レポート

ソフィ・カルの映像作品を夜の渋谷スクランブル交差点で上映。現場をレポ

佐伯享介(CINRA.NET編集部)
ソフィ・カルの映像作品を夜の渋谷スクランブル交差点で上映。現場をレポ

渋谷スクランブル交差点にひっそりと集まる人々

東京・渋谷スクランブル交差点の大型街頭ビジョンで、本日2月8日までソフィ・カルの映像作品が上映されている。

渋谷のスクランブル交差点といえば、とにかく人が集まる場所だ。なにしろ世界的観光地である。ためしにYouTubeで「Shibuya Crossing」と検索すれば、渋谷スクランブル交差点を撮影したかなりの数の動画がアップロードされていることがわかる。日本国内の人たちにとっては、「サッカー日本代表が勝ったらやたらと人が集まって騒ぐ場所」であり「ハロウィンになるとやたらと人が集まって騒ぐ場所」でもある。人々を惹き付ける磁力のようなものを持った場所なのだ。

そんな渋谷スクランブル交差点に、ひっそりと現代アートファンが集まっている。フランスの現代美術作家、ソフィ・カルの映像作品『Voir la mer(海を見る)』がスクランブル交差点の大型ビジョン4面で上映されているのだ。上映は2月3日から8日の各日24:00から25:00まで。その様子を現地で確認してきた。

上映開始前の渋谷スクランブル交差点ビジョン。2019年2月7日撮影
上映開始前の渋谷スクランブル交差点ビジョン。2019年2月7日撮影
ソフィ・カル『Voir la mer(海を見る)』上映風景、2019年2月7日撮影
ソフィ・カル『Voir la mer(海を見る)』上映風景、2019年2月7日撮影

「海を一度も見たことがない人」が、初めて実際に海を見る。その様子を撮影した映像作品が大型ビジョンをジャック

2011年に発表された『Voir la mer(海を見る)』はトルコ・イスタンブールに住む、海を見たことのない14人が初めて海を見る様子を捉えたもの。日本で行なわれたソフィ・カルの個展でも展示された代表作の1つである。映像は海原を前にした世代や性別も様々な人の背中を映し出す。やがて彼らが思い思いのタイミングでカメラのほうを振り向き、こちらを見る。そのパターンの連続から構成された作品だ。聴こえるのは海の音だけ。制作のきっかけは、海に囲まれたイスタンブールにありながら内陸部に住み続ける「海を一度も見たことがない」貧困層の存在を知ったことだったという。

ソフィ・カル『Voir la mer(海を見る)』上映風景、2019年2月7日撮影
ソフィ・カル『Voir la mer(海を見る)』上映風景、2019年2月7日撮影

渋谷スクランブル交差点では各ビジョンごとに異なったパートを上映。自己主張の激しい大音量の広告映像が4面から消え、『Voir la mer(海を見る)』が映し出される。各ビジョンのパートは4~6分間ほど。1時間にわたってそれが繰り返される。

波音に満たされた渋谷スクランブル交差点

現場には、明らかにソフィ・カルが目当てだろうという人たちもいれば、いつもと違う渋谷の様子に気づいたのか、立ち止まって怪訝そうに映像を見つめる人、「あれ何?」とひそひそ会話する人たち、作品にまったく気づかない人たちもいた。歌いながら歩いていく一団、酔っぱらい、ナンパする人、深刻そうな相談ごとをしている人たち、終電に駆け込もうと走っていく人たち。そういった彼や彼女たち全てを大音量の波音が包み、道路を走る車の音も不思議と心地よい。とくに電車の運行があらかた終わった25:00間際の時間帯は、人通りもかなり減り、この場所の狂騒的なパブリックイメージとは真逆の、これまでに体験したことのないような静けさを感じた。1時間ずっと外にいるのはさすがに寒かったが……。

4面のビジョンを一望できる場所も。ソフィ・カル『Voir la mer(海を見る)』上映風景、2019年2月7日撮影
4面のビジョンを一望できる場所も。ソフィ・カル『Voir la mer(海を見る)』上映風景、2019年2月7日撮影

