レポート

KICK THE CAN CREWが三人での活動に意欲示した『復活祭』レポ

テキスト
三宅正一
編集:久野剛士
KICK THE CAN CREWが三人での活動に意欲示した『復活祭』レポ

日本語ラップシーンの過去と現在を結ぶステージを作り上げた歴史的イベント

2017年8月30日に、約14年ぶりにして復活後初のオリジナルアルバム『KICK!』をリリースしたKREVA、LITTLE、MCUの「キャラ立ち3本マイク」から成るKICK THE CAN CREW。本格的な再始動を記念して9月7日に日本武道館にて開催された『復活祭』にゲストとして招かれたのは、いとうせいこう、倖田來未、藤井隆、RHYMESTERというメンツ。

タキシード&シルクハット姿に祝祭ムードが現れているKICK THE CAN CREW
タキシード&シルクハット姿に祝祭ムードが現れているKICK THE CAN CREW

アルバム取材時の雑談でKREVAは「『復活祭』は自分たちで開く誕生日祝いみたいなものだから、一緒にパーティーするような感覚で遊びに来てほしい」と言っていた。確かにこの『復活祭』は祝祭ムードが通底して流れつつも、しかし、日本語ラップシーンが新たな夜明けを迎えようとしている2017年の夏に――たとえメンバー自身がまったくそのことを意識していなくとも――2000年代前半にヒップホップをお茶の間レベルまで広げる一翼を担ったKICK THE CAN CREWがカムバックしたという史実が刻まれたということと、『復活祭』に華を添えるゲストとして、先駆者であるいとうせいこうとRHYMESTERがシーンの過去と現在をドラマティックに一本の線で結ぶようなステージを見せてくれたことで、「とても語れる夜」になった。

ヒップホップの歩んできた道のりを示すRHYMESTERの粋なステージ

タキシード&ハット姿のKICK THE CAN CREWが開会宣言よろしく『KICK!』の1曲目である“全員集合”からスタートした『復活祭』。KICK THE CAN CREWの三人が司会進行役として、いとうせいこうを呼び込む。ステージを託されたいとうの紹介で、事実上のトップバッターを務めるRHYMESTERが登場。1曲目は“ONCE AGAIN”。これは2007年3月末に、同じく日本武道館で開催したライブを最後に活動休止した彼らが、2009年10月に復活の狼煙を上げるようにリリースしたシングル曲だ。勇壮にして、威風堂々のトラックとラップが武道館に響いた。さすがの計らいである。

MCで宇多丸は「尊敬する後輩の『復活祭』に呼んでもらったこともそうだし、KICK THE CAN CREWが復活して1発目のアルバムを出したその1週間後に俺らのニューアルバム(『ダンサブル』)を出して。いま、ヒップホップのリリースがめちゃめちゃ続いていて、なんて幸せだろうと思います」と語った。

1曲目の“ONCE AGAIN”でいきなり客の心を掴んだRHYMESTER(左からMUMMY-D、DJ JIN、宇多丸)
1曲目の“ONCE AGAIN”でいきなり客の心を掴んだRHYMESTER(左からMUMMY-D、DJ JIN、宇多丸)

そう、宇多丸がパーソナリティーを務めるTBSラジオの番組『ウィークエンド・シャッフル』でも特集されていたが、8月後半から9月上旬にかけて日本語ラップのリリースラッシュはシーンの大きなトピックになった。KICK THE CAN CREWとRHYMESTERの他にBAD HOP、5月の武道館の模様を収めたSKY-HIの配信限定ライブアルバム、AKLO、サイプレス上野とロベルト吉野など、注目度の高い作品が数多く並んだ。特にBAD HOPとSKY-HIはチャートアクション的にも好結果を残し、いままさにシーンが新時代に到来したことを証明してみせた。

RHYMESTERがラストに披露したのは“Future Is Born”。『ダンサブル』のリードトラックであるブギーでディスコティックなこの曲は、日本語ラップのいまと未来は1970年代初頭のサウスブロンクスのブロックパーティーから生まれたヒップホップの黎明期から続いているということを、説得力に満ちた語り口で歌っている。そう、RHYMESTERが祝祭に参加する態度はやはりどこまでも粋だった。

独自の存在感で、武道館をダンスフロアにした藤井隆と倖田來未

特別枠的な立ち位置だった藤井隆と倖田來未。宇多丸とのコラボレーションも披露した藤井は、芸人として培った一挙一動で観る者を惹きつけるパフォーマンス力を見せつつ、最新アルバム『light showers』の楽曲など、アーバンレトロなポップミュージックを自分のものにするシンガーとしての艶を見せた。

