Chappieで一世風靡 groovisionsに「時代」の捕まえ方を聞く

1990年代前半、ピチカート・ファイヴのステージビジュアルなどで注目を集め、着せ替えキャラクター「Chappie(チャッピー)」で一世を風靡したデザイン集団「groovisions」。ミュージシャンのCDパッケージやPVをはじめ、様々な企業のアートディレクションを数多く手がけてきた彼らは、「フラットデザイン」の先駆け的な存在として、今も大きな影響力を持ち続けている。

京都で誕生し、東京に進出してから今年で20年。そんな彼らが1月6日から15日まで、東京・青山のスパイラルガーデンにて展覧会『GROOVISIONS 5×27』を開催する。タイトル通り、縦横比5:27の全長13メートルにもなる大型ディスプレイで新作映像を発表するほか、アーカイブ作品展示、さらには京都でオープンした直営セレクトショップ「三三屋」(みみや)を期間限定で出店させるなど、groovisionsの世界観を思う存分楽しめる内容となっている。

グラフィックのみならず、音楽や出版、インテリアにファッションと、多岐にわたる領域で活躍し続けるgroovisions。「コミュニケーションに重きを置くデザイン」を標榜する彼らにとって、デザインの本質とは? 代表の伊藤弘に、東京に進出してから今日に至るまでの20年を聞いた。

時代の空気みたいなものを必ず感じる場所に、積極的に首を突っ込んでいくのがいい。

―groovisionsが京都から東京に進出して今年で20年ですが、振り返ってみていかがでしょうか?

伊藤:まあ、20年、ずっと仕事をしていたという感じですかね。特に明確なビジョンもなく、ひたすら仕事をしながら会社を維持してきたというか(笑)。とにかく「続ける」ということが重要だと思っていて、そのために色々やってきたという感じです。

伊藤弘(groovisions)
伊藤弘(groovisions)

―groovisionsは展覧会なども多く、常に動いている印象です。

伊藤:そうですね。デザイナーにしては展覧会などもよくやります。でも、別にやりたくてやっているわけではなくて……。作品集を出すのもしんどい作業ですしね(笑)。でも、そういうことを定期的に行なうことで、仕事の幅が広がったという実感もありますし、トレーニングにもなっていたと思うんです。

―仕事の幅が広がったという意味で、この20年の中でターニングポイントはありましたか?

伊藤:僕らは最初、ピチカート・ファイヴ(野宮真貴を中心とした、渋谷系を代表するバンド)のステージビジュアルを手伝ううちに、こういうことをやるようになった人間なので、どうしても音楽まわりの仕事が多かったんです。デザイン業界にいるというより、音楽業界でデザインを担当している気分だった。しかも、「渋谷系」というテリトリーの中で遊んでいたような。

でも、そのうち渋谷系というシーンも、音楽業界のシステムも次第に変わっていく中で、もっと他のジャンルのデザインも積極的にやるようにしました。そういう時代の変わり目がターニングポイントだったと思います。「このままだとヤバイぞ」っていう、危機意識もあったと思っています。

伊藤弘(groovisions)

―危機意識を持ちながらも、具体的にどう動いたらいいか分からない人たちも多いと思うのですが、伊藤さんが新たなジャンルを開拓するためにしていたことは?

伊藤:周りをよく見ることしかできないですね。時代の空気みたいなものをなんとなく感じるポイントが必ずあるので、積極的にそこへ首を突っ込んでいく。それも、なるべく自分がいるコミュニティーの外が面白いですね。

「音楽」のライバルって、音楽ではなく他のところにあったりすると思うんです。たとえば携帯電話だったり、インターネットだったり。それはどのジャンルでも同じで、一つのジャンルの中で物事を見ていると、大きな流れが見えなくなってしまう。なるべく俯瞰して、ちょっとズレたところから自分や他人を見つめてみるのが僕には向いていたようです。

伊藤弘(groovisions)

―「ちょっとズレたところ」というのは?

