特集 PR

amazarashiによる、アプリや武道館を使った真新しい表現の全貌

amazarashi『リビングデッド』
テキスト
天野史彬
編集:矢島由佳子(CINRA.NET編集部)
2018/11/28
amazarashiによる、アプリや武道館を使った真新しい表現の全貌

スマホアプリが公開されたときから、amazarashiのライブ作品はスタートしていた

こんなライブ体験は初めてだった。11月16日に行われたamazarashiの日本武道館ワンマン公演、題して『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』。それは、音楽家が提示する「ライブ」の在り方が、目の前で刷新されていくような刺激的な体験だった。

amazarashiが、キャリア初となる日本武道館ワンマン公演を実施することが発表されたのが、今年の5月。それがとても特別な、新しいライブ体験になるであろうことを筆者に予感させたのは、6月22日に中野サンプラザで開催された、アルバム『地方都市のメメント・モリ』のリリースツアーの追加公演だった。あの日、ライブが終わったあと、「武道館公演へのシミュレーション」と称した実験が行われたのだ。それは、残った観客たち(強制ではない)が手持ちのスマホで専用のアプリをダウンロードし、場内に流れた楽曲と連動させる、というもの。「武道館で、amazarashiは一体なにをするつもりなのか……?」――それから約4か月後の10月23日、武道館公演に向けたオリジナルスマホアプリ「新言語秩序」が公開された。ここからは極力、時系列に沿いながら、この武道館公演に向けたamazarashiの動きを記していきたい。

『amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」』キービジュアル
『amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」』キービジュアル

「言葉」が規制された世界を、アプリ内の小説で描く

アプリ「新言語秩序」では、amazarashiの秋田ひろむが自ら手掛けた同名小説『新言語秩序』を読むことができた。当初公開されたのは、第3章まで。

『新言語秩序』は、ディストピア世界の物語だった。この物語で描かれる社会では、「言葉」が極端に規制されている。過激な言葉や人を傷つけそうな言葉、政府を貶すような言葉、その他、一般的に「汚い言葉」と言われるような言葉の使用は規制され、他者を傷つけないよう、様々な状況に応じて作られた会話のテンプレート、通称「テンプレート言語」の使用がほとんど義務化されている。もし、この「テンプレート言語」以外での自由な発言や会話を行った場合は「テンプレート逸脱」と見なされ、警察の取り調べ対象となり、「テンプレート言語」を正しく使うことができる人間になるよう、拷問に近い「再教育」が行われる。

「新言語秩序」
アプリのダウンロードはこちらから

この物語の中で、警察と共に「テンプレート逸脱者」を監視・取り調べする組織の名称が「新言語秩序」であり、それに対して、自由な言葉を取り戻そうと、路上の落書きやゲリラライブ、地下出版など、様々な形態で活動している人々が「言葉ゾンビ」と呼ばれている。

物語は、過去に親や同級生から様々な暴力を受け、「言葉」を憎みながら生きる「新言語秩序」の一員・実多(みた)と、「言葉ゾンビ」の中でもカリスマティックな存在感で支持を集めている活動家・希明(きあ)という2人の人物を中心に描かれる。「言葉は人を堕落させる」「言葉を殺さなければならない」と強い使命感を持つ実多と、「人を殺す言葉もあるが、人を生かす言葉もある」と言葉に希望を見出す希明。両者は、「言葉が人間に与える影響の大きさを実感している」という点では共通しているが、その思考の発露は真逆だ。

左から:希明、実多
左から:希明、実多

秋田は、この物語について、こんなコメントを残している。

「新言語秩序」は言葉のディストピアの物語です。ディストピア物語では、権力や大きな企業が支配する監視社会がよく描かれますが、今回問いかけたいのは一般市民同士が発言を見張りあう監視社会です。そしてそれは、現在のSNS上のコミュニケーションでよく見る言葉狩りや表現に対する狭量さをモチーフにしています。昨今感じる、表現をする上での息苦しさから今回のプロジェクトを立ち上げました。
(『新言語秩序』ホームページ「COMMENT」より抜粋)