大ヒット曲“ナンダカンダ”で会場のボルテージをヒートアップさせた藤井隆
大ヒット曲“ナンダカンダ”で会場のボルテージをヒートアップさせた藤井隆

正直、アウェーの空気に苦戦を強いられるかと思われた倖田だが、徹頭徹尾バキバキのダンスサウンドとアグレッシブなパフォーマンスを押し通し、徐々に会場をロックしていく姿勢は見事だった。

バックダンサーたちとの息の合ったステージを披露した倖田來未
バックダンサーたちとの息の合ったステージを披露した倖田來未

日本語ラップ史の目撃者、DJ TASTUTAにターンテーブルを任せたいとうせいこう

藤井と倖田に挟まれたのが、いとうせいこう。いとうが1曲目“東京ブロンクス”に入る前に語った言葉は、「ある種のスピーチ」とさえ言いたくなる内容だった。話は、「この日のターンテーブルを預ける相手が、KICK THE CAN CREWの盟友であり、MCUとは小中学校の同級生でもあるDJ TATSUTAだ」とオーディエンスに知らせることから始まった。すこし長いがそれを引く。

この日のバックDJにDJ TATSUTAを指名したいとうせいこう
この日のバックDJにDJ TATSUTAを指名したいとうせいこう

今回は披露されなかったが、黎明期からのヒップホップの進化について、この楽曲でいとうせいこうが力強くラップしている

 

「俺がなんで今日TATSUTAとやりたかったか。いまから約30年、まだみんなが日本語でラップなんかできないと思ってる頃に、『いや、できるんじゃないか!』と思ってライブでラップをやっていた。そのときのライブをMCUとTATSUTA、あともう一人彼らと同級生のTAICHI MASTER(この三人はかつて『RADICAL FREAKS』というユニットを組んでいた)の三人は観てるんですよ。同じ頃、RHYMESTERの宇多丸とMummy-Dも観ていて、スチャダラパーも観ていて、彼らはお互いを知らなかった。僕も彼らが観ていたと知らなかった。あいつらが言ってくれないから(笑)。ということで、中3のときにまさか僕と一緒にライブをやると思ってなかったはずのTATSUTAとどうしても今日は一緒にやりたい。夢は叶う!」

いとうのラップスタイルとそれが乗るトラックは、まさに「オールドスクール」と呼ぶべきもので、ここでまたRHYMESTERの“Future Is Born”が脳裏をよぎり思わず胸が熱くなった。ラストの“マイク2本”でいとうとマイクを交わしたMCUはまさに少年のような顔をしていた。

“マイク2本”を披露するMCU(左)といとうせいこう(右)
“マイク2本”を披露するMCU(左)といとうせいこう(右)

3本マイクが生み出す華麗なコンビネーションの健在ぶりを明らかにしたキックのステージ

そして、KICK THE CAN CREW。復活第一作となった“千%”で幕を開けたステージは“スーパーオリジナル”“イツナロウバ”“sayonara sayonara”“アンバランス”、本編ラストの“マルシェ”など、かつてのヒット曲をふんだんに盛り込んだセットリストで展開されていった。

KICK THE CAN CREW

“神輿ロッカーズ feat. RHYMESTER”で繰り広げたお祭り騒ぎも楽しかったが、最大のハイライトとなったのは三人がトロピカルハウステイストのトラックで非常に細やかなラップの掛け合いを見せる“SummerSpot”だった。超難易度の高いマイクリレーを完璧にやり遂げたときのカタルシスは格別で、そのパフォーマンスは三人がまた本気でKICK THE CAN CREWの活動に取り組もうとしている宣言のようにも映った。事実、LITTLEはアンコールのMCで「KICK THE CAN CREWはもう一度、ガッツリ三人でやっていこうと思う」と語った。

“神輿ロッカーズ”を披露するKICK THE CAN CREWとRHYMESTER
“神輿ロッカーズ”を披露するKICK THE CAN CREWとRHYMESTER

願わくは、KICK THE CAN CREWが今後活動を続けていく中で、現行の日本語ラップシーンの潮流と有機的な交わりが生まれてほしいと思う。いとうせいこうとRHYMESTERによる祝辞のようなライブには、そういうメッセージ性もあったと思う。

 

リリース情報

KICK THE CAN CREW『KICK !』通常盤ジャケット
KICK THE CAN CREW
『KICK !』通常盤(CD)