伊藤:僕の場合、数年前に自転車ブームがあった頃、ずっと自転車やアウトドアの取材を受けていた時期があって(笑)。自転車を中心としたカルチャーが面白かったのは事実で、自転車にまつわる様々な現象やアイテムが、「今の時代」っぽいな、と思っていたんですよね。

今でいうサードウェーブコーヒーやビオワイン、ポートランドのカルチャーとか、そういうものと同じように、時代の空気があったように思います。もしかしたら、直接的にデザインとは関係ない分野なのかもしれないですけど、何らかの形で必ず影響を与え合っている。そういうところに注目しておくことは意味があると思っています。

伊藤弘(groovisions)

―今回、青山のスパイラルガーデンで開催される展覧会『GROOVISIONS 5×27』では、新作映像だけでなく、groovisionsの代表作「Chappie」も展示するそうですね。20年前に登場したこのキャラクターは、どのようにして誕生したのでしょうか。

伊藤:元々は、ゲームソフトのコンペに応募したデザインを発展させたのがChappieです。当時Adobeの「Illustrator」というソフトが登場して、部品を組み合わせながらオブジェクト単位でビジュアルを作っていく、というIllustratorの構造に、「着せ替え」がすごく向いていると思って。そこから現在のChappieの原型が誕生しました。

それに「着せ替え」という、すごくアナログなことをコンピューターでやるところにも面白みを感じたんです。最初のうちは、Chappieを動かしてみるなど色々試してみたのですが、シンプルでありふれたデザインを、ただ並べてみるとか、「動かさない方が面白いんじゃないか?」と思って。

Chappie
Chappie

―並べる?

伊藤:どこにでもいる普通の人たちがたくさん集積している感じというか。「中心のない世界観」が面白いなと。たとえば通常の絵画は、まずフレームがあって、それを基にした構図で描いていくわけじゃないですか。

そうすると「中心と周辺」という構成になりがちなのですが、Illustratorの場合、後からフレームを決めて絵を切り取ることが最後のプロセスになる。それはデジタルだからできることで、古典的な絵画的アプローチとは異なる発想なんですよね。

―それはgroovisionsの「フレームレス」というコンセプトにも通じるし、Chappieの特徴の一つなのですね。しかもChappieは、「シンプルで普通のデザイン」だからこそ、様々な企業とコラボしたり、CDをリリースしたり、最近ではアイコンを作れる「着せ替え」アプリになったり、時代を超えて愛されてきたのかなと思いました。

伊藤:まあ、一方的にしつこくやってきただけなんですけどね(笑)。それに、実際そんなに「愛されている」とも思ってないんですよ。確かに昔、とくに音楽とリンクしていたころはすごく人気があった時期もありましたが、そうしたリンクをこちらで繋ぎとめようとはしてきませんでした。僕らとしては、未だに色々とやりやすいフォーマットではあるというだけですね。

10年くらい、あえてChappieを前面に押し出さないようにしていました。

―Chappieに「キャラクター」としての思い入れがあるわけではないと。

伊藤:Chappieがヒットした1990年代末、groovisionsという組織が「キャラクターを作る人たち」というふうに認識されていた時期があって、様々な方面からキャラクター制作の依頼が殺到したんですよ。でも、僕自身はキャラクター作りが本意ではなかったので、受け手との距離感が次第に開いてしんどくなってしまった。それで、しばらくChappie関連のキャラクター仕事は極力やらないようにしていたんです。下手すると10年くらい、あえてこちらからはChappieを前面に押し出さないようにしていました。

伊藤弘(groovisions)
伊藤弘(groovisions)

―そうだったのですね。

伊藤:逆に、そういう時期があったからこそ、今デザイン事務所として成立しているような気もします。そうじゃないと、本当に「キャラクターデザインの人たち」っていうレッテルを貼られかねない状態でした。

なので、言うほどChappieは世間とリンクしていないし、むしろそのリンクを一度閉じたこともある。最近になってようやく僕らもまた面白がりながら、アプリを出したりするようになりましたが。

―そのアプリは若い世代にも反響があったようですし、以前とは違った受け止められ方になったかもしれないですね。今回の展示では、2016年7月に京都でオープンしたgroovisionsのセレクトショップ「三三屋」も、「三三屋 東京支店」として会場内に展覧会期間限定で出店されます。そもそも、ショップを京都で立ち上げようと思ったのは?

