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柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ

『フィリップス・コレクション展』
テキスト
宮田文久
撮影:高木亜麗 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)
柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ

映像が思い浮かんでくる歌詞の書き手・柴田聡子のイメージの捉え方

柴田さんが見つめる先にあったのは、ジョルジュ・ブラックの『鳥』(1956年)。フィリップスはブラックの作品を高く評価し、彼の作品がアメリカで普及するよう熱心に活動していました。そんなフィリップスが亡くなる直前に入手したのが、この『鳥』なのです。

「鳥の目は四角いんですね(笑)。なによりも色がかっこいいなあ」と、晩年まで瑞々しい感性を保ってブラック作品を買い続けたフィリップスに、柴田さんは驚きを隠せない様子でした。

ジョルジュ・ブラック『鳥』(1956年)
ジョルジュ・ブラック『鳥』(1956年)

柴田:フィリップスさんには、すごく気概を感じるんです。「俺がこれを買わなきゃいけないんだ」というぐらいの、エネルギッシュな買い方をしていると思います。それでいて、「わかる人にだけ、伝わればいいや」となんて絶対に思っていない感じがする。選ぶ作品は渋みがあるけれど、ちゃんとポップさも大事にしているところが素敵ですよね。

そんな展覧会を心から楽しんでいた柴田さんの姿からは、やはり彼女が手がける作品の世界観と、絵画的なイメージのシンクロニシティーが感じられます。

先だってリリースされた“ワンコロメーター”にしても、逃げた犬を追う歌詞と軽やかなメロディーによって、聴く人間が描くイメージが次々と切り替わっていく作品でした。そこにあるのは、絵画のようなイメージを繋いでいく映像的なモンタージュ、という感覚なのかもしれません。

柴田:映像を作る才能に欠けていたので直接は離れてしまったんですが、映像や編集技術を学んでいた頃から、風景画を含めた絵画に対するあこがれは、強くありました。映像というジャンルが絵画に憧れているところもあると思います。いまも楽曲を聴いてくださった人から、「頭の中に風景や映像がよく出てくる」というお話をしていただくことは多いんです。ただ、音楽で映像を喚起させようという想いはあまり持っていないので、根本に映像からの強い影響があるのかなと思います。

柴田さん自身はいま、どのようなイメージの捉え方をしているのでしょうか。その答えは、今回の展覧会場で彼女がこれだけビビッドに絵画作品に反応していた、その感性を裏づけるような言葉でした。

柴田:これは覚えておきたいな、すごいよかったな、と思ったことがあったとしても、本当に感動したところはあまり覚えていなくて。その手前のことを覚えているんです。

「あの日、あの場所で見た朝日がきれいだったな」ということを本当は覚えておきたいんだけど、記憶に残るのは、行きしなのサービスエリアとかのことなんです。だから、最終的に感動したところは、そこまで言い表さなくてもいいというか。のぼった朝日は、ただそれを見れば素晴らしいので。……ここが私のひねくれたところかもしれませんね(笑)。

「ちゃんと生きたい」。そう感じられるアーティストたちの息吹

巨匠たちによる、人生を賭けたこだわりが詰まった美術作品が集っていたのがこの展覧会であり、美術作家たちのこだわりを見抜き、上質な作品をコレクションしていったのがフィリップスでした。

柴田:単純に、ビックリしてしまうんですよね。美術家が信じて作った結果、何十年も前に描かれた絵の具が、いま目の前にあって、見ているということに。「本当に、この人はいて、この作品を作ったんだ」と実感します。昔の音楽でも本でも、その「本当にあったんだ」という空気を感じられることが、私にとっての楽しみや不思議のひとつかもしれません。

左から:柴田聡子、安井裕雄

そうした「本当にあった」絵画たち、そこに刻まれたアーティストそれぞれの生や哲学に触発されて、柴田さんも1人のアーティストとして、心持ちを新たにしたようでした。

柴田:私、「人間としてちゃんと生きたいな」と思っているんです。いろんな人に迷惑をかけたり傷つけたり、でも聴いてくれる人がいたら嬉しい、と思ってやっていますけど、今日展示を見て、「ちゃんと生きたい」と改めて思いました。

共感ではないところで、「ああ、同じことを思っているんだな」とか、「このようにして作家の人生はあったんだな」と感じる。今日見た作品を手がけた人たちのスピリットは、本当に人生に効くなあ、と思いました。

柴田聡子
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イベント情報

『フィリップス・コレクション展』
『フィリップス・コレクション展』

2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
会場:東京都 東京 三菱一号館美術館
時間:10:00~18:00
休館日:月曜
料金:一般1700円 高校・大学生1000円 小・中学生500円

プロフィール

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。大学時代の恩師の一言をきっかけに、2010年より都内を中心に活動を始める。ギターの弾き語りでライブを行う傍ら、岸田繁、山本精一など豪華ミュージシャンを迎えた最新作『愛の休日』まで、4枚のアルバムをリリースしている。2016年に上梓した初の詩集『さばーく』が第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。現在、雑誌『文學界』でコラムを連載しており、文芸誌への寄稿も多数。歌詞だけにとどまらず、独特な言葉の力にも注目を集めている。2018年3月、アナログ・マスタリング / カッティングまで本人が完全監修した4thアルバム『愛の休日』のLPレコードを発売。精力的に展開しているライブでは新曲が次々に発表されており、新たな作品への期待が高まっている中、ライブではキラーチューンの座を確立している『ワンコロメーター』の7inchEPを11月にリリースした。同月、バンド形態「柴田聡子inFIRE」名義でのワンマンライブを開催、満員御礼。

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