2017年8月30日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-64834

イベント情報

『KICK THE CAN CREW CONCERT TOUR 2017』

2017年12月1日(金)
会場:東京都 Zepp DiverCity

2017年12月3日(日)
会場:宮城県 チームスマイル・仙台PIT

2017年12月10日(日)
会場:北海道 Zepp Sapporo

2017年12月16日(土)
会場:愛知県 Zepp Nagoya

2017年12月17日(日)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside

2017年12月21日(木)
会場:広島県 CLUB QUATTRO

2017年12月24日(日)
会場:福岡県 福岡サンパレス

プロフィール

KICK THE CAN CREW
KICK THE CAN CREW(きっくざかんくるー)

1997年、KREVA、LITTLE、MCUとソロ活動していた3MCによって結成されたHIP HOPグループ。同年「タカオニ/カンケリ」でインディーズデビュー、2001年5月「スーパーオリジナル」でメジャーデビューし、「クリスマス・イヴRap」「マルシェ」「アンバランス」「イツナロウバ」「sayonara sayonara」など数々のヒット曲生み出している。ライブ活動も精力的に行い、ストリート出身の彼らは全国のクラブを中心に、全国ホールツアー、アリーナツアーなども開催している。日本において「HIP HOP」という新しいジャンルをメジャーにし、拡め定着させた功績は実に高い。2004年6月、人気絶好調の中、KICK THE CAN CREW活動休止を発表。個々のソロ活動に専念するも、2014年夏、何の前触れもなく「ROCK IN JAPAN FES 2014」に約11年振りにKICK THE CAN CREW名義として出場のニュースが流れるや瞬く間に大きな反響を巻き起す。そして2017年8月20日、最新作『KICK!』で再始動した。12月には、全国7会場を巡るツアーが決定している。

関連チケット情報

2018年12月28日(金)〜12月31日(月)
COUNTDOWN JAPAN 18/19
会場:幕張メッセ 国際展示場 1~11ホール・イベントホール(千葉県)

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

滝沢朋恵“うすいいのり”

『わたしたちの家』清原惟が監督を手掛けたMV。淡く舞う紙ふぶき、滲み出すようなポートレイトなどが繊細な視点で映し出され、春の夢のような手触り。三野新、よだまりえ、中島あかねらが名を連ねるスタッフクレジットにも注目。(井戸沼)

  1. 入場料のある本屋「文喫」は高いのか、安いのか?店内を一足先にレポ 1

    入場料のある本屋「文喫」は高いのか、安いのか?店内を一足先にレポ

  2. ゆずが語る、ゆずへの期待を背負ったことで解放できた新たな側面 2

    ゆずが語る、ゆずへの期待を背負ったことで解放できた新たな側面

  3. Queen・フレディ在籍時の6度の日本ツアーに密着 300点超の写真収めた書籍 3

    Queen・フレディ在籍時の6度の日本ツアーに密着 300点超の写真収めた書籍

  4. 立川シネマシティの「次世代映画ファン育成計画」とは? 意図や想いを訊く 4

    立川シネマシティの「次世代映画ファン育成計画」とは? 意図や想いを訊く

  5. アジカン後藤と関和亮が語り合う、ゆとりなき今の社会に思うこと 5

    アジカン後藤と関和亮が語り合う、ゆとりなき今の社会に思うこと

  6. 光宗薫が個展『ガズラー』を銀座で開催 ボールペンの細密画&滞在制作も 6

    光宗薫が個展『ガズラー』を銀座で開催 ボールペンの細密画&滞在制作も

  7. ゲスの極み乙女。の休日課長こと和田理生が「テラスハウス」に入居 7

    ゲスの極み乙女。の休日課長こと和田理生が「テラスハウス」に入居

  8. KANA-BOON×山岸聖太監督 共に歩んだ5年と、業界の変化を語る 8

    KANA-BOON×山岸聖太監督 共に歩んだ5年と、業界の変化を語る

  9. 韓国で社会現象『82年生まれ、キム・ジヨン』邦訳刊行。女性から絶大な共感 9

    韓国で社会現象『82年生まれ、キム・ジヨン』邦訳刊行。女性から絶大な共感

  10. 橋本環奈連ドラ初主演『1ページの恋』に板垣瑞生、濱田龍臣、古川雄輝ら 10

    橋本環奈連ドラ初主演『1ページの恋』に板垣瑞生、濱田龍臣、古川雄輝ら