伊藤:以前、京都に16年くらい住んでいて、そこでgroovisionsの活動をスタートさせたのですが、最近また京都へ頻繁に行く機会があって。昔とだいぶ様子も変わり、「ちょっと面白いこと」が色々と起きているんですよね。それで、久しぶりにまた京都とも関わってみたいなと思ったのが出店のきっかけです。

groovisionsのセレクトショップ「三三屋」の店舗
groovisionsのセレクトショップ「三三屋」の店舗

groovisionsのセレクトショップ「三三屋」の店舗
groovisionsのセレクトショップ「三三屋」の店舗

―京都で起きている「面白いこと」というのは?

伊藤:一つは、外国人を含む観光客が圧倒的に増えたこと。様々な国の人たちが関西空港から大阪や京都へ行って遊ぶという新たな観光スタイルが定着したように思います。

京都の人たちって、大きいプロジェクトをガンガンやるというよりも、個人的に小回り良く動く方が向いている印象があって。雑貨屋やカフェ、ブックショップなど小さいお店を出したり、民泊を経営したり、そういう個人経営のお店が増えてきている。それも外国人観光客に評判が良くて、京都が若返った感じがするんです。

―以前も現在の三三屋と同じ場所で、ショップ展開していたとか。

伊藤:そうです。それ以来、物件のオーナーとは友達で。ちょうどタイミングよく空きが出たので、「じゃあ、またお店でも再開するか」という感じで三三屋の展開が決まりました。以前のショップは僕らのオリジナルグッズばかり扱っていたんですけど、三三屋は京都のちょっと面白いお土産などを中心にセレクトして置いています。まだまだ品数は少ないんですけど、少しずつ増やせていけたらなと。

伊藤弘(groovisions)

―それは、京都の職人さんや、物産などを応援するという意図もあったりしますか?

伊藤:「応援」って言うほど大それたことは考えてないです。ただ単に、「こんな面白いものがあったよ」と、あくまで「よそ者の視点」でセレクトしたものを置いている。京都には伝統もそれを支えるプライドもあるわけで、僕らがどうこう言える話ではないと思うんですよ。

―15年も住んでいたのに、「よそ者」という感覚なのですね。

伊藤:「住んでいた」と言っても、出身ではないですからね(笑)。自分の経験から言えば、もし可能なら、何年か京都に住んでみるのはほんとにいい体験になると思いますよ。新しいものと伝統がうまい具合に混ざっていて、今、本当に面白くなってきている場所だと思っています。

その時々に感じる「面白さ」って、どこかで時代とリンクする瞬間があるんですよ。

―今回の展覧会ではスパイラルガーデンの壁に新作映像を映し出すとのことですが、かなり横長の巨大な映像になるそうですね。

伊藤:そうですね。スパイラルガーデンは円形のアトリウムがあったり、カフェがあったりと特殊な空間なので、どういう見せ方にしようか悩んでいたのですが、「通路にある巨大な横長の壁を、うまく利用できないかな?」と考えるところから、展覧会全体のイメージが固まってきたんです。「その壁に、映像をはめ込んでしまおう」って。

会場となるスパイラルガーデンのアトリウム
会場となるスパイラルガーデンのアトリウム

―「どのような展示物を制作するか?」ということよりもまず枠組みを決めたと。実際に作りはじめて何か気づいたことはありますか?

伊藤:とにかく画面が大きいので、PC内で動きをシミュレートした時と、実際の大きさでモニターした時では感じ方が全然違います。見る位置によって、映像のスピード感などもかなり変わってくるでしょうね。その辺は現場で確かめてみないと分からないところもあります。

しかも、会場には俯瞰して眺めるだけのスペースがあまりないのに、モニターから相当離れないと全貌を見るのは難しかったりする(笑)。その辺りも、実際に設置して見るまで未知数です。

―会期中から、映像をダウンロードしてiPhoneでも楽しめるようにするそうですね。

伊藤:以前から「映像アプリ」を作りたいと思って、試作していたんですけど、今回の展覧会のお話をいただいた際に、「2つのアイデアを合体してみたら面白いんじゃないか?」と。これは、iPhoneを3台繋げて映像が見られるように設計しています。映像が細長いから、「自分のiPhoneと誰かのiPhoneを繋げることで、1つの映像が観られるようにしたらどうだろう?」と。

今回の展覧会『GROOVISIONS 5×27』のメインビジュアル
今回の展覧会『GROOVISIONS 5×27』のメインビジュアル

―以前インタビューで、「表面的な見え方より、コミュニケーションということに重きを置くようになった」とおっしゃっていたのを拝見しましたが、誰かとiPhoneを繋げて一つの作品を完成させるというのも、ある意味ではコミュニケーションといえますか?

伊藤:うーん、正直そこまでは考えていなかったです(笑)。僕らは基本的にビジュアルのデザインをやっていますが、そもそもビジュアルの機能性って全てコミュニケーションだと思うんです。人に何かを伝えたり、人と人、人と事を結びつけたり。

そして、グラフィックデザインとは、本質的には「文字にまつわるもの」だと思う。結局のところ、文字と記号がなければ情報は伝わらないじゃないですか。たとえば、「本日12月21日の、この場所」という情報は、文字と記号という媒体がなければ絶対に人に伝わらないわけです。つまり既存の「文字」をお借りして扱うことが、僕らがやっているグラフィックデザインの基本ということになる。

伊藤弘(groovisions)

―ああ、確かにそうですね。

伊藤:またその一方で、グラフィックデザインは漠然とした「雰囲気」みたいなものも伝えられるので、それも一つの機能であると思っています。そういう、様々な機能のあり方を、複雑にからみ合わせて伝える仕事がグラフィックデザインなんですよね。

―その「雰囲気」という部分は、先ほどおっしゃっていた「時代の空気」のようなことでしょうか?

伊藤:そういう考え方もできますね。

―それをデザインに反映させていくと。伊藤さんが自転車に興味を持ったように、「仕事になるから」と打算的に考えながら首を突っ込むのではなく、興味のある何かにとことんハマった方が、時代の空気をよりリアルに感じられるのでしょうね。

伊藤:ええ。僕が自転車に興味を持ったのも、ただただ単純に「面白い」と思ったところから始まっている。京都の話もそうですが、その時々に感じる「面白さ」って、どこかで時代とリンクする瞬間があるんですよ。たとえば、ある特定のジャンルの音楽が、単なる音楽であることを超えてその時代を象徴するような現象に変わっていく瞬間がありますよね。そういうところに面白さを感じるし、そこに新たな「可能性」が広がっている気がします。

イベント情報
『GROOVISIONS 5×27』

2017年1月6日(金)~1月15日(日)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン
時間:11:00~20:00
料金:無料

プロフィール
伊藤弘 (いとう ひろし)

groovisions代表。ピチカート・ファイヴのステージビジュアルなどで注目を集め、以降グラフィックやムービー制作を中心に、音楽、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど様々な領域で活動する。また、主に海外ではファインアートの展覧会にも数多く参加、オリジナルキャラクター「chappie」のマネージメントを行うなど、ジャンルにとらわれない活動が注目されている。



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