秋田が言う「権力や大きな企業が支配する監視社会」を描く物語の代表格として挙げられるのは、イギリスの小説家・ジョージ・オーウェルによるディストピア世界を描いたSF小説の名作『1984年』(1949年刊行)だろう。思想や言論、性愛が厳しく規制され、歴史や情報の改ざんが当たり前のように行われる強固な監視社会の在り様と、それに抗う主人公の姿を描いた『1984年』。

理由は後述するが、『新言語秩序』は、秋田が『1984年』から多大なインスピレーションを受けて創造された物語であることは明らか。オーウェルの作品は近年、右傾化著しい世相を反映して、世界的にも改めて注目を集めているが、約70年前に書かれたこの小説が、今もなお批評性を持ちうるということを秋田も実感したのだろう。彼は2018年を生きる表現者として、『1984年』の意志を引き継ぎながら、「炎上」「ポリティカルコレクトネス」「ポストトゥルース」といった事象の先に生きる私たちの物語『新言語秩序』を紡いでみせた。

Page 1
次へ

イベント情報

『amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」』
『amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」』

2018年11月16日(金)
会場:東京都 日本武道館

『amazarashi Live「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」 DELAY VIEWING』

2018年11月25日(日)
2018年11月26日(月)

リリース情報

amazarashi『リビングデッド』
amazarashi 『リビングデッド』(CD)

2018年11月7日(水)発売
価格:1,280円(税込)
AICL-3592

1. リビングデッド
2. 月が綺麗
3. 独白(検閲済み)

プロフィール

amazarashi
amazarashi(あまざらし)

青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝だが「それでも」というところから名づけられたこのバンドは、「アンチニヒリズム」をコンセプトに掲げ、絶望の中から希望を見出す辛辣な詩世界を持ち、ライブではステージ前にスクリーンが張られタイポグラフィーや映像が映し出される独自のスタイルを展開する。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

シャムキャッツ“逃亡前夜”

楽曲のビートにのせて流れる色鮮やかな、ばっちりキマった画。その中で、重力まかせに寝転んだり、うなだれたりするメンバーの身体や、しなやかな演奏シーンが美しい。どの瞬間を切り取っても雑誌の表紙のようで、約5分間、全く飽きがこない。(井戸沼)

  1. 上白石萌歌がHY“366日”歌う、井之脇海との恋物語「午後の紅茶」CM完結編 1

    上白石萌歌がHY“366日”歌う、井之脇海との恋物語「午後の紅茶」CM完結編

  2. BiSHの熱気に、世間や会場キャパがようやく追いついてきた 2

    BiSHの熱気に、世間や会場キャパがようやく追いついてきた

  3. シム・ウンギョン×松坂桃李W主演『新聞記者』 権力に対峙する記者描く 3

    シム・ウンギョン×松坂桃李W主演『新聞記者』 権力に対峙する記者描く

  4. 神木隆之介×有村架純『フォルトゥナの瞳』主題歌はONE OK ROCK、新予告も 4

    神木隆之介×有村架純『フォルトゥナの瞳』主題歌はONE OK ROCK、新予告も

  5. MIYAVI vs KREVA vs 三浦大知が雨中でパフォーマンス“Rain Dance”PV公開 5

    MIYAVI vs KREVA vs 三浦大知が雨中でパフォーマンス“Rain Dance”PV公開

  6. 星野源の新AL特典映像『ニセ明と、仲間たち』に宮野真守&ハマ・オカモト 6

    星野源の新AL特典映像『ニセ明と、仲間たち』に宮野真守&ハマ・オカモト

  7. 深川麻衣×今泉力哉 お互いの「初恋」や「初挑戦」を語り合う 7

    深川麻衣×今泉力哉 お互いの「初恋」や「初挑戦」を語り合う

  8. 映画『惡の華』春日役に伊藤健太郎、仲村役に玉城ティナ 飯豊まりえも出演 8

    映画『惡の華』春日役に伊藤健太郎、仲村役に玉城ティナ 飯豊まりえも出演

  9. IZ*ONEが『FNS歌謡祭』で初歌唱 宮脇咲良ら擁する日韓合同グループ 9

    IZ*ONEが『FNS歌謡祭』で初歌唱 宮脇咲良ら擁する日韓合同グループ

  10. アカデミー映画博物館が2019年開館 宮崎駿の大規模展やチームラボの展示 10

    アカデミー映画博物館が2019年開館 宮崎駿の大規模展やチームラボの展示