東京では現在、ソフィ・カルの個展が3つ開催中

『Voir la mer(海を見る)』を制作したソフィ・カルは、1953年にフランスで生まれた現代美術作家。自身や他者の個人的な体験を主題に、写真と言葉を組み合わせた物語性のある作品を発表している。各国の主要美術館にて個展を多数開催し、2007年の『第52回ヴェネチア・ビエンナーレ』にはフランス代表として参加した。

Sophie Calle, Exquisite Pain, 1984-2003 ©Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
Sophie Calle, Exquisite Pain, 1984-2003 ©Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

東京では現在、カルの個展が3つ開催されている。3月28日まで品川・原美術館で『「ソフィ カル―限局性激痛」原美術館コレクションより』、3月5日まで銀座・ギャラリー小柳で『Parce que(なぜなら)』展、3月10日まで六本木・ペロタン東京で『My Mother, My Cat, My Father, in That Order.(私の母、私の猫、私の父、この順に。)』展が開催中。

Sophie Calle Sans enfants, sein 子供なし、胸 2018 Color photograph, embroidered woolen cloth, framing © Sophie Calle / ADAGP, Paris, 2019 Courtesy of Perrotin and Gallery Koyanagi Photograph: Claire Dorn
Sophie Calle Sans enfants, sein 子供なし、胸 2018 Color photograph, embroidered woolen cloth, framing © Sophie Calle / ADAGP, Paris, 2019 Courtesy of Perrotin and Gallery Koyanagi Photograph: Claire Dorn

協賛はビズリーチ。「新しい視点で意味を見いだしている人材を育むため」

『Voir la mer(海を見る)』の上映は転職サイト「ビズリーチ」「キャリトレ」などで知られるビズリーチの協賛によって実現したもの。ビズリーチの取締役CTO兼CPOの竹内真は、同社がアートを支援することについて以下のようにコメントしている。

海外では、スポーツと同様にアートへのスポンサーシップが企業の取り組みとして広まりつつあります。一方で、日本国内ではアートに対して企業が支援することはまだ一般的に受け入れられていません。ビズリーチは、自社で展開するプロダクトを全て内製しており、常に「新しい視点、切り口」を持った才能を探しています。エンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーなど、新しいサービスを生み出す人材の職種はさまざまですが、これからの世界で新しい価値あるサービスを生み出すためには「より良いもの」ではなく、「全く別の意味を持つもの」に「価値」を付加して「ビジネス」に組み立てていく必要があります。
これまでも、ビズリーチは「価値」に重点を置いてビジネスを展開してきましたが、今後さらに新しいサービスを生み出していくなかで、「新しい意味のあるもの」を見いだし、作り上げる人材がまだまだ足りません。われわれは世界中に散らばる「新しい視点を持った才能」を探し出すために、同じように「新しい視点で意味を見いだし」ている、アートに協賛することで、彼らとわれわれとの距離を近づけていきたいと考えています。

上映では映像が1周するごとにキャッチコピーが挟まれていた。アートとビジネスが交差するような今回の取り組み。その舞台としてこの交差点が選ばれたというのは象徴的と言えるだろう。

上映終了後、4面全てのビジョンが消えた様子。2019年2月7日撮影
上映終了後、4面全てのビジョンが消えた様子。2019年2月7日撮影

イベント情報

『「ソフィ カル―限局性激痛」原美術館コレクションより』

2019年1月5日(土)~3月28日(木)
会場:東京都 品川 原美術館
時間:11:00~17:00(水曜は20:00まで開館、入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(1月14日、2月11日は開館)、1月15日、2月12日
料金:一般1,100円 大高生700円 小中生500円
※原美術館メンバーは無料
※学期中の土曜は小中高生無料

ソフィ・カル
『Parce que(なぜなら)』

2019年2月2日(土)~3月5日(火)
会場:東京都 銀座 ギャラリー小柳
時間:11:00~19:00
休館日:日、月曜、祝日
料金:無料

ソフィ・カル
『My Mother, My Cat, My Father, in That Order.(私の母、私の猫、私の父、この順に。)』

2019年2月2日(土)~3月10日(日)
会場:東京都 六本木 ペロタン東京
時間:11:00~19:00
休館日:月、日曜
料金:無料

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