした。

オノ・ヨーコ『念願の木』『回向―つながる縁起』展示風景
オノ・ヨーコ『念願の木』『回向―つながる縁起』展示風景

―「回向」という仏教用語は、日本人でも理解が難しいですが、例えばドイツ人のインゴでも理解できたのでしょうか?

芹沢:言葉の解釈に正解があるわけではないので、アーティストたちと「回向とは?」なんて、厳密な定義を議論したわけではありませんが、インゴの場合、「自然光を集めて何かをしたい」というコンセプトは自然に出てきました。アーティストたちにとって「回向」という言葉が持つ、「直線的な因果関係ではなく、響きあいながら広がっていく関係」という世界観は、いつも感じていることであり、理解しやすかったのでしょうね。

―たしかに、アートが及ぼしたり及ぼされたりする影響は、因果関係のような直線的なものではなく、波紋のように響き渡ってじわじわ広がっていくというイメージです。そう考えると、仏教とアートには親和性があるのでしょうか?

芹沢:アートを「姿勢」や「態度」と捉えれば、ある1つの「世界の見方」を表現するのにとても適切な方法だと思います。中でも、仏教は唯一の絶対神も存在せず、生き方や考え方など、哲学的な広がりを持っているものです。だから、アーティストでも共感しやすかったのでしょうね。

山城大督『回向 / ECHO』『回向―つながる縁起』展示風景
山城大督『回向 / ECHO』『回向―つながる縁起』展示風景

今みたいに世界が複雑で、何が問題かよくわからないという時代では、問題を見つけること、問題を起こすことが必要だと感じます。

―先ほどおっしゃられていた、アートが「問いを発見する」という考え方は、ここ最近、特に高まっている気がします。

芹沢:今のように世界が複雑で、何が問題かよくわからないという時代では、問題を見つけること、問題を起こすことが必要だと感じます。多くの人は、日常の中で目の前の問題を忘れてしまったり、見えていないことがある。そんな状況に対して、アーティストたちはあたかもラジオのように微弱な電波を拾いながら、アンプで増幅して叫んでいるんです。その行為に意味があるかないかは関係ない。彼らは問題の解決者である必要はないんです。

―それはアートを作品だけでなく、プロジェクト性を重視する芹沢さんの方法論ともリンクするのでしょうか?

芹沢:そうですね。ただし、「アートプロジェクト」という言葉にはパラドックスがあって、「プロジェクト」という言葉も、計画の元にある一点に収束させることを意味している。アートの可能性を広げていこうとする力と、プロジェクトを一点に収束させなきゃいけないという力がぶつかり合ってしまい、お互いをつまらなくすることも起こりえます。アートプロジェクトが全国各地で開催されるようになった現在、そうした事例もあるのではないでしょうか。

大橋重臣+池将也『文由閣(模型)』『回向―つながる縁起』展示風景
大橋重臣+池将也『文由閣(模型)』『回向―つながる縁起』展示風景

―地方や都市部に関わらず、今日本ではたくさんのアートプロジェクトや芸術祭が行政や企業中心に行なわれていますが、どのような場合にそういった衝突が起こりやすいのでしょうか?

芹沢:当然のことながら行政は計画の権化ですから、どんなものができるかわからないと進められないんです。でも本来、アートはやってみるまで、何ができあがるか、どういう反応が起こるかわからない。ディレクターはその矛盾を折衝しつつ、うまく立ち回らなければならないんです(笑)。行政の論理に従ってディレクションをしていくと、アートとしてあまり深いところまで踏み込めず、みんなで1、2時間汗を流して何かをやって「良かったね」と帰っていくだけのイベントになりがち。そういった作品がどんどん多くなってきているように感じています。だから、今開催中の『別府現代芸術フェスティバル2015「混浴温泉世界」』では、そんな計画性の反対を目指しました。大勢を集客するのではなく、各回15人定員のツアー方式で、ふだんは立ち入ることができない場所を巡り、作品やパフォーマンスを体験する『アートゲートクルーズ』などは、まさにその典型でしょう。

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イベント情報

『回向―つながる縁起』

2015年7月11日(土)~10月12日(月・祝)
会場:東京都 新宿御苑前 P3 art and environment
時間:11:00~17:00(金曜および夜のイベント開催時は19:00まで)
休館日:火、水、木曜(9月22日~9月24日は開館)
料金:無料
主催:東長寺
企画制作:P3 art and environment

プロフィール

芹沢高志(せりざわ たかし)

951年東京生まれ。神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後、(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。その後、東長寺の新伽藍建設計画に参加したことから、1989年にP3 art andenvironmentを開設。1999年までは東長寺境内地下の講堂をベースに、その後は場所を特定せずに、さまざまなアート、環境関係のプロジェクトを展開している。2014年より東長寺対面のビルにプロジェクトスペースを新設。帯広競馬場で開かれた『とかち国際現代アート展デメーテル』の総合ディレクター(2002年)、『アサヒ・アート・フェスティバル』事務局長(2003年~)。『横浜トリエンナーレ2005』キュレーター。『別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」』総合ディレクター(2009年、2012年、2015年)などを務める。2014年『さいたまトリエンナーレ2016』のディレクターに就任。

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