コンピューター黎明期を学長が語る。デジハリ人気No.1授業レポ

「クリエイティブ」という言葉の定義を再考する。これからの時代を拓く全6回の講座

Amazonで「クリエイティブ」と検索すれば『クリエイティブ人事』『どうしてあの人はクリエイティブなのか?』『クリエイティブ思考』などのタイトルが冠せられた書籍が並ぶ。日本語にすれば「創造的」という意味を持つこの言葉は、ビジネス界隈において独特の意味やニュアンスが詰め込まれているようだ。

とはいえ「クリエイティブ」は、一部の広告・マスコミ関係者、そしてアーティストなどのものであり、自分には関係ないと考えている人も少なくないだろう。しかし、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之は、自身の講義においてこれからの時代を「クリエイティブであることしか求められない」と断言する。それは、いったいどういう意味なのだろうか? 彼の講義に参加すると、そこには現代の「クリエイティブ」を考える上で重要なヒントの数々があった。

コンピューター黎明期を知る者が考える、AI、3Dプリンター、loTなどの最先端研究がもたらすもの

デジタルハリウッドの主催で開催されている『EAT creative program』は、エンターテイメント、アート、テクノロジーの頭文字を取った6回におよぶ連続講座。この第1回目として、デジタルハリウッド学長であり、MITメディアラボ客員研究員、国際メディア研究財団・主任研究員などを歴任してきた杉山による「デジタルコミュニケーション概論」が行われた。本学人気No.1の授業であるこの講義では、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツと同年代にあたり、その黎明期からコンピューターテクノロジーの発展を見続けてきた杉山が、およそ4時間弱にわたって、テクノロジー発達の過程とともに、テクノロジーが未来にもたらす希望について語る。

『EAT creative program』講座風景
『EAT creative program』講座風景

講義において杉山は、最新の実例を紹介しながら、7つの「確実な未来」を予測する。ミサイルの弾道計算のためにフォン・ノイマン型のコンピューターが開発されたのは1946年。その後、60年代には文字や画像、70年代には音、80年代には映像、そして90年代には3Dを開拓してきたコンピューターは、その領域を拡張していった。

この経緯をふまえて杉山は、「デジタルは扱う対象を増やし続ける」と断言し、その事例として、触覚を扱う力学ディスプレイや、匂い発生装置、そして味覚のシミュレータなどの最先端研究を紹介する。さらに、デジタル空間のモデリングが現実世界に登場する3Dプリンターの登場は「サイバーとリアルの境界が無くなる」ことを意味し、IoT(Internet of Things)がすべてのモノをネットワークに接続し、途上国の経済発展は「全人類がつながる」未来を予測する。この30年間で100万倍となったコンピューターの性能は、AIが人間の知能を超えると言われる2045年のシンギュラリティ(技術的特異点)以降も加速度的に発展していくことは確実だ。

テクノロジーが不可欠な社会においては、理想を描く力を鍛えることが必要

では、そんな未来を迎えるにあたって、なぜ「クリエイティブ」がキーワードとなるのだろうか? 杉山は、100名以上の受講者を前に、このように語る。

杉山:インターネットの進化によって、これまでは不可能だった革新的なことが可能になりました。それによって社会のあり方はすっかり変わっています。未来を生きていくためには、常に理想を思い描きながら、それをどのようにコンピューターを使って実現できるかを考えていかなければならない。そんな時代においては、「クリエイティブであることしか求められない」のです。

『EAT creative program』講座風景
『EAT creative program』講座風景

グーテンベルクが生み出した活版印刷が、ただの印刷技術にとどまらず、ルネサンスや宗教改革を引き起こしていったように、インターネットやSNSが人々のコミュニケーションを大きく変え、テロリストすらもその恩恵に預かっている。

現在も、ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた「フィンテック」、教育とテクノロジーを融合させた「エドテック」、そして医療とテクノロジーによる「デジタルヘルス」など、各分野で、テクノロジー×○○という動きが進んでいくばかり。テクノロジーが進出する領域は拡大を続け、新たなブレイクスルーが次々に生まれているのだ。

裏を返せば、すべての仕事が、テクノロジーを組み込みその進化を追っていかなければ淘汰される運命にあると言えるだろう。だからこそ、現代を生き抜くにあたってはテクノロジーと向き合い、それを使いこなしていく「クリエイティブ」な思考法が求められるのだ。

未来への信念を持ち、バカにされても形にした者たちが最先端の扉を拓いている

とはいえ、テクノロジーの導入には、大きな障害がつきまとう。昨年、杉山は、デジタルハリウッドでは広告コピーとして「バカにされよう 世界を変えよう」という言葉を採用した。いまだ、社会の多くの場所においてテクノロジー「以前」のやり方がまかり通っており、それを変えることは「バカにされ」ることに等しい。

例えば、『EAT creative program』第2回の講義に登場する真鍋大度は、ライゾマティクス立ち上げ当初、その技術や発想は日本では全く理解されなかった。第3回に登壇する津田大介も、雑誌ライターからITジャーナリストへとその肩書きを変えたときに収入は激減した。杉山自身も、1994年秋、マーケティングをすることもなく、来るべきインターネット時代を信じてデジハリを「闇雲に開校した」という。周囲の理解や評価を得られず、バカにされながらも自分の信念を押し通したからこそ、彼らは独自のブレイクスルーを生み出すことができたのだ。

テクノロジー以前と以後が入り交じった「過渡期」である2017年において、クリエイティブであることは「テクノロジーを使って何ができるか」を発想する柔軟な思考とともに、それを成し遂げるための実行力を意味するのではないだろうか。

杉山に続いて登壇する真鍋大度は、「音楽と映像とテクノロジーの未来~クリエイターに求められるシゴトのつくりかた~」と題された講義を行う。いったい、真鍋の講義はどのような「クリエイティブ」を見せてくれるのだろうか? CINRA.NETでは、今後も継続的に『EAT creative program』をレポートしながら、その最先端を追求していこう。

イベント情報
『EAT creative program』

2017年4月から開講
会場:東京都 御茶ノ水 デジタルハリウッド東京本校
講師:
真鍋大度
茂木健一郎
落合陽一
津田大介
スプツニ子!
杉山知之
料金:一般54,000円 卒業生48,600円
※デジタルハリウッド東京本校本科生・専科生は無料

プロフィール
杉山知之 (すぎやま ともゆき)

デジタルハリウッド学長、デジタルハリウッド大学学長、デジタルハリウッド大学院学長、工学博士。1954年東京都生まれ。87年からMITメディアラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、学長を務めている。

デジタルハリウッド東京本校 (でじたるはりうっどとうきょうほんこう)

日本唯一の、大学・大学院を併設した社会人・大学生向けプロ養成クリエイティブスクールです。開学以来フラッグシップコースとして開講をしている『本科』はCG、デザイン、テクノロジーを活用できる真のクリエイターを育成し、クリエイティブ業界のビジネス発展に寄与することを目的としたコースです。専門技術の習得だけに終わらず、現場での即戦力になりうる「実務能力」「作品力」の向上を目指